軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

250.ミノタウロス

道中と同じ茶色い土で出来た広い部屋。

「出口が三ヶ所?」

イーグルの言葉に周囲を見渡せば、左右に一つづつとミノタウロスの後ろに一つ、光の漏れる出口が。遠い割にはっきり見えるのは薄暗い上に出口と思しき場所が結構大きく開いているためだ。

微妙に光の色が違うな〜と仔細に眺めようとしたところで、部屋の中心でミノタウロスが雄叫びをあげた。その雄叫びと共にミノタウロスを中心に小さな石積みの壁と石の床のエフェクトが広がり、あっという間に周囲が 迷宮(・・) の通路のようになる。丸い洞窟から続く蟻の巣の広い部屋のようだった場所が、直線と直角で形作られる暗く冷たい迷宮へ姿を変え眺めていた出口も姿を隠した。

もう一度ミノタウロスが吠え声をあげる。低いような甲高いような、太いようなあるいは喉から細く漏れるような判然としない奇声。だが、聞く者に嬲る獲物を見つけた時の歓びの笑い声だとわかる声。決してブモオオオではない。……あれ? ブモオオオだと思ったらブモオオオに聞こえてきた。

「ブモオオオ?」

「ぶも?」

「ちょっとやめてよ、ブモオオオにしか聞こえなくなったじゃない!」

「ホムラ、巻きこむのをやめてくれないかな?」

ちょっと口に出してみたら無事全員ブモオオオと聞こえるようになった様子、ヨカッタヨカッタ。

「ああもう、緊張感ねぇな!」

「この階層ワリと私たちは命がけのはずなんだけどね。気が抜ける」

「しょうがないわね!」

ミノタウロスに向けて走りだすガラハドを越えてカミラが魔法を放つ。私は補助系の魔法、イーグルはすぐに回復できる準備。対処のわかっている敵以外、ガラハドとイーグルが最初の一撃を入れに一緒に突っ込むことは少ない。

カミラの目くらましを兼ねた魔法の着弾にわずかに遅れてガラハドの一撃。

「何っ!?」

魔法のエフェクトの間から、ガラハドが飛びすさった空間に斧が横薙ぎに走る。

「やべっ! コイツ魔法も剣も効いてねぇ!」

エフェクトが消えて姿が見えたミノタウロスの体には一筋の傷もなく、静電気のような光が幾筋か走りバチンと音を立てて消える。バチンっとするときに胸筋強調するのはお約束なんだろうか。

「魔法自体弾かれているかんじね、属性の違いではないっぽいかしら」

「何らかのスキルか魔物特有の能力か」

「弱点以外ダメージ受付けねぇか、特殊なアイテムが必要……がッ!」

喋りながらカミラがミノタウロスの目を狙って矢を放つが全く気にした様子もなく踏み込み斧を振るって来たのをガラハドが受け止め、受け止めた体勢のまま斧に体を持って行かれて壁に叩きつけられる。命中したはずの矢は非常識にも弾かれ床に転がった。

壁に背中と頭をこれでもかと打ち付け、よろめいたガラハドに斧が振り下ろされる。

「『鐘』!」

【金魔法】レベル40、ミノタウロスの頭の上に鐘が現れドズンっと落ちる。拘束効果のある魔法だが予想通りすぐに打ち消される。魔法を打ち消す時間と胸筋強調のポーズをとるほんの少しの間に、イーグルがガラハドの腕を引く。

「ああくそ! 重いぜッ!」

「さすが五十五層、一旦距離を」

「ブモオオオォォ!」

「「ブモオオはもういい!」」

ピンチだというのに逃げながら迫ってくるミノタウロスに二人仲良く叫ぶ。

「苦戦してる魔物相手にツッコムとは余裕だな」

「誰のせいなの誰の!」

カミラに軽くつねられる間も、試しに属性を変えて幾つか魔法を叩き込む。同じエフェクトが現れてバチンと弾かれるが、足を止めて胸筋強調のポーズをするためダメージを与えられなくても無駄ではない。じりじり近づいてくるので若干気持ち悪いが。

