軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

394話 それぞれのやりたいことを

「我が名はゼオ・レグマイアー、魔人であり吸血人種だ。先ほどは見苦しい姿、大変失礼した。家は我が作るから安心してくれ」

「同じく吸血人種のカルラです。えーと、いつもは魔物が多いんだけど、人の装備を剥ぐ時もあるのでごめんなさい」

「ロッジだ。ドワーフで上級鍛冶師やってる。いきなりじゃビビるだろうが……ここにいたら日常茶飯事だから、とっとと慣れちまった方がいいぞ」

「アル、アルルルトリコ――」

「リコさん、名前が変わってる」

「アルトリコです! に、人間ではありますが、巨人種の血が強く出てしまっています。本に関わる仕事をする予定なので、よろ、よろしく、お願いします」

「ケ、ケイラ、です……えっと、おばあ様、じゃなくてニーヴァル様から、魚人種の先祖帰りと言われました。得意なことが何も無いので、ここで何かを見つけようと思ってます……」

「私はエニー! 凄い魔導士になりたくてここに来たから、よろしく!」

「ほぉ……」

早速ゼオが反応を示しているけど、それは後だな。

「んで、ゼオの横にいるのがゴブリンのジェネ。俺が使役している魔物で、薪を割ってくれたり力仕事をいろいろと手伝ってくれるから、何か困ったことがあったらゼオかカルラ経由で伝えてね。あとその横にいる豚は皆のペットだから食べないように」

「グア」

「ぶー」

「「「……」」」

「希望ならラグリースに隣接したベザートの町に連れてってもいいけど、ここなら変わった人達しかいないし、人の目なんて気にせず自由に過ごせると思うからさ」

「たしかに、聞いたことない種族の人達が……」

「それはそうと、今回は た(・) ま(・) た(・) ま(・) ということですが、あの光景はどういう事情が……?」

手の平で視界を塞ぎ、過剰に顔を背けながら俺に問うリコさん。

まぁそうだよね。

誰がどう見ても魔物ではなく、人の死体の山なのだから、ビビるのも当然のこと。

だがロッジが言ったように、ここに住むならこのくらいは慣れてもらわないと困ってしまう。

「あれはラグリースに攻めてきた兵士や傭兵だよ」

「これほどの数が……」

「これでもほんの一部だけどね。今のリコさんもそうだろうけど、普通は死体がそこら中に転がっていたら嫌でしょ? だから倒した敵の遺体は今回に限らず、極力回収するようにしてるんだ。身に着けている装備も再利用できるしね」

事実を説明すれば、決して直視しようとしなかったリコさんとケイラちゃんも、現実を確かめるように『山』を眺める。

だがすぐ正常な状態に戻っていたエニーだけは、この死体の山に違う感想を持ったらしい。

「ということは、ここにいる人達全部、ロキが倒したってことでしょ?」

「そうだね」

「ならやっぱり頼って正解だった。私もこのくらい倒せるように強くなりたい! 私だって大ばあちゃんやロキみたいな、みんなを守れるような人になりたいから!」

「そっか……なら、ゼオ、エニーを強くしてあげてくれない?」

「ふむ」

エニーの望む先は魔導士のエキスパートなのだ。

どう考えても俺よりゼオの方が適任だろう。

それにこういうところから、ゼオ自身の意識が変わる可能性だってある。

「ロキが教えてくれないの?」

「ははっ、ゼオは俺やカルラの師匠だよ? 今は事情があって力を回復させている最中だけど、昔は――、まぁなんていうか、亜人の総代表みたいな人になるくらいとんでもない魔導士だったって言えば分かる?」

