作品タイトル不明
571話 養殖疑惑
人の忠告を無視して動き始めた魚人達は、突出しているといってもハンターでいえばAランクか、一人二人くらいSランクに該当しているかもしれないという程度。
海中とは言え、当初は戦闘になったところでそこまで苦戦するものでもないと思っていたわけだが。
(想像以上に厄介だな……)
引っ張られて上手く身動きが取れない中、現状をどう切り抜けるか。
苦しくなってきた呼吸に若干の焦りを感じながらも思案する。
兎にも角にも空気を吸いたい――そんな考えなど、当然のように相手はお見通しで。
海上への通り道を塞ぐ魚人達がとったのは、敵ながら思わず感心してしまうほどの連携だった。
1人が俺に【挑発】を撃ち、反則かと思うほどの速度で引っ張りながら、別の二人が俺に【水魔法】と【氷魔法】を放って足止めと攻撃を加えていく。
そしてもう一人はというと、俺が強引に抜けようとした時のために一定の距離を保ちながら常に張り付いており、抜けたと同時に【威圧】と【挑発】で行動阻害とカバーに回っていた。
誰も安易に近寄ってこようとはせず、狙いが俺の窒息であることは明らか。
かと言って、あまり派手なことをしてここで逃げられたくもないし……
そんな時、3度目の【挑発】が唱えられたタイミングで、いい加減にそろそろ動かなければ呼吸がマズいと感じてこちらも同時に放つ。
――【挑発】――
「んなっ!?」
「ぐおっ!」
スキルレベルに自信があったのだろうけど、一方的に撃てると思ったら大間違い。
俺の方がスキルレベルは上だ。
まずは離れた位置から魔法を撃っていた二人をこちらに引き込み、そのままカバーに回っていた魚人の男にも【挑発】を放つと、槍を前面に向けて目を血走らせながら迫ってくる。
「く、くそッ! なんという射程か!?」
こうなると、俺を引っ張っていた魚人もそれどころではない。
血相を変えて俺に向かってくるので、その前に呼び寄せた3人を始末しておこうと迎え撃つ。
「魚水五法、飛瀑、くごォ……!?」
真っ先に辿り着いた【水魔法】の使い手に対し、 腸(はらわた) を引き抜くように腹を抉ると、すぐ後ろに控えていた【雷魔法】の使い手が決死の形相で吠える。
「近づけば勝てると思うな! 魚雷三法! 夜月の雷放!」
目の前で自身が雷を纏ったような状態で突っ込んでくるため、モノは試しと口元を覆うように掴みながらその雷を【帯電】で吸収。
そのまま背後から差し向けられた槍を躱し、カバーに回っていた魚人の胸に手刀を差し込むと、全身を激しく痙攣させながら白目を剥いたので、そのまま手元の槍を奪って掴んでいた魚人の喉に突き入れた。
「ゴハッ……な、なぜ……俺の、雷が奪わ、れ……」
『【水中呼吸】Lv1を取得しました』
『【水中呼吸】Lv2を取得しました』
『【水中呼吸】Lv3を取得しました』
『【水中呼吸】Lv4を取得しました』
『【水中呼吸】Lv5を取得しました』
『【漁猟】Lv1を取得しました』
『【漁猟】Lv2を取得しました』
『【水中呼吸】Lv6を取得しました』
『【泳法】Lv9を得しました』
『【造船】Lv1を取得しました』
『【水中呼吸】Lv7を取得しました』
……不思議な感覚だ。
空気を吸っているわけではないのに、苦しかった呼吸が徐々に緩和されていくのを感じる。
ふふ、素晴らしい……
一応詳細説明も確認しておきたいところだが――いや、まずは残りを始末してからだな。
そう思って動きを止めていた一人に目を向けると、慌てたように身を翻して後退する。
と、同時に視界の隅でもう1つの影が。
「ぞ、族長!」
「怯むな! 殺られた者の命、決して無駄にはせん! このまま海底まで引きずり込むぞ!」
ようやく本命のお出ましか。
俺の作った氷島の上で様子を見ていたことは掴めていたが、このまま踏み込んでくるのかどうかまでは分からなかった。
部下を生贄に時間稼ぎをしておいてよく言うわと思うも、無事に釣れたのならば、大人しくしていた甲斐があったというもの。
情報を抜くためにもすぐには殺せないので、まずは部下の方から――、そう思って再び視線を向けると、及び腰だった魚人の腕には青紫の魔力が纏っていた。
「魚光三法! 日輪の照耀……、ッぐァ……!?」
「うおっ……」
辺りを照らす、眩いほどの強烈な光。
咄嗟に握っていた槍をぶん投げるも、まともに目を開けていられるような状況ではなく、腕を交差させて顔を覆ってもさほど効果は感じられない。
まず間違いなく【光魔法】……これは使えそうだし、有難くパクらせてもらおう。
そんなことを心の中で呟いていると、スルリと脇から腕が伸び、族長が俺を背後から羽交い絞めにしていた。
「捕ったッ! これでもう、貴様が日の光を浴びることは二度と無い!」
「……」
俺を捕まえたまま、物凄い勢いで底へ底へと泳いでいく族長。
途中までは水圧の影響を気にしていたわけだが、この男が平気なら、たぶん俺も平気なのかなと。
そう思った途端、あることに気付き、思わず忠告をする。
「……口も塞がなきゃ詠唱されますよ」
「ッ……知っておるわ……!」
すると背後から慌てたように俺の口を塞ぎ始めるので、なんか違うなと思いながら行動に出る。
――【魔力纏術】――魔力『5000』
「っごォ……!? ぎ、ぎさまぁ……ッ……」
「密着していたから、背中から腹を貫いただけ。そんな驚かないでくださいよ」
そう告げるも、族長は自分の腹を貫いた黒い槍を抜くのに必死だ。
まあ、形状変化させた返しが背中側にあるので、自分の腹を豪快に裂く勢いでいかないと抜けないが。
それより、だ。
「あなた、もしかして養殖……マリーにドーピングでもされました?」
「な、なに……?」
「どうも 中身(スキル) と実力があまり伴っていないというか、戦闘経験が薄そうというか。本当の強者と戦ったことがあるのかなって思いまして」
覚えていた違和感をそのまま口にすると、族長は口籠りながら顔を歪め――急にハッと、我に返ったように驚愕の表情を浮かべる。
「というより、なぜ、貴様は普通に喋れているのだ……? こ、呼吸は!? もうとっくに悶え苦しみ、意識が途絶えている頃合いだろう!?」
「ふふ……それより自分の心配をした方がいいですよ。ここまで深ければマリーが近くにいたって邪魔などできないでしょうし……それでは、じっくりとお話を伺いましょうか」