軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88話 食事事情

宿屋の自室。

その中で俺は椅子に、フェリンはベッドに座ってこの世界の食事事情について語り合っていた。

「ということは、先進的な地球の食べ物と比べても、十分張り合えるくらいに美味しいってことだよね?」

「そうそう。まぁ多少大味というか、大雑把だなと思うこともあったりするけど、そこは調味料の流通やその価格、あとは調理方法の問題だと思うし、文明と比較すれば想像以上にこの世界の食事って美味しいと思うよ。ってまだこの町の食事しか分からないけどね」

「今日食べたかぁりぃってやつは辛過ぎて味がよく分からなかったけど……食材が劣っているわけじゃないのかぁ」

「その印象は今のところまったく無いかな。地球だと品種改良って言って、より良い種を厳選して味を向上させていくのが一般的だけど、この世界だとそこを魔法やスキルが補っているのかも」

この世界の食事が予想以上に美味しいのは、まずこれが原因だろうな。

パイサーさんはジョブ系なんて言い方をしていたけど、【農耕】や【畜産】なんていうそのまま仕事とイコールになるような生産系スキルが存在しているんだ。となればこれらのスキルがレベル上昇に応じて、食べ物に良い影響を与えていることは予想出来る。

そして今まで食べた宿屋の女将さん料理はもちろん、色々食べ歩きした屋台飯でさえ外したことが無い。

調理方法が現代より劣っていて、さらに調味料の種類が少なく、かぁりぃのように大量に使えばぶっ飛んだ値段になるくらい一部が高価であっても美味いと感じるということは、元となる食材の味が良いということに他ならないだろう。

「その品種改良っていうのができれば、さらに向上するってこと?」

「んーその可能性はあると思うけど……何年何十年と時間をかけていく方法だからなぁ。やる価値はあるにしても、すぐ効果が生まれるものじゃないかな?」

「そこは問題なーし! 私達は長期で物事を見ているからね! いずれ良くなると思えばやる価値はあるのさ!」

「ははっ……確かに女神様達からすればほんの一瞬の出来事だろうね」

「ちなみに量は? ロキ君が生活していた中で、食料が不足していると感じたことはある?」

「まったく無し。飢餓で死にそうな人を今のところ見たことが無いし、魔物というリスクは伴うけど、町の外に出れば自然が豊かで身近だから果実や魚なんかも自由に取れたりする。おまけにその魔物も一部は食料になるんだもの。この町の北側は広大な畑が広がっているしさ、食糧難ってのはよほどの自然災害でも発生しなければ大丈夫なんじゃないかな?」

「なら心配しなくてもいいのかなー? 自然災害は私達も事の成り行きを見守るしかないし!」

なんだか目が知識欲に釣られてか、キラッキラしてるなぁ。

人が困窮する事態を避けたいと思っているんだろうけど、本来なら大惨事になってから気付くのが女神様達だろうからね。

実際に下界で生活している人間に聞いた方が適切に動けると思ったんだろう。

そしてこの程度のことを答えるのはまったく問題無い。

武器が出来上がるまでの暇な時間なら、いくらでも分かる範囲のアドバイスをしてあげよう。

となると――……

「一応地球人視点だけどね? この世界の食事って物価的には安いと感じるくらいなんだよ。もちろん高価な物はあるし、運搬技術が馬車頼りで未発達だから、遠方の食べ物だと輸送費が高いって問題もあるんだろうけど……それでも驚くほど安いものが結構あるんだ。それは人件費とか他の要因だってあるにしても、食料自体が豊富にあるからという理由も必ず含まれているはずだよ」

「なら私は安心して見守っていれば良いってこと?」

「今のところはね。もしフェリンが心配する必要があるとなると―――人口が増えた時かな? もしくは魔物が大量に減った時。人口増加は食糧難に繋がるから、確かフィーリルが人口の管理みたいなことやっているんだよね?」

「うんうん。っていっても凄く大雑把だけど」

「人口なんてよほど文明が発達しないと細かい把握は無理だよ。だから大雑把でも二人で連携取って、戦争が減ったり魔物の生態が狂ったり……良いことなんだろうけど、急激に平和になってきた時はちょっと心配した方が良いと思う。あ、あとは女神様達が悩んでいる文明が大きく発達した時かな? そうすると第一次産業に従事する人間は減る傾向にあるから」

「ほぇ~……ロキ君凄いね!」

「いやいや、今言っていることは何も専門的なことではないし、地球の常識的な範疇の内容だよ。だからもし転生者に元農業経験者とか、畜産関係者の人なんかがいたりすれば、その分野は飛躍的に伸びる可能性もあるね。実際ガラス関係の知識を持った人はたぶんこの世界に貢献しているっぽいし」

「そうなの?」

「うん、この世界に地球と同じような形状をした眼鏡や透明なグラスが存在しているんだ。それって周りの物と比べると文明が飛び抜けて高く感じるから、特化した知識を持つ人間が広めたんだと思うよ」

