軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【番外編】寝顔を見たいのはお互い様

私の部屋として割り当てられていた客室で寝室を共にするようになった当初、ギルフォード様との触れ合いは少なかった。……いや、まあ、花紋に触れられながら寝てるけども、それは一旦置いておくにして、そこまで無かったはずだ。たぶん。

ところが想いが通じ合ってからというものの、気付いたらギルフォード様が私の体のどこかに触れているようになった。

二人でどこかに行く時は必ず腰に手が回されているし、口付けは日常茶飯事。極め付けは二人きりで和やかに会話をしていたと思えばいきなり押し倒されていたりする。

そう、就寝前の今のように。

「あの」

「ん?」

「な、なんだか私、眠くなってきちゃったな〜、なんて……っ!」

熱のこもった視線から逃げようと顔を背ければ、首筋に唇を寄せられる。反射的に首を押さえてギルフォード様の方を見て、……後悔した。

そのまま奪うように唇を重ねられ、私の体は一気に熱くなる。

「ふ、っ、ん……っぁ」

恥ずかしくて仕方ないから視線を逸らしたいのに、いつも優しい伴侶は、この時ばかりはそれを許してくれない。俺から視線を外すなと言外に訴えてくる瞳は、いつも私の心臓をおかしくさせるのだ。

「でんか」

「違うだろう」

有無を言わさない口調と共に、花紋を刺激されビクリと体が反応する。

「ギ、ル」

突如お腹に与えられた熱を感じて、それまで高められていた羞恥心が急に限界を迎えた。

涙目になった私の様子に気付いたギルフォード様は、名残惜しげに舌先で私の唇を舐めた後、のりかかっていた私の上から降りてベッドに横になった。

私が完全に意識を手放す前に聞こえた「おやすみ」の声は、実に悩ましげで、色っぽかった。

朝一番に視界に入るのは、青く澄んだ美しい二つの瞳。宝石のようだと寝惚けた頭で考える。

「おはよう」

「……おはよ、ございます」

寝起き特有の掠れた声で挨拶をすれば、額に柔らかな感触を感じた。その感触はちゅ、ちゅ、と音を立てて、私の顔に余韻を残していく。

顔を洗っていないのだからと彼の行動を何度か拒否したことはあるけれど、ギルフォード様はそれでも止める意思を見せず、今朝も思うがままに私にキスし続けている。

頭が回っていないせいで明確な羞恥を感じないからということもあって最近は諦めつつあった。それがギルフォード様の行動を調子付かせているということに気付かないふりをしている私も私なのだろう。

「今日はなにをする予定だ?」

「今日……は……勉強、が終わったら、読書してようと、思います……」

「そうか」

目を擦りながらもそもそと体を起こそうとすると、ギルフォード様は素早く私の体を支えた。そしてベッドサイドに用意されていた水差しを手に取って、私に水分を与えてくる。

こぼさずに飲めたのを確認すると、よくできましたと言わんばかりに私の頭を撫でた。

「……」

常々思うけれど、ギルフォード様は私を甘やかしすぎな気がする。お父様だって私に甘かったが、彼はその比ではない。

このままではギルフォード様なしに生きられなくなりそうで、一種の恐怖さえ感じる。

己の流されやすさにそろそろ終止符を打つべきだとは思うが、それができたら苦労はしない。

目を何度か瞬かせるとようやく頭が冴えてきて、ようやくギルフォード様の姿がハッキリと目に映った。

「もう着替えられてるんですね」

「急ぎの要件があってな。朝食を一緒に取れなくてすまない」

「起きるのが遅くてすみません……」

「俺に合わせる必要も謝る必要もない。悪いのは父上と兄上、……それに、俺にも責任があるからな」

「……」

真っ赤になって黙り込む私の頭頂部に、ギルフォード様は小さく笑ってキスを落とすと、甘やかな空気を残して仕事場に向かった。

朝ギルフォード様に告げた通り、読書をしていると「そういえば」とある気付きが頭をよぎる。

──私、ギルフォード様の寝顔をちゃんと見たことがない。

そう気付いてしまえば俄然彼の寝顔を見たくなってしまった。いつも私ばかりが不細工な寝顔を見られるのは公平じゃないと思うのだ。

寝顔を見るためにはギルフォード様より早く起きれば良いとは分かっていても、不可能なのは目に見えている。だから私が早起きをするのではなく、ギルフォード様にいつもより遅く起きてもらえればいい。

そのためには……。

「そうだ、マッサージ!」

名付けて、リラックスしてもらって深い眠りに誘おう作戦!

