軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

550話 長官候補

大国アルバートだからと言って、突然町や人の様子に大きな変化が生まれるわけではない。

ハンターギルドは当然として傭兵ギルドも存在しており、情報収集のために立ち寄れば、少し町の規模と比較して売っているモノの種類が多いかなと感じる程度。

あとはどこも似たような穀倉地帯や未開の土地を眺めながら、日中は丸ごとアルバート王国の探索に費やし、夜も自身に課した最低限のノルマ。

グリムリーパーの変色した黒い骨集めのため、何もない日は《嘆きの聖堂》に8時間ほど籠るというサイクルを繰り返していた。

あくまで確率が高いと思っているだけ。

表ボスであるグリムリーパーを素材にしたら裏ボスが確実に生まれるというわけではないし、Sランク狩場の魔物を丸ごと穴に放り込み、強化版の受肉体グリームリーパーを湧かせてしまった方が回転は速いけれど……

なんとなく直感で、ゲーム的な正攻法ならこちらかなと。

そんな理由から、長期戦覚悟の挑戦にも手を付け始めていた。

それにやっぱりデスナイトの【剣術】レベル5がかなり美味しいしね。

1日狩れば余剰経験値を50万以上は溜められるので、これなら各スキルのレベル9も1か月ほど粘れば見えてくる計算となり、かなり現実味を帯びてくる。

そして安定的な経験値稼ぎができるようになると、やっぱり有用スキルは少し寄り道をしてでも上げたくなっちゃうわけでして。

「おお、すげっ……2時間切りか……」

気持ちよく目覚めてすぐに腕時計を確認すると、寝る前からまだ1時間40分ほどしか経過していない。

魅惑のスキル、【昼寝】を安定のレベル7まで上げた効果は、すぐに睡眠時間の短縮という形で表れていた。

これでまた稼働時間が増え、1日の効率が上がる。

「ふふふっ……」

そして今日もまた、昨日見つけたCランク狩場《マーム洞窟》の奥地に椅子を置き、一人持ち込んだ本を読みながら狩りに励むのだ。

『殺せ、黒玉』

周囲に飛散した魔法は、新種も含めた魔物のみを撃ち抜いてゆく。

目新しいスキルを所持していたわけじゃないし、素材なんて欠片も期待できないけど。

それでも、不足を補うにはいいスキルを3種の魔物は所持していた。

『【粘液】Lv7を取得しました』

「ん、先にこっちが上がったか」

上部には鍾乳洞が存在し、ポタポタと水滴が地面を濡らす、湿気の強い暗がりの洞窟。

中はそれぞれ違う特性を持つ、微妙に色の違うスライムのみが出現する狩場になっていた。

体内の水を【水魔法】で操り、先日倒した暗霧の超劣化版みたいな攻撃をしてくるタイプと、ネバネバ絡む【粘液】を飛ばしてくるタイプに、蟻の得意な【酸液】を撒くタイプ。

視線を本に向けていれば効率的にリポップされ、数分毎に自動追尾魔法を放つだけで周囲には核となる魔石だけが転がっていく。

「【酸液】はレベル8まであと6%、【分解】と【吸収】も今日中にはレベル7まで――」

確認中、不意に眺めていたステータス画面の縁が青く点滅する。

呼び出しているのは入口の黒象ギリオ君、つまりはダンゲ町長からの呼び出しということだ。

ならばしょうがない。

「残念、続きはまた明日」

そう呟きながらパタンと本を閉じ、周囲に散乱した魔石を回収してからベザートに転移した。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

さてさて、客か、それとも激おこクレームか。

少しドキドキしながら入口の小屋に向かうと、懐かしい人物がガタリと床を鳴らし、緊張した面持ちで席を立つ。

「おお、お久しぶりでございます。私のことは覚えておいででしょうか?」

「あっ」

丸っこい身体に、ピカリと光るハゲ頭。

かつてリルのスキルを覗かれたことで一悶着あった、ラグリースの監査院に所属する人物がいた。

「ニローさんじゃないですか。お久しぶりです、どうされたんですか?」

「なんと、名まで覚えていただけていたとは感激の至りでございます。ロキ王様におかれましては――」

「ちょいちょいちょい、普通でいいですからね。というか普通にしてください、気持ち悪いんで」

「ほらな、言った通りじゃろ?」

背後から、やっぱりという呆れ顔で突っ込みを入れるダンゲ町長。

事前にアドバイスはしてくれていたっぽいけど、そう簡単に納得してくれる人ばかりじゃないもんなぁ。

「それで、ラグリースの監査院所属の方が急にどうしたんですか? ヘディン王から何か指示でもありました?」

そう告げると、ニローさんは苦笑いを浮かべながら、少し沈んだ表情で顔を左右に振った。

「ははは……監査院の所属とは言っても今や名ばかり、活動の拠点にしていたマルタがあの有様でしたからな。ここ1年ほどは街の復興作業に追われ、今もマルタの支部はまともに機能しておりません」

