軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

475話 隠れ潜む者

これもきっと、土地が限られているからこその結果なんだろう。

中心部から放射状に何本も延びた地上の大通り。

その脇には、所々で地下鉄の入り口のように階段が設置されており、『地下5番街』という看板を目印に下ると、若干湾曲しながら延びていく1本の地下道が存在していた。

意外にも魔道具で灯りはそれなりに確保されており、下水とは違う、臭いの無い水が深く掘られた中央の溝を流れていたりはするものの、両側は3人並んで歩いても余裕があるくらいには十分な道幅が。

そして両脇には寂れた商店街のように、ポツポツと小規模なお店が地下で営業をしていた。

「お~往来している人達は案外普通に見えるけど、ちょっと怪しい雰囲気が出てきたね」

「ねっ! 売ってるモノが上よりもさらにゴチャゴチャしてるし」

「流れてきた盗品を売っている者もチラホラといますね」

「あ~地下ってそんなイメージあるわ」

話しながらも、俺達はフェリンの先導で移動を続ける。

既に『異世界人』の反応を掴んでいるようで、その動きに迷いはなく奥へ奥へと。

そして、

「あ、あれが緑の花じゃない?」

壁というよりは、天井の壁面に描かれた緑色の花の絵。

そしてすぐ近くには、分厚そうな鉄の扉が存在していた。

この地下が居住区にもなっているのか、このような鉄扉は道中でいくつも見かけているが……

【探査】――『異世界人』――

扉の奥から1つ、反応を拾えるのだ。

どうやらここで間違いないらしい。

3人で頷き合い、代表して俺が鉄扉の前に立つ。

コンコンコン――。

そしてノックをすると、目線の位置にあった開閉可能な覗き窓が少し開いた。

小さな鉄柵の先に見える顔の雰囲気からすると、相手は女性か。

「……」

「……」

「合い言葉は?」

「ベレッツァ」

「そう……誰からの紹介?」

「……」

んん??

待て待て、そんな話は聞いていないんだが?

いや、リステは『紹介』という言葉も呟いていたけど、まさかここで紹介者の名前まで出せとか、そんな変化球を投げてこないでよ。

困って少し離れた位置から見守るリステに視線を向けるも、力なく首を横に振ってるし……

これはもう、正直に伝えるしかないな。

「すみません。紹介者の名前は聞いていないのですが、こちらで服を作ってくれると聞きまして」

「……それじゃあ、少し待っててもらえる?」

小窓が閉じ、遮られる視界。

と同時に、扉の奥から僅かに走る音が聞こえ、次第に遠退いていくのが聞こえた。

――【気配察知】――

「………………」

おいおい、マジか。

どんどん離れていく気配は、すぐに有効範囲である50メートルも超えていく。

これは――たぶん、逃げたんだろうな。

範囲の広い【探査】で確認しても対象が離れていくので、どこかに通じる出口でも別にあるのだろう。

「はぁ……逃げたっぽいから、ちょっと追ってくる。先に帰ってていいよ」

「「え?」」

ここまで警戒しないと、戦闘特化型ではない異世界人は暮らすこともできないのか?

そのことを不憫に思いながら、先ほど覗き穴から見えた室内の光景を目印に部屋の中へ転移。

自室も兼ねた、薄暗い作業部屋を一瞥してから、全力で彼女の後を追った。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「とりあえず落ち着いてください。危害を加えるつもりはありませんから」

