軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

395話 【獣血】とは

夕暮れ前のベザート。

目的の人物を探すも見当たらず、ウロウロしているとようやく知っていそうな顔見知りを発見した。

「お、メリーズさーん!」

いつもの修道服っぽい恰好しているのに、がっつり丸太を2本担いで歩いてんだからビックリである。

「あら坊や、じゃなくて王様。どうしたんだい?」

「教会のことを聞きたくて、トレイル神官ってこの町に来てますよね?」

「じいさんなら川で釣りをしている子供達のお守りしてるよ。年もあってこんな丸太は持てないみたいだからね」

「あ、そっちか! ありがとうございます!」

どうりで建築中の町中から【広域探査】を発動しても引っかからないわけだ。

すぐに向かおうとするも、背後から呼び止められる声が掛かる。

「ちょっとお待ち、教会に関係することなら私も行くよ。若いシスター達が身動き取れなくて困ってたからね」

あぁ、ここもか。

教会が無ければ無職と同じになっちゃうもんな……

新しく建つ動きが無ければ別の町に移るか、仕事を変える選択だって当然考えるだろう。

ならばと二人で川に向かえば、確かに子供達の釣り針に餌を付けてあげている人達が何人かいた。

「じいさん、ロキ王が会いにきたよ!」

「おぉ、ロキ王、随分と大きな存在になられて……」

「あはは……それよりトレイルさん、この町にも教会欲しいですよね?」

「それはもちろんです。人を導く場は新しく造られているこの町にも必要ですから、町長に伝え、もう場所も確保しております」

「おっ、なら話が早いですね。そこに案内してもらえませんか?」

心の拠り所なんていう曖昧な話ではなく、自身の所持スキルを確認し、スキルポイントを使用し、職業加護を得られる場所として、多くの人が生活を営む上では必須と言ってもいいくらいだからな。

他にもいた見守りの爺さん婆さんに子供達は任せて向かった場所は、町の中心部にほど近い一角。

大通りから少し中に入ったそこは何もない空地だったが、かなりゆとりある広さが確保されていた。

ならばここも一旦は、簡易的な建物を作ってしまうか。

石柱の建つ宮殿型の教会も俺はありだと思うけど、他でも統一されている形にしたいなら、そのうち余裕が生まれた時に作り直せばいい。

ズズズズ……

「ん?」

ズズズズズズズズ……

「は!?」

ドゴッ……ドゴッ……

「はがっ!?」

ドン! ドンドンドン!

「はぶら……ッッ!?」

トレイルさんが横で死にかけているけど、これでとりあえず雨風も凌げるし問題ないかな。

黒曜板だけはプライベートな内容だから、四方をちゃんと壁で覆って個室にしてあげよう。

「ぼ、坊や……あっという間にできた建物にも驚きだけど、この神像や黒曜板はどうしたんだい……」

「ベザートにあったやつですよ。教会も荒らされていたんで、最低限これだけ持ってきました」

「そ、それはよろしくないことですよ!? 教会はそれぞれ、ファンメル教皇国からの認可を受け――」

「大丈夫ですよ。神具の実質的な所有者であるヘディン王から移動の許可は貰ってますし、誰も住んでいない旧ベザートから新ベザートへ、"引越し"のために持ってきただけですから」

「確かにそうなのかもしれませんが、しかしここはまた別の国……」

「トレイルさん、一つ確認させてください。あなたの信仰は『女神様』に対してでしょうか? それとも『ファンメル教皇国』に対してでしょうか?」

「ッ!? 女神様に決まっております! それ以外には有り得ません!」

「良かった。それならば 絶(・) 対(・) に(・) 大丈夫ですから、安心して町の人達を導いてあげてください。もしファンメル教皇国が何か文句を言ってくるようなら、僕がすぐに出て解決させますから」

なんせここへ寄る前、アリシアに直接確認を取っているからな。

教会の建造に認可が必要なのはまぁ良いとしても、小さな亜人の集落なんかじゃ絶対無理だろってレベルの建造費用が掛かることなどまったく知らなかったので、ファンメル教皇国に怒っていたくらいだ。

アリシアだから過激なことは言わなかったが、時期が来たらちゃんと神子に話すみたいだし、この件で俺が直接何かするようなことはない、はずだ、たぶんだが。

さて、ベザートで取り急ぎやるべきことはこれくらいかな?

