軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139.炎熱の病

アイルへと至る小国への道は閉ざされていた。それを承知で遥か昔に打ち捨てられた古い道を来たというのに、すでにこちらも手を回されていた。ガラハドたちが「あの方」と呼ぶ古き魔法使いは、地元の古老さえも忘れかけた道そのものより、長く長く生き、そしてこの国に誰よりも詳しい。

「ここも駄目か」

「いよいよ金竜パルティンの道を行くしかないな」

「……」

カミラの意識は混濁し始め、歩く事さえままならない。今はイーグルの背の上だ。

意識が浮上するたび、男たちに自分を置いて行けと訴えるも、二人はそれを聞き入れず、カミラを背負って道とは言えない道を来たのだ。

「ここを突破するのは容易だが、騒ぎを起こせばあの方に伝わる。そうなったら本格的に疑われて追われる羽目になる」

「……パルティンが留守なのを祈ろう」

三人は少し前まで、あの方の知識や叡智が善きこと以外に使われるなどと思ってもみなかった。 あの方(・・・) は三人の事を疑っているわけではない。疑っているわけではないが、ほんの少しあやしんだ。

そのほんの少しで、ここまでの手を打つ。表向きは三人を国外に出さないためでなく、国のため民のために見えるような綺麗な理由をつけている。善きもののフリをしている限り、 瑕疵(かし) のないガラハドたち三人を大っぴらに処分はできない。その事がかろうじてガラハドたちを救っていた。

アイルに抜けられないなら行先はもうターカント公国迷宮都市バロンしかない。バロンへ抜けるためにはパルティン山脈を越えるしかないが、恵み多き北の裾野に比べ、山頂と南のバロン側の山肌は金竜パルティンの気性を映すのか険しい。唯一抜けられる道はその金竜パルティンの狩場だ。

金竜パルティンは青竜ナルン、火竜グラシャよりも気が充実し、覇気に富む。特に攻撃的になる発情期の近い今、見つかったら命はないだろう。

エルフの住む大陸、ノルグイェル大陸への海路はとうの昔、 あの人(・・・) が追い立てられた頃にはもう閉ざされていた。そして気づけば、櫛の歯が欠けるように仲間だった騎士が消えていっている。一体この国はいつから蝕まれていたのだろうかと、暗い来た道を戻りながらガラハドたちは思う。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

こんばんは、レーノに颯爽と跨って例の島にやってきましたホムラです。

うん、竜に乗って海の上を颯爽と飛んだよ! ……とても自分で颯爽と思えないのは竜の姿より人型の方が見慣れている上、内臓シャッフル号のイメージが先行しているためですね、わかります。

「この辺にしようかな?」

「崖の中に作るんですか?」

樫の森を抜けて、日当たりの良い崖を見上げる。ここに辿り着くまでに、美味しいお肉のメタルジャケットボアくんをたくさん狩っている。戦闘はレーノが活躍してくれていたので、私は【気配察知】と【糸】を織り交ぜて、ボアのいる位置を割り出していただけだが。レーノが戦闘している間に、次のボアを見つけて【誘引】を繰り返し、結構な量が獲れた。うん、私もレーノも、ちょっと目的を見失いかかっていた。

「景観壊さないし、秘密基地みたいでいいだろう? ミスティフも人の住む家が見えると落ち着かんかもしれんし」

『建築玉』を使うと崖に裏口並みに小さな木の扉がついた。後で扉の傍に細い木と、蔦を植えよう。

「いえ、まあこの島ならそのまま住むのもいいですかね? でもパルティン様が言っていたのはハウスの 中(・) に作られる『箱庭』のことだと思いますよ」

「そっちか」

ハウスや買い取った店舗には『箱庭』の機能が付属できる。ハウスと同じく許可されたものしか入れない空間だ。そこで農業やら牧畜も可能らしいので興味はある、馬鹿高いが現在買えないわけでないところがまた……、少し販売量増やそうかな。ハウス自体が最近取得者がポツポツ出てきた程度なので実際『箱庭』がどんな具合なのか情報がない。

もう使ってしまったものはしょうがない、『建築玉』を新しく取りに戻るのは億劫だ。

扉を開けると設計のとおり、狭いながらも玄関とその先に居間がある。台所などの用意もあるのだが、取得するための申請が通らないと無駄になるので、とりあえずこれで証明用の記録をとる。島を回って他に建物がないのは確認済みなので大丈夫だとは思うのだが。

「ではさっさとバロンに提出しに行こうか」

「そうですね」

島に一番近い冒険者ギルドに書類を提出し、審査を受ける。他に所有者が居ないかを各国に問い合わせるため、結果を貰うまで十日ほど待たされる。国のものなら地図に記入してあるはずで、個人のものだったなら建物がなくなっている時点で権利は消えている。

一応、どちらも確認済みであることを告げてギルドに書類を提出する。

「さて、とりあえずは完了だな」

「お疲れ様です」

「審査が通れば、満月にはギリギリ間に合うか」

「間に合わなくとも平気ですよ? パルティン様は次の満月とおっしゃいましたが、流石に島を探して家を建てるまでには短すぎます。期限は期待であって本気ではないはずです。ミスティフたちも、今回の満月に安全をとってパルティン様の住処にいたとしても、属性の偏りが出ても、島に移動すれば散らせる範囲でしょうし。今までは移動したところで山の中、パルティン様の気配が濃いか薄いかの違いだけでしたから」