「多分最初に見えた三ヶ所の出口のうちどれかに誘導しろってことじゃないか?」

魔法攻撃を続けつつ私もじりじり下がる。

ボス部屋の次への通路は普通閉まっているのに今回だけ開いているというのも不可解だし、最初にわざわざ見せたとしか思えない演出。

「あり得るな。ここの迷宮に限らずダンジョンは行く手を阻みながらも進むためのヒントは出す」

「生み出した、或いは生まれてしまった魔物を倒して欲しいのか」

「それともより強い者をより深い場所で殺したいのか、だったわね」

ダンジョンのあり方について住人の間で何か難しい哲学が発生している模様。

「考えてる暇がねぇ、とりあえず距離とるまでイーグルについてくぞ」

「わかったわ」

「先に行け、私が一番足が早いし足止めもできる。分岐ごとに右とか左とか叫んでってくれ」

私とカミラでミノタウロスの足止めをしつつ短く話す。

「了解」

了承をもらったところで全員に『ハイヘイスト』。

「行け!」

「ヘマすんなよ!」

走りだす三人を見てミノタウロスが雄叫びを上げ突進しようとするのを抑える。毎度律儀に胸を張るポーズで固まるのがコマ送りのようだ。

「左!」

「右!」

ガラハドたちが二つ角を曲がったところで、懐かしい【土魔法】レベル2『 泥濘(ぬかるみ) 』を最後に使って後を追う。

速いのはイーグルで、二番目がガラハド、魔法使いのカミラは一番最後。 異邦人(プレイヤー) のように極端に遅くて固定砲台の極振りは住民には滅多にいない。まあ住人の場合はステ振りはなくて自然に上がるものだが、アイテムを使用して少しだけ希望を叶えられるらしい。

「掴まれ」

『浮遊』をカミラにかけて横抱きに。

「きゃ!」

「ブモオオオ!」

「結構ヤツの足が速い。足止め頼む」

「わかったわ!」

後方に魔法を放つということはカミラが後ろを見つつ安定を保つには、私が横抱きにしたまま上半身同士がぴったりくっつくということでですね。役得です。

ギリシャ神話では糸を延ばして帰り道の目印にしたのだったか。この状況で糸なんぞ延ばしていたら引っかかって切れるか、それでなくともミノタウロスに切られてしまうことしか思い浮かばない。スキルの【糸】なら別だが。

「左。右は行き止まりだ」

「おう!」

「助かる!」

古い人の手の入った迷宮と聞いて思い浮かべるような、石積みの壁で細かく仕切られた行き止まりと曲がり角の多い通路をひた走る。松明が燃えているため【暗視】が発動するほど暗くはなく、さりとて先が見通せるほど明るいわけでもない。

「行き止まりにあたったら確実に追いつかれるな」

「あの斧の下を抜けて道を戻るのは避けたいわ」

カミラが私の鎖骨のあたりでため息をつく。『ハイヘイスト』のおかげか、一度も袋小路に行かなかったためか、すでにミノタウロスの姿はない。

「ブモオオオオオ!!」

「わ!」

雄叫びとともに通り過ぎたばかりの通路の壁が壊れ、巨大な斧が突き出る。ガラガラと砕け崩れる石壁の間から赤銅色の巨体が少し見えたところで埃がおさまるのを待たずカミラが魔法を放つ。

「あぶねぇ! 壁からかよ!」

ガラハドは叫びつつも足を止めず、イーグルもしかり。

私はあれです、役得について考えていたところでかなり驚いて一瞬止まりましたの自己申告を正直に行っておきます。

しばらく追いかけっこをして分かったことは、ミノタウロスとの距離が離れすぎると壁を壊してショートカットしてくるということ。私たちは行き止まりには入っていないが、【糸】での探索に宝箱がかかったので斧をかいくぐる自信があればチャレンジするのもいいかもしれない。

「出口だ!」

イーグルの言葉通り曲がった先に白い光が見え、四人で転がるように外に出る。出た先は朝日の射す西部劇のような赤茶けた荒野に同じ色の地面から引っこ抜いたような 土塊(つちくれ) が浮いている。

「さてっと、反撃開始なるかな?」

ガラハドがニヤリと笑って大剣を肩に担ぎ、先程出てきたミノタウロスの迷宮の出口に向き直る。

「三箇所あったのが気になるところだね」

イーグルが気力の回復にも効果がある【神聖魔法】をかける。名残りおしいがカミラを降ろし、【黒耀】での防御の上昇とその他補助を、カミラはMP回復薬の服用。

「ブモオオオオッ!」

迷宮から出たミノタウロスは、取り回しの厄介そうな巨大な戦斧を軽々と地面に振り下ろし吠える。風圧が襲い、空気がビリビリと震える。

「来たな! 牛野郎」

逃げ回ることにストレスを感じていたのか、ガラハドがカミラの魔法を待たずに突っ込む。振られる斧の下をくぐり横腹に切りつけるとミノタウロスの体に傷が。ミノタウロスが次の行動に移る前にカミラの魔法、今回は迷宮の中と違い動きは止まらないが、静電気の走るようなエフェクトが弾け無傷のようだ。

