軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

681話 制裁の形

「ほんっと! あり得ないこと言ってたんだから!!」

深夜の上台地にて、バーンと食卓の石机を両手で叩き、その勢いのまま立ち上がるフェリン。

並の力じゃないため食卓に並べられた料理が宙を舞うも、動揺せずに眺めているのは俺くらい。

詳しい事情をまだ知らない他の女神様達はピタリと食事の手を止め、呆気にとられる。

「教会の本音が聞けるかもしれないという話でしたが、そんなに酷かったのですか……?」

恐る恐るといった様子で俺に問うアリシアを相手に誤魔化すわけにもいかず、俺はしょうがなく頷いた。

「まあ、酷いだろうなと思っていたから呼んだわけだけど、結果的には予想以上だったかな。フェリンじゃなかったらヤバかったと思う」

日中はアリシアとリアが神界で女神としての仕事をしており、リルはベザートの監視、フィーリルは転移陣の門番をやっているため、元から選択肢はフェリンとリステの二択だった。

と言ってもリステじゃただ黙って立っているだけでも目立ち過ぎるため、あの状況では町の中でも溶け込める庶民派代表のフェリンにお願いするしかなかったわけだけど、もしこれが他の女神様だったらどうなっていたことか……

我慢できずにあの連中をぶっ飛ばすか、もしくは目の前で直接文句を言うか。

意識が飛ぶほどの圧を無言でかます姿も容易に想像できる。

なんにせよ身バレのリスクに繋がっていたかもしれないわけで、柱の陰で体育座りをしながら顔を埋め、自分の手足を抑え込むように抱えて耐えていたフェリンは、その後食べ放題ツアーに連れていってあげたくなるくらいには立派だったと思う。

まあ腹がパンパンに膨れたくらいじゃ怒りは収まらなかったらしいが。

「私達が教会から頼まれたら祈祷や職業選択を拒否したり、神罰に次ぐ裁きとしてスキルを全部剥奪するようなこと言って、ロキ君を脅してたんだよ!?」

「え?」

「拒否などしたことはありませんが?」

「なにそれ。神罰に次ぐ裁きって、どういうこと?」

「要は自分達に都合の良い神の裁きをでっち上げて、脅すための材料にしていたってこと。<神子>以外に誰も事実確認が取れないのをいいことにね」

そう付け加え、実際にどのような要求をされたのか俺から詳しく説明すると、事情を呑み込んできた女神様達の表情がみるみると険しくなる。

ファンメル教皇国は神事や神具の搬入などを一手に任せてきた自分達のお膝元。

だからこそ余計に裏切られたという感情も大きいだろうからなぁ……

「ロキ君~その者はもう始末したのですか~?」

「いや、両手を焼いたくらいで帰したよ」

「そうか……だが事は重大だ。そのような行為、私達にとってはある意味人種を殺めるよりも罪深い」

「ええ、その程度で済ませていいわけがありません。より大きな制裁が必要です」

「フェリン、その者の素性は割れているのですか?」

「うん。スキルで覗いたわけじゃないけど、周りからはルクレール司教って呼ばれてた」

「ならば最低限その者と現教皇には責任を取らせる必要があるだろう」

「では一度足を運んでいる場所ですから、ファンメル教皇国には私が行きましょう。盗賊に直接手を下したリアの前例があるので、こちらの素性を明かさなければ何も問題は――」

「ちょっと待って」

目の前でとんとん拍子に話が進んでいくこの状況をマズいと感じ、咄嗟に止める。

すると意外そうな顔をしたリルが俺に疑問を投げ掛けた。

「らしくないな。悪を毛嫌うロキが、なぜ止める?」

「理由はいくつかあるけど、春になったら<神子>を通してシヴァやマリーに警告するって決めたんでしょ? だったらこのタイミングでファンメル教皇国を派手に搔き乱すのはマズくない? 最悪は六道神際が中止になる可能性だってあるわけだし」

「「「……」」」

「罪の大きさなら、今回の件だって相当なモノだとは思う。けど驚異の度合いで言ったらファンメル教皇国よりマリーとかシヴァの方が断然大きいんだから、多くが注目する中で<神子>を介した名指しの警告ができる六道神際は、最優先して開催させるべきだと思うんだよね」

「だからロキ君にしては珍しく、その司教を生かしたまま帰したのですか~?」

「うん。まあ住民には手を出していなかったっていうのもあるけど、祭りが終わるまではそこまで事を荒立てないようにしたいのと、あとは生かして帰せば、組織に属している人間が誰と相談してどう動くのか分かるわけだから、その方がみんなも追いやすくなるかなって」

「なるほど……」

対象が神像の近くにおり、かつ女神様達がその状況を認識さえしていれば、皆の本体が持つ能力を振るって思考を読んだり記憶を探ることだってできるのだ。

だったら一度泳がせた方が、似たような手口を使って巻き上げようとする連中を一網打尽にしやすいだろうと。

そのように付け加えて説明すると、納得はしつつもまだ不満を残したような表情を浮かべる女神様達。

「だが、この事実を知ってなお、我々から何も制裁を加えずにいるというのもな……」

「うん。凄いモヤモヤして気持ち悪いし、何もしなければまた同じようなことを繰り返しそうな気がして怖いよ」

「ん~張本人には泣き叫ぶほど後悔させたわけだから、多少は慎重になると思うんだけど……」

とは言え、司教が語ったように上納した者ほど評価される仕組みが出来上がっているのなら、その仕組みを壊さない限り教会本部が搾取しようとする体質は変わらないよなぁと。

そう思っていたところで、頭に1つの案が浮かぶ。

「だったら大きな金と権力を与えてしまっている神具の扱いを、教皇国から取り上げてみる?」

「神具を?」

「ベザートの時みたいに、教皇国が独占して法外な値段で売りつけている神具を、これからは望む教会に直接タダで卸しちゃえばいいわけでしょ? そうすればお金のない亜人達の地域でも信仰が広がりやすくなるだろうし、このタイミングで世界中の神官に直接卸すと【神託】すれば、教皇国は自ずと今回の件が女神様達に発覚したって悟るだろうからさ」

「なるほど……これが制裁だと判断させ、反省と自制を促すわけですか」

「うん。それにこれならファンメル教皇国内で大量の聖職者が死亡するとかじゃないんだから、失った教会本部としての権威を世界に示すためにも、祭りが催される可能性はかなり高いと思うんだよね」

「ふむ、なるほどな。亜人にも神具を渡せる機会が増えるし、良いことづくめじゃないか?」

「そうですね……教会がない地域の声をどう拾い、どのように神具を届けるか。今までになかった課題もいくつか見えてきますが、明らかにそれ以上の利点があるのならば、より良い世界へ導くためにすぐ動きましょう」

ようやく多少は明るい表情を取り戻した女神様達。

たぶんこの流れだと、神具の運搬など一部は裏で俺がひっそりと担うことになりそうな気もするが、その地域のマッピングさえ完了させていれば一瞬だ。

その程度なら苦にもならないし、これで利権の塊になっていた今の歪な状況を解消できれば、多少は教会周りの環境も上向くだろうと。

そんなことを考えながら、ここで止まれるか、それとも破滅の道へと突き進むのか。

最後に見せた司教の恨めしそうな顔を思い浮かべつつ、ファンメル教皇国の未来を思案した。