作品タイトル不明
474話 自由都市ネラスへ
時刻は昼時。
この時間なら大概のお店は開いているだろうし、お財布の中身だってロズベリアの悪党共を叩いたおかげで、総額表示が1700億ビーケを超えているのだから潤沢も潤沢。
面子は最近ガルガルと噛みつき合っているリステとフェリンだが、今日は二人とも凄く機嫌が良さそうなのでここも問題無しだろう。
「おっしゃ! 行こうか!」
「はーい!」
「行きましょう。この街にお店があるはずですから」
そう言って俺達3人は、各国の王都でもまず見ない高さの建物から細い裏路地に向けてヒョイッと飛び降りる。
場所は『自由都市ネラス』。
上空から見ると端から端まで視界に収められるので、ラグリースの王都と比べればまだ規模は小さい。
しかし密度がまるで違う。
限られた土地を奪い合うように、所狭しと高さのある建物が立ち並ぶ様はこの世界の大都市を彷彿とさせ、今まで訪れた国と比べても、この一帯だけ文明度合いが1段か2段は高いようにも感じられた。
こんなのワクワクしない方が嘘であるが、今回の目的はあくまで服屋。
これほど大きく密集した街をくまなく探索しようと思えば、どれほど時間が掛かるか分からないのだから、リステが以前言っていた通り、気晴らしも兼ねて少しずつこの街は楽しんでいこうと思う。
ここで多くの時間を費やしても、根本的な強さには直結しにくいだろうしね。
「ねぇリステ、どこら辺に目的のお店があるかは分かってるの?」
今回の情報元はリステということもあって聞いてみたが。
「いえ、分かっているのは出所がこの都市のどこかであることと、表立って売ってはいないということまでですね」
「ん? つまり看板を出していないってこと?」
「そういうことかと。非合法な物を取り扱う"闇店"ということでもないでしょうし、不思議ではありますが」
「ん~……」
――【広域探査】――『服屋』
一応確認してみるも、数えきれないほどの反応を拾ってしまうため、このやり方で探すのは現実的じゃない。
だが、たぶん俺の予想が当たりなら、コッチであれば反応を拾える可能性は高いはずだ。
「フェリンとリステって【広域探査】のレベルいくつ?」
「私は『9』ですね」
「あ、私『10』だよー」
「おぉ、それじゃフェリンは【広域探査】担当、リステは【魂環魔法】ってヤツをお願いしてもいい?」
「いいけど、何調べるの? お店?」
「いや、【広域探査】で『異世界人』を探してほしいんだよね。俺のレベルじゃ予想が当たったとしても弾かれそうだからさ」
「え?」
「なるほど。作っている者を直接見つけるわけですか」
「そそ、俺の想像する衣類をこの世界で作っているってことは異世界人の可能性が高そうだし、表立って店を開いていないってことはデザインしている人が少量を個人的に売っているってことじゃない? それに看板を掲げていないのは、拉致を警戒しての防犯対策っぽい気がするし」
「了解! それじゃ私は異世界人を探してみるね!」
「私はそれらしい衣類を身に纏った者がいたら、入手経路の確認ですか?」
「んだね。あとは当人っぽい人を仮に見つけたとしても、いきなり訪ねたんじゃ素性を隠す可能性があるから、一応その確認もかな」
「分かりました」
「俺は――、うん。とりあえず仮面をどっかで買ってくるわ。二人とも目立ち過ぎてこのままじゃ趣旨が変わりそうだし」
細い裏路地に降りたというのに、もう数人が興味深げな視線をこちらに向けているのだ。
このままいくと、またそのうちアホに絡まれて死体が積み上がる。
今日はフェリンの癒しも兼ねているというのにそんな気がしてしまい、それぞれが人を撒くように一度この場を離れ、改めて俺が仮面を用意したタイミングで合流した。
そしてより高く、より豪奢な建物が集まった中心地に向かっていくも――、
「二人とも、首痛くならない?」
「そう言われましても、これは……」
「うんうん、そう言われましても!」
見ているとリステは左右に、フェリンは左右とさらに上にも首をブンブンと動かしていた。
特にリステのこんな姿は珍しいような気もするけど、ここは商人の聖地みたいな場所だろうしなぁ……
今歩いているのは大通りだと思うが、道沿いに並ぶ店は見慣れぬ素材や系統のまったく違う雑貨がズラリと並び、ご飯屋もガラス越しに見える料理は見覚えのないモノが多く、漂う匂いはどれも美味そうなのだ。
それに街を歩く人達も、今まで渡り歩いた国と違って肌の白い人達が多く混ざっており、自由都市という言葉に強く納得してしまうくらい、ここは良くも悪くも余計なルールが無いように感じられた。
(鎖で繋がれた人間や獣人が、馬車や荷車を当たり前のように引く街か……)
「ロキ君は、意外と普通なのですね」
「ね~私なんてさっきから全部気になっちゃってんだけど!」
「いやいや、そのうちじっくり見たいなとは思うよ。ただ背が高いだけの建物なら地球でこれ以上も山ほど見てるし、俺が一番気になるのはここより中に入った方だろうから」
「中?」
「武闘場とか裏オークション会場、あとは奴隷商館とかね。そういう規模の大きそうなヤツはこの手の路面店が並ぶ通りになさそうでしょ?」
「たしかにー!」
「近いうちにまた来ましょう。私もオークションはぜひ参加――……ロキ君」
「うん」
最低限の会話。
それだけで済むくらいに、正面から歩いてくる一人の女性は目を引く衣類を身に纏っていた。
奇抜ということはなく、どちらかというとシンプル。
それでいて周囲から浮くほど洗練されたように見えるその装いは、明らかに見慣れた地球寄りの服で、やはり気になるのか、多くの人達が視線を向けている。
鼻高々といった様子で歩くその女性は、さして特別な存在にも見えないが……
「どう?」
「中心地より、だいぶ北側……地下市場、5番街、壁に描かれた、緑の花……鉄扉の先……、紹介……? 合い言葉――『ベレッツァ』」
「北側の地下市場か……フェリン、この位置じゃ何も反応拾えないんだよね?」
「うん、全然だね」
「オッケー、それじゃ一旦お昼ご飯食べたら反対側に向かってみようか」
果たしてどんな人物が待ち受けているのか。
少しワクワクしていることを自覚しつつ、フェリンの嗅覚が一番の当たりと告げたお店に入っていった。