作品タイトル不明
390話 チョロ神
「おっしゃー! 一気に整理するぞー!」
「ようやく片付くのか」
「今日1日で終わるのかよ……」
「中身の分からない木箱だらけだもんね~」
思い思いの感想を漏らしながら男4人、拠点にある10階建ての資材倉庫を見上げる。
カルラの言う通り、2階以降はキウス商会からの押収物で入り口までほぼ埋まってしまっており、その中身も大半が木箱に入っているためよく分かっていなかった。
腐ったら困るからと、食料かそうでないかを【探査】で大まかに分別して取り出したくらいだ。
「とりあえず拠点で間違いなく使わないモノは、全部ベザートの商会に運んで配ったり売り物にしちゃうから、3人ともこれは残しといてっていうやつあったら教えてよ。その方が分別しやすいからさ」
「我が必要なモノは家に置いてあるから何もない」
「ボクも欲しい服はこないだ回収したしな~」
「俺も酒と仕事場の周りをそのままにしておいてもらえれば問題ないな」
「鉄とか鉱物は?」
「どう見ても過剰にあり過ぎだろ。『 魔鉱(ミスリル) 』以下は最低限残しておくくらいでいいぞ。どうせまたおまえがどっかから持ってくるんだろうからな」
たしかに1階は溶かした鉱物の他にも、天井まで積み上がった様々な装備類がかなりの広範囲を占拠していた。
なぜこんなことになっているのか。
ギニエで片っ端から押収した時には既に怪しく、キウス商会の押収品で倉庫の収納に余力がなくなり、それでも貧乏根性丸出しで、死体まで回収しているから――。
「あ、死体もそのままだったわ」
魔力量がいきなり膨れ上がったお陰で忘れていた。
今更ながら、装備を剥ぐために傭兵連中や兵士の死体もかなり回収していたことを思い出す。
特に最後の本気組っぽかった連中は、たぶん物凄い数で収納されているはず。
「おし、それじゃ分担しよう。俺とロッジはこの倉庫内が綺麗になるまで整理。ゼオとカルラはジェネにも手伝わせるから、恒例の剥ぐ作業をお願いしたいんだよね」
「ふっ、良かろう」
「まっかせて~!」
ロッジには刺激が強過ぎて任せられないが、ゼオとカルラはついでに新鮮な『血』が飲めるからか、喜んでやってくれるからな。
早速二人もドン引くほどの量を裏庭に放出したら作業開始だ。
だいぶ余力が生まれたので、ロッジが木箱を次々とチェックしていく間に、誰も必要としていない美術品や芸術品関係と、大量に余り過ぎて意味が分からないことになっている家具類なんかはどんどん収納していく。
「ロッジ~ここに残している衣類も、石像のクッション用以外は全部いっちゃうけど、パンツは少しくらい残しとく?」
「いや、もういらん!」
「魔物素材は~?」
「何かあった時用に各種木箱1つ分くらいもあれば十分だな。ただガルグイユだけはそのまま残しておいてくれ」
「了解~魔石はそこまで使わないよね?」
「あぁ、属性魔石も今のところ必要ないから、そこにあるやつは全部持ってっちまってもいいぞ」
「必要になったらそこら辺から取ってくればいっか」
簡単に確認しながら収納していけば、みるみる減っていく資材倉庫の荷物たち。
ん~なんだかスッキリしてきてキモチィ~!
一人そんなことを思いながら木箱の中身を確認し、10分後には面倒になって全て勢い良く回収していく。
何か必要になればクアド商会から取ってくるか、この3人を直接連れていっちゃえばいいのだ、きっと。
「防具だけはやたら大量に残ってるけど、あとは必要最低限って感じになったな」
「どうせまたすぐに溜まるだろうしね。それに向こうは家を作っている真っ最中で、これから家具とか日用品とかが必要になってくるからさ」
「だったらここに寝かしておくだけ無駄ってもんか」
「そそ。あとは過剰にあり過ぎる食糧庫も整理して――、そのまま上台地の用事もいくつか済ませてきちゃうから、ゼオ達の剥いでる装備類が運ばれてきたら分別よろしくね」
「おうよ。先に飯食ってるからな!」
その後は食糧庫にも寄りつつ上台地へ。
どんどん美味しくなってきたアリシアご飯を待ちながら、横で一緒に待っているリルに今後を相談する。
「ふむ。たしかに町が出来上がれば、私が普段探索している場所とは目と鼻の先。いずれ住民にも見つかるだろうな」
「普通に狩りしたり、採取したりする人達もいるからね」
本当なら配置する魔物と一緒に、そのままベザートの警護にでもついてもらえれば一番嬉しいのだが、なんせアホな子で有名なリルである。
そのうちバレて大事になる未来しか見えないし、干渉という禁忌にも触れてしまいそうでかなり怖い。
それでも一案として告げれば、横で皿を持っていたフェリンが意外なアドバイスをくれた。
「警護じゃいろいろとマズそうだけど、誰とも接触しない監視ならいいんじゃないの? 何かあればすぐ【神託】でロキ君に知らせられるんだし」
「ほほぉ」
この言葉に、なるほどと思ってしまった。
確かに監視なら、神様の職務として常日頃からしなければいけないことだ。
それに接触さえしなければ、確定的なバレ方をすることはまずあり得ない。
その上、他国の怪しい侵入者や、もしかしたら現れるかもしれない転移者など、眠ることのないリルがすぐに連絡をくれればどちらも早期に手が打てる。
「今まで以上に退屈そうなのだが……?」
ならば当人は渋い顔をしているが、ここは多少強引にいってでも納得してもらうしかないな。
「さっき巨大な建物を川の反対側に造ってきたから、町の入り口をばっちり見渡せるような良い見張り台は既にあるんだよね」
「……」