「あーそうですよね……」

「しかし、ようやくその作業にも目途が立ち始めましてな。兼ねてより考えもあったもので、国とは関係なしにこうして足を運ばせてもらったわけです」

「ん? 国とは関係ない?」

疑問に感じて顔を上げると、先ほどとは違い、ニローさんは力強い眼差しで俺を見つめていた。

「ロキ王様、このアースガルド王国に監査院――諜報機関は存在していますかな?」

問われ、当然首を振る。

やっと連絡用の鳥を調達してきたくらいなのだ。

まだそこまで着手できておらず、女神様達にその一部を担ってもらおうとしていた。

「早めに動いた方が良いとは思っているんですけどね。人材の問題で、まだ足掛かりすら築けていないのが現状です」

正直な答え。

さて、これにニローさんはなんと返すのか。

言いながら反応を確認すると、表情は変えずに小さく頷き、口を開く。

「そうでしたか……ならば折り入ってのご相談がありまして、私にアースガルド所属の諜報員をやらせてもらえませんか?」

やはりか。

諜報活動をしていた人間がその手の話を振ってきたのだ。

だったらこれかと思って投げたボールを、ニローさんもしっかりと投げ返してきた。

だが、真意はどこにある?

町の雑貨屋程度なら何も気にしないが、諜報となれば話は別だ。

「なぜ、突然そんなことを?」

「理由はいくつかありまして、1つはまだ国を興してから日が浅く、そこまで手が回っていないだろうと予想していたのです。アースガルドは宗主国、この国が傾けば必然的に生まれ故郷のラグリースも傾き、再び危険に晒される。それだけは回避したいというのが一番にあります」

「なるほど」

「それに諜報というのは欺瞞の世界ですからな……どこの国も担う人間の採用には神経質になるものです。その点、私はロキ王様と面識があり、私がラグリースの諜報員であることも把握されている。全てとはいかないまでも、見知らぬ者を採るよりは諜報員としての信用も得られるのではないかと、そう思った次第です。それに今のうちなら出世もしやすいのでは、と……まぁ個人的な欲と打算も少なからずあります」

そう言ってニローさんは禿げた頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

確かにその通りだな。

先ほども真っ先に浮かんだのは二重スパイで、技能もそうだが、その人を信用できるかどうかというのが非常に大きい。

当然移民に経験者、希望者がいたからとて、そう易々と任せましょうとはいかず、まずはどこかから潜り込んでいないか素性を確認することから始まるだろう。

その点、ニローさんがラグリースの諜報員であったことは間違いないわけで。

もちろんどこかの国に引き抜かれ、今現在は他国の諜報員になっている可能性だってゼロではない。

が、こんな時、素直に自分の欲を打ち明けられる人はまずセーフだろうなと。

経験上の判断からそんなことを思いつつ、続く言葉に耳を傾ける。

「それに30年、諜報の世界に身を置いていますからな。自分が動くのは当然として、人材の育成にもそれなりに自信はあるつもりです」

「それは頼もしい。ただ仮にうちで諜報活動をされるとして、ラグリースの方はどうするんです? えーと、伝わるか分かりませんけど、出向という形を取るんですか?」

そう問うと、内容が通じたようでニローさんは首を横に振った。

「いえ、いくら属国と言えど、他国に所属する人間が諜報を担うなどおかしいな話ですから、正式に辞職する予定です。それでも、結果的にはラグリースを守ることに繋がると思っていますし、あのような状況と立場でマルタや王都の防衛に尽力され、私の家族を含む多くの命を救っていただいたロキ王様には心からの尊敬と感謝をしております。私がその恩をお返しするとしたらこのくらいしかできることがない……残りの人生を懸けてでも、このアースガルド王国が揺らがぬよう貢献をさせていただきたいのです」

その覚悟の籠った言葉、眼差しを受けて、念のためリルに記憶を探ってもらおうかと思っていたけど、これは不要だなと。

そう感じて、自然と大きく頷く。

「分かりました。それではアースガルド所属の監査院『長官候補』として、この国と、それにラグリースの人達が平和に過ごせるようぜひ力を貸してください。僕もできる限りの後押しはするつもりですから」

「も、もちろんですが、長官候補……いや、一人もいないのなら必然的にそうなるのかもしれませんが……長官候補……?」

なんだなんだ。

出世欲があるというから、よくある"幹部候補"なんて曖昧な言葉は使わず長官と限定したのに、候補というのが嫌なのか?

どうせこの人を中心に動いてもらうことになるんだし、別に今から長官でも構わないけど……

長官という立場なら、それこそ諜報という世界のエキスパートになってもらわなければならない。

「もう長官にしちゃってもいいですけど、その場合、相当な覚悟が必要になりますよ? 一生、その手の裏の世界で生きる覚悟が」

そう告げると、別に威圧したわけじゃないんだが。

ニローさんはゴクリと喉を鳴らし、それでも覚悟の決まった表情でゆっくりと頷いた。