軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

382話 報告と相談と

「ただいま~」

「おっかえりー!」

「おかえりなさい」

「その顔、少しは落ち着いてきたのか?」

「やっとね。あれ、リステは?」

「奥で家を作っているはずですよ」

気付けばすっかり日も落ちていた上台地。

いつもの場所に向かえば、アリシアの作る料理をリルとフェリンが皿を持ちながら待っており、奥にはいくつもの動物と散歩しているフィーリルが。

リアも少し離れたところで一人川を眺めていたが、リステだけは姿が見当たらない。

というか、リステはいつ来ても、ずっと家を作り続けているような気がするんだけど。

「呼びますか?」

「うん、お願い。みんなにお礼も兼ねたお土産があるからさ」

そう告げると、アリシアが人形のように生気を失い、同時に皆が集まってくる。

フライパン持ったままなので料理がどんどん焦げているけど、きっと気にしたら負けなんだろう。

「えー改めまして、今回はありがとうございました! 家や家族を失った人達も多いから、皆が整備してくれた場所はそのまま新しい村か町になりそうな感じだよ」

「リアから聞きましたよ。その、だいぶ腐りきっていた王家が一つ、潰えたと」

「うん。異世界人マリーの罠と言えば罠なんだけど、まんまとハマって隣国の財産を根こそぎ奪おうとしたヴァルツ王家は今日で滅亡。土地の管理者がラグリースって国に変わるから、これで今後はマシになってくると思うんだけどね」

「そんなに酷かったの?」

フェリンの何気ない一言。

それには頭の中を覗いて誰よりも分かっているリアが答えた。

「うん。本当に、自分達は神のような存在で、それ以外は全て都合の良い『物』くらいにしか思っていなかった」

「「「「「……」」」」」

この言葉にリアだけでなく、全員が少し沈んだような、何かを真剣に考えているような素振りを見せる。

きっと『神』という言葉から、自分が同じような考えに至っていないか。

あのクズ王と違って本当の神様なのに、そんなことを考えているのかもしれない。

うーん、これは空気を換えなきゃだな。

「ほい、まずはリアから。今日はありがとね」

「?」

「宝物庫にあった魔道具で『凄六』と『指揮棒』だって」

「ありがとう。けど、これ、何?」

そうでしょうそうでしょう。

今なんのスキルセットしてんのか知らないけど、【鑑定】が無ければどちらもよく分からん木製の長い棒にしか見えないのだ。

「『凄六』は魚が凄く釣れるようになる釣り竿らしくて、『指揮棒』はこれ持ちながら指揮を執ると、統率力みたいなモノが上がるらしい。このままでも使えるけど、本当はこの棒に自軍の旗をつけるんだって」

「……」

「あ、もしいらないなら、『凄六』の方はカルラが絶対欲しがるから、下に持っていく――」

「いる!」

そう言いながら、俺の手から2本の棒をぶんどっていくリア。

表情には出ていないが、どうやら興味はあったらしい。

「えー、次いでフェリンにはこれを。王宮の調理場にあった凄い種類の香辛料と食材。見たことないのいっぱいだから、アリシアと相談しながらいろいろ試してみてよ」

「「おぉー!!」」

石机の上に大量放出すれば、なぜかフェリンと一緒にリルまでガッツポーズしながら騒いでいる。

「リルにはこれね。王宮にあったいろいろなお酒。たぶん相当値段が高いのも混ざってると思うから、一人で一気に全部飲んじゃダメだよ」

「ふぉーう!!」

本当に分かってるのか、このエルフ神?

