軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

557話 情報次第

帰り際に店主から醤油の仕入れ先を確認し、ルンルン気分で訪れたハンターギルド。

その資料室で、予想とは違う内容に一人唸る。

「ん~海の狩場は《サザの浜辺》と《フーリン海岸》の2か所だけ、しかもFランクとEランクか……」

まぁガルグイユのように、危険と判断されて資料本から情報が消されるパターンもあるにはあるのだ。

受付で聞けば何かしら分かるだろうとカウンターに向かい、そしてすぐに納得する。

「あーなるほど、レモラは"はぐれ"なわけですか」

「ですです。あの魔物は船の底に張り付いて沖へ引っ張ろうとする習性があるので、たまに近海で漁をする船が引き当てるんですよ」

魔物は狩場という生息域に縛られているが、だからと言ってその狩場を絶対に出られないわけじゃない。

街道なんかでも稀にゴブリンやスローモンキーが出現したりするし、ターゲットにされて追いかけられれば狩場の外であろうと普通に出てくる。

そういうことだと思うが。

「つまり、資料本だと海の狩場はEランクまでしか載っていませんでしたけど、沖の方にはレモラが生息しているCランク狩場もあるということですよね?」

当然の疑問を口にすると、猫獣人の受付嬢は顔からスッと笑みを消す。

「まさか、レモラを狙いに行こうとか思ってませんよね?」

「え?」

「この質問をされている時点で、あなたが内陸から来られた方だとすぐに分かります。同じ質問を毎年毎年、何人もの方達からされていますので」

「……」

「皆さん、行けば稼げる、Cランクなら大丈夫だろうって、海の怖さも知らずに沖へ向かおうとするんです。中には船を確保するために、嫌がる漁師の方達を脅してまで。でも、ほとんどの方達は戻ってきません。陸なんかまったく見えなくなるくらい沖合へ出なくちゃいけないから」

さすがに、脅すというのは論外だが……

それでも受付嬢の話を聞いて、どこか納得してしまう自分もいた。

かつてルルブの森で狩場開拓をした時のアルバさんやミズルさん達も同じだ。

多くが命を張ってでも金を掴む気概があるからハンターをやっているわけで、桁の違う金を稼げる可能性があると知れば、リスクを承知の上で行動に移そうとする者達がいたって仕方のないことだろう。

だが、自分の言葉で死地に向かわせ、そして多くが実際に戻ってこないのだとしたら、目の前の受付嬢が嫌がるのも当然の話。

ならば――暫し逡巡するも、これが最も良策と。

そう判断して『収納』からギルドカードを取り出す。

「僕は死にませんし、確実に戻ってこれます。だからヒントだけでもいいので、Cランク帯の魔物がいる場所を教えてもらえませんか?」

「うっ、Aランク……で、でも、陸と海とじゃ勝手が違うんです! いくらAランクハンターの方であっても――」

なんとか説得を試みようとする受付嬢。

その前に手を伸ばし、トントンとギルドカードを軽く叩く。

「違くて、ここ」

「……えっ? ロ、キ…………………え? まさか、本物じゃないですよね?」

「いえ、本物です。なので僕が帰ってこれなくなることはありません」

そう言って目の前で少し浮くと、人に近い肌をした受付嬢の表情がみるみる蒼ざめていく。

なるほど、俺はマリーのお膝元だとこういう反応をされるのか。

一つ参考にはなったが。

「ギ、ギル、ばぶーっ!!」

「シーッ」

何もしていないのに騒ぎ立てられるのは不本意だ。

咄嗟に受付嬢の口を閉じると、理解したのか怯えた表情で頷いた。

「はっ……はっ……な、何が、目的なんですか……?」

そう問われたので、今の気持ちを素直に返す。

「山盛りの海鮮丼が食べたいんですよ。いや、理想を言えばお寿司かな」

「は?」

「先ほどこの町の定食屋に寄ったんですけどね。お刺身定食を頼んだら、一緒に出てきたのがまさかのパンでビックリしちゃったんです。いや、そういう文化なのかもしれないですし、否定するつもりはないんですけど……でもやっぱり、僕としては生モノならお米と合わせたいんですよ」

「は、はぁ……」

「それにレモラって、脂がノッていてかなり美味しいんでしょう?」

「えっと、そのような記憶だけは……はい……」

「なら食べてみたいじゃないですか。魚人種との取引は止まったままのようですし、それなら自分で獲りにいくのが手っ取り早いかなって」

「……」

今はとりあえず、ご飯と一緒にお刺身を食べたい。

その思いが通じたのか、少し警戒心は薄れてきたようにも見えるが……

もう一押しが必要か、肝心の狩場情報が出てこない。

まず間違いなく、陸なんかまったく見えなくなるくらいと口にしたのだから、目の前の受付嬢も多少なりはCランク狩場の情報を握っているはずなのだ。

この世界の海が地球と似たようなモノなら、あんなに広く深さもある場所で、どの程度の大きさかも分からない狩場を彷徨いながら探し当てるなど、他に選択肢がなかった場合の最終手段のようなもの。

目星を付けられるならそうしたいわけで、どうにかこの受付嬢から情報を引き出したい。

となると――、あと俺にできることはこのくらいか。

「ちなみにお姉さんも、レモラは久しく食べてないんですよね?」

「そう、ですね……あそこまで高額になると、一部の限られた方達しか食べられませんから」

「なるほど。では狩場情報をもし教えてくれたら、その内容に応じて今日か明日、このギルドにレモラをある程度卸すとお約束しますよ。20年以上前の、魚人種と取引をしていたくらいの値段でね」

「えっ!?」

「情報のお礼として卸すのですから、そこからどうするかはギルド次第。高値で売り捌いてもいいですし、ギルド職員で分け合っても構いません。これなら利点も十分あるでしょう?」

「た、確かに……その、量はお渡しする情報次第ということなんですよね?」

「ですね。実は僕、こう見えて海鮮モノには煩い方でして……レモラに限らず、いろいろな海の魔物を食べてみたいと思ってるんですよ。なので 幅(・) 広(・) く(・) 狩場情報を教えてもらえると助かります」

「……分かりました。では先ほどとは違う意味で、うちのギルマスを呼んでも大丈夫ですか? その方がお互い実りある話ができると思いますので」

「ええ、そういうことでしたら大歓迎です」

町の漁師や住民に聞いても情報を得られたかもしれないが、幅広くとなるとハンターギルド以上を探すのは難しい。

さて、これでどの程度情報を拾えるのかな?

人気のないカウンターに寄りかかり、期待に胸を膨らませながら、階段を駆けていく受付嬢の後ろ姿を眺めた。