軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

264.ヘタレた蛇

剛角豚(ごうかくぶた) のカツカレー。カレーとの味のバランスを崩すかなとも思ったがカツは分厚く! 名前の印象に反比例して柔らかい肉なので厚すぎるくらいのほうが噛みごたえがある。

そしてアスパラガスの胡麻和え、ドゥルのアスパラガスは雌株のものだった。雌株は雄株よりも芽の生えてくる本数が少ないので収穫量を考えて雄株を植えるらしいのだが、雌株の芽のほうが太くて美味しい。神の畑のものとなれば言わずもがな。全ての味をカレーにするカレーを凌駕するアスパラガス!

「これは……」

アスパラガスを見つめて声を詰まらせる最強騎士。

「おいしい……」

瞳を潤ませる美女。

「肉より野菜食いてぇと思ったのは初めてだぜ」

嘆息しながら口に運ぶ赤毛の騎士。

「……旨いね」

瞑目して一言口にする涼やかな騎士。

「……っ」

夢中で頬張っている狼耳の黒髪少女。

「おいしいです」

なぜか冷静なノエル。だが耳がピコピコと小さく動いている。

ラピスもノエルも痩せていた頃が嘘のように美少女美少年に育っている。ロブスター侯爵が目をつけたのも納得とか思う今日この頃。そういえば ノエルの(白い) ほうというのは何だったんだろう? ロクでもないことに違いないが。

それにしてもまた野菜に負けた料理よ。食材ルートどこまで潜ればいいんだ! ――バハムートは野菜は却下らしく、私の焼いた肉を美味しそうに食べて満腹し、すでに寝床に帰還している。

美味しいからいいんだが。なお、騎士達が手伝いを申し出て来たので、ゴマを任せたらすり鉢を割りまくった模様。卵を割るのでさえカルとレーノが武器を持ち出して本気だったことを思えば当然の結果だった。そもそもルシャの道具が貸し出し出来なくて普通のすり鉢だったし。なんかゴマが飛んで負傷してるしなかなかカオス。

――食後にはさくらんぼ。現実世界だと温度変化にも乾燥にも弱いさくらんぼを収穫してから美味しく食べられる期間は短め、たくさん食べたいところだが食い過ぎると腹がゆるくなる人もいるので注意が必要だ。思いの外鉄分豊富で貧血にもいいらしいが。

さくらんぼを出すとそっと各人の手元に三角に折った紙を用意するウル・ロロ。なんだろう? 種入れ?

「ところで主、こちらは?」

「あー」

カルが壁際に戻ったウル・ロロに視線を向ける。

「その姉ぇちゃん、気配ねぇよな。飯前に会って認識したはずなのにいつの間にか意識から消えてやがる」

「ご主人様やお客様に対して極力存在を意識させないのは使用人の心得ですわ」

薄く笑って軽く膝を折る。

「私はウル・ロロ、そこでさくらんぼに釣り出されているクルルカンの妹ですわ。愚兄からはここで上手くやりたいならホムラ様に紅茶だけは出すなと謎の助言をいただいております」

「「「兄」」」

ガラハドたちが袖口のクルルカンを見る。みんなの視線を浴びて、半分袖口から体を出していたクルルカンがささっと袖口に逃げ込んだ後、そっと顔だけを覗かせて周囲を 窺(うかが) う。

「「「紅茶」」」

そして次にカルを見る、春の陽だまりの微笑み。

ガラハドたちは声も動きもハモってるしさすが息が合っている。ちょっと遅れてラピスとノエルも同じ動きをするのが微笑ましい。まあ、思わず紅茶のくだりで私もカルの方を見てしまったけれど。

「……主、どういったご関係の方かお伺いしてもよろしいでしょうか?」

カルから向けられる笑顔がなんだか痛い。

「この袖口にいるのはクルルカン、現在私の杖なのは知っての通り。そちらのウル・ロロは本人の言う通り、クルルカンの妹でドゥルの畑の番人だったはず、この間宴会で会っただけだ」

とりあえず袖口はドゥルに進入禁止の認可を受けているのでウル・ロロが入り込むことはない、と思いたい。あ、あとイベント終了で元どおりだと思うのだがさっきクルルカンさんのレベルがうなぎのぼりに上がりました。

「『封印の獣』の妹かよ」

「しかも神に従属していたモノですか……」

「誰との宴会で会ったんだよ。そっちが怖ぇ」

「使っていたのは【認識阻害】かしら? ホムラ、あんまり変なモノを引っ掛けてこないでね?」

「主、蛇の系統は狡猾・裏切りがつきものです。情がうつる前に野に放つことをお勧めします」

カルににっこり笑って捨て蛇推奨された!

クルルカンが引っ込んでぎゅうぎゅうと巻きついてくる。疑ってない、疑ってないから!

