作品タイトル不明
391話 着々と準備を
ズン……ズン……ズン……
「おはようございまーす」
「「「……」」」
ゾロゾロと。
丸太を持った多くの人達が見守る中、ベザートのメイン通りとなるであろう、広く幅の取られた道を突き進んでいく。
まずは周知する必要があるため、これも致し方ないこと。
視線を浴びるのは相変わらずキツいが、守ろうと決めたからには突き進むのみである。
「こ、これが、昨日言っとったAランクの魔物か……」
「そうです。分かりやすいようにある程度種類を絞ってきましたので、まずは皆さんに慣れてもらおうと思いまして」
ダンゲ町長は見上げながら、そのまま背中からひっくり返りそうになっていた。
まぁしょうがない。
回復を待ちながら3回に分けて転移させるくらい、連れてきた魔物は大概デカいからな。
――【拡声】――
「あーあー、朝っぱらから皆さんすみません。本日より『ベザート』を守ってくれる僕の『仲魔』を連れてきましたので、少しの間だけこちらをご覧ください」
すると誰一人近寄ってくることはなく。
皆がかなり距離を空けたまま、静かにこちらを見つめていた。
なんだか静かすぎて、森から聞こえてくる鳥のさえずりが妙にはっきりと耳に残る。
「えーまずはこちらが町の入り口、そしてクアド商会の入り口でそれぞれ門番の役目を担う『ギリメカラ』2体です」
『グモォ――……』
鼻を高く持ち上げた黒い巨象の、くぐもった鳴き声が周囲に響く。
一応ギリオ、ギリコと名前は付けたが、そこまで皆に伝える必要もないだろう。
「この巨体ですので見た目は怖いかもしれませんが、明らかに怪しい者が侵入しない限りは静かにしていますのでご安心を」
「「「……」」」
「次いで、町の外周を広範囲に渡って見張り、警護するのが『マンティコア』5体と『キュウキ』5体です」
『グルゥ!』
『グガァ!』
「こちらの2種は素早い上に軽く飛ぶこともできますので、森の内部から侵入した者に怪しい動きがあれば、しっかり追いかけ回してビビらせてくれるはずです」
「「「お、おぉ……」」」
「そして、いざという時の上空部隊が『ウィングドラゴン』3体になります」
『グゥォオオ……』
「目立つので基本的には地上で待機させつつ、悪党が町の中で暴れた場合や逃げた場合などは、こちらの上空部隊が本気で仕留めに掛かります」
「「「おぉ……ッ!」」」
「魔物は眠ることなくこの町を守ってくれます。悪事を働かなければ皆さんに危害を加えることなく、極力顔も覚えるように伝えていますので、皆さんも勘違いで攻撃を加えたりはしないようにお願いしますね」
言いながら横に並ぶ仲魔に目を向け、その後に皆の表情をザッと眺める。
過敏に反応する人は見当たらないので大丈夫そうだけど、これでどれほど抑止に繋がるか。
実際は人を殺すような悪党が現れたら容赦なく喰らい、それ以外の怪しいやつはビビらせろとしか伝えていないので、これで機能しないとなればきっと町長辺りから報告も上がるだろう。
市長の経験があるわけでもないのだから、あとは様子を見ながら必要に応じてやっていくしかない。
「凄いな……これがAランク魔物か」
「使役されるとここまで静かに言うことを聞くのね。食事はどうするの?」
「お腹が空いたら森の中の魔物を適当に食べるそうなので、ヤーゴフさん達は気にしなくても大丈夫ですよ。クアド達にも腐りそうなお肉があったら与えるように伝えておきますから」
「しかしこの大きさ、外部の人間はさらに怖がりそうなものだが……大丈夫なのか?」
「パルメラの入り口に『この先は、使役した魔物が警護している』と立て看板を刺しておいたので、あとはやってみてですね。もっと小さい魔物を用意することもできますけど、今はこの町の安全を最重視した選択を取っていますから」
「考えてみれば、異世界人ロキの国と知って多くはここに訪れるのだろうからな。ある程度のことは覚悟する者も多いか」
「そうであってほしいですけどね」
その後はそれぞれ配置に付く魔物の動きを眺めながらクアド商会へ。
薄暗い店内を覗けば、あとで声を掛けようと思っていたお二人も既に訪れていた。
「おはよ~って、パイサーさんに、魔石屋のお姉さんも来てくれていたんですね」
「町長から話を聞いてな」
「そういえば名乗っていなかったね。私はミザール、よろしくね~」
「こちらこそよろしくお願いします。その、ダンゲ町長からは、事情も……?」
「あぁ、売り物が被るって話だろ? 俺は気にしやしねーよ」
「私も雇ってくれるなら全然。欲を言えば魔道具の扱いにも憧れていたから、そっちも少し触らせてもらえれば嬉しいかな~」
この言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