「ただいま」

「おかえりなさい」

夜遅く寝室に帰ってきたギルフォード様は、服の留め具を外しながら私を不思議そうに見つめた。

「なにか言いたいことでもあるのか?」

「え」

「そんな顔をしていたから」

「……」

ギルフォード様に隠し事はできないなと内心ビクビクしながら、日中思い立った作戦を口にする。

「あの、マッサージしてもいいですか?」

「マッサージ?」

「今日は特に朝が早かったので、お疲れではないかと思いまして」

「じゃあ風呂の後頼もう」

「はい!」

お風呂から上がった後、ベッドにうつ伏せになったギルフォード様の上にまたがった、はいいものの、客観的に自分の体勢を考えると、私は大胆なことをしているのではと顔が赤くなる。

「フーリン?」

「あ、えと、重かったら遠慮なく言ってくださいね」

「全く重いとは感じない。むしろもっと体重をかけてくれて良い」

ギルフォード様の気遣いに感謝しながら頭を振って邪念を振り払う。とりあえず今は目の前のことに集中だ。

マッサージの知識は全くないものの、凝り固まっているところを順に優しく刺激していくと、次第に筋肉が柔らかくなっていくのが分かった。

「ん……気持ちいい……な」

うとうとし始めるギルフォード様の姿に小さな感動を覚えていると、数分経たないうちに完全に寝落ちてしまったようで、静かな寝息が聞こえてきた。

そっとギルフォード様の上から降りると、布団を肩まで引き上げ、私も横に滑り込む。

既に寝顔は見れる状態にあるが、どうせなら明るくなった時に見たいので、起こさないようにギルフォード様に擦り寄り目を閉じた。

目が覚めた。視界に映るのはいつも通り青い宝石……ではなく、壁。正確に言えばギルフォード様の胸板だった。視線を少し上にズラせば立派に咲き誇る花が、そしてその上には──。

「おお……」

マッサージ効果凄い。

「……美人」

カーテンが閉まっているのでまだ部屋は薄暗いが、美しい寝顔を堪能するには充分だった。

起きている時は一瞬の隙も見せない空気を纏うギルフォード様だけど、瞼を閉じている今は少しあどけない表情をしている。私だけが見ることのできる表情だと思うと、想像以上に胸が高鳴った。

気付いた時にはギルフォード様の唇に指を這わせていた。薄めのそれが見た目よりも柔らかいことを、触る前から私は知っている。

一度意識してしまうとダメだった。伴侶への愛しさが次から次に湧いてきてしまう。

「……すき」

言葉を紡いだその瞬間、

「っ!?」

視界が反転したかと思うと、ギルフォード様が私を見下ろしていた。私の両腕をベッドに縫い付け、楽しげに笑んでいる。

「い、いつから起きて」

「フーリンが目を覚ます前から」

「へ」

「昨夜からなにか企んでいるようだったから様子を見ていた。……いつになったら襲ってくれるのかと待っていたんだがな」

思考が停止すると同時に嫌な予感を覚えた。

逃げれはしないというのに無意識に身を捩らせた私に、ギルフォード様は悪戯っ子のような瞳をして、私の唇に指を這わせた。

「ありがたいことに、マッサージのおかげで俺の体調は万全だ。──覚悟はできてるよな?」

「まっ、てくだ……!」

「待たない。焦らした罰だ。諦めて大人しく俺の愛を受け入れるんだな」

そう言い放ったギルフォード様の表情に、私は思った。

昨日に戻れるなら私は全力で昨日の私を止めよう、と。