作品タイトル不明
399話 調査開始
ラグリースの南西部に存在し、現在はジュロイ王国の領土となっている、旧オーバル領の領都『テロイア』。
そこは以前様子を見にきた時と違い、人の動く姿がそれなりに確認できた。
しかし、大半は鎧を纏った兵士達で。
どこを見渡しても大量に存在する腐乱した死体を、フラつきながら点在する火葬場に運んでいく姿ばかりが目に付く。
(ジュロイ側の兵じゃない……王都に派兵されていた兵士が戻ってきたのか)
国を守るために決死の覚悟で戦場に向かい、戦勝に喜びながら帰還すれば、なぜか戦場になるはずのなかった自分達の町が壊滅的な被害を受けているのだ。
衣類を剥ぎ取られたような痕跡も目立つ、虫のたかった家族の死体を抱える兵士達の心中を察すれば、こんな事態を引き起こしたゴミ野郎にはどんな地獄を味わわせるべきなのか。
リアはサッと目を逸らしながらパスを宣告したので、今回は俺だけでなんとかしないといけない。
「すみません、ここに兵の指揮を執っていた方がいると聞いたのですが」
「そうだが、一時避難から戻った町の子供か? 兵に死者はいないから、父親なら町のどこかに――」
「いえ、僕は異世界人のロキと言います。オーバル領が広く襲われた件で、派兵の指揮を執っていたというオーバル侯爵の甥の方に事情を伺いたいんです」
「ほ、ほっ、本物、ですか……?」
「もちろんです。西側に制裁を加える目的で来ていますので、お願いします」
そう伝えれば、目の色が変わったように一部が崩れた屋敷の中へ案内してくれる。
奥にいたのは、いくつもの木箱に詰まった食料を兵と一緒に振り分ける、20代半ばくらいに見える青年。
そのまま案内してくれた兵が走り寄ると、電撃が走ったように肩を跳ね上げながらこちらに勢い良く振り返る。
「タ、タナート様、隣国であり、宗主国の、王が……」
「ッ!? あ、あなた様が、アースガルドの……我らをお救いになってくださったお方か……」
「ちょっ、お互い忙しいと思いますし、ね? そんなことは不要ですから、早速本題に入りましょう、本題に」
オロオロとそのまま跪こうとされてもこちらが困るだけだ。
とっととアホを見つけ出して狩りに戻りたいのだから、ササッと用件のみのやり取りで十分である。
「僕はオーバル領が襲われた件を調査していまして、シラグ宰相からオーバル領は派兵の指揮をあなたが執っていたと聞いたんですけど、それは間違いないですか?」
「そ、その通りです」
「あなたが王都に向かう時は町におかしな点はなく、兵と共に帰ってきたらこの有様になっていたと」
「はい。私も、兵の皆も、多くの私財を失い、家族を失いました。『テロイア』の手前にあった町も、ジュロイに最も近い『テルバード』まで同じ光景が続いていると聞いています……」
「……オーバル侯爵はどちらに?」
「分かりません。逃げ延びた者達から、町は見たこともない巨大な盗賊団に襲われたと聞いていますので、既に殺されてしまった可能性もありますが……遺体発見の報告はまだ上がっていませんので」
「盗賊連中に侯爵が殺されてしまう可能性も浮上するほど、警備は薄かったということですか」
「オーバル領は隣接国が長年同盟関係ということもあり、元から配備されていた兵数はそう多くありませんでしたから。それが国の危機となり、領内の騎士を含む2万の兵を搔き集めたので、この地に残されたのは身辺を警護する最低限の領兵くらいではなかったのかと思われます」
嘘を吐いている様子はまるでなし、だな。
となると、あとはオーバル侯爵が本当に死んでいるのかどうか。
「ちなみにタナートさんはオーバル侯爵の甥に当たるそうですけど、失礼ながら、その関係性で2万にも及ぶ兵の指揮を執ることは普通なんですか?」
的外れなのかも分からない違和感。
国が存亡の危機であり、領内から兵を搔き集めたというのなら、普通はオーバル侯爵自身が指揮を執って王都に向かいそうなものだが……
