作品タイトル不明
505話 間に合うか
王都中央の宮殿広場。
ここには王宮の守備を任された複数の部隊が待機しており、奥にはそれらを纏める部隊長が集まっていた。
「北門のモスタン第二聖弓隊長からも通達! 反乱軍と思しき潜伏兵による被害報告は既に200以上! 各所で住民への攻撃が始まっており、兵を割いて制圧に向かわせているようですが、防衛態勢の維持がもう難しくなってきているとのこと!」
「北部もか!?」
「となると、西と同様だな。距離を考えればまず脱獄囚の仕業じゃない」
「いったいどうなっている……」
彼らの中心には、フレイビルの地図を参考にして作られた王都の簡易地図が。
色分けされた多くの駒が配置されており、当初は5ヵ所に集約されていた王都の守備戦力も、この30分ほどで広く分散してしまっている。
そしてまた、その駒を少し動かしながら総団長であるハーゼンは指示を出した。
「予備隊を2班、早急に北部へ回せ。それとギャレイ、ディグ、街中での部隊騎乗を許可する。南北に分かれ、周囲2~3kmを目安に状況を確認。暴れている連中がいれば容赦なく始末しろ。ただし学院内部には間違っても侵入するなよ」
「承知しました」
「物見の警音が鳴った場合のみ早急に戻ります」
物見塔に動きがなければ、少なくとも見える範囲に東部反乱軍の姿は確認されていない。
ならば精々が2~3km。
敵軍の移動速度を考えれば、持ち場を離れたとしてもこの程度の範囲が限界だった。
当然、王都全域などまるで対処できておらず、東西南北に配置された各部隊がそれぞれ陣形を崩し、奔走しているこの状況……
危うい。
危ういが、住民が殺されている上に火を放たれ、さらに金品まで奪われているとなれば、対応しないわけにはいかなかった。
最たる原因は、脱獄囚の存在。
ハーゼンの嫌な予感は的中し、戦に備えて聖王騎士が不在のタイミングを狙われ、何者かに収容所を襲撃されていた。
結果、中の囚人が逃げ出し、見境なく暴れて王都に大きな混乱を招いている。
それだけでも大事だと言うのに。
"兵士が、住民を殺している"
各方面から立て続けに入った報告は、まさに耳を疑うような内容だった。
それぞれがどれほどの規模か分からず、なぜ侵入されているのかも分からず。
――傭兵のように、先に一部が潜伏していたのか。
――それとも、逃げ出した囚人が兵を襲い、装備を奪って動いているのか。
――もしくは寝返った、最悪は部隊が丸ごと敵に回った可能性も、反乱軍の生まれた経緯を考えれば無いとは言いきれない。
さらには異世界人ロキが主導してこのような騒ぎを起こしているという、当人が素性を隠していたからこそ、本来ならば起きようはずもない噂を一部の部隊長や班長が真に受けたことで、余計に場は混乱し、統率が乱れ、被害は王都の市街地から滲むように広がっていった。
敵は元仲間であり、約2年という歳月を戦ってきた経験から、どのように考え攻めてくるのか。
想像くらいはできてしまうため、これは明らかに、反乱軍の取る動きではないと。
司令塔となる中央部隊も多くの者達が感じ取り、ハーゼンがロキの説得から戻った時には既に酷い空気が漂っていたのだ。
だからこそハーゼンは、出撃しようとする2部隊の面々に、不甲斐ないと思いながらも声をかける。
「敵の攪乱に惑わされるなよ。事情があってロキ王の存在は陛下自ら緘口令を敷かれていたが、あの理解し難い東の防壁といい、ロキ王が学院を守護されているおかげで我らは市街地に戦力を集中できているのだ。陽動であろうと、目の前の敵を叩けば数は減る。今はただ、暴れる連中を駆逐することにだけ集中してくれ」
本来ならば最も注力せねばならない、学院内部の警護を捨てているからこそ回せる戦力は大きい。
中央にまでは聞こえていなかったようだが、ロキの言い放った『死にたくなければ入ってくるな』という警告の言葉と。
先ほど馬を駆って宮殿に現れた女性。
ニケラート学長の、『不可思議な黒い球体が乱れ飛び、宮殿に向かうまでの道中は侵入者の死体だらけだった』という言葉を反芻しながら部下へ思いを伝える。
