軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89話 転生者の実態

思わず頭をボリボリと掻いてしまう。

さすがに心の中を読まれて、「嘘です」なんて言い訳も通じないだろう。

【読心】が持ち込まれている可能性も考えて、極力深く考えないようにしてたんだけどなぁ……

ついついフェリンの考え事に釣られて、俺まで毎度のクセをやらかしてしまった。

はぁ……

「まぁ、嘘ってことはないよね。ただあくまで聞いただけの情報。だからその真偽は分からないってところかな」

結局こう言うしかない。

俺だって本当かどうかは分からないんだから。

「そっか……」

「今はそこまで深く考えることもないよ。人ってさ、自分に持ってない能力がある人間を妬んだりとかはよくあることなんだ。だから――」

「でも戦争はここ最近凄い頻度で起きてる。人種がいっぱい死んでる……」

「……ここ5年くらいの話?」

「そう……」

ヤーゴフさんの情報とは一致しているのか。

となると、どうするかな……

バレた以上、不必要に情報を伏せる意味はあまりない。

逆にフェリンの持っている知識と擦り合わせを行なった方がプラスにもなり得る。

ただ、女神様達全員に広まるのはさすがにまだ早いだろう。

特にリアあたりにバレると何しでかすか分からないし……

ならば。

「フェリン。今から言うこと、他の女神様達には内緒にできる?」

「できるかできないかで言えばできるけど……そんな凄いこと言うの?」

ちょっと、泣きそうな顔しないでください。

こんな状況なのに庇護欲そそられて、思わず抱きしめたくなってしまいます。

「凄いかどうかは、少なくともまだこの世界に降り立って数ヵ月の俺には分からないよ」

「うん……」

「ただそのことを他の女神様達にも話すと、リアあたりが先走る可能性もあるでしょ? まだ本当かも分からないのに」

「それは、なんとなく分かる」

「俺はこれから色々な町、色々な国に行く予定だから、本当はその道中で真偽を確かめた後にでも話そうと思っていたんだ」

「うん」

「だから嘘か本当かも分からない内容ということでいいなら、一応フェリンにだけ話すことはできるよ。どうする?」

するとフェリンは少し考量した様子を見せながら答えた。

「うん……うん。分かった……聞かせてっ!」

覚悟を決めたような目で見つめられながら、そう返答されればしょうがないか。

ふぅ~……

俺は深呼吸を一つしたのち、ヤーゴフさんから聞かされた内容をフェリンに伝えた。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「つまり、私達が転生者を呼び込むことによって、逆に苦しんでいる人達も大勢いるってことだよね……?」

「話の内容から言えばそうなるね」

「転生者を公言している4人かぁ……」

フェリンには厳しい内容だっただろうな。

本来ならリーダーポジションのアリシア様か、冷静沈着に物事を判断できそうなリステ様にまず話すべき内容だ。

良くも悪くも常に陽気で、楽天家っぽい雰囲気のあるフェリンには向いていない話だろう。

でも本人が聞くことを望んだんだ。

なら可能な限りは情報を伝えておこう。

そう思って俺は手帳を取り出す。

ここには以前ヤーゴフさんから聞いた内容を詳しくメモしてあるから、具体的な名前を出せばフェリンの持つ知識に何か引っかかるかもしれない。

「俺が聞いた印象だと厳密には3人……いや、2人かな? 1人は獣人を守っているという印象をもったし、もう1人は喧嘩を売られて対処しているだけって感じだった。だから情報だけで言えば、力で暴れまわっているヴェルフレア帝国ってところにいるシヴァって転生者。あとは転移とか転送系だと思うんだけど、それで荒稼ぎしまくっているアルバート王国のマリーっていう転生者の2人が特に要注意人物って感じだね」

「うーん、そんな名前の転生者はいなかった気がするなぁ……」

「あーもちろんこの世界で出生しているんだから、親が名付けた名前、もしくは偽名というわけじゃないけど、別の名を使っている可能性もあるよ」

「そっか」

「それでまずフェリンに理解してもらいたいのはね。人には人が作った法という縛りがある。その法は俺のいた地球だと国によって微妙に違うんだけど、この世界だとそれがどうなっているかは分からない」

「うん」

「で、問題なのは聞く限りだと好き放題やっているこの二人も、法を犯しているかとなると微妙なんだよ」

「なんで? 悪いことはしているんでしょ?」

「良いか悪いかなんて個人の主観だからね。例えばヴェルフレア帝国にいるシヴァっていう転生者も、攻められている他国から見れば容赦の無い殺人鬼かもしれないけど、その国に所属する人間から見れば、自国の領土を拡大してくれる英雄かもしれないんだよ。俺がいた地球は表面上平和だったからあまり詳しくないけど、戦争なんてそもそも人間同士の殺し合いが前提なんだから、敗戦国が悪者にされて終わるっていうのが一般的なんじゃないかな? フェリンも長くこの世界を見てきたなら、転生者に関係無く国同士の領土を賭けた争いなんて今までいっぱい見てきたでしょ?」