あとは食糧不足に陥らないよう様子を見つつ、ヤーゴフさんやダンゲ町長から何か問題が上がってきたら、その時考えるとしよう。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

場所はマルタの中心部。

完全に日も暮れ、火の焚かれた先にある入り口に向かえば、先日威嚇していた見張りの兵士が俺に気付き、これ以上ないほどの低姿勢で案内してくれる。

「こんばんは」

この言葉にヒョイと軽く手を挙げたのはゴリラ伯爵。

それを合図に人が消え、地下室には二人だけの空間が出来上がった。

「まず先に聞いておきたい。何故、【獣血】に興味を持った?」

「失礼ながら、癖でレイモンド伯爵のスキルを拝見しまして。その際かなり珍しい――というより、ファニーファニーでしか見たことのないスキルを所持されていたものですから」

あの時は覗けなかったが、今は覗ける。

『【獣血】Lv3』

見た目の特徴から可能性が高いと思っていたスキルを、伯爵は実際に所持していた。

「珍しいから、か……」

「ファニーファニーは目の前で異形の獣へと姿を変えました。見たことのない現象でしたし、獣人全てが所持しているわけでもないとなれば、興味を持っても不思議ではないでしょう?」

「確かにな。だが、私も知っていることはそう多くないぞ? 自分の身体に生まれもって発現していたスキルだ。伝手も使い情報を収集しようとしたが、発現事例があまりに少なく情報がほとんど出回っていなかった」

「それでも、分かる範囲でお聞きしたいんです」

俺の今後に大きく関わってくる可能性があるのだ。

頭を下げれば、少し慌てたようにレイモンド伯爵は答えてくれた。

「もちろん受けた恩義は甚大、私が知る限りのことは教えよう。そうだな……まず一つ、このスキルは先天性だ。後から何かをして取得できる類ではない」

「それは、"先祖返り"と似たようなものですかね?」

「そう思ってもらっても差し支えない。所持する【獣血】のスキルレベルと比例して、生まれた時から獣の特徴が色濃く出ると言われている」

「生まれた時から……つまり特徴が強く出ていれば、生まれた直後からスキルレベル5とかが備わっていることもあるということですか」

「あるではなく、 そ(・) れ(・) し(・) か(・) な(・) い(・) 、だろうな。この謎が多いスキルは、レベルを自ら上げることなどほぼ不可能に近いと思った方がいい」

「んん? どういうことですか?」

「生涯生まれた時に備わっていたスキルレベルのまま、ということだ。『祈祷』でレベル上昇が叶わぬことは私が自ら確認しているし、自然上昇したという話も聞いたことがない」

「祈祷でも上げられないって……そんなスキル初めて知りましたよ。もしかして、先天的な先祖返りに関係するスキルって、どれも似たようなモノなのなんですかね?」

そうであれば、ケイラちゃんの【水中呼吸】やアルトリコさんの【痛覚遮断】もレベル固定ということになるが。

「いや、先天的な種族固有――有名どころで言えば魚人種の持つ【水中呼吸】は、使用し続ければスキルレベルも上昇すると聞く。そもそも獣人種で言う種族固有スキルは、所持率の比較的高い【威嚇】であって【獣血】などではないしな」

「なるほど……」

確かに、範囲威圧の効果を及ぼす【威嚇】はファニーファニーから得られたし、その後も複数所持者がいたのか、気付けばスキルレベルは少し上がっていた。

俺自身も普通に使えるわけだし、【水中呼吸】と同じ類の性質と見ていいだろう。

となると、【獣血】とはいったいなんなのか。

まず伯爵は、このスキルを使えるのだろうか?