「確かに我らは多淫で狡猾、愛する人ほど裏切ってみたくなる生き物。他に強い方が現れれば普通にそちらにつきます。愛することと従属することとでは別なのですわ」

疑っていないと口に出す前に爆弾発言が投下されました。自分を売り込みに来ておいてその発言はどうなんだウル・ロロ。

「従属させるには強さを見せればいい?」

クルルカンの愛より従属が欲しいと思った私は悪くない。

「ええ、もっと簡単で心を縛る方法も。具体的には本人をシバき倒せばよいのです。より強い痛みは快楽、そして裏切られる方は弱いのがいけないのです。強ければ我らはとても従順なよき下僕ですわ」

「ちょっとすまん、カル、これ取って」

変態、変態が腕に張り付いています!!!! なんだこのSM兄妹!!!! 従属もいらんわ!!!!!

あっさりカルに引っ張り出されるクルルカン。涙を飛ばしてこちらに伸びてこようとするが却下。

「ふふ。兄様がいけないんですわ、本性を隠して巻きついているなんて。その巻きつき心地のよい腕をひとりじめは許しませんわ」

大きく表情を崩しているわけではないがとてもとても楽しそうなウル・ロロ。兄いじめに来たのかこのメイド。若干クルルカンが不憫になるがここで同情は禁物!

「巻きつき心地って……。どんな腕だよ」

「こんな腕よね?」

ツッコミが間に合わなくて疲れた感じのガラハドの言葉を受けて、私の腕に自分の腕というか体を巻きつけてくるカミラ。それを見てとたとた寄ってきて左右から抱きついてくるラピスとノエル。可愛いのだが動けぬ!

「く……っ! ウル・ロロ、この兄の邪魔をするな! 私は主人の忠実なる僕、ぜひお側に!」

蛇型なのに珍しく普通に聞こえる声でしゃべった!

「裏切りの可能性のあるものをお側にあげることは承服しかねます」

「裏切らぬ! 裏切らぬぞ! 何故なら主人ほど私にダメージを与えられる者がいるとは思えない!」

カルに摘まれてぶら下がったままえっへんと誇るクルルカン。言っていることは何か情けないというか変というか……。

「ホムラ、何やった? さっきの流星か?」

「……黙秘します」

「ホムラ君?」

「ホムラ?」

じと目のガラハドの問いに黙秘を訴えると、笑っていない笑顔のイーグルとカミラに名前を呼ばれる。しかも逃げられない!

「【降臨】を使いました」

「神を顕現させるスキルだね?」

人のスキルまでよく覚えているなイーグル。

「うへぇ。誰喚んだんだ?」

「……」

「聞き方を変える、何人喚んだんだ?」

「……」

「おま……っ! まさか全員か!!!!」

的確に絞ってくる質問に沈黙で返した私にガラハドが何かを察したようだ。

「オーバーキルもいいところでした……」

視線を逸らしたまま答える私。

「優しげな顔をして容赦のない方……、素敵ですわ」

頬を染めてうっとりとするウル・ロロ。

「やめろ、私をドSみたいに言うな!」

そっちの趣味に巻き込むのはやめてください!!

「主人! 主人! 助けてください!」

特にカルに反撃するわけでもなく情けない感じのクルルカン。いや、カルに取ってもらったの私だからな? 本人に助けを求めてどうするんだ? それでいいのか『封印の獣』。

「カオス」

ガラハドが一言。

「方々、お騒がせいたしました。これにてお暇いたします」

突然綺麗な礼をして帰る宣言をするウル・ロロ。突然なんの心変わりだとそちらを見れば、改めてスカートをちょっと持ち上がる礼を返される。変な性格さえなければ完璧なメイドさん。

「堕ちても翼ある蛇の王、大地に恵みと破壊とをもたらし悠然と空を飛ぶ。姉が絡まなければ毅然とした王であったのに、あまりの変わりように驚きましたが兄がこれ以上ないくらいにヘタれた理由が理解できました」

ウル・ロロの言に私に視線が集まる。痛い、痛いです!

「元々こんな性格だろう?」

「その気はありましたが、ホムラ様が兄の全ての自信を完膚なきまでにたたき壊されてこうなったのですわ。疑問が解けてスッキリいたしました、騒がせたお詫びに陰ながらお手伝いさせていただきます」

「いや、別に手伝いはいらな……」

「ジリジリ居場所を作ってゆく作戦に変更します」

「諦めてないのか!」

「ふふ、ではまたお邪魔いたします。ごきげんよう」

断る前に姿を消すウル・ロロ。いや、そもそもなんの手伝いをするつもりだろう?

「あの者は癖はありますが 間諜(かんちょう) としては優秀そうですね」

カルが眉を僅かに顰めて言う。【気配遮断】とか【認識阻害】とか持ってそうだしな、って 間諜(スパイ) なんて要らんわ。どこに送るんだどこに。

「まず人間の見分け方教えなくっちゃいけねぇんじゃね?」

「ああ、件の二人を討ち取った者の特徴がはっきりしなかったな」

「なんか黒いのでした、って答えじゃな」

ガラハドとカルが言い合う。件の二人は、冒険者ギルドで会ったあの二人のことだろう。

「なんか黒いの……」

確かに人に興味がない感じの答えだ。

クルルカンには不本意ながらこうなったのは私のせいらしいので腕に巻きつくことを許可しました。自信満々なクルルカンってどんなのだったんだろう。

「ホムラ、落ち着いたところでステータス見せてもらおうか?」

イーグルさん冷静ね。

「まったく落ち着けていないのだが」

まだ昼だというのにどっと疲れた。