「うん。しょっちゅう国の名前が変わってたし、境界も頻繁に変わってたと思う」

「だからこのくらいの文明なら尚更に、良し悪しは別として戦争は結構当たり前だと思うんだよね。人間って基本的には欲の塊だからさ」

「なるほど……も、もう一人の転生者は?」

「アルバート王国のマリーなんかはさらに法に触れていない可能性が高いんじゃないかなって思うよ。自身の能力を活かして世の中を便利にする。人に役立つ物を作り出して世界に広める。これは悪いことでもなんでもないし、その繰り返しが文明の発展に繋がっていくっていうのは分かるよね?」

「うん、それは分かる」

「ただそうやって便利な物が誰かの手で生み出されれば、その影響で需要が減少した仕事に従事していた人達の収入が途絶える、仕事を失うなんていうのは当たり前のことなんだ。だから皆競争して他に負けないようにと、切磋琢磨して頑張るのが地球の今の社会なんだよね」

「ということは2人とも悪くないの?」

「悪いか悪くないかはさっきも言ったように主観的なもの。だから客観的に裁けるよう、予め決められた法というルールによって判断される。そしてその法は国によって違う可能性があるし、俺はこの世界の法なんてよく分からないから、今の段階ではなんとも言えないっていうのが正直なところだよ」

「……」

「だからもし、この話がリアに伝わって神罰なんて話になろうものなら、最悪は人間のルール内なら問題無いって人を裁いてしまう可能性もあることは分かっておいてほしい」

「そっか……」

「もちろん人間の作ったルール以前に、その上に立つ女神様達が絶対のルールだというなら俺は何も言わないけど、一度その流れで殺されかけた身としてはあまりお勧めしたくないね」

「分かった……絶対リアにバレないようにする!」

「うん。じゃあここまで分かったなら次からが本題だ」

「……覚悟はできてるよ」

その顔を見て俺も頷く。

「俺に情報提供してくれた人はただ戦争をしている、富が一部に集中していることを嘆いているわけじゃないんだ」

「どういうこと?」

「この二人に限らずだけど、転生者の能力はこの世界の住人ではほぼ到達しえない領域まで突出してしまっている。そうだよね?」

「うん……私達が最大レベルで望むスキルを与えてたから……」

結局はここだ。

酷な話だが、女神様達がこの世界をなんとか良くしたいという思いが裏目にも出てしまっている。

「例えばの話だけど、この世界に住む住人達とは掛け離れた能力を持って生まれた自称異世界人、転生者が現れたらこの世界の人達はどう思う?」

「え? 羨ましい?……違う妬ましい……のかな? 人によって違う?」

「そうそう、人によって違うってのが正解。決めるのは住人達の主観なんだから、結局のところその能力の使い方次第なわけで……それで得をする人が多ければ称賛されるし、恨まれることが多ければ疎ましく思われる」

「……」

「じゃあ、さっきの二人に今の内容を当てはめてみたら?」

「戦争で人をいっぱい殺す……皆ができない方法でお金をいっぱい稼ぐ……前の人は凄く疎まれているし、恨んでいる人も凄く多そうな気がする」

「被害者が多ければ多いほどそうなるだろうね。聞いた話が本当であれば相当なものだと思うよ。女子供にも容赦ないって言ってたから」

「―――ッ!?」

「それに後者のマリーって人も、その富が国なり領土なり、広範囲に恩恵があればまた違うと思うけど……どうも話を聞く限りは富を個人が独占しているっぽいんだ」

「それじゃ……」

「うん、そんなことやってたら疎まれるよね。おまけに最終的な目的は他国の領土みたいだから、俺のいた地球に近い経済戦争みたいなことをやっている」

「……」

「俺に情報を提供してくれてた人が危惧していることは、今のこの世界が異世界人と公言している人達を中心に回ってしまっていること。それも実質はたった3人だ。この3人が飛び抜けた能力で覇権争いをしていて、元いた住人が太刀打ちできるわけもなく、その争いに巻き込まれてしまっている」

最も核心に触れる部分を伝えたことによって、フェリンは両手で顔を覆い項垂れてしまうも、俺はなんと声を掛ければいいかが分からない。

「私達、失敗しちゃったのかな……」

「もし今言ったことが現実だったとしても、全てが失敗だったというわけじゃないよ? 実際に地球の知識が落とされている様子はあるんだから。だから……さっき俺の心を覗いたんだし分かるでしょ?」

