作品タイトル不明
498話 新たなギルドと新たな財源
場所は夜の寺小屋。
と言っても通じるから俺がそう言っているだけで、実際は町長の主導で日中に暇なじじばば達が子供相手に勉強を教えている学習塾のような所だ。
夜のニューハンファレストは宿泊客で混み合うため、とてもじゃないがあそこのレストランを借りての会議はできなかった。
部屋が広く、物があまりないため見渡せる。
集会場としてここを選んだ理由はそれだけである。
「まずはこんな時間に無理を言ってすみません。第四陣が昨日ベザートに入り、これで移民者の数は約2000人超。そろそろ動くべきだろうということで、こうして皆さんにお集りいただきました」
集まった面々はベザートの主要メンバーはもちろん、各方面で親方や店主の立場にいる人達も多い。
あれから既に10日ほど。
当初は金持ち用の区画として作った空き地も、今となってはスラム街の一歩手前。
迫力満点の魔物が居座っていることもあって悪さをする人間はいないが、日増しに増える移民者に対応するため国営アパートの数もどんどん増えていき、日中から寒さを凌ぐ焚き火があちこちで乱立していた。
しかし、移民の流入もようやくこれで一区切り。
だからこうして集まってもらったのである。
「ペイロさんと、あとは移民したうちの一人であるユッテさんに、移民者それぞれの『履歴書』を作ってもらいました。名前、年齢、性別、種族、それに得意なことやできること。過去に携わった仕事の年数や、人によっては該当の所持スキルレベルまで申告された方もいます。
希望する大まかな職種ごとに分けてありますので、人手不足で雇用したい、育ててみたい、一緒に働いて仕事の幅を広げたいなどあったら言ってください。給金を支払えることは前提で、のちほどペイロさん達が引き合わせてくれますので」
「ふむ……ハンターギルドや商業ギルドのやり方に近いと言えば近いが――なるほど、さらに掘り下げた内容をこうして書き起こしているのか」
近くにあった木板を手に取ったヤーゴフさんが、興味深げにその内容を見て呟く。
「ですね。この世界はスキルを目的に人攫いが発生しているので、さすがに常時公開というわけにはいきませんけど……今後は専用のギルドでも作って、働き手を探している人にこうして候補者の一覧を案内できれば、お互い効率的にマッチングさせられると思いますから」
「専用のギルドだと?」
「ええ、ハンターギルドも商業ギルドも、短期的な仕事の斡旋はあっても長期雇用の募集は見かけないなーと思ったので。だったら身近にいる労働力をもっと本格的に探せる職業斡旋ギルドがあっても良いと思うんですよね。アマンダさんとかならすぐにできそうですし」
「え……ま、まぁ仕事を振ったりはしているけど……ロキ君が主導してやらないの?」
「僕は強くなってこの国を護ることが一番ですから。金と案があれば出しますけど、実務に時間をかけたくないんです」
「あーそうだったわね……愚問だったわ」
以前と違い、飲食以外はだいぶお金の動きが良くなってきているのだ。
生き死にに直結するので教会の炊き出しはまだ継続しているが、それだって消費量を考えれば、あと数ヵ月も継続していたら十分だっただろう。
多くの移民者が入るまでは、だが。
次々と木板が拾われてはペイロさんに渡され、後ろに拾った人の名前を書いて戻される。
人気のある人は複数の希望が入り、あとは給金含めた雇用面の調整をしていくという寸法だ。
「なぁ、2000人超って割には数がだいぶ少なくねーか?」
そう言ったのは、相変わらずガタイが良い解体場主任のロディさん。
確実にハンターが増える――というかもうだいぶ増えているようなので、本格的に解体が得意な人材でも探しているんだと思うが。
「僕が動くべき人達、あとはどうしても雇用に向かない人たちは省いていますから。そこにあるのはおおよそ600人分くらいですかね」
「ん? 向かないってのは? 素行不良か?」
