軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

504話 悪計

反乱軍が要所を抜け、一丸となって攻めてくる――。

その情報が宮殿に伝わり、王都ゲルメルトの守備兵や聖王騎士が慌ただしく動き始めた頃。

「いい頃合いだな」

「さーて、やったりますか」

「中は――、チッ、面倒だな。かなり地中に罠が仕込まれている」

「ふーん、そんじゃ最初は大人しくついていきますかね」

王都南西に位置する『収容所』の裏手に、二人の傭兵が姿を現した。

男達は周囲を覆う外壁を苦もなく乗り越えていき、広い敷地内を素早く移動していく。

「し、侵入者だ! き、貴様らどこから入ってきた!?」

収容施設までは障害物もない、一見すれば見通しのいい空き地だ。

看守が男達の姿を見つけ、わらわらと集まってくるが。

「はっ、大したスキルもない連中ばかりだな」

「聖王騎士がいなくて感謝感謝、ってね!」

気にせず、傭兵の一人が詠唱を開始した。

「う、おぉおっ!?」

「え? えっ!?」

「ちょっ……うぶッ……」

上空に生成されたのは、いくつもの巨大な岩の塊。

1つ1つが人ほどの大きさもあるソレらは矢のような速度で飛来し、轟音を立てながら看守諸共収容施設の壁を破壊していく。

濛々と立ち上る砂煙。

「やり過ぎたんじゃないか? 中まで死人が出たら意味ないぞ?」

「1万人近くいるって話だし、多少なら大丈夫だって。それに――、うん、情報通りで分厚いし、硬いわ、ここ。これでも丁度いいくらいだった」

視界が開けてくると、収容施設の分厚い壁にはいくつかの穴が開いていた。

そして傭兵の男は中で叫ぶ。

『おう、お前らを解放しにきてやったぞ! もうすぐこの王都ででけぇ戦争が始まる! このまま現王政派が勝っちまえば、お前らは死ぬかよくて元通りの強制労働。だが、反乱軍が勝てば協力者は無罪放免にしてやるって話だ! やることは簡単、この王都でせいぜい暴れな。特に反乱軍の通り道となる学院だ! 王の首を刎ねやすいように手助けしてやれば、おまえらはこの先自由を得られる!』

「「「うぉぁああああああああああああっ!?」」」

悪党共の巣窟に響く、【拡声】を用いたこの解放宣言。

当然、沸かないわけがない。

早く出せ、俺がやってやると。

荒ぶる男達は、鉄格子を掴みながら気炎を吐き散らす。

その姿を二人の傭兵は満足そうに眺めながら、囚人を次々と解放していった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

ガルム聖王騎士国内に3店舗の店を構える、中規模の商会――『パドン商会』。

今、その商会が所有する倉庫に多くの装備と、様々な性質を持つ男女が集まっていた。

街の裏側に顔の利く連中が集めた人材。

その面々に向かって、商会長パドンが口を開く。

「よく集まってくれた。割のいい仕事を求めて足を運んでくれた諸君をまずは歓迎しよう」

そう、割の良い仕事だ。

しかし誰もその仕事内容を聞かされていなかった。

「内容は簡単だ。まずはコイツを着てもらう」

そう言ってパドンの背後から姿を現したのは、全身鎧を身に纏った一人の男。

その姿を見た者達から、ポツポツと感想が漏れる。

「街の兵士が着てる鎧と似てねーか……?」

「似てるっていうか、同じに見えるけど」

「……正規品だろ。胸元に刻印まで刻まれている」

「その通り、これはとある事情により流出した紛れもない正規品だ。諸君には各自この鎧を纏って、まずは今日という1日を活動してもらいたい。仕事内容は、この鎧を着て王都を混乱させること。王を守護する兵の陽動が目的なのでな」

「「「……」」」

混乱させるとはどういうことか。

具体的な行動が見えてこず、反応に困る者達が大半を占める中。

「報酬は! その仕事をこなせば、俺はいくら貰える!?」

何よりもまずは得られる金だと。

話が逸れたことで、全体の興味もそちらに向いた。

誰もが、一番に知りたいのは得られる報酬額だったからだ。

だからパドンは答える。

揚々と、その額を。

「一人、3000万ビーケ」

「「「???」」」

静寂に包まれる倉庫。

金を求める庶民にとって、想像くらいはできるも、あまり現実味のない金額だった。

割の良い仕事と聞いて、大半が想像したのは数十万ビーケ。

多くてもう1つ桁が増える程度で、ここまでの額は誰も想像していない。

「成功報酬で一人3000万ビーケを約束しよう。条件は王政派の陥落――、つまり反乱軍が現国王の首を飛ばした時、この鎧を身に纏って生き残っていた者に報酬を一括で支払うこととする」

