軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

538話 オリハルコンの武器

商業ギルドのワドルさんに7か国目の地図を渡した後。

下台地の資材倉庫に向かうと、目的の人物は見慣れない形状の剣を眺めながら何かをしている最中だった。

「おっ、それは誰用?」

随分と幅のある、湾曲した1メートルほどの剣。

金緑色に輝くそれは、形状で言うならマチェットに近い。

「ああ、ジェネがSランク魔物の解体に苦労していたから、どうせなら俺の修行も兼ねて、専用の武器でも作ってやろうかと思ってな」

「なるほどね。解体用の武器にしてはめっちゃ豪勢じゃん」

笑いながらそう言うと、ロッジは苦笑いしながら肩を竦める。

「アダマントの素材を余らせているなんて、大陸広しと言えどここくらいだろうからな。後で届けてやってくれ」

「了解、ありがとね。それで、俺が依頼していた方だけど……」

言いながらも視線を彷徨わせるが、それっぽい色味をした武器は見当たらない。

やっぱり難しかったのかな。

そう思ったわけだが。

「もちろんできてるぞ」

と、布に包まれた武器を脇から大事そうに抱えるロッジ。

ゆっくり捲ると、鉱物の時よりも透明感の増した、青白い細身の長剣が姿を現す。

「まだもう少し、本来の性能を引き出せそうな感触はあるが……コイツが今俺の打てる最高の武器だ」

「おぉ……なんというか、凄い綺麗だね……」

「ああ、だが中身は凶悪だぞ。硬度や靭性は 魔鉱(ミスリル) 辺りじゃ比較にもならないし、ゼオに少し協力してもらって調べてみたら、魔力の伝導率は驚くほど低かった」

「んん? それってどうなの?」

思わず頭に疑問符が浮かび、首を傾げてしまった。

ニュアンス的にロッジは伝導率の低さを利点のように語ったが、比較対象として出てきたミスリルは、その魔力伝導率の高さを長所として、当時パイサーさんから説明を受けたような気もする。

この疑問に、ロッジは短い腕を組みながら軽く頷く。

「どっちが良い悪いって話じゃねーが……伝導率が低けりゃ魔力は通しにくいんだから魔法に対しての耐性は上がる。だが魔法の威力を増幅させるための媒体としては向いていないから、特に杖はオリハルコンを使う利点がない。火や氷なんかを乗っけた属性付与も不向きな素材だろうな」

「あーそういうこと……じゃあちょっと試してみようか」

言いながら、目の前の青白い剣に向かって手をかざす。

気になるのは、今ロッジからも話が上がった【付与】の個数だ。

いくら切れ味が鋭くても、伝導率の低さから付与があまり乗せられないとなると、扱いが少々面倒なことになる。

できれば最低でも2つ。

理想を言えば、このほぼ最高ランクに近い素材なら3つの多重付与ができればと、そう願って唱えるも。

「……駄目だ。2つまではあっさり付いたけど、3つ目がまったくだね」

「ふむ。今までと同じような反応か。この素材で『定着』って状態にも入らないとなると――、俺がまだ性能を完全に引き出せていないからかもしれないな」

そう言ってロッジは申し訳なさそうに顔を伏せるが、それはたぶん違うだろう。

「いや、俺の【付与】がまだレベル5だから、どう考えても足を引っ張っているとしたらそこだよ。まあ最低限2つ付けば現状維持だし、そこはいいんだけど」

【付与】をレベル7までもっていけば、確実に三重付与が実現するというのなら今この場で迷わず上げる。

だが、惜しいという感触も得られていないこの状況なら様子見だ。

オリハルコンの装備はまだこの1つだけだし、何よりも優先して【転換】のスキルレベルを上げた方が、最終的には目指す先に一番早く近づけるしな。

それよりだ。

手に取り軽く振ると、この武器の異常さがすぐに分かる。

「……この武器、かなり軽くない?」

「ああ。鉄やアダマントよりもだいぶ軽いくせに硬いんだから、特に鎧や盾なんかを作れば、それこそ物理と魔法の両面に強い、近接職の理想を詰め込んだような装備が生まれるはずだ」

「へ~良いじゃない。絶対作ってもらうわ、オリハルコンの鎧」

「だったら早く素材を集めてこい。全身ってなると、この長剣に使った素材量の10倍以上は必要だけどな」

「あの、1年くらい待ってもらえますかね……?」

一瞬、他にもやることを考えたら1年程度じゃまず無理じゃない? って思ったけど、防具に関してはダンジョン産の特殊付与装備もないのだから、これがほとんど最終装備みたいなものだろう。