「すごっ!」

「もちろん俺は俺でできるアドバイスはするけどさ。持っている知識量が全然違うし、早いうちからゼオに効率良く修業してもらえば、かなり強くなれると思うんだよね」

「しかしエニーは見たところ、ただの人間のように思えるが」

「そう!」

「ならば短き寿命の中で己を燃やし続ける必要がある。それほどの覚悟があるのか?」

普通の人なら怖気づいてもおかしくはない、ゼオの試すような鋭い視線。

それでも何も言わずに様子を見守っていると、エニーはほんの少しの間を置いてから答えた。

「あるよ。偉大な大ばあちゃんを超える魔導士になりたいもん。だから勉強も鍛錬も頑張る。いつか超えたってちゃんと報告できるように、絶対挫けたりしない」

「ふっ、そうか……ならば人間の子がどこまで伸びるのか、我も楽しませてもらうとするか」

「カルラ、外で魔物狩る時は必ずエニーも連れていくようにしてね。まずは最低限の土台を作るから」

「あ、ロッジみたいなやつね。いいよ~」

とりあえずこれで、エニーには潤沢なスキルポイントと、これ以上ないほど優秀な師が付くことになる。

あとは勉強の場だが――。

「リコさんの仕事場は、やっぱり静かな方が良いよね?」

「できればその方が嬉しいですね。集中して作業に入りたいですから」

「だよね~となると、ちょっと離すかな」

本の集まる場所ってなると、どうしても静かな図書館を想像してしまう。

万が一にも燃えないようにとなると、石作りの方が安全だし……それなら俺が小型倉庫みたいな建物を作ってしまえばいいか。

そう思って普段俺達のいる資材倉庫や家がある場所と、約2㎞くらいは離れた崖にある食糧庫。

その間くらいに、テニスコートサイズの倉庫を建造する。

毎度の如くやっつけ感はハンパないが、その分出来上がりまでは驚異的なほどに早い。

ついでに最低限残しておいた本棚や机を倉庫から持ってきて、ラグリースから貰ってきた本とヴァルツ王家から押収した本を全部取り出せばあら不思議。

なんちゃって図書館の完成である。

あとは乾燥用の魔道具と、光源魔道具でも用意しておけば問題なさそうだが。

「燃えると大変だから、この中で『火』だけは厳禁で。それ以外はちょっと殺風景だし、リコさんの自由にしてもらって構わないからね。倉庫にある物も好きに――、あぁ、そのうち階段作るから、それまではちょっと我慢しておいてほしいけど」

「み、見たことのない本が……こんなに……」

「どうかな? 宮殿なんかと比較されたらどうしようもないけど、このくらいの環境なら好きなことやれそう?」

「それはもう、十分過ぎるくらいで……!」

「そっかそっか。俺も本が好きで一通り自分で収納しておきたいから、まずは重複している本を確認してもらって、1種類ずつ複製品を作ってもらえると嬉しいかな。あ、これさっき買ってきた羊皮紙ね」

「もちろん、どんどん作らせてもらいますからね!」

そう言って早速本の整理に入ろうとするリコさんへ、そうだそうだと、念のために確認しておく。

「あーあと、『鳳来草』って薬の素材、リコさんは聞いたことないかな?」

「鳳来草……薬の素材、ですか……」

石化を解除させる『石解水』に必要なキーアイテム。

クアドは「どこかで聞いたことがあるような……?」と呟いたまま思い出せずにいたが、本好きで知識欲の強そうなリコさんなら何か知っているかもしれない。

そう思っての問いに、少し首を捻り―――、ハッとした様子で無造作に並べられた本の背表紙を確認。

その中から一冊の本を俺の前に差し出した。

名前は『マグリアットの悲劇』。

名前だけ見ると、どこに接点があるのかさっぱり分からない。

それでも何かあるのだろうと黙っていれば、リコさんはペラペラとページを捲り始める。

「確か後半の方に――……あ、ここです、ここ」

そして指差された箇所を二人して眺めてみると――。

登れ、登れ、天空の園。白白明けのその時に。

振れ、振れ、鳳来草。食らいに幻鳥やってくる。

獲れ、掴め、血濡れの中で。肝が王の命を救ってくれる。

なんというか、想像していた内容と違って、思わず首を傾げてしまった。

「なんだこれ?」

「聞いたことありませんか? マグリアットの悲劇という伝記の一節で、吟遊詩人の歌や演劇の基になった物語としてそれなりに有名だと、以前おばあ様から聞いたことがあります」