「うん。能力を与え過ぎた……それが原因」

「そうだね。正直なところ2人の気持ちだって分からないわけじゃないんだ。いきなり不相応の力を与えられれば、その力を使ってどこまでやれるか試したくなる。能力を与え過ぎればそんな人間も生まれやすくなるんだから、せめてこの世界の住民の中では高い部類の水準くらいに抑えるとか、文明の発展には繋がりにくい武力に繋がる能力は与えないとかさ。長い目で見ているなら、余計にそういった配慮は必要かもしれないね」

「……ここら辺だけでも皆に話したいけど、やっぱりダメかな?」

「うーん……近々転生者を呼び込む予定があるなら別だけど、そうでないならまだ止めておいた方が良いんじゃない? なんでそんな話になったってなるだろうし」

「そっか。そうだよね」

「それに本音を言えば、この話をされると俺も女神様達に目を付けられそうで怖いんだよ。俺自身にもよく分からない能力があるわけでしょ? 転生者と転移者って違いはあるにしてもさ」

さっき心を覗かれたんならフェリンは分かっているだろう。

俺が自分の強さを何よりも優先する、好き放題やっているやつらと同じタイプであることは。

だったら先に芽を潰しておくというのも有り得る話だし、俺が逆の立場だったらそうしようと思ってしまう。

「ロキ君は違うじゃん! 相談にも乗ってくれてる! ロキ君が強くなることに拘っているのは分かっているのに、それでも私達にこうして付き合ってくれてる! 【神通】だって結局私達の話を毎日聞いてくれてばっかりで……ロキ君に質問させようともしないで……エグッ……本当に駄目な女神で……ヒグッ……ごめん……」

その姿を見て、自然と俺は椅子から立ち上がってしまった。

女神様を抱き締めるなんて大それたことはできないけど……せめて、背中くらいは摩ってあげよう。

「打算で動くことが多い俺はそんな善人じゃないし、それは女神様達も分かっているはずだよ。だから今日も【読心】を持ってきたんだと思うしさ。そんな気に病む必要は―――」

「違うっ!!」

「えっ?」

「そんな……ロキ君を疑って【読心】を持ってきたんじゃないから! そんなんじゃないからっ!!」

……違うのか?

リアは多少改善されたかもしれないけど監視だって公言していたし、フィーリルもよく分からないけど何かのスキルを最初に持ち込んでいた。

魔物のスキルを得られてしまう上に、何よりも強さを求めている俺が危なっかしいのは自分でも自覚しているわけだから、【読心】くらい持ち込まれて警戒されるのもしょうがないと思っていた。

【神通】だってそうだ。

追々確認していきたいことはあるにしても、現状安全重視で進行しているわけだから、早急に確認しなければいけないことなんてほとんど無い。

逆に女神様が聞きたいことに分かる範囲で答えてあげていた方が、怪しい俺の印象も少しは良くなるかなと思っているわけだし……

(友達……友達か……)

フィーリルとのやり取りを思い出す。

不自然に好感度が高いと感じるのは、俺が転生者ではなく『 転(・) 移(・) 者(・) 』だから。

自由とまではいかないにしても、俺くらいしか女神様達と自然に話す人、話せる人がいなかったわけだから、永遠とも言えるような長い年月を6人だけで過ごしてきた女神様達にとっては、仮に望んでも手に入らなかった存在が俺なわけだ。

だから 友(・) 達(・) という言葉を使った。

そしてフィーリルも頷いてくれた。

だが……友達に【読心】を使ってまで警戒するだろうか?

人によるだろうけど、少なくとも俺なら友達を警戒はしない。

そもそも警戒するくらいなら友達とは呼ばないはずだ。

あくまで友達と言ったのはフィーリルだけであるが、もしフェリンが違う考えだとすれば……【読心】を使ってまで知りたいこと……その必要性……特別を喜び、結婚を自慢しようとする……いやいやいや、まさかまさか。

さすがにそれは自信過剰というものだし、身分不相応にも程があるだろう。

そもそもとして、そこまでに到達するほどの何かをした記憶が無い。

(ふぅ~……落ち着け俺。今は自分のことよりフェリンのことだろう)

そう思ってフェリンを見ると、なぜか先ほどより縮こまっているし、どうも耳が赤い……ような気がする……

「と、とりあえずさ、俺は気にしていないから元気だして?」

「うん……ごめんね……ごめん……」

「フ、フェリンの良い所は明るくて元気なところなのに、いつまでもそのままじゃ勿体無いよ?」

「ッ!?……またそういうこと言う……うぅ……うぅ―――!! 今日はもう帰る! 明日元気になったらまた来るからっ!!」

「え? あ、うん……」

そんななんとも言えない返事をしている最中に、フェリンの身体は青紫の霧へと変わっていく。

そして数秒後に消えたあと、思わずベッドに寝ころべば、ベッドの一部にはフェリンの体温が感じられた。

「はぁ……マジかよ……」