「いえいえ、犯罪奴隷や借金奴隷は綺麗に省いていますから、その類いじゃないですよ。【農耕】【畜産】【採掘】が得意で、かつ志望している方々はここに並べてもしょうがないでしょう?」
こう伝えると、「あぁ~」と各所から納得したような声が聞こえる。
うちは決められた方面に開墾してくれれば、今のところはいくらでも農地を広げていいよというやり方なので、よほどの初心者でもなければ【農耕】に雇い雇われという感覚は持っていないし、【畜産】は元々ベザートがその方面に弱く、かつ周囲が魔物の巣に覆われているためやや不向きな環境だ。
まぁ【畜産】希望者は拓けた安全な土地と、そこで育てる動物がいればとりあえずは動けそうなので、そのくらいなら俺でもなんとかできるだろうが……
しかし【採掘】は、そもそも近くに掘るような山がないので、奥地で鉱脈を見つけてもう一つ町を作るでもしない限りは無理。
それに実行したところで完全にその町が孤立するので、しばらく石畳などの公共事業に従事してもらいながら、別の仕事に目を向けてもらうしかないだろう。
現状町の中で求められている仕事を一手に取り纏める――、そういう意味でも、職業斡旋ギルドはぜひほしい。
誰か、早く作ってくれないかな……
「ロキが動くべき者達というのは?」
そんなことを思っていたら、ヤーゴフさんから突っ込みが入る。
これは相当興味がありそうな顔だ。
町を大きくしたい人だしね、分かる分かる。
だから言っちゃおう。
ヤーゴフさんが本気で動いてくれるかもしれないから。
「この町にはまだ無く、先行投資が必要になるであろう業種、ですかね」
「ほう?」
「宝石商、孤児院運営、教師、運送、酒造り、装飾品制作、魔道具製造、洗浄士、錬金術師――、兵士希望なんて人も結構いましたけど、お店とか建物とか、何かしらの土台が必要になりそうな仕事ですね」
「あ、魔道具の人!」
「ですです。予定通り来てくれたみたいなので、魔道具と装飾品、それに錬金術師の人なんかも、『新奇開発所』の敷地内で一緒にやってもらったらいいんじゃないですか?」
「そうね。一度それぞれ会って話を聞いてみるわ」
「宝石商と、あと運送の人はうちで雇っちゃってもいいっすよね?」
「うん、本人達がいいって言うなら、クアド商会で面倒見ちゃってもいいよ。追々独立したいって言うなら応援してあげればいいし」
「酒造りってのはそのままなんだろうけどよ。洗浄士ってのはなんだ? うちの店でも綺麗にしてくれんのか?」
たぶん冗談で言ったんだろう。
でも正解なんだな、靴屋のおやじ。
「そういうことも有料でしてくれる人です。元は【家事】技能の優れたメイドさん達なんですけど、貴族のいないこの町にメイドを継続して雇う人ってたぶんいないでしょう? だから時間制にして、一時的に家事の手伝いで人が雇えるお店でも作ってあげようかなーと。当面はニューハンファレストとクアド商会、あとは奥に転がっている貴族の家の管理が主な派遣先になるでしょうけどね」
「かぁ~掃除や洗濯に金を払うとか、優雅なやつもいるもんだねぇ。うちはカカアがやってくれるから十分――」
「ちなみに、とある国の侯爵が容姿重視で集めた人達なので、ビビるくらい可愛いし綺麗な子達ばかりですけどね。人間だけでなく、見た目がかなり人間に寄った獣人の子達も多いですし」
そう伝えると、ピクッと。
靴屋のおやじを含む、多くの男性陣が反応した。
うん、これなら問題ないだろう。
こっそり頼む人が現れると断言できる。
「ふむ、その洗浄士とやらの興味は尽きないが……店が必要な連中はロキ王が金の工面をしてくれるとして、孤児院やら教師、それに兵士なんかも商売とは違うじゃろうし、風呂の管理をしてもらっている連中と同じ国庫からの支出じゃろう? 風呂収入も増えるんじゃろうが……それだけで足りるんかの」
「かなり余裕があると思いますよ。国営アパートの選択率は現在で約6割、今後変動はあるにしても既に月6000万ビーケほどの収入が風呂の利用料とは別に入ってきますから」
「なんと!?」