そう問うも、伯爵はゆっくりと首を横に振った。

「使えば人として終わる」

「……」

「【獣血】のスキルを使用すれば、自らの中に流れる獣の血を解放し、人から獣へ生まれ変わるとされている。それ以外にも常日頃から傷の回復が早かったり、生まれながら常人のソレより明らかに高い膂力が備わっていたりと、いくつか関連性のありそうな特徴もあったりするが……それが確実に【獣血】の影響なのかは所持者が少な過ぎて分かっていない」

「ファニーファニーの特徴にもそのまま当てはまりそうですけどね。"人として終わる"というのは、思考や記憶も、ということですか?」

「正確には分からぬが、強靭な肉体や身体能力と引き換えにただの獣へ成り下がると言われているからな。見ていたというのなら、獣と化したファニーファニーに自我はあったか?」

「いや、それが魔力を温存したくて、変化した直後に吹き飛ばしてしまったんですよね……」

「……そうか。スキルレベルが高いと再び人に戻れるという文献情報や噂もあったりはする。が、少なくとも私程度の"見た目"ではあまりにもリスクが高く、【獣血】は全てを捨てる覚悟で使う奥の手という認識しか持っていない」

だからか。

伯爵があそこまでボロボロになりながらもスキルを使用せず、ファニーファニーも死にかけになってようやく使用してきた理由はこれで納得できる。

自我を捨てる覚悟で使う奥の手となれば、そんなのスキルレベルが仮に自然上昇するとしても、まともに経験値なぞ稼げるわけがない。

しかし、問題はここからデバフの存在に繋がるのか、だな……

伯爵の使えないは、使えるけど危険だから使わないだ。

ファニーファニーだって実際に使用しているのだから、俺のような使えぬグレー文字とは違い、彼らにとっては 白(・) 文(・) 字(・) という認識でまず間違いないだろう。

そして使いはしないけど、恩恵を不確かながらに感じている様子がある。

ファニーファニーにも通じそうな、獣に近しいパッシブ型の恩恵を。

「奥の手という自発的な使用さえしなければ、先ほど言われていた傷の回復や力の強さなど、"スキルの恩恵"はありそうなわけですよね」

「確実ではないがな」

「となると恩恵とは逆、【獣血】があることによる障害を感じることはありますか? 例えば獣に由来しているようですから、 知(・) 性(・) や(・) 冷(・) 静(・) さ(・) が(・) 失(・) わ(・) れ(・) る(・) とか、何かがきっかけで 凶(・) 暴(・) 性(・) が(・) 増(・) す(・) 、とか」

「障害というならこの容姿だろう。先祖返りに共通しやすいことだが、特異な身体の特徴は、普通に生きていく上で大きな壁になる」

「……それ以外は、特に無いと?」

自分でも、薄々答えが分かっていながらの質問だった。

伯爵は一見荒々しい雰囲気を感じる見た目だが、貴族という立場だからこその教養なのか、接点を持てば非常に聡明な印象が強い。

この人以上に貴族らしい人物を俺はまだ見たことが無いし、獣のように本能や欲で動いている雰囲気はまるで感じられない。

「少なくとも私には無い。ファニーファニーのアレは本人の資質によるところと、あとは生い立ちの影響も強いだろう。あそこまでいけば、間違いなくただ生きることにも苦労しただろうからな」

「そうでしたか……」

その後は礼を言い、使役した魔物が警護していることや巨大商店がオープンしたことなど、新ベザートのことで少しばかり情報を伝えたのちに外へ出るも、俺の気分はスッキリしない。

『毒』の可能性を考えていた【獣血】にそれらしいデバフの影響は見られず。

まず大前提として、獣のような特徴の表面化とスキルレベルが連動しているというのに、俺の見た目は人間のまま、何一つ変わっていないのだ。

この時点で使用不可のグレー文字は当然のこととも言え、パッシブの影響も無い代わりにデバフの影響も無いと判断する方が自然だった。

となればやはり、誰よりも強くありたいと願う俺の欲から来るものなのか。

それならそれで、『我慢』すればいいだけなのだから対処が楽とも言えるが……

もしここに空白スキルが絡んでくるとなると、それこそ何も見えないのだからかなり厄介なことになる。

はぁ。

(【獣血】は無関係っぽいけど、カルラの【魔力回生】は理解していたし、一度フィーリルにも相談してみるかな……)

そんなことを考えながら、静けさの漂うマルタを後にした。