作品タイトル不明
561話 実験の結果
海中では、水が邪魔して魔物を『収納』しにくい。
そんな理由から氷を生成し、海上に無理やり作った人工島の上で俺は実験を繰り返していた。
「566……567……オッケー、6回目は9分半くらいか」
目の前には『黒鎖』で捕縛した海トカゲ――タニファと、足元に転がるいくつもの腕。
パスッ――。
そして今、赤黒い血とともに再生した直後の腕が氷の上に転がる。
少々残酷ではあるが、今後のためにも重要な実験だ。
まさかの白文字であった【急速再生】。
このスキルが問題なく使えるタイプなのかどうか。
【急速再生】Lv2 自身の損傷、欠損箇所を素早く再生する 再生速度はスキルレベルによるが、回数を重ねる度、部位にかかわらずその速度は永続的に低下していく 消費魔力200
このような詳細説明では分からないことも多く、スキルを所持するタニファを利用して確認してしまうのが最も安全で手っ取り早かった。
腕を切断すると自前の【急速再生】レベル2を使用し、タニファは元に戻そうとする。
最初は"急速"という名の通り、淡い光で包まれた傷口がモコモコと、不気味に蠢き始めてから僅か5秒ほどで元に戻り、そこからは回数を重ねる毎に3倍近いペースで完治までの時間が増加。
そして、ある程度規則性を掴めてきた7回目はというと――
――【神聖魔法】――『元に、治せ』
1回目と同じ、傷口が光る前に俺の【神聖魔法】ですぐに回復をさせる。
ちなみに1回目の時は3度スキルを唱え、元に戻るまで計12分近くの時間を要していた。
【回復魔法】では賄えない、深い傷を治す場合には必須とも言える【神聖魔法】だが、しかしそこまで万能なわけではない。
スキルを使えば瞬く間に傷が治るなんていうことはなく、ジンワリと、それこそ滲むように回復効果が広がっていくため、裏ボスの闇霧に腹を刺されまくった時も意識がぶっ飛びそうになりながら、何度も何度も【神聖魔法】を繰り返して自分の傷を回復させていた。
もちろん唱えるスキルレベルや、術者の『知力』もその速度に大きく影響してくるのだろうが……
兎にも角にも、【神聖魔法】では腕を復元させるとなると1度の詠唱ではとても済まず、時間だってそれなりに必要となる。
それが【急速再生】であれば、一定回数までは【神聖魔法】で治すより速く、かつ魔力消費も抑えられるのだ。
あとは一番の懸念。
詳細説明にある、『永続的な速度の低下』という恐ろしそうなデバフが【急速再生】だけでなく、【回復魔法】や【神聖魔法】での回復にまで影響してしまうのかどうか。
もし影響してしまうならリスクが大き過ぎると思っていたわけだが。
「お? 同じ時間……あぶねーこっちは影響なしか」
結果は1回目と同じ、12分ほどで腕は再生された。
となると現状では6回目まで、【神聖魔法】より【急速再生】の方が再生速度は優秀ということ。
まぁ今後どちらのスキルレベルも上がることで、この回数は変わっていくだろうけど……
「どのみち、いざという時の緊急用だな、これは」
目安を知れたことで、このような結論に達する。
スキルレベルの上昇で、永続的な低下デバフがその都度解除されるなんてこともまず考えにくいし、特に最初の1度目は希少だ。
使わなければ、どうあっても死ぬ。
そんな場面までスキルレベルを上げつつ温存しておこうと心に決め、次々と氷島の上に飛び上がってくるサハギン達を一掃。
人の出入りがあるDランク狩場は夜間の今が素材も経験値も稼ぎ時だと、一部の死骸を細切れにしながら周囲の海にばら撒き、再び海中へと潜っていった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
時刻は朝の9時ごろ。
クアドと共にニューハンファレストに向かうと、予想通りロビーには宿泊客の姿がほとんど見らえず、レストランも残された食器を片付ける従業員がいるくらいでガランとしていた。
そんな中、厨房で茶を飲みながら休憩している人達を発見し、声を掛ける。
「おはようございまーす」
「ん? なんだ、うちの王様じゃないか」
「クアドさんも一緒か。なら丁度いい、奥深い甘みを求めて作り上げた『オニオンかぁりぃ』を食ってくかい? あんたは辛いの食ったら気絶するしな」
「え、なんすかソレ!?」
「それならついでに、最近俺が常連客から教わった『カツレツ』も用意しようか? 食い盛りのロキ王なら、何枚でも食えるだろうし」
「はうっ!」
狩場に船が来るギリギリまでは粘ってやろうと、朝までずっと飯抜きで狩りをしていたわけで、そんな提案をされるとめっちゃ食いたくなるんですけどー!
