軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

406話 切り札

一々確認しなくても分かる。

兵に引き摺られながら現れたこの男が元凶のロイエン子爵だろう。

上半身は服を脱がされており、拷問でもされたのか。

顔はゴツゴツとした岩のように変形し、腹や腕にも何かで叩かれたような痕が多く残っていた。

「コヤツがロイエン子爵、そなたが現れた時のために生かしておいた。直接聞きたいことがあるなら聞いてもらっても構わない」

そうジュロイ王から言われるも、ある程度のことはもう聞けたしな。

残すところはわざわざ策を変えた動機くらいだが、これも答えはすぐに見えてくる。

「あなたの欲のせいで、どれほど人が死んだか分かってます?」

「ペッ」

返答は、吐き捨てた赤い唾。

王のいる謁見の間でこのような悪態をついているのだ。

全体が殺気立つも、本人は今更何をしたところで結果は変わらないと、これ以上ないほど理解しているんだろう。

「どうせレイムハルト辺境伯が強奪した金品のうち、裏で何割かを貰い受けるような約束でもしていたのでしょう? そうでなければ、あなたが進言した策を裏でコソコソと変える必要もなかったでしょうし」

「貴様が……貴様こそが元凶なのだ……」

「酷い言い草ですね。あなたのくだらない策で殺されたオーバル領の人達も、巻き込まれて僕に殺されたカルージュの兵達も、みんなあなたのような欲に塗れた男さえいなければって思ってますよ」

「ふん……辺境伯は、どうした?」

「最後まであなたに恨み言を吐きながら捩じ切れました」

「捩じ切れ……?」

理解できていないのか眉間に皺を寄せているので、脅し用に残しておいた辺境伯の上半身を目の前に転がす。

が。

「……やはり、死んでいたか」

さすが軍人とでも言うべきなのか?

見る限りは平静を装っている男に、ゾクリと思わず身体が震える。

いいねぇ。

「この男は、僕の好きにしても?」

「そのために生かしたつもりだ」

実際は王が本当に知らなかったことを証明するための材料なんだろうけど、俺が自由にできるのならなんでもいい。

コイツの処理は後々考えるとして、今はジュロイ王国に対してどう話を纏めるか。

そちらを進める方が先だな。

まだしゃべり足りないのか、呻きながら口を縛られているロイエン子爵を横目に宰相の奴隷化を解除し、その上で改まって二人に向き直る。

「今回の件が欲を出した一部の貴族による暴走だったことは十分理解しました。しかしそちらの貴族であり、軍隊まで動いている以上はジュロイ王国の責任も大きい。何より僕がこうして動かなければ、あなた方は何をするでもなく、賊の仕業にでもして済ませていたのでしょうしね」

「承知している。だからこそ、どのような形であれば納得してもらえるのか……余の命で済むというのならば差し出す覚悟くらいはできている」

へぇ……

この言葉に、やはりヴァルツ王とは毛色が違うと思いながらも首を横に振る。

「残念ですけど僕は異世界人、あなたに限らず王の命をそこまで重いモノとは捉えていません。王が責任を取って死んだとしても、殺された人達は生き返りませんし、町も元には戻りませんから」

「と、ということは、この地一帯を丸ごと――」

「なのでまずはあなたが責任をもって国中からかき集めた資金と、資材と、人材を供給し、ボロボロにしたオーバル領を素早く復興させてください。それでも元のオーバル領には戻りませんけど、やらないよりは遥かにマシですので」

今オーバル領で最も不足しているのは『人』――とりわけ子供と女性不足が深刻だ。

これは俺じゃどうにもならないし、頼んでおいた『カルージュ』の商人達でも難しい問題だろう。

王が率先して労働力を送り込んでくれればいずれ定住者も出てくるだろうし、王都から戻って復興作業に当たっている兵とくっつく女性だって現れるはず。

敵国の人間という余計なフィルターが掛からないように俺が動く必要はあるけど、幸いその『調整役』は手に入ったしな。

その後も大まかな支援物資の内容、供給ルートの打ち合わせを挟み、個人的な面倒事の対価として所持していない『本』や『叡智の切れ端』を貰う約束をし。

この程度で済んだことに 俺(・) が(・) ホッと息を吐きながら、こちらを睨みつけるロイエン子爵の下へ向かう。

俺は土地の管理なんてしたくないし、ヘディン王も自国がボロボロな上に、旧ヴァルツ領まで新しく抱えているのだからまったくその余裕はない。

そんな状況でジュロイまで潰すとなれば、後々がかなり面倒なことになると思っていただけに、上層部がまだ俺の理解が及ぶ思考の持ち主で良かったと。

内心そう思っていたわけだが――。

(ん? 俺じゃない?)

てっきり俺を睨んでいると思っていたロイエン子爵の目は、邪悪に歪みながら俺の背後。

王や宰相に向けられており、いつの間にか、口に咥えさせられていた布は解けていた。

「王よ、上手く 切(・) り(・) 札(・) の存在を隠し、この男の首を狙うつもりか?」

「………」

この言葉に黙って後方へ振り向けば――。

ジュロイ王は鼻を鳴らし、不敵に笑っていた。