「なんだ、早く言ってくれ。もう少しゆっくり選んでもよかったのだな」

「次の次の満月に間に合わなかった、とかがありそうでしたからね」

だから黙っていました、と、神殿に向かって連れ立って歩くレーノが言う。闘技大会やらクランハウスやらとウロウロした挙句、異邦人特有の 数日間の眠り(ログアウト) があれば心配になるのも当然だ、言い返せない。

「ん?」

「どうしました?」

「いや、メールが入った。誰だろう?」

本日は夜遅かったため、クランメンツは少し前にペテロの他はログアウトしている。ペテロの ログアウト(おやすみ) メールだろうかと思いながらメールを開く。

ガラハドからだった。

「友人から呼ばれた。この街の宿屋にいるらしい」

「貴方が青い顔をするのは珍しいですね、僕はどうします? 手伝いは要りますか? 先に戻りますか?」

レーノが聞いてくる。メールには、カミラが倒れて意識がないことと直ぐに来てくれと書いてあった。

「いや、一人臥せっているようだ。メールの文面から他の二人も状態が良いように思えない。念のため、つき合ってくれ」

いつも泊まっている一の郭の宿ではない場所が書かれていたため、そちらも少し訝しい。もし、カルと同じことになっているならレーノを巻き込むが、まあカルが店舗にいる時点で今更だし、ガラハドたちが三人とも具合が悪かった場合、一人では手が足りないことも考えられる。悪いがここはつき合ってもらおう。

急いで指定された宿屋に行き、部屋に行く。宿屋は少し通りから外れた、目立たない場所にあった。受付に誰もおらず、少し胡散臭い宿だ。

「すまん、入ってくれ」

ノックをし、声をかけると直ぐにガラハドが迎え入れてくれた。

久しぶりに会った二人は憔悴した様子で目の下にクマまでできている。

「そっちは?」

「ドラゴニュートのレーノだ。律儀で真面目で義理堅いぞ」

ちょっとただならない様子に、レーノは信頼出来ると告げる。ついでに『回復』と『リフレッシュ』、イーグルも神聖魔法は持っているはずなのに自分たちにかける余裕もなかったようだ。いや、かけていたがそれを上回るストレスがあったのか。

……ベッドに寝かされた、カミラにかけても反応がない。汗で化粧は流れ、上気した思いの外あどけない顔に汗をかき、眉を寄せている。見ただけで高熱とわかるような、そんな姿。

「どうしたんだ?」

「すまん、 火華果山(かかかざん) に付き合ってくれ。カミラの『炎熱の病』は、そこの『 火華果実(かかかじつ) 』で熱を奪うしか治す方法がない」

「あの灼熱と炎爆の火山にホムラを連れて行くんですか?」

レーノが非難するように口を挟む、あれ? ちょっと怒ってる?

「ホムラは【火の制圧者】と【環境を変える者】を持ってたよな?」

「ああ、持ってるな」

レーノがギョッとしたような顔をしてこちらを見てくる。ドラゴニュートの表情って最初はわからなかったのに最近は慣れてわかるようになった。【火の制圧者】は、火属性系からのダメージ半減、灼熱などの気候、溶岩などの地形からのダメージ効果無効。【環境を変える者】は、灼熱や極寒、多湿やらの体調ステータスに影響を与えるレベルの環境からの影響を緩和する。……この称号、長生きなドラゴニュートから見ても珍しいのか? もしかして?

「なるほど、その二つの称号があれば、あの過酷な環境はクリアできますね」

「もちろん一人で行かせるつもりはない。称号効果はホムラの近くにいれば俺たちも恩恵に与れる」

「え? もしかして道中ずっとくっつかれてるのか?」

すごい嫌な絵面を想像した。

「離れるほどに効果は薄くなるけど、それじゃ戦えないよ」

「ダメージくらうのは覚悟して、回復薬を大量に持ち込むつもりだ」

イーグルの言葉をガラハドが継ぐ。

ああ、そういえば。

「わかった、付き合おう。ただし、これを装備することが条件だ」

そっとガラハドとイーグルにそれぞれ小さな布を渡す。

「何かな?」

「何だ?」

無防備に受け取る二人。

「受け取ったな! よし!!」

【破棄不可】だが【譲渡不可】はついていなかったそれは、ガラハドたちが受け取った時点で【譲渡不可】になったはずだ。友人知人はレオが回すもんだから、すでに持ってる人ばかりで扱いに困ってたんだよな。しかもこっちは下手に神器だったりするし。

「おい、ホムラ! なんだこれは!!!」

「ホムラ君?」

イーグルの君付けが復活してしまった。

「今はおふざけに付き合ってる気分じゃねーんだよ!」

「いやいや、ふざけてないぞ」

「これのどこがふざけてないんだ!」

私が渡した布切れ、金色のブーメランパンツをバンッと両手で開いて迫ってくるガラハド。

その隣でイーグルが崩れ落ちた。

「どうした!?」

ガラハドが驚いてイーグルに聞くが、銀のブーメランパンツを握りしめ、床に四肢をついてうなだれたまま動かない。心なしか影を背負っているふうでもある。

「……私の今の装備より能力が高い……」

うん、能力見たのだな。私も初めて見た時どうしていいかわからなかった。ついでに言うなら、落とした紫パンツより、おまけで戻ってきた金銀のほうが泉のお約束でか性能がいい。……パンツに使うと嫌な字面だな性能。

怪訝そうな顔で、自分の持つパンツに視線を移すガラハド。

「【全気候耐性】……神器……」

ガラハドもイーグルの隣に崩れ落ちた。