「うわぁ~もう成果出始めてるんだ……でも転生者にこれ以上のスキルをあげることはできないしなー!」

「ならこれから呼び込むことがあったら参考にすれば良いんじゃない? 転生でも転移でも、別の世界に行けるとなれば心機一転夢のある人生をって考えちゃう人は多いだろうけど、それでも持っている地球産の知識はこの世界に活かせるだろうからさ」

「んー? どうやって?」

「俺も女神様達がどういう基準で転生者を選んでいるのか分からないけど……例えば魂を無作為に選ぶとかじゃなくてさ。今この世界に必要な知識を持った魂を選ぶとかはどう? 魂からその人がどんな人生を送ってきたのか、見ることができればだけどね」

「おぉー!! 魂から情報は読み取れるから、その時にロキ君が言っていた農業や畜産なんかの仕事をしていた人達を選べばいいわけだね!」

「ま、まぁ食糧難で第一次産業を伸ばしたい場合はね? 文明の発展が望みなら、そっちよりは伸び悩んでいる分野の技術職や研究職の人を呼び込んだ方が効果的だと思うよ」

「なるほど~……」

やっと少し満足したのか、フェリンは椅子に深くもたれ掛かり、天井を見上げながら口だけをモゾモゾと動かしている。

頭の中を整理中かな?

そう思ってその光景を眺めていると、ボソリと小声で呟く声が聞こえた。

「そりゃ皆がロキ君と話したがるわけだよね……」

「……」

敢えて何も言いはしないが、内心溜め息が出る。

俺の知識なんて生きていく上で最低限知り得た上辺だけのもの。

それぞれの専門職で飯を食っている人達が聞けば一蹴されるような内容ばかりだ。

それでも、女神様達とこうして 意(・) 思(・) 疎(・) 通(・) を(・) 図(・) れ(・) る(・) ということが重要であって、直接伝えられるから意味もあるんだろう。

……ふと、ヤーゴフさんの言葉が頭を過ぎった。

俺はさきほど、転生者を呼び込むことを勧めた。

この世界の文明を発展させるためには、専門的な知識が必要だと勧めてしまった。

――でも本当にそれは良いのだろうか?

持ち込まれた知識のせいで煽りを食うのはこの世界の住人だ。

文明を伸ばす代わりに、それまでの仕事をしていた人達はその仕事を失う可能性が出てくる。

現にヤーゴフさんはそのような人達が出ていると危惧していた。

おまけに来るやつが皆、中身が真っ当な人間ばかりではない。

魂を厳選すれば根っからの極悪人は省けるかもしれないが、いきなり持て余すほどの力を得られれば絶対に調子に乗る人間は出てくる。

俺だって人のことは言えないんだ。

その結果が、今の転生者による覇権争いみたいなことになっているんだろうしなぁ。

衰退していく世界を良しとせず、地球の人間を呼び込んで足掻いている女神様達。

呼び込まれた結果、期待通りにこの世界へ知識を落としてくれる人もいる中で、好き勝手に暴れ回る一部の転生者達。

それによって余計な不幸に巻きまれる大勢のこの世界の住人――か。

あくまで一部であっても、その力がこの世界の住人にとっては絶大過ぎるもので、その影響力が大陸全土にまで広がってしまうのが問題だとするなら、そこまでの能力を渡さなければ良いという結論になるが―――……

それだと、この世界にそうそう来てくれないんだろうなぁ。

俺も散々駄々こねて、それでも拒否したくらいだし。

(ダメだな。考えたところでどれが正解なんて言えるほど簡単な問題じゃないし、まだ確信が持てる情報でも無い。余計なことを言えば、女神様達に心配と不安も与えてしまうのは分かり切っているのだから、それならまだこの辺りの問題は言わない方が良いだろう。ただ衰退が分かっているから、可能性に賭けて足掻くという女神様達の考えは俺も賛同できる。何もせず自分達の世界が終焉を迎える様を見届けるのは、女神様達にとってこれ以上無いほど酷なことだろうし……)

だったらとりあえずは、今俺が協力できることをしてあげるしかないか。

そして自分自身で世界を回りながら、ヤーゴフさんの言っていることが真実なのか。

転生者を呼び込むことは果たして正解なのかを見極めれば良い。

――って、おいおいおい……

俺は勇者でも救世主でもないのに何考えてんだよ。

あくまで世界を見て回るだけ。自分が強くなるためのついでだ。

何を勇者みたいなこと考えてんだよまったく……危うくロールプレイングの主人公になっちゃうところだったわ。

そう思って視線をフェリンに戻すと、先ほどの考え込む表情とは一転し、その視線は一点に俺を見据えていた。

瞬間、マズいと感じた。

フェリンが何のスキルを持ち込んでいるのかは知らない。

もし【読心】だったら―――

「今思っていたことは、本当?」

―――そんな心の中の呟きは、フェリンの投げかける言葉によって掻き消えていった。