「その中から教師志望の方に給金を支払い、ここで子供達に勉強を教えたら良いと思いますし、兵士希望の人達ものちの憲兵隊員として、過剰にならない程度にペイロさん達とうまく調整してやってください。孤児がどれくらいいるとか、町の治安維持に兵がどれほど要りそうとか、そういうのはダンゲ町長やヤーゴフさん達の方が僕より断然詳しいはずですから」
「承知した。暫定的にはなるが、予算資料を作成しておこう」
あとは皆に任せても大丈夫。
そう感じた俺は、会議を抜けて足早にニューハンファレストを目指す。
馬車の都合で一旦この動きは止まり、第一陣がロズベリアに戻ったらまたすぐに移送が始まる。
そう俺に教えてくれたのは――
「あ、いたいた。お待たせしました」
「先に一杯やらせてもらっていたから気にしなくていいぞ。って、王様相手にこんな口調で本当にいいのか?」
「いいんですって。僕もその方が楽ですし、みんなこんなもんですよ」
――ヴァラカンで共に戦った、Aランクハンターのグロムさんだった。
昨日到着した第四陣の護衛指揮官だった彼と偶然再会し、それならついでに飯でも食いましょうと、この日約束をしていたのだ。
ばっちり知られていたロズベリアの一件など、お互い積もる話に花を咲かせたわけだが、そこで出てきたのは残りの希望者数で――
「少なく見ても、まだ5000人はいるぞ」
――この言葉を聞いた途端、酒も飲んでいないのに軽く眩暈がしてしまう。
やはりというか、鉱山の解放はやり過ぎだったらしい。
おかげでオムリさんは病人のような顔つきになっているようだが……
やっちまったもんはしょうがないし、それはいいとして。
「ロズベリアは、あれから大きな混乱とか起きてないですか?」
鍛冶工房バルニールを一旦清算したということは、オスカー王が対マリーの路線に大きく舵を切ったということ。
その結果が町に影響を与えているのか、少し気にはなっていたのだが。
「鉱物の流れが一時的に止まったことでの混乱はあったが、でもそれくらいだな。逆に……街では噂になっているぞ?」
「ん? なんのですか?」
「ロズベリアは第五の異世界人ロキによって救われた。あの者は英雄だ、とな」
「え」
「どこから声を出している。バルニールは名を『フォルジュ』と改め、国の運営に切り替わって値段も10年前と近い水準に戻ったし、不定期とは言え転送による物流で纏まった収入を得ている者も多い。それに人攫いの件は……内容も、規模も、それこそロキが一番理解しているだろう?」
「まぁ、それは、そうですね」
「侯爵家が潰れ、一番大きかったサザラー商会も潰れ、多くの行方不明者が突然街に生還したのだ。俺も含めて、誰も彼もが事態の真相を知りたがったし、多くの移民者達が救ってくれたロキ王の下へ行くと自慢げに語るのだから、噂が広まらない方がおかしい」
「……」
「ロキ、これからだぞ。触発され、奴隷に落とされたわけでもないのに、移住を検討し始めている者達もいる。たぶんだが、想像以上に多くの人が流れる」
「マジですか……」
「どこにいれば安全なのか。ここ数年は武器を握れる俺だって考えることがあるんだ。戦えぬ者達ならば尚更だろう?」
そう言って、グロムさんはグラスの酒を呷った。
安全か……
西は純粋な武力で土地を奪われ、東は気付けば足元が泥沼に変わって首まで浸かる。
かと言って中央も多くが経済的な危機に直面し、どこも真綿で首を絞められている真っ最中だろう。
そう考えれば、まだここはマシなのかもしれないけど、それでも絶対に安全というわけじゃない。
リルの監視を掻い潜り、後先考えずに大暴れされれば、この程度の規模など一瞬で詰む。
脳筋という印象しかない、帝国辺りに狙われれば……
「かつてのレイド戦の時もそうですし、誰かを害して何かを成そうとする『悪党』がいなくなれば、どこにいても平和で安全に過ごせるんでしょうけどね」
「そうだな。それが理想――、しかし何よりも難しい、理想だ」
それでも、できることを少しずつやっていくしかない。
町も、悪党も、少しずつ。
その日は久しぶりに俺も酒を飲み、翌日グロムさんは、また来ると告げてロズベリアへと戻っていった。