「いや! やめて! 触らないでよ!」

真っ暗闇の地下道。

構造的には先ほどの入り口より1つ外側を回る地下道へ抜けるための隠し通路だったんだろう。

細い道の途中で、その女性は光源魔道具を地面に放り投げたまま、身体を守るように蹲っていた。

落ち着かせようと思って肩に触れたが、今は何をやってもダメらしい。

「えっと、あなたが異世界人なのはもう理解しています」

「……」

「ただあなたを利用しようとか、どこかに攫おうとか、そんな気はまったくなくて、自分の服を作ってもらいたかっただけなんです」

「そんなの、信じられるわけないじゃない……」

「え?」

「心から信用のできる女性になら教えてもいい。それがうちのルールだったのに、なぜ男のあなたが紹介者の名前も分からずに、合い言葉を知ってここまで辿り着いたの?」

「……」

「そりゃ答えられないわよね……どうせ脅して、乱暴して、強引に聞き出したんでしょ!? また私を利用するために!!」

あぁ、この人もか……

過去に何かがあったことを推察させる、強い恐怖と憎しみの籠った瞳。

それは違う、誤解だと否定したいし、食い物にするつもりなんてサラサラないけど、ここで正直にリステの行ったことを伝えていいものなのか。

記憶を読み取るという、自分自身ではまだできない芸当でここまで辿り着いたからこそ答えに詰まってしまう。

「……誓って無理やり聞き出したなんてことはありませんけど、自分の手の内を明かす気はないので、どうやって合い言葉を知ったかは触れないでおきます。ただあなたが嫌がることをするつもりはありませんよ、僕も同じ異世界人ですから」

「ッ……!?」

「それに、今までにも幼少期から奴隷にされた異世界人を見てきました。現状に不満を感じ、抜け出したいと思うなら、その手助けをしたいとも思っています。もちろん無理強いするつもりはありませんけどね」

「同じ異世界人だから大丈夫なんて、そんな保証どこにもないでしょ……」

「それはごもっとも。実際なんでも利用しようとする悪いヤツだっています。なので、そうですね―――、本来は依頼するといくらお金が掛かるんですか?」

「え?」

「服ですよ、服。勝手が分からないので素材もそちらでお願いするとして、全身をカッコよくコーディネートしてもらうのにいくらくらい必要なのか、余裕をもった金額を教えてもらえれば今お支払いしますよ」

「そ、そんなの、全身なんていったら20万、30万ビーケくらいは当たり前に……」

強い違和感。

この感覚が正しいのかは分からないけど、俺はソッと拳ほどの大きさがある硬貨を1枚差し出しながら女性を眺める。

「なに、これ」

「白王金貨と言います。1枚で価値は1000万ビーケあるので、これくらいあれば素材もある程度自由に選べるんじゃないですか?」

「は……? こっ、こんな大金……私がこのお金持って逃げたら、あんたどうするつもりなのよ!?」

「正直、この程度の金額であればどうもしませんよ。ただ二度とあなたを救い出そうとは思わないでしょうけど」

「……」

決してお金のためにここを訪れたわけじゃない。

その気持ちが少しは伝わったのか、幾分冷静さを取り戻したようにも見える女性に確認の言葉を投げ掛ける。

「あなた、かなり奴隷というか、誰かに利用されていた期間が長かったんじゃないですか?」

「……28年間、奴隷だったわ。たぶん3歳の時から、ずっと地下に閉じ込められていた」

「3歳から……だから価値観がズレているというか、想像以上に良心的な値段で商売されていたわけですか」

「……え?」

「新品となれば、今僕が着ている庶民的な服でも上下で20万ビーケ以上はします。となればこの世界で革新的とも言えるデザインの服が似たような価値なんてことはさすがにないでしょう? 手前の部屋に積まれていた素材を見ても、粗悪品だけ選んで使っているという感じはまったくしませんでしたし」

「……」

「でもあなたは、ここまで警戒して、逃げられるように対策も取って、それでも地球の知識を活かした服作りをやめられなかった。リスクが高いことぐらいご自身でも分かっていたでしょう?」

「だって、しょうがないじゃない……自分のデザインした服を喜んでくれてる人達がいて、次を期待してくれる人達もいて、それが私の夢だったんだもの……そんなの、やめられるわけないわよ……」

金儲けのためではなく、誰かが喜んでくれるためか。

こうなると余計に応援したくもなるが、しかし結局は本人の気持ち次第。

望まれもしないのに無理やり保護しようとするほど、仏のような思考は持ち合わせていない。

「まぁ服を作ってほしくて訪ねたのは事実ですから、依頼は正式にさせてもらいます。その上で今のリスクある環境から抜け出し、もっと幅広い層にあなたの服を着てほしいという思いがあるなら言ってください。その時は僕なりに協力しますので」

「協力って……何をするつもりなのよ?」

「ん~あなたが何を最優先したいかにもよりますけど、適した場所に案内しますよ。うちならある程度の望みは叶うと思いますから」

「うち……? っていうか、今更だけど、あんた何者なの?」

そう問われ、ほんと今更だなと思いながらも自己紹介をする。

「僕はロキ、元日本人で、今はアースガルドという国の王をやっています」