あの魔法に造詣の深い学長ですら、理解の及ばない何かを行なっているのだ。
あとは諦めていないという、ロキの『説得』が成功するのかどうか。
「反乱軍の到着も、もうそろそろか……」
そう呟きながら、ハーゼンは東の空を眺め――
カラン。
手に持つ駒を1つ、地面に落とした。
「な、なんだ、あれは……」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
黒玉の追尾を潜り抜け、西から生徒の塊に走り寄る一人の男。
一瞬、魔法を撃ちそうになるが。
(くそ……)
魔力消費と、それに巻き込む可能性を考え、すぐさま降下。
直接侵入者の首を斬り飛ばすと、タイミングを見計らったように別方向から複数の弓による射撃と、いくつもの巨大な火球が生徒を襲う。
『……三面、氷壁』
結界が存在していることを理解した上での、物理と魔法、同時攻撃。
いやらしいところを突いてくるが、【氷魔法】ならどちらにも対処できる。
さっきからちょろちょろと火球を放ってくる野郎は――、あの女か。
――『転移』――
「やっと捕まえた」
「は、反則でし……ッ、ぐっ!?」
斬り殺し、すぐに弓を放った存在を探すも、案の定だな。
もう背後の森に逃走しており、探査系での反応は拾えなかった。
自然と出来上がっていた、共闘してのヒットアンドウェイ。
敵も必死に逃げ道を残しつつ、それでも生徒の首を狙い続けてくる。
そのことにうんざりしながらも、すぐに上空へ。
『侵入者だけを、追尾しろ』
今はこの魔法に頼るしかなく、東の大地を意識しながら上空を旋回し、燃費の悪いこいつを何度も撃ち続ける。
何かがおかしいと、そう感じたのはもう30分以上も前の話だ。
東の防壁は広域に渡って完成し、傭兵連中の侵入もほぼ不可能と言っていいほど防げたはずだった。
しかし、何かの間違いかと思ってしまうほどに、西の王都市街地から入ってくる 別(・) の(・) 侵入者が多く、そして今も止まらない。
繰り返し警告をしても侵入し、好んで生徒の命を狙ってくるのだから、始末することに躊躇いはなかったが……
一部、建物に火を放っていた連中もおり、生徒の護衛についていた教師陣を無理やり各図書院の警護に回らせたため、大量の生徒が集まる第一修練場は俺一人で対応するハメになり。
未だ教師に連れられ、逃げ遅れた生徒がこちらに向かってくるため、下手に広域の魔法で一掃したりこの場を離れることもできず。
対象のみを追尾して殺す"黒玉"は、俺の身体から離れればそう長くは魔力の状態を維持できず、精々1分程度で消滅してしまい。
それでも侵入してくる者達が止まらないのだから、俺は魔法を放ち続けるしかないわけで、まさにジリ貧。
加えて油断すれば結界が剥がされるため、張り直しの魔力もかなり重く圧し掛かっていた。
(まだ、来ない……魔力が2000を切った……もう、決断しないと……どうする……)
これから反乱軍に対処せねばならず、説得の結果次第で大規模な戦闘に発展する可能性もある。
特に個体戦力の高い外部戦力まで混ざっていた場合を考えれば、この魔力残量は相当マズいと言えるが、しかしそれ以上に危機的なのは、このままだと反乱軍が到着してもこの場を離れられないということ。
王都市街地と隣接する、学院の西側にも巨大な防壁を築けば侵入者は防げるものの、やってしまえばまだ命を狙う侵入者も残る中で生徒達の逃げ道を塞ぎ、ハーゼンさん達に警護を引き継ぐことも不可能にしてしまう。
それでも、塞ぐか、否か。
もう決断しないと、魔力も、時間も、間に合わなく――
「よぉ、随分大変そうだな」
その時。
宙に浮く俺の肩に、一瞬重みが圧し掛かる。
肩に回された、覚えのある腕。
「借り、返しにきたぜ」
そう言われて振り返れば、そこには待ち望んでいた人が。
「もうギリギリ過ぎですって!」
「がはは! これでもかなり急いだんだぜ? 7000人のガキ共を強引に外へ逃がすってなったら、連れてくる魔物はどうしても選ぶからな」
遠目には、竜……竜、なのか?
遠過ぎてよく分からないが、空を飛ぶ複数の何かを引き連れ、ハンスさんがようやく応援に来てくれた。