「へぇ~確かに、鳳来草とは書かれているね。その鳳来草を餌にしちゃってるっぽいけど」

「あ、あら? 薬ならこれかなと思ったんですけど、違ってました?」

「いやいや、これもよく分からないけど凄そうな薬だし、なんか別の部分にも凄い興味湧いたし! ただ今は鳳来草の入手先が知りたかったんだよね」

「うーん、入手先は私も見た記憶が……」

一応その手前側を捲ってみるも、この物語の主人公はなぜか都合良く持っていたようで、入手先を示すような内容は書かれていない。

肝心なところを省くとは、バカ野郎な作者である。

もしくはクアドがたまたま知らなかっただけで、そこまで希少ではないということなのか?

「もしさ、『鳳来草』の情報が見つかったら教えてよ。本当は自分で読みながら探したいんだけど、なかなか読む時間が取れなくて……ごめんね、複製品を作りながらのついでくらいでいいからさ」

「も、もちろんです! 他にも何かあったら言ってくださいね。全部覚えるつもりで頑張りますから!」

「ええ……」

恐ろしいこと言ってるけど、早速軽い足取りで本の整理を始めたので、リコさんもこれで問題なさそうだな。

あ、初めての女子組だし、とりあえずベッドもここに運んで、どうせならこの辺りに女子風呂も作ってしまうか。

そう思って湖の畔に向かうと、少し離れたところでケイラちゃんが一人、湖とその先の滝を眺めていた。

エニーは……早速ゼオとなんかやってるのか。

「良い景色でしょ」

「本当に、凄く綺麗なところですね。湖や滝って本の中でしか知らなくて、初めて見ることができました」

「あ、初めてなんだ。もしかしてさ、ケイラちゃんって泳いだことがない?」

少しだけ気になっていたのだ。

明らかに特技になり得るスキルを所持しているのに、自己紹介の時は得意なことがないと、ケイラちゃんはそう言っていた。

性格から謙虚なだけかと思っていたけど、実際に【泳法】は所持していないし、もし王都周辺で生まれたのであれば、あの辺りに泳げるほどの川は見当たらなかったはずだ。

「はい。そんな機会もなかったので……」

「なるほどね。ケイラちゃんは自分で魚人種の先祖返りって分かっているわけだし、特異なスキルが発現していることは理解しているんでしょ?」

「【水中呼吸】ですよね?」

「そそ。俺からすれば、超が付くほど羨ましいスキル持ってるんだからさ。なんなら泳いでみたら? この時期なら絶対気持ち良いし、ここはかなり秘境だから水も綺麗だよ」

「え? 羨ましい、ですか?」

「そりゃそうでしょ~【水中呼吸】があれば、息継ぎ無しで深いところまで潜ったりできるかもしれないんだよ? 魚だっていっぱい獲れそうだし」

「は、初めて言われました……そっか、羨ましいと思ってくれる人もいるんですね……」

「ラグリースにいたら、使い所が無いで終わっちゃいそうだもんね。でもここなら誰の目を気にすることなく、自由に自分の特別なスキルを活かせるよ? それで皆の晩御飯獲ってきてくれたら俺は嬉しいけどね」

「それなら私、練習してみようと思います」

「うんうん。本は後ろの建物にいっぱいあるから、見ながらやりたいことが他に見つかったんなら試してみればいいし、ここなら誰も邪魔はしないからゆっくり探してみなよ」

「はい……! それじゃ早速泳ぎの練習してみますね!」

「あまり深くまで行かないようにね~」

ポポポンと服を脱ぎ、走って湖に突撃していくケイラちゃんを見ながら、これも余計な心配なのかと頭を掻く。

たぶん溺れるという事態に陥ることがないのだから、強者であるほど死因の一つを潰せる魅力的なスキルに映ることは間違いない。

ガルグイユだってこのスキルがあれば溺死は避けられるし、あることは確実な、『海』の探索範囲も劇的に変わりそうだしなぁ……

そんなことを考えながら女風呂を制作。

湖でパシャパシャと可愛らしく練習している姿にホッコリしながら、次のやるべきことに考えを巡らせた。