軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

635話 いったい誰から

ロキを見送ったあと。

「じいさん、大丈夫なの? なんなら今日は家帰って休んでなよ」

「いえ、あまりの衝撃に受け止めきれなくなっただけで、もう大丈夫ですから。それよりどうなったのか、この目で確認させてください」

70近い高齢ということもあってメリーズが横に立つトレイルを心配するも、当の本人は問題ないと首を振り、背後に立つ教会を見つめる。

数度足を運んだラグリースの王都ファルメンタにある中央教会を思わせる、神殿のような荘厳な雰囲気を漂わせた佇まい。

それは朝まで存在していた、雨風凌げる倉庫のような外観とは雲泥の差といってもいいくらいに見違えていた。

大きく開かれた入り口の手前には石柱に囲まれた広いスペースが存在しており、左右それぞれの突き当りに人の背丈ほどもある大きな魔法陣が2つずつ。

「左が入り口、右が出口ですか……ここには『草原エリア F~Dランク』と書かれていますが、反対側は違うのですか?」

トレイルが問うと、倒れている間にロキの作業工程を眺めていたメリーズが答える。

「反対側は『城下町エリア D~Bランク』って書かれてたね。荷車や馬車も転移可能だからこれだけ広くして、脇にあるハンターギルドの出張解体場まで直接運べるようにしたって言ってたよ」

「なるほど、だからあのような立派な倉庫まで」

「それでも奥の孤児院とか炊き出しの場所もあるからね。ロキ王様からすればあれでもまだ全然小さいみたいで、いずれこの辺りにもっと大きな倉庫を作るって言ってたけど」

「ふむ……」

先ほどまで自分達が見ていた魔物の大きさを考えれば、より大きな倉庫も必要にはなるだろう。

しかしそうなると、立ち並ぶ周囲の民家はどうするのだろうか。

トレイルは疑問を抱えながら教会の中へ足を踏み入れ、飛び込んできたその光景に唖然とした。

「……18体、本当に用意していたのですね」

「だね。しかもこれで混むならもっと増やすって」

「……」

指示書の通りだ。

長椅子が並ぶ礼拝堂の奥には、今まで置かれていた6体の神像と同じモノが2組追加され、1組はこれまでと同じく中央で6体が固まるように。

そして左右には計12体の神像がずらりと等間隔に並べられていた。

不安や希望を抱えてただ祈りたい者もいれば、スキルの取得や成長を願う者、職業選択を望む者だっている。

利用者が増えても長時間待つようなことはなく、誰でも気軽に活用できるように――そんな王の考えは自身のスキルを表す黒曜板の数にも表れており、トレイルが入り口に向かって振り返ると、その左右には合計10の小部屋が設けられていた。

全て扉はない半個室のような状態になっており、部屋を覗くと少し斜めに設置された黒曜板の背面と、利用者がいるかどうか判別できる程度に人の姿も映るようになっている。

大きな町であれば複数の教会が存在していても珍しくはないが、1つの教会に女神像や黒曜板が重複して置かれるなど前代未聞。

当然こんな事態をファンメル教皇国と下部組織の教会本部が許すわけもなく、逆にこれほどの数となれば喧嘩を売っているくらいに思われても仕方がないだろう。

しかもだ。

「これだけ数を増やした上で、黒曜板を利用した所持スキルの確認は無料に。職業選択は最低50万ビーケから一律10万ビーケにするわけですか……」

頂いたお布施は一度全てを国に納め、それとは別に教会や孤児院を維持する上で必要なお金を国から頂くというのが、ラグリースでもこの国でも行われているお金の流れ。

教会本部によって定められた金額を崩してまで安くするということは、ロキ王が帳簿を偽るなりして報告を上げるつもりか、もしくは教会本部へ納金する予定がないかのどちらか。

教会関係者の立ち合いもないままこのような変更を加えているのだから、まず9割9分は後者と見て間違いないだろう。

「メリーズさん……ロキ王は教会本部と――ファンメル教皇国と争われるつもりなのでしょうか……?」

事実として職業選択のハードルは高く、やりたくてもできないという者が多いのだから、教会利用者の側に立って動こうとしているロキの気持ちは痛いほど分かる。

だが教会本部やファンメル教皇国との関係が拗れれば、まず教会の維持そのものに支障を来たし、最悪はロキ王やこの町に災いが降りかかるだろう。

願わくはこれまでのように、争いなどない平和な日常が続いてほしい。

その想いで横に立つメリーズに問うと。

「さぁね。お偉いさん達の考えることなんて私には分からない、けど……」

何かを言いかけたメリーズは会話を止め、こっちに来いとトレイルを手招きする。

その様子にトレイルは訝しげな視線を向けながらも、ああ、これは内密な話かと。

理解を示してメリーズの後をついていくと、その足は教会の端で止まるが……

続くメリーズの言葉はトレイルの想定とはまったく異なるものだった。

「ほら、じいさん。近くで見たらよく分かるだろう」

「ん?」

「新しく設置された神像はどれも輝くように白くて綺麗なんだ。ロキ王にどうしたのか聞いたら"譲ってもらった"って言ってたし、上同士で話はついてるんじゃないの?」

「……」

言われて気付いたトレイルは、はっと目を見開き中央に立つ6体の神像と見比べるも、差は一目瞭然だ。

いくら磨こうとも経年の劣化によりくすんでしまった中央の神像とは違い、追加された神像は純白のような真新しさが感じられた。

――そして、強い疑念を抱く。

トレイルはてっきり、ロキがまたどこかの潰れた町から回収してきた『神具』を勝手に置いているのだと思っていた。

この教会が初めてできた時も、神像や黒曜板は以前のベザートから運んできていたのだし、数が数なのだから自然とそのような発想が浮かんでしまうのも仕方のないことだろう。

しかしこの神像は、どこかの町に置かれていたような雰囲気がまるでない。

つまりは新品――教会本部が卸したということになるが、それはそれであり得ないとトレイルは確信していた。

神像や黒曜板といった神具に関しては、徹底して教会本部が輸送から配置までの全てを担うというが通例だ。

長く教会に携わってきたトレイルでも、それ以外の例というのを未だかつて一度も耳にしたことがなかったし、何より信仰の強さをお布施の額で判断するくらいに金の執着が強いのだ。

そんな本部が大事な神具を大量に"譲る"など、いくら力ある異世界人が相手であったとしてもあり得ない。

それはアルバートや帝国といった、異世界人を要する大国に対しても、未だ強い影響力を持ち続けるファンメル教皇国の姿からも容易に想像できるだけに――

「ロキ王は、いったい誰から譲られたのでしょう……」

「……」

咄嗟に浮かんだ疑問を吐き出すも、その答えを返す者は誰もいなかった。