でも今回ばかりは目的が違うのだ。
前のめりになって尻尾を振っているクアドを制止し、厨房の広いテーブルにドンドンドンと。
いくつもの素材を並べる。
「これは……」
「先日、ようやく東の海に辿り着きまして、これらはその海で狩ってきた魔物なんです。とりあえず第一弾って感じですけど、商会で売る以外に、こちらでも使える素材があるかなーって」
言いながら3人の顔を眺める。
より正確に言えば、この手の海産物を扱えるかどうか。
難しいならいずれ時間を作って俺が知っていることを教えるか、もしくはニッカ辺りの料理人を一時的に何人か雇い、ここに連れてきてしまうのもありだろう。
そう思っていたが。
「ふっ、懐かしいな……キラーロブスターにリリークラブまで、まさか海の魔物を大陸中央で目にするとは思いもしなかった」
すぐに反応を示したのは、Sランクハンターでもあるノディアスさん。
それにこの口ぶり――、ただ知っているというだけではなさそうだ。
「もしかして、狩ったこともあるんですか?」
「ああ、俺がまだBランクの頃だから、もう20年近くは前になるのか。当時は案内人がいないとかでDランク狩場までしか行けなかったが、それでも狩った魔物と、それにコイツらの味の良さは未だによく覚えている」
「おお!」
さすが世界の狩場を多く巡ったノディアスさん。
全部知っているというわけではなさそうだけど、これなら魔物素材もここの料理に活かせそうだし、ベザートにも次第に情報が流れるだろう。
そう思っていると、珍しく口角を上げた料理長ボーラさんが、顎を擦りながら俺に問いかける。
「ロキ王、魔物素材もいいが、普通の海産物は?」
「あー市場に海の幸が並んでいましたし、そっちも仕入れられますよ。ただ何かのついでにまとめてって感じなんで、そこまで高頻度で通うとかはできませんけど」
「それでも構わないさ。どっちかっていうと、普通の海産物の方が小さくて扱いやすいからねぇ……」
ふと、感じた疑問。
しかし、俺より先にインド人が口を開く。
「なんだ、ボーラさんも扱えるのか。世界を旅するようなタイプには見えなかったが……さすがだな」
対してボーラさんは、苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「見立ての通りさ。ラグリースを出たのだってここに来た時が初めて、魔物1匹殺せない女が世界を旅するなんてできるわけないだろう。だから若い頃、世界を旅した本物の女傑に教えてもらったのさ」
女傑か……
ラグリースを出たことのなかった人がそう呼ぶ人物となると、これはもう一人しか出てこない。
「もしかして、ニーヴァルのばあさんですか?」
「ああ、そうだよ。大層な役職に就いてからは少し落ち着いたけど、それでも自由気ままな風のような人でね。私がかつて勤めていた屋敷で会食があった時は、ツマらないからってよく厨房に顔を出して料理を教えてくれたんだ。私達に、外のこんな料理を作ってほしいってね」
「ははっ、婆さんらしいですね」
亜人の友人がいるようなことも言っていたし、宮殿に部屋を与えられる前はそれこそノディアスさんのように、大陸を自由に旅していたのだろう。
そこは十分納得できるが、しかし……
「ちなみに、海産物はどうやって手に入れてたんですか? まさか、川やボイス湖畔の魔物ってわけじゃないでしょうし」
「そうだ、俺もそこが気になっていた。ラグリースで海の幸なんて一度も見たことがないぞ?」
先ほど感じた疑問をそのまま口にすると、すぐにノディアスさんも同調し、そんな俺達をボーラさんは少し呆れたような表情で見つめる。
「まったく、二人とも貴族というものを知らなすぎだよ。あの連中は"普通じゃ到底叶わないこと"にこそ価値を見出し、金を注いで愉悦に浸る。特にアホみたいな金を持っている上位貴族はね」
「「??」」
「うちの王様ほどじゃないにしても、やってやれなくはない方法があるだろう? 【氷魔法】と【魔物使役】の使い手がいれば」
「あー……」
「ふむ、そういうことか」
「私がかつて勤めていた屋敷ではそうしていたというだけで、他にもやりようはあるのかもしれないけどね」
【氷魔法】はこの手の海産物を扱うなら特に必須と理解していたが、なるほど、【魔物使役】か。
それなら大きさにもよるだろうけど、空から直接運ぶという手段も取れてしまう。
確かに、コストを度外視すれば、できなくはない。
そう理解した二人を横目に、ボーラさんは俺が取り出した魔物に鼻を近づけ、感触を確かめるようにソッと撫でる。
「でも、こいつは凄いね。氷漬けにされたわけでもないのに、鮮度落ちしている様子がまるでない」
「時間の経過が発生しない、それが【空間魔法】の特性ですから」
「ふふ、こうして海産物に触れるのは15年振りくらいか……しかもこれだけ素材が良いとなれば心も滾る。ロキ王、早速試作して品目に加えていくつもりだから、無理がない範囲で素材を用意してもらえると助かるよ」
「ふははっ、確かに滾るな! そんなに鮮度が良いなら、目が覚めるほど美味かった刺身だっていける。となると――ロキ殿、名は忘れたが、例の薄茶色い調味料もぜひ調達をお願いしたい」
「海産物のかぁりぃか。茹でるか、煮込むか、揚げるか……これでまた新境地に辿り着けそうだ」
これら言葉を聞き、俺とクアドは示し合わせたように顔を見合わせる。
「ね? ロキさん、やっぱりこっちにも必要になるって言ったでしょう?」
「うん。これだけやる気になってくれているなら、作る価値はあるね」
イーゴさんと約束した納期は昨日か今日。
それまでにCランク狩場を探し、レモラを大量納品しないといけないのに……
もうちょっと期日に余裕を持たせておけば良かったなぁと、若干後悔しながら気合を入れる。
「うし! それじゃあパパッと、地下に冷蔵庫を作りますか!」