ならば時間が掛かってもしょうがない。

コツコツと素材を溜めていくその工程も楽しもうと俺は気持ちを切り替え、ロッジに礼を伝えたら裏庭に回った。

そして――。

「あ、主からの賜り物……ッ!? ウォオオオオオオ!!」

「あ、主!? 我のは……我のはないのか!?」

武器を天に掲げ、魔物なのに横で涙を流しながら大喜びしているジェネと、自前の爪で十分硬い皮も切れるのに、嫉妬して首を振り回しながら唾を飛ばしてくるウィグ。

そんな2匹の横で、溜まりに溜まった穴の中身を眺める。

グリムリーパーが生み出される、《嘆きの聖堂》に合わせて作った穴は、『魔物用』が既に満杯を超えて溢れるほどに。

『人間用』は6から7割ほどの骨が溜まっていた。

ふーむ、魔物の方は倉庫にも骨が大量に置かれていたので、だろうなと分かっていたが……

人の方は、ガルムの内乱で悪党の死体を相当数ここへ運んできたというのに、骨だけになると案外少なくなるものなんだな。

となると、現状試せる選択肢は3つ。

さて、まず何からいくべきか。

悩んでいると背後からカルラの声が響く。

「そんなとこに座って何してるのー?」

「そろそろ裏ボスに挑もうかと思ってさ」

「裏ボス?」

「あーと、魔宝石を所持する魔物って言えば分かる? ゼオが昔に倒した経験あるみたいだけど」

そう伝えると、カルラは軽く頷く。

「うん。どこかに出てるの?」

「いや、成功するかは分からないけど、可能性のあるパターンを試して出現させようかなって」

「へ? わざわざ自分で生み出そうとしてるの?」

「そう。倒せば、間違いなく俺は強くなれるはずだし、魔人の消息にも一歩近づけるかもしれないから」

「そっか……」

そう呟いたカルラは、静かに俺の横へ腰を下ろすと、同じように穴の骨を見つめる。

間違いなく賛同はしていないであろう重苦しい空気に、なんと言葉を掛けようか少し悩むが……

「ロキ、死なないでね」

体育座りをしたまま、顔だけをこちらに向けたカルラの言葉に、俺は当たり前だと言わんばかりに大きく頷く。

「慎重に慎重を重ねて、自分自身が納得できる強さに到達するまでずっと我慢してたんだ。当然、死ぬつもりなんかないよ。ベザートの町だってあるし、ゼオに血もあげなきゃだしね」

そう伝えると、一度視線を逸らし、少しの間を置いてカルラも口を開く。

「……師匠のことが心配っていうのもあるけど……僕も今のこの生活が、凄く楽しいからさ」

この言葉に一瞬虚を突かれたが、自然と笑みを浮かべてしまう。

カルラはゼオのためについてきたという印象がどうしても強かった。

でもこうして本人の口から今の生活が楽しいなんて言葉を聞いてしまうと、壊さないようにしなきゃという感情が余計に大きくなる。

「そっか……なら尚更に死ねないね。ふふふ、覚悟しててよ? 見たこともない魔物を回収してくる予定だからさ」

「え~それ解体しろってことでしょー? 硬いのは凄く手が疲れちゃうんだよなぁ……ウィグにやらせてもいい?」

「だめ! 見なくても大雑把なのが分かるから!」

「あ、主ぃいいい!?」

「お任せを。賜ったこの宝剣で、私がどんな魔物でも解体して――」

あれ、ジェネってこんな喋り方だったっけかな……

背後から聞こえる声にそんなことをふと思いながら、瞳を瞑り、大きく呼吸を吐いて再び思考に耽る。

絶対に死なない、死にたくはない。

だが、強くありたいという欲求は止められず、いつかどこかでこの大きなハードルを越えなければいけないことなど、初めてキングアントという怪物を目の当たりにした1年以上も前から分かっていたことなのだ。

リルとの模擬戦を行い、Sランク狩場でさらに己を高め、オリハルコンの武器と、それに一度はリルに壊されたけど、また改めて作ってもらったボス素材の防具があればもう十分。

今がその時だろう。

あとは何から試していくか……

周囲への影響も考慮しつつ、一人覚悟を決めながら挑む順番を決めていった。