酒が好きなのはもう分かってきたけど、テンションの上がり方が見ていてだいぶ酷い。

それに比べたらフィーリルとリステは静かに喜んでいるので、さすが大人である。

「フィーリルには、持ち帰れるような生き物ってこれくらいしかなかったから、これを」

「まぁ、綺麗ですね~ありがとうございます~!」

言いながら原っぱに放出したのは、王宮専用の庭園にあった様々な植物。

俺に善し悪しはまったく分からないけど、かなり種類に富んだ花が咲いていたし、あのままだと黒焦げになって終わってたからなぁ。

他の生き物はとても持ち帰れるようなものではなかったので、フィーリルが大事に育ててくれるならその方が良いだろう。

「んで、リステにはこれ。押収品っていうのが申し訳ないけど、相当珍しいのと、単純に似合いそうかなって思って」

「はぅ! ロキ君……」

一人では着けられないモノなので手首につけてあげると、うん、やっぱり凄く似合う気がする。

「何これ!」

「懐中時計と宝飾が一体になったブレスレットなのかな。地球にある腕時計と用途は近いと思うんだけどね」

「わ、私のは!?」

「え、いや、こういうのは1個しかなくてですね……」

「フェリンはそこにある立派な大根でも齧っていれば十分でしょう」

「なんで!?」

「こ、今度! 今度フェリンにも似合いそうなモノがあったら持って帰るから許して!」

たぶん、ラグリースの催事場に行けば、何かしらはある。

貴金属なんてもううんざりするくらいにあったのだから。

でも目的はあくまでヴァルツの復興用財源で、今から戻って物色するのは気が引けるし、直観でフェリンに似合いそうなモノはなかったはず……

(お土産と一言で言っても、なんとバランスの難しいことか)

ぼんやり夜空を眺めながらそんなことを考えていると、背後から死にかけの虫が鳴くような、弱弱しい声が聞こえた。

「あの……わた、わた、私のは……」

「あ、ごめんちょっと考え事してた。もちろんアリシアのもあるからね。しかも大量に」

「!?」

とてもじゃないが、石机には乗り切らない。

そう思ってアリシア家の前に放出していったのは、いくつかの木箱に入れておいた奥様用道具一式だ。

大半は細かすぎて管理が大変そうだから引き取ってきただけだが、その分実用性の高そうなモノばかりなので、アリシアにはピッタリな気がする。

「高そうな食器、高そうな調理器具、凄そうな洗濯板に、掃く時、風魔法が出るホウキなんてものまで! 一通り使いこなせたら、きっと良い奥さんになれると思うんだ」

「!!? あ、ありがとうございましゅ!」

最近手を付け始めていた裁縫関係の道具がないのは残念だけど、これでしばらくはアリシアが暇を持て余すなんてこともなくなるだろう。

そのまま仕入れた食材も少し活用しつつ、以前よりだいぶ焦げが少なくなってきて普通に美味いアリシアのご飯を頂きつつ。

掻い摘んでアリシアに報告していた戦争の経緯を、順を追って皆に説明していき――。

そして今日、話に上がった『国』についても触れていく。

「良くも悪くも異世界人の名が、戦争の抑止に繋がるということか」

「ロキ君の名に悪い印象などないでしょう?」

「いやいや、身勝手に奪っていく連中にムカついたり、この戦争に責任を感じたりっていろいろあったけど、乗り込んできたヴァルツ兵や傭兵をどれくらいだろ……分からないくらい殺して、王宮も恐怖を植え付ける目的で徹底的に破壊したからさ」

言いながらリアに振れば、コクンと小さく頷く。

「兵士とか、宮殿から眺めてた人、全員顔が死んでた」

「悪い印象を好んで残したいとは思わないけど、例えば『地図』を世界に広めて経済を活性化させようと頑張る"良い異世界人"ってだけじゃ、出来上がった地図なり異世界人としての力なりを利用されて終わっちゃうんだよね」

かつてハンスさんも言っていたことだ。

よほどの強者――それこそ畏怖の対象となるくらいに絶望的な力の差を示さなければ、利用されるだけでなく食い物にされる。

結局は何かあれば自分達が危ういと思わせるほどの恐怖――、歪で理想とは程遠い気がするけど、それは現代の"核"と同じで。

あの王族のような人種を見ると、人間が人間としての欲を持ち続ける限り、この方法でしか本当の抑止にはなり得ないような気がしてしまった。

「今回の戦争にも『地図』が利用されていたのですか」

「残念ながらがっつりとね。あくまで軍の侵攻目的に合わせてって感じだったけど、それでも全てを奪われた町には、蹂躙を示すような駒が律儀に置かれてた」

「せっかく、ロキ君が世界のために作ってくれたものを……」

「……夏なのに、寒気がするんだが?」

「ちょ、ちょっとリステ! 大根あげるから落ち着いてよ!」

もう、鳥肌が、すげーんですけど。

でもこの感覚。

サヌールのオークション会場で味わった時に比べれば、俺自身が強くなったことをなんとなく実感できる。

「交易が盛んになって、地方の小さな町にも良い影響は出ているみたいなんだよね。だから『地図』のメリットだけを生かしつつ、悪用させない方法を考えた方が意味もあると思うんだ」