「同盟国とは言え所詮は他国なわけですから、ジュロイの裏切りに備えてオーバル侯爵がこの地に残るというのは十分あり得ることです。いざとなればその立場と発言力を以て、領民に武器を持たせてでも自国を守るために対抗するわけですから」
「なるほど、それもそう――」
「ただ……ッ! ただ……そうであっても、本来であればオーバル侯爵のご子息が指揮を執るものです。幼子であれば話は別ですが、長男であり子爵の立場でもあるオスター様も、次男であるティリッジ様も、私とそう年は変わりませんので」
「……ちなみに、そのお二人の遺体は?」
「まだ見当たりません。というよりも、オーバル侯爵家の遺体が一つも見当たりません」
やるせないだろうな……
本人も何が起きたのかを予想できているからか、見れば強く握られた両の拳は震えていた。
甥という立場で無理やり指揮を執らされ、敗戦が濃厚な死地へ向かわせられたにも拘わらず、いざ戻ってみれば町は壊滅。
同じように死地へ向かった者達は多くを失っているのに、肝心のオーバル家はまるでこの地から逃げたように行方知れずともなれば当然か。
「概ね事情は把握できました。これはお礼ですから、大した量じゃありませんけど皆さんで食べてください」
言いながら多少残していたユニコーンの死体を放出して去ろうとすれば、背後から懇願するように声が掛かる。
振り返れば、周りにいた兵士達も、皆が皆、同じような目をしていた。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……何卒、国を、民を裏切るような者達がいたのならば、大いなる罰を……ッ!」
「もちろんですよ。もしそのような輩が本当にいるのだとしたら、その時はこの世の地獄を味わわせますから、ご安心を」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
その後は領都『テロイア』を離れ、飛行しながらひたすら西へ。
ラグリース側の最西端である『テルバード』を越えれば少し大きめな川が流れており、先の方にはジュロイ側となる町の一端が僅かに見え始めていた。
そのまま町に向かい、適当な屋根に降り立って周囲を見渡すと、戦争とは無縁と言ってもいいくらいにありふれた日常の姿が。
「予想通りか」
川を挟めばこれだけ平和とは、随分ジュロイ側に配慮した盗賊団だなと、この光景を見れば思わず鼻で笑ってしまう。
こちらでは女性や子供の姿もあり、大通りに面する露店市のような場所では、様々な食材や貴金属、魔道具などが――……
「すみません。こちらは並べられている品が随分と雑多な印象ですが、何か理由が?」
「んあ? 近くでかなり大規模な盗賊団の討伐があったみたいでよ。そん時の戦利品だっつって兵士が売りに来たんだ。ここに並んでいる露店なんてほとんどが連中の買取品だろ」
「なるほど……」
――【広域探査】――『盗賊に扮した者』
「ん? この町の兵士とは違うんですかね?」
「かなりの数だったから『カルージュ』から来た連中じゃねーか? こんな外れの町なんて、兵士は僅かな門兵と衛兵くらいだしな」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「あ、おい、あんちゃん! なんか買ってかねーか? あるもん限りだぜ!」
ベザートに毛が生えた程度の小さな町だとは思っていたけど、盗賊に扮して動いたであろう実行犯の反応は一人も無し。
それどころか住民は、盗賊団を討伐したのがジュロイの兵士だと思っているわけか。
(現実的にまずその線はなさそうに思えるが……)
まぁ、その町に行けば答えも見えてくるか。
そう思いながらハンターギルドに一応立ち寄り、もう少し住民から情報を探った上で、レイムハルト辺境伯というこの一帯を治める貴族の拠点。
領都『カルージュ』へ向かった。