軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

548話 波乱の幕開け

「たっだいま~今日はご馳走だよー!」

上台地に転移した時には既に日が傾いており、フェリンの号令のような掛け声に合わせて、いつもの食卓にリステとリアが姿を現す。

結局半日近くオークション会場にいたようで、狙っていたモノは落札できたが、想定外にお金を使い過ぎてしまったような気もする。

「あら、お昼に大量のヒヨコをロキ君が連れてきたと思ったら、今度は大きな虎ですか?」

目を瞬くアリシアに、フィーリルが満面の笑みで答える。

「そうなんです~まだ飼っていない動物がオークションに出品されていたんで、ロキ君に買ってもらっちゃいました~!」

「は、はは……まさかこの虎1頭で2億7000万ビーケもするとは思わなかったけどね……」

赤兎馬と同じ、しかも天然物だ。

基はレッドマーブルタイガーという、俺もまだ見たことのないAランクの魔物らしく、近隣に生息している普通の虎と交配することで極稀に生まれるかなり希少な生物らしい。

あの競売人は魔石を持たないから扱いやすいだの、護衛と騎乗も兼ね備えたペットとして最適だの、綺麗に赤く染まった毛皮は王族も好んで求めるほど美しく滑らかだの。

まあ~ペラペラとこの動物の凄さを語ってくれちゃってたが……

それに感動していたのは横のフィーリルだけで、俺は果てしなく吊り上がっていく価格に心の中で泣いていた。

それに比べたら、フェリンが飛び跳ねるほど大喜びしていた黄金ガエルの死体なんて105万ビーケで落札できたのだから、安い……いや、安いのかは分からないけど、相対的に見たら破格である。

フェリンは良い嫁さんになりそうだ。

そんなことを考えていると、一人視界の隅で肩を震わしている人物が。

「ロ、ロキ君……? オークションは私と一緒に行ってくれる予定では……?」

「……」

確かにリステとは、そんな約束をした記憶がある。

今日は下見だと思っていたので、まさかここまで本格的にオークション参加するとは思っていなかった。

そしてリステが、ここまで動揺するとも思っていなかった……

これは波乱の幕開け。

このままでは開戦の予感がしてならない。

「何を言ってるのかね」

「え?」

だからか、若干口調がおかしくなったけど、それでも咄嗟に言い訳の言葉が口を衝く。

「表オークションなど所詮は前座、本命は裏オークションにあるのだよ。その潜入調査をいずれリステとやろうと思っていたけど……そんなメインイベントだけじゃ不満かね!?」

「ッ!? まったく不満じゃありません!」

ふぅ~危なかった。

最近のリステはだいぶチョロいが、少し情緒不安定だなと思いながら嫌な汗を拭う。

と、急に横から伸びてくる手。

「頑張ったから、バイト代」

「あ、はい」

犯人はリアで、10万ビーケを渡すと数秒眺めた後、小脇に抱えていた壺の中へ大事そうに入れていた。

ちょくちょく壺持ってんな、この人。

「なんか、欲しいのあるの?」

「釣りの道具」

「そっか。ならバイト頑張らないとね」

「うん。だからこれがいっぱいになったら、私も連れてって」

そう言われ、どんだけ凄い釣り道具買うんだよと苦笑いを浮かべてしまう。

「そんな貯めなくても買えると思うけど、いいよ」

そしてアリシアにもバイト代を渡しておく。

「何か欲しいモノがあったら言ってよ。代わりに買ってきてもいいし、自分で買い物してみたいっていうならお面くらい買ってくるからさ」

「あ、ありがとうございます……!」

渡す10万ビーケなんて形だけのものだ。

本当に欲しいモノがあるのなら、なんだかんだで結局俺が買ってしまうのだろうけど……

それでもこうしてお金に興味を持てば、人の生活や仕事にだって目が向く可能性があるし、マリーがこの世界で何をしているのかも理解しやすくはなるだろう。

「さ、せっかく凄い希少なお肉買ってきたんだし、早くリルも呼んで報告会始めようよ」

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

ロキが行ってくると告げ、次の国に向かったあと。

リガルも含めた6人の女神達は、眉間に深い皺を寄せたまま上台地の食卓から動けずにいた。

決して食い過ぎたからではない。

いや、二人はその可能性もあったが、ロキが告げたテリア公国の現状と、そして次に誰がいる国に向かうのかを告げたのが主な原因だ。

"主要な産業を根こそぎ奪われたあとは支配下にある管理者を置き、殺さない程度に人を育てて引き抜く『人間牧場』と化していた"

