作品タイトル不明
547話 ペンディオラオークション
午前中はプラプラと大通りを歩きながら目的の品を購入し、二人もお小遣いの範囲内でおまけたっぷりの買い物を終えた後は、街の大通りから少し外れた位置にあるオークション会場へ訪れていた。
「いや~あっさり着いた良かったね」
「ね! 最初はこんな地図じゃ分かりにくそうって思ったのに」
フェリンはそう言うが、今手にしているモノは地図というより、パンフレットとかでよく見かけた案内図に近い。
大雑把に中心から帯状に広がる大通りが何本か記載されており、通り名や地下街に通じる入り口の番号のほか、武闘場やオークション会場といった主要な大型施設の位置が、ざっくりと簡易的なイラスト付きで記されている。
たぶんここに俺の作った地図が持ち込まれ、それを参考に誰かが作った。
そういうことなんだろうけど、省ける部分は省き、要点だけを押さえて分かりやすく纏めたこの内容は、どうにも同じ異世界人が作ったように思えてしまう。
(もしかすると、上層階にいたあの建築家が作ったのかな?)
そんなことを考えながら、大陸最大の取引数と謳われているオークション会場に足を踏み入れていく。
と言っても今日はあくまで下見だ。
本でこのオークション会場の特徴はおおよそ把握しているつもりだが、実際どの程度のモノが競りにかけられているのか。
出品物の数や質、それに開催頻度とかを事前に確認しておきたかった。
「こんにちは。初めてなんですけど、こちらのオークションに参加したいと思っていまして」
受付の若い男性に声を掛けると、俺を一瞥後、若干ぎこちない笑みを浮かべて口を開く。
「ようこそ、ペンディオラオークションへ。当オークションは商業ギルド会員に参加利用資格がございます。商業ギルドカードはお持ちでしょうか?」
「ええ、カッパーランクですが……これでいいですか?」
「ありがとうございます。どのランクでも参加は可能ですよ。ただしカッパーであれば、会場利用時には一番遠方となる4階のお席を。また入札は事前に預けられた保証金額までが上限となりますので予めご理解ください」
「あーなるほど、ここでランクの差が生まれるわけですね……分かりました。ちなみに連れが2名いまして、商業ギルドの会員でなくても出入りは可能ですか?」
「ええ、2名までであれば可能です。従者をお連れの方も多いですから」
その言葉を聞いて、入り口辺りでキョロキョロしていた二人に合図を送る。
商業ギルドの会員のみオークション参加資格があることは分かっていたけど、建物の出入りにまで制限が掛かっているのかは本を見ても分からなかったからな。
「大丈夫だったの?」
「うん、同伴は2名までだって。危なかったわ」
「あら~丁度良かったですね~」
「えーと、それで出品物の一覧なんですけど――……もしもーし?」
今となっては驚くこともない。
受付のお兄ちゃんは、フェリンとフィーリルを見つめたまま茫然と立ち尽くしていた。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「なんだか、とってもよく喋る人でしたね~」
「私全然覚えられなかったんだけど!」
『185番、名工イシュアが生み出したとされる逸品、青蘭六支棚でございます。右側面にやや焼けの跡はございますが、現存する中では稀にみる美品で――……』
背後で二人が話す声と、館内に響く競売人の軽妙な進行を聴きながら、壁に掛けられた本日の出品リストをズラーッと眺める。
リスト全てに番号が振られており、最末尾は『414番』。
つまりこれだけの数が、今日一日で競りに掛けられるわけだ。
しかも3日に1度のペースで開催されているというのだから、大陸最大の取引数というのも頷けるほどの出品数である。
まぁオークションの形態がハンターギルド運営のタイプとは違うので、出品数が増えるのも当然といえば当然なのかもしれないけど。
俺もなんだかんだと毎月通っているハンターギルド運営のオークションは、出品物のメインがダンジョン内のドロップ品であり、それ以外の外部出品物は時価総額1000万ビーケ以上という価値のボーダーが定められていた。
代わりに出品料は存在せず、成約すればその額に応じて一定割合の手数料が発生するため、月1開催で出品物がそう多くなくとも、高額品ばかりが集まるハンターギルドは纏まった手数料を得ることができるという仕組みだ。
対して商業ギルド運営のペンディオラオークションは時価総額のボーダーを一切設けておらず、代わりに出品する際はいくつかの段階に分かれた出品料を必ず取るようにしている。
つまり極端な例を挙げれば、家の使い古した洗濯板だって出品しようと思えばできるわけで。
リストを見ていても出品物は多岐に渡り、大半はよく分からないモノばかりだけど――、うん、やっぱりいくつかはあるね。
中には見覚えのない魔道具やうちで所蔵しているか分からない書物。
それに特殊付与の装備も、低位素材だが1つ出品されているので、できれば積極的に参加しておきたい。
が、問題は本気で狙うとなると、かなりの時間を取られてしまう。
これが一番のネックになっていた。
一応商業ギルド側に手数料を払えば代理参加もしてくれるようだが、それでもこれだけ多くの出品物が出ているとなると、リストを確認し、欲しい物をまとめ、それぞれいくらまで入札してもらうのか。
これらを決めるだけでも纏まった時間が必要になるし、それにここはあくまで『表』のオークション。
どうせなら案内図にも載っていない、隠されているからこそより強い興味が湧いてしまう『裏』のオークションに時間は使いたい。
何か、上手い策はないものか。
リストを眺めながら暫し考え込んでいると――
「ロキ君~! 320番のレッドサーフェスタイガーという動物は私もまだ飼えていません~! 絶対可愛いと思いますし、凄く欲しいですぅ~!」
「え?」
「わ、私も257番のコレ! 黄金ガエルって凄く美味しくて有名なんだよ! なのに珍しい魔物でなかなか獲れないはずだから……ね! 一緒に食べようよ!」
「え? えっ?」
俺の後ろにいたはずのフェリンとフィーリルが、急にリストを指差しながら騒ぎ出す。
レッドサーフェスタイガーなんて名前からして狂暴そうだし、黄金ガエルってあの、ボイス湖畔で見つけられなかったアレか?
美味しいとは聞いたことがあるけど、確かギルド買取でも軽く50万ビーケは超えたような……
絶対君たち、残りのお小遣いで足らないよね?
そんな目で左右に立つ二人の顔を眺めるも、あまりにオネダリビームが強烈過ぎて、ウッと呻きながらすぐに目をそらしてしまう。
あかん。
今日サービスしまくってた親父達はこれを食らっていたのか。
「と、とりあえず、俺も何個か欲しいのあるし、せっかく開催しているんならどんなものか、記念にちょっとだけ参加してみる? 記念にね」
「やったね! いこいこ~!」
「落とせたらいいですね~!」
小さく溜め息を吐きながらも、ずっと忙しくてフェリンとは前ほど食べ歩きができていないし、フィーリルは学院の入学式で半べそになるほど凹ませてしまったし。
なら、たまにこうして出かけた時くらいはしょうがないか。
そう思い、だったら落とせるまでとことん入札してやるわと密かに誓いつつ、受付で纏まったお金を預けてから3人で会場に向かった。