たぶん大丈夫だとは思っていたけど、それでも直接言葉で聞いたわけじゃなかったからな。
「それは良かったです。パイサーさんには装備の修理や防具の製作なんかを今まで通りやってもらいたいですし、ミザールさんは責任者のクアドと相談してもらいながら、扱う売り物の担当を分けてもらっても良いと思います」
「いいっすよ! 魔道具は俺っちもそこそこ知ってるっすから、なんなら教えるっす!」
「それじゃ、早速いきますか。まずは余り物の魔道具から――、クアド、ここら辺でいい?」
「いいっすよ~!」
「俺達がどんどん整理していくから、あんま気にしなくていいぜ」
「「「うぇいうぇい!」」」
「了解~それじゃ余った魔道具関連を、ドンと」
「きゃー! ちょっとちょっと、見たことないのがいっぱいあるんだけど!」
「お、おぉ、おおおおお!? 結界魔道具あり過ぎぃいいいッ!!」
「あとで光源用魔道具は俺が設置するからね」
早速煩いが、ここで一々反応していては終わりが見えなくなってしまう。
まだまだやることは山ほどあるからな。
「次、魔石いくよー、ドンと」
「あヒィ!? 家一軒どころの量じゃないんっすけど!?」
「あぁっ! 魔石のお風呂で溺れちゃうぅ~!」
「……」
「次、衣類を、ドンと」
「ほごぉっ!? き、絹まで混ざってるっすよコレ!?」
「貴族の令嬢が着るような服もはっけーん!!」
「「……」」
「次、家具、ドンと」
「ぶぶぶっ!? 多過ぎだし、もしやこの色と特徴的な木目は千年黒檀じゃ……」
「やーん! このベッド凄いフカフカなんだけどー!」
「「「……」」」
気にしたら負けなのかな……
ひたすらはしゃぎ続けているクアドとミザールさんがなんだか同類に思えてきたけど、子弟関係ということならこれくらいの方が上手くやっていけるのかもしれない。
「ボ、ボス……? ちょっと、量が多過ぎやしないか?」
「何言ってるの? まだキウスの所から回収した木箱も出していないし、装備類や魔物素材、それに日用品やよく分からないものまで、たぶんこれの10倍くらいはあると思うよ」
「「「……」」」
「どう整理して売り物を管理するかは任せるから、棚を作るなりして頑張ってみてよ。お腹いっぱいどころか、余裕ある給金もちゃんと渡すからさ」
「あ、あぁ……ッ! やるぞおまえら! まずはひたすら整理整頓だー!!」
「「「うぇいうぇーーい!!」」」
そう言いながら衣類の山に突撃していったベッグ達と、ひたすらついて回り、その度に俺の背後で大騒ぎしている煩い二人。
そんな中、パイサーさんだけは他の品物には興味も示さず、倉庫の中をウロウロしていた。
「どうしました?」
「あ、あぁ。この中に炉を構えてもいいのかと思ってな」
「良いと思いますよ? 僕はもっと奥に住んでますけど、そっちに住んでいる鍛冶師は同じような倉庫内に炉を構えて、周囲を鉱物や素材に囲まれながらいろいろやってますね」
「もしかして、おまえが肉配ってた時に一度だけ現れたらしいドワーフか?」
「あれ? 知ってました?」
「直接は見なかったがな。獣人すら立ち寄らないような田舎町に、いきなりドワーフが現れたんだ。ほぼ全員が初めて見たんだし、そりゃ噂にもなるだろ」
「はは、たしかに。パイサーさんにフラれて、それで旧ヴァルツのローエンフォートにいたドワーフを誘ったんですよ」
「ケッ、言ったろ。人には優先順位があるってな」
「承知してますよ。唯一の鍛冶師であり装備屋として、ベザートのハンター達が死なないように見守ること」
「……」
「あまり過剰な装備を与えても身を滅ぼすでしょうから、誰にどこまで売るかはお任せしますが……ベザートのハンターをよく知っているパイサーさんだからできることだと思いますので、この町の装備関連は一通りお願いします」
「あぁ、任されたよ。装備類や素材関連はそこら辺にでも出しておいてくれ。クアドと相談しながら振り分ける」
「了解です」
「それとロキ、炉を造れるような知り合いはいねーか?」
「え?」
「ベザートだといねーから、前……つってもオヤジの代だが、そん時はマルタから職人を呼んだんだ。けどよ、今は向こうもそれどころじゃねーだろ?」
「ですね……」
職人というか、ゼオとロッジなら二人で造っていたのだから、連れてくればなんとかなるだろう。
だが1日2日でって感じではなかったので、どうしたって時間はかかる。
なら、試すか。
「一応いるにはいますので、連れてくることは可能です。ただ試してみたい方法もあるので、まずそちらを一度確認してきます」
「何をだ?」
「元々のベザート――、パイサーさんの家ですよ。建物は荒らされてても、炉なら生きている可能性もありそうですし」