久しぶりに行われた報告会でロキがこのように発言し、実際に公都でその光景を見て回ったリステも間違いないだろうと肯定したことで、5人は食事の手をピタリと止めた。

奴隷も多くいる世界だ。

人という資源が当たり前のように売り買いされていることくらいは承知していたが、しかし国単位というのは今まで聞いたことがない。

しかもそのような行為をしている者が、自分達が呼び込んだ異世界人だという事実。

その時フェリンとフィーリルからは笑みが消え、リガルは天を仰ぎ、アリシアは両手で掻き毟るように頭を抱えた。

そして、リアは――

「どうする?」

ロキが去ったこの時を待っていたかのように、より一層光の消えた瞳でアリシアを見つめる。

「さすがにまだ、私達が直接動くというのは……」

「でもさ、ドワーフがいる国で無理やり人を攫って、それで奴隷にしていたのもそのマリーって人間だよ? その奴隷を使って気持ち悪い実験をしてたのも……」

「私が通ったガルム聖王騎士国が大きく荒れていたのも、確かその人物が原因ですよねぇ~?」

「その者が大陸東部に拠点を構えているから、周辺国は強い影響を受けていたのだろうがな」

「しかし、頻発している大陸西部の争いに多くの武具を流し、拍車を掛けているのもその者だと聞いています。それにロキ君が国を興す切っ掛けとなった大陸中央の戦争も、確かその者が元凶だったわけですよね?」

リステが視線を向けると、当時ロキと行動を共にし、記憶からその事実を探ったリアが静かに頷く。

「ふむ……となると、些か目に余るか……」

「うん、私はもう、【神罰】の対象に――」

「ちょっと待ってください」

アリシアの硬い声に、願望を口にしたフェリンは言葉を止める。

フェリンだけではない。

フィーリルとリステ、それにリアも、そうすることを望んでいるかのような雰囲気を感じ取ってのことだった。

「過去に3度、下界に【神罰】を落とさざるを得なかった時のことを、皆は覚えていないのですか?」

「覚えてるよ! 覚えてるけど、でも……」

「……規模が違うと、そういうことでしょう?」

言葉にしにくい様子のフェリンに代わって冷静にリステが問うと、アリシアは深く頷く。

「その通りです。過去にフェルザ様から許可の下りた事例は、いずれも種の存続に関わるようなものばかり。話を聞けば聞くほど、その異世界人の動きは看過できませんが……だからといって【神罰】というのはさすがにやり過ぎでしょう。フェルザ様からも間違いなく許可が下りません」

「その前に連絡が取れていないがな」

「うっ……だからこそ、余計に勝手なことなどできないのです! それにロキ君が対処に向かってくれています。だから、きっと、その異世界人の、件も……」

言いながら、アリシアは自分のあまりにも無責任な発言に耐えきれず、途中で言葉を失う。

内心では皆の考えだって分かっているのだ。

転生者をこの世界に呼んだのは自分達。

にも拘わらず、爆弾を抱えたロキに解決を委ねようとしてしまっている。

ロキはリステにも伝えたように、戦争をしに行くわけではないと。

それこそ、マヨネーズや海など、楽しみがあって行くんだと、次なる冒険の地に想いを馳せながら、先ほどまで楽しそうに話していた。

だが、既に敵と言ってもいい間柄の国に向かって、争いごとなど何も生まれないと楽観視するほど思考が停止しているわけではない。

【分体】とは言えリガルに勝ち、裏ボスと呼ばれる存在も倒したと言うのだから、ロキがやられるような場面はあまり想像できないが……

隠されているというスキルが未だ謎に包まれているからこそ、ロキにはあまり、人を殺めてほしくなかった。

「本当に、ごめんなさい……」

不甲斐なさから思わず謝罪の言葉を口にし、アリシアだけでなくこの場にいる者全員が、穏便な解決を心の中で願った。