軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

537話 公都調査

「えーと、ここに並べている野菜を一通り頂けますか? 差し支えなければ、今ある在庫の半分くらい」

「えっ? 今、なんて?」

「だから、一通りの野菜を在庫の半分くらい買うことはできますか? 支障があるようでしたら、問題ない範囲で構いませんので」

「な、ないない! 丸ごと買い取ってくれたって何も支障はないよ!」

「あ、そうですか? じゃあ全部いっちゃいましょうか」

「ぶっ……ほんとに?」

「お、おいおい、そこの旦那ぁ! うちのも見てってくれよ。この辺で取れた新鮮な果物だって一通り揃えてるし、アルバートから入ってきた食い物だって多い。纏めて買ってくれるなら安くしとくぜ!」

「ん~じゃあ地場の食材だけ纏めて頂こうかなぁ」

ここはテリア公国の中心部にある公都『ベレーザ』。

その一角にある一番大きな市場で、それぞれの値段を改めて確認しながらいつものように買い物を行う。

傷みやすい葉物も多いが、クアド商会で売れ残っても最後は教会とボーラさんがまとめて調理してくれるので、大量に買い込もうとまず無駄になることはない。

この国で動き始めてから1ヵ月弱。

ようやくマッピングも完了し、あとは恒例となる国の中心部を見て回ればテリア公国の旅も一区切りだ。

「お待たせ、リステはもう大丈夫?」

「はい、周辺の食材や雑貨は見て回れましたので」

そう言いながらも、スルスルと俺の腕に手が伸びる。

普段はあまり表情を崩さないリステだけど、今日は心なしか嬉しそうだなぁ……

「ごめんね、あまり上台地に顔出せなくて」

「何に夢中になっていたかは、下の様子を見ていればすぐに分かりましたから。それにこうして、私が託した地図の作成を進めてくれているではないですか」

「そこはまぁ、好きでやっているっていうのもあるし、特にテリアは気になることが多かったからさ」

話しながら俺とリステの視線は周囲の街並みに向く。

どこに立ち寄っても大なり小なり見られた姿だが、特にこの公都は、それが酷い。

「見覚えのある光景ですね」

「でしょ? リステなら分かると思うけど、全体的に物価は高いし、路地は浮浪者が溜まってどんよりしてるし……旧ヴァルツの王都『エントラ』と近い雰囲気があるよね」

「ええ、あそこまで酷いわけではありませんが……」

「この国はどこの町に行っても似たり寄ったりだったよ。貧富の差が激しいっていうか、表と裏の差が大きいっていうかね」

食べ物はあるし、生活に必要な物資だって十分売られている。

ただそれらがしっかりと住民に行き渡っていない。

少し外れた薄暗い路地には痩せた人達が地べたで何人も寝ているのに、大通りは綺麗な身なりをした人が屋根のない豪奢な馬車に乗り、そのような光景を気にも留めず談笑に花を咲かせていた。

それに――。

「この辺りは、お店自体が開いていないのですね」

散策していると、通りは大きいのに物寂しく陰気な雰囲気が漂う、シャッター街のような場所が見つかる。

建物の入り口には、似たような印の看板が未だに多く掲げられていた。

「ここがテリア公国の主要産業、<魔法学師>と<魔道具技師>が集まっていた場所の一つだろうね。旅をしながら情報を拾ってたけど、かつては【魔法学】を研究する4つの大きな流派が存在していたみたい」

「【魔法学】というと、魔法陣ですか?」

「そうそう。魔道具を生み出すための基礎であり要の、丁度リアがドハマリしているアレ」

「なるほど。しかし今はこの有様……その一角が潰えてしまったわけですか」

「一角じゃなく、全部ね。4つの流派全てが異世界人のマリーに奪われた――って多くの人は言うけど、話を聞いていると実際は荒事もありきの買収になるのかな。あっさり国を出た流派もあれば、最後まで抵抗して、一部が西や北へ逃げたって流派もあったみたいだから」

「そうですか……」

この国は獣人もチラホラと見かけるが、9割の種族は人間だ。

裏で属国にした後なのか、それとも前からなのか。

それは分からないが、特定地域に種族単位で根を生やし、大規模な鉱山も身近にあったドワーフ達とは状況が違うのだから、人材と環境を丸ごとを自国内に抱え込んでしまった方がマリーとしても安心できたのだろう。

どちらにせよ、テリア公国の主要産業はゴッソリと引き抜かれ、蛻の殻にされた。

狩場も一番高くてCランク程度だし、こうなるともう、他に優位性を保てないテリアに抗うすべがない。

ゼクオン将軍が言っていた通り、あとは人材の確保を目的に飼い殺す人間牧場の出来上がりだ。

――と、不意に回されていた腕の力が強まる。

視線を向けると、不安げな表情を浮かべたリステがこちらを見つめていた。

そのことに気づいて、すぐに表情を緩める。

「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

「いえ……フェリンからも、その異世界人の話は聞いていましたから」

「そっか……」

「やはり次は、その問題の国を?」

「そうだね。何かあった時にはすぐ動けるようにしておきたいし、それこそ今までの国とは違って丸裸にしてやろうかなって」

ガルムでは明らかに標的を俺に変えてきたのだ。

このくらいやり過ぎということはない。

ただ――、と、言葉を続ける。

「安心してよ。いきなり戦争をおっ始めるとか、そんなつもりじゃないからさ。まずは目的のマッピングついでに敵地の視察をして、ついでにマヨネーズとかソースも調達しようかなって」

そう笑いかけると、リステは自らの手を口元にあて、あっと小さく声を漏らす。

「そういえば、ロキ君がかつて言っていましたね。東の商人から情報を得たことがあるとだけお伝えしましたが、それも次の国に?」

「うん。うちの怖い料理長ボーラさんが、アルバートから流れてきているはずだって」

「そうですか。ふふ、ジャガバタでしたっけ。ようやくロキ君の夢が叶いますね」

「そうなんだよね~。それに優秀な人材をかき集めているってことはさ、他の分野でも面白い発見ができそうじゃない? それこそ見たこともない魔道具とか、あとは凄い薬とか。それに海にも面しているはずだから、そっちもかなり楽しみなんだよね。海産物とか海の魔物とかさ!」

何もマリーを潰すための準備だけしに行くわけじゃないのだ。

楽しみにしていることだって多くある。

そう伝えると自然とリステにも笑みが零れ、その姿が見られたことで俺もホッとしてしまう。

こうして二人で出歩く機会はそう多くない。

せっかくであれば、こんな時くらいリステが笑っていてくれる時間であってほしい。

だからこそ――

その前に飛び切り危険なことをするとは言えないまま、市場調査も兼ねた公都の探索は続けられた。