「よっしゃあぁぁっ!」

「あら魔法は効かないのね」

「三箇所あったしな、ここは物理なんじゃないか?」

「残りの二箇所のどっちかが魔法かもしれないね」

後で確認したら私とイーグルの予想通り夕日が魔法、昼の光が魔法と物理が両方効くがダメージ半減みたいな何かだった。

「さて、広いし私も参加しよう」

カミラがさっさと杖を弓に替えるのを見て私も刀剣を出す。通路のような狭い場所で近接が三人は効率が悪いがここならば大丈夫だろう。

ミノタウロスがガラハドの方に向きを変えるために踏み出したタイミングで【縮地】、狙うは斧を握る指。こちらに敵の意識が向いているときに【縮地】を使うと、うっかりすると武器の中に飛び込む羽目になるため、多用はしない。先程まで物理防御無視な感じのスキルは 鳴(な) りを 潜(ひそ) めていたが今は効いているようだ。便利な効果なので後から出てくるボスほどなんやかんやと対策が講じられている気配なので頼ってばかりもいられない。

「大丈夫だとは思うが当たんなよ!」

ガラハドが声をかけてくる。

「分かってる、ありがとう!」

ガラハドが耐えられなかった威力だ、私が受けたら吹っ飛ばされるだろうことは想像に 難(かた) くない。剣で流すにしても限界があるし、回避以外の選択肢はなさそうだ。

避け、こちらが攻撃を入れることによって二人に振るわれるミノタウロスの攻撃を止める。お互いがそれを繰り返しミノタウロスの体力を削ってゆく。ソロの方が敵の攻撃を読むのは楽なのだが、代わりに二人のフォローのおかげで避けるのが楽になっている。

「道中はスキだらけなくせに集中力凄ぇな」

「これで魔法も強力なんだから自信をなくすね」

「考えることが一つしかないからな」

いや二つか? 倒すべき敵(ミノタウロス) と守るべき仲間。

ミノタウロスは斧を振る様子に重さを感じさせないが、斧が裂いた空は風を起こし確かな質量を持っていることを伝えてくる。二人の動きを視界に入れつつも真ん中にミノタウロスを据えて見るともなしに視て、剣舞を続ける。

「ブモオオオオッ!」

ミノタウロスの体の色が真っ赤に変わり、雄叫びに乗せた気合に吹っ飛ばされる。吹き出す闘気的な風に阻まれて手が出せない私たちを無視して、力をためているらしく斧を地面につけ 柄頭(つかがしら) に両手を重ねて腰を落とした姿勢で震えている。

「地面も揺れてないかしら?」

カミラの言葉に地面を意識すると確かに揺れている。

「地響きもするな」

最初に聞いたミノタウロスの雄叫びのような音が微かに聞こえ、だんだん大きくなってゆく。

「『浮遊』! 多分地震がくる、土塊の上に!」

保険で三人に『浮遊』をかけ、平らな面が上の高さのない円錐のような土塊に飛び乗る。

《ソロ初討伐称号【迷宮の創造者】を手に入れました》

《ソロ初討伐報酬『迷宮創造の 一端(いったん) 』を手に入れました》

《迷宮食材ルート地下55階フロアボス『食材No.30』をソロ討伐しました》

《なお、この情報は秘匿されます》

《ミノタウロスの角×4を手に入れました》

《ミノタウロスの皮×5を手に入れました》

《ミノタウロスの魔石を手に入れました》

《『白牛の 第一胃(ミノ) 』×10を手に入れました》

《『白牛の 舌(タン) 』×5を手に入れました》

《『白牛のロース肉』×10を手に入れました》

《『ミノタウロスの斧』を手に入れました》

《『スキル石・力倍加』×1を手に入れました》

「よしっ!!!!」

ミノタウロスの肉じゃない!!!!!!

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・増・

称号

【迷宮の創造者】

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