「つまり、地図の作成者がロキ君であると、公表することで抑止に繋げるわけですか」

「作成者を公にすると、うちの国だけは公表しないでくれとか面倒な相談事が入りそうだからさ。そっちは必要最低限にしておいて、悪用した場合は俺が王族ごと王宮を吹っ飛ばすぞって、どうせなら今回起きた事実をそのまま広めた方が効果も高いかなーって」

「うん。あんな考えの王族が他にもいるなら、どんどん吹っ飛ばした方がいい」

「えぇ!? 出来上がり次第順次公開となれば、先に自国の地図を表に出されてしまった国ほど反感を持ちそうですけど……ロキ君、どのくらいで世界の地図は完成しそうですか?」

「ん~それは大陸の規模が分からないからなんとも言えないよねぇ……たぶん今回で今まで以上に立ち寄らない狩場は増えるだろうから、順調にいけば1国1ヵ月とか、もっと短い期間で地図は出来上がると思うけど」

「ならいいんじゃないですか~? それなら数年もすれば大陸全土の地図は完成しそうですし~」

「やっと物流の動きが活発になってきたというのに、この一件で動きを止めるのは勿体ないと私も思います」

「うんうん。西側なんてちょっと離れたら、まったく別の物しかお店に並んでなかったりするもんね!」

「地図を継続して作ることには賛成するが、ロキ、その抑止を広める方法は考えているのか?」

さすがエルフ神。

なぜかこういう時だけは冷静で鋭い。

「もちろん、ラグリースが各国に発信してくれるらしいよ。王様は属国になりましたって、自分達の立場を明確にして早く安全を確保したいみたいだからね」

「なるほどな……しかし、1年ほど前はそこいらの子供と変わらなかったはずのロキが王か。本当に世の中は分からぬものだ」

「いいじゃないですか。ある程度の地位もあった方が物事の交渉は円滑に進むというもの」

「いやいや、まずはその建国っていうのがどうなのかなっていうのを、みんなに相談したかったんだけど」

「私は賛成ですよ~? ロキ君が王様となって、下にいるゼオさん達のような希少な種族を安全な場所で保護してくれれば、私はすご~く嬉しいです~」

「私も賛成です。軽はずみに与えてしまった能力のせいで苦しんでいる異世界人の方達がいましたら、可能な限りの協力はするつもりですから保護してほしいと思っています」

「私も賛成! 王妃って、ちょっと憧れるし」

「ッ!? 私が第一夫人ですが」

「いや、私も第一夫人だし」

「あ、姉はなんて言う――」

「リアはどうなのですか~?」

フィーリルの問いに、2本の棒を抱えたまま静かに座っていた黒い瞳がこちらを向く。

「いいよ。あの王のように暴走しなければ」

相変わらず、表情の読みにくい、暗く、それでいて綺麗な瞳。

狂った王の姿を見て、忠告をしてくれているだけなのかもしれないし、それだけじゃないのかもしれない。

頭の中を覗ける【魂環魔法】をセットしたまま、長く行動を共にしていたのだ。

俺が抱え始めた悩みを既に理解しているのかもしれないが……

(まぁ隠すつもりなんてないしな)

今はそもそもこの違和感が勘違いなのかどうか、それすらも分かっていない段階。

もう少し何か掴めるものがあれば、自分の身を守るためにも相談する必要がある。

そんなことを頭の中で考えながら、『初代夫人』やら『元祖夫人』と言い争っている二人に視線を向けた。

「ちなみに、王様はゼオになってもらう予定だからね」

「「「「「「えっ?」」」」」」