「つまり、現国王がやられるまで、無償で働けってことか……」

「ふむ。一応そういうことにはなるが、安心していい。もう3時間ほど……今日の昼過ぎには、この王都で反乱軍の総攻撃が始まる。それこそ王政派と反乱軍の総力戦だ。かなりの可能性で今日中には結果が出るだろう」

国を二分する、現国王を支持する中立派の者達と、異世界人マリーを擁するアルバート王国を支持する者達。

この2勢力がもう2年近く戦っていることくらい、国民なら誰もが知っていた。

だから、あまりにも唐突。

そうは思っても、数時間後に迫る戦争の知らせをあり得ないと一蹴するような者はこの場にいない。

それどころか、とうとう始まるのか、と。

そう感じる者達の方が多い中で、目の前に積まれた武具と、提示された3000万ビーケもの報酬、そして自分達に求められている仕事内容と。

思考が繋がった者達から、恐怖、興奮、緊張……様々な感情に支配されていく。

――その表情を眺めながら、パドンは言葉を続けた。

「これだけの報酬だ。それがほぼ間違いなく、たった1日で手に入る。だからこそ、諸君にこなしてもらう仕事の意味は大きいのだ。間違っても自分だけは安全な場所で身を隠そう、どこかで鎧を脱いでしまえばやり過ごせる……そんなクソに塗れた考えを持つ愚者がいれば、まずこの策は通じない。数で勝る王政派が守りを固め、王を砕く前に兵站も捨てて特攻を仕掛ける反乱軍が殲滅させられるだろう」

「「「……」」」

「分かるかね? 諸君は新生ガルムを未来へと導く、選ばれた戦士なのだ。諸君一人一人の行動が、勝敗を左右するほどの大きな影響を及ぼす。及ぼしてしまう。だからこそ、やり遂げ、生還した者には支払うのだ。3000万ビーケという大金を」

「お、俺は……俺達は、具体的に何をやりゃいい。何をすれば、ここを守る兵を混乱させ、反乱軍が勝利できる?」

名も無き勇士の言葉。

この質問に、パドンは満足したように微笑みながら答えた。

「難しく考える必要はない。兵が持ち場を離れてでも動かなければいけない状況を作るだけでいいんだ。もし、諸君ら"偽装反乱軍"が、広い王都の各所で大暴れしたらどうなる。住民が反乱軍に虐殺されているとなれば、守備を担う兵の一部も動かざるを得ないだろう? なーに、人なら誰しも、10人や20人くらい殺したいと思うヤツらがいるのは当たり前。そんな憎むべき相手を巡回する守備兵のフリでもして、背後から切り捨ててやればいいのだ。簡単だろう?」

「で、でも、そんなことしちまえば、いくら反乱軍が勝とうと、もう俺達に居場所なんて……」

そんな疑問が出た時に、カキンと。

わざとらしく立てた金属音が、倉庫内に鳴り響く。

「見ての通りだ。ガルムの兵が使用するプレートヘルムはこのようにして顔を隠せる。性別も、種族も、こうしてしまえば何も分からん。それとも諸君は、わざわざ名乗りながら斬り捨てるような、酔狂な趣味でも持ち合わせているのかね?」

「「「……」」」

「反乱軍が無事勝利すれば、勇気ある諸君の行動は事情を知る上層部から英雄視される。この鎧の仕入れ先もそちらの繋がりになるため、間違っても罰せられるようなことはない。なので、各々がどこで動くかは自由だが……血筋が良いというだけで何を成したわけでも、成すほどの力があるわけでもないのに、我ら庶民を見下し下僕のように扱う、あの学院のガキ共を殺しても同じであることは伝えておこう」

「ッ……俺はやる! やってやるぞ!」

「お、俺もだ! 鎧と武器をくれ!」

「わ、私も!」

「ちょっ……俺が先だろ! 押すんじゃねーよ!」

「大丈夫だ。数に限りはあるが、ここだけでなく、他の倉庫にもまだ多少は置いてある。勇敢な戦士がこれだけいるとは喜ばしいこと。ハハハ、今宵は諸君と祝杯を挙げられそうだな」

そう告げ、部下に「時間になるまでここから一人も出すな」と告げたパドンは、スッと笑みを消して次の倉庫に向かう。

まだだ。

まだまだ、全然足らない。

あとどれほどの自殺志願者を集めれば、用意された武具は捌き切れるのか。

決して、余らせることなどできない。

そんな報告、できようはずもない。

最悪は、自分が抱える者達にも……

焦りから、パドンは伝う汗を必死に拭った。