「もし引き受けてくれるなら……そうだなぁ。今ラグリースと旧ヴァルツが戦争の影響で危機的な食糧不足に陥っててさ。俺も戦後処理と建国の絡みでかなり忙しいし、リルに魔物退治をお願いできればな~とも考えているんだ」
この言葉に、少しだけ見えている尖った耳が、ピクリと動いた。
「下の食糧庫に余っていた食材は各町に配ってくる予定だけど、それでも規模が規模だからまったく足らなくてね」
「ほう」
「本来ならカルラに任せるのが筋なんだろうけど、どうせ食べるなら誰だって美味しいお肉の方が良いでしょ? ここら辺の魔物って量は多いけど、硬い筋張ったお肉ばっかりだし」
「たしかに」
「もしリルも大絶賛のユニコーンお肉が拠点にあれば、どんなに大量でも俺が配って回れるから、お腹空いた人達だって喜ぶと思うんだけどなぁ……」
「それは、王として大事な仕事だな。うん、凄く大事だと思うぞ」
「人との接触、会話は禁止。商会の屋根の上が活動場所だけど、普通の人には見えない高さだから出入りは自由。そこで誰にもバレないように監視をしつつ、まずは様子見で1日6時間、世界の貧困を救うために魔物を狩る時間を設ける――こんなのはどう?」
「フハハッ、良かろう! 私は戦の女神、常に世界を思って動かなければならないからな!」
「ちょろ~……」
ボソッと零したのは俺じゃなくフェリン。
だが、内心同じことを思っているので否定もしない。
名目がないと魔物を斬りづらい立場とは言え、この神様、あっさり食いつき過ぎである。
「はぁ……貧困と食糧不足で多くの者達が苦しんでいるのは事実ですしね。直接的でなければ止むを得ないでしょう」
「ここにいながらでもやっぱり分かるんだ?」
「それはもう。地域がはっきりと特定できれば、教会で救いを乞う人々の悲痛な叫びくらいは分かりますから」
「そっか……」
嘆息を漏らすアリシア含め、以前までは誰もそのような声に気付けなかったのだから、これもきっと大きな前進なのだろう。
そして、教会か。
ついでだ、ここでもう一つの問題も相談してしまうか。
「その教会で相談があるんだけどさ、教会って勝手に建ててもいいのかな?」
「ど、どうなんでしょう。それは私達にはなんとも……」
「いいんじゃないの?」
「問題ないだろう。私が良いと思っているのだから」
後半二人の言葉は軽過ぎて、まったく参考にならないが。
うーん、実際はどうなんだろうな。
「アリシアが分からないとなると、やっぱり教会関係者……いや、新たに建てるならヘディン王に聞いた方がいいのか」
「教会は私が一通り対応していますけど、やっていることと言えば稀にある教会の新設に合わせて、ファンメル教皇国に『神具』を落とすこと。あとは年に1度の『六道神教祭』で<神子>から下界の情報を直接聞き、導きの言葉を与えるくらいです」
「なるほど。『神具』っていうのは黒曜板のことだよね?」
「あとは教会に置くそれぞれの神像も『神具』になりますね」
「あ~あの似たような石像もアリシアが作ってるのか……ん? 各教会じゃなく、教皇国に神界で作った黒曜板とかを毎回落としてるの?」
「そうですよ?」
「へぇ。ってことは、あの円盤と違って神具は運べるわけか」
どういうことだ?
同じ素材と思っていたマンホールは、持ち上げることも叶わず収納するしか移動方法が見当たらなかった。
だからてっきり黒曜板もその類かと思っていたが、そちらは普通に運べるという。
「神界で生み出したモノですから。それこそ、どのような属性――希望でもある程度のことは叶うのです」
「つまり、黒曜板は軽くすることもできるとか、そういうこと?」
「許されていないので私達は重さを変えたりはしませんが、その通りですね。以前ロキ君と見た円盤は、フェルザ様が持ち上げることなど不可能なほどの重さにしているか、もしくはあの地に固定されて動かせない状態だったのだと思います」
「ほ、ほほぉ……」
その二択なら、まず後者が正解だろう。
あの時重みで大地が沈み込んでいる様子はなかったのだ。
本来は空間に固定されていたものを、同じ空間に影響を及ぼす魔法を使用したことで無理やり回収してしまった。
可能性としてはこちらの方が高いように思える。
まぁ、それは関係ないから置いておくとして――、そうかそうか。
持ち運べるのなら、その気になれば楽に事は進みそうだな。
あとはやっていいかどうかだが。
「さっき願いを聞き入れて、ファンメル教皇国に『神具』を落とすって言ったじゃない?」
「ええ、そうですね」
「それって例えば、俺がベザートの新しい教会に置きたいから神具を落としてって言っても、できることなの?」
「場所さえはっきりしていればもちろん可能ですよ? ただやったことはありませんけど……」
「そっかそっか、ありがとね。あ、だいぶ焦げてきてるよ」
「んあぁあああああ! ロキ君がいっぱい話しかけるからああああ!」
ん~宗教もこういう視点で見られると面白いな。
実際に神はおり、神はできるというが、しかしやったことはないと言う。
つまり教会に関係する事柄を管理しているファンメル教皇国が、やらせないようにしているということ。
それは何故か?
当然そこに大きな金が動いているからだろうなぁ。
余計なことを言えば凄まじい混乱を招きそうだから、今は言わないでおくが……
もうそれはそれは、ドロドロとした既得権益の世界が広がっているとしか思えない。
それでも最低限、他所と足並みを揃えるべきなのか。
そんなのお構いなしに、やりたいようにやってしまうか。
(そこは金額次第かな?)
そんなことを考えながら、集まった皆にベザートと下台地。
それぞれに神具を置きたいことを伝えた。