軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

381話 打診

場所はラグリース王国、王都ファルメンタ。

死んだ魚のような目をしたヘディン王やシラグ宰相と並び、俺は宮殿内の催事場にいた。

この広く、そして涼しい場所に、押収してきた山のような貴重品を放出すれば、忙しなく役人が分別しながら記帳、搬出を行なっていく。

「あ、この魔道具は欲しいかなぁ……」

重いものを持てるような人は各所に出払っていたので、押収してきた俺自身も手伝いつつ、興味の惹かれるモノはキープキープ。

ついでにこのくらいは手間賃としてちょっと貰っても許されるはずである。

だって現金化さえできれば、相当なお金になるはずなんだから!

「うーむ、これほどの物品をどうやって換金すべきか……」

「それはどこかのオークションで競りに掛けるとか、損害の少ない貴族に売りつけるとか……僕の仕事はここまでなので、あとは宰相が頑張ってくださいよ」

「承知しております。こうして資産価値のある物を提供していただいただけでもありがたいのです。ヴァルツの土地を手に入れたとなっても、どう金を回すかは大きな問題でしたから」

「さすがにしばらくは税収の見込みも薄い、ボロボロな国の残骸だけを押し付けるのは忍びないですからね。ローエンフォートという町にあるハンターギルドのマスターとは面識があったので、当面は食用の魔物を中心に、元ヴァルツ国内のハンターギルドに優先して卸していくと伝えておきました。もちろんラグリースにも卸しますが」

「それは助かる。ヴァルツもそうであろうが、間違いなくラグリースも食糧危機がすぐに発生するのだ。まずは民を生かさねば、何も事が進まん」

「あとルーベリアム境界の橋も、問題なく行き来できるようにはしておきましたので、先ほど転移させた人達だけでなく他にも人を送ってくださいね。見せしめの意味も含めて宮殿内にいた欲深な貴族連中は消しましたけど、ラグリース側の人間が少なければ、良からぬことを考える輩がまだいるかもしれませんから」

「あれを一人で直されたのか!?」

「へ、陛下、まずは道が繋がったことを喜びましょう。これで人はアレですが、一先ず物資は送れますから」

「うむ、そうだな……してロキ殿。物は相談なのだが……」

渋面を作りながら顔を寄せるヘディン王。

何事かと思えば、それは思いのほか深刻な問題で。

「人がな、集まらぬのだ」

「え?」

人材不足――、というよりは、旧ヴァルツ領に行きたがる人間がいないという、そんな話だった。

先ほど国の高官と呼べる人間や土地を持たない貴族を20名ほどヴァルツの宮殿に送り込んだ。

しかしその20名ほどが大きな出世のチャンスを掴もうと手を挙げた数少ない希望者であり、逆に言えばそれだけしか集まらなかったということ。

さすがに庶民のような暮らしとは違うと言えど、ラグリースと比べても大きな我慢を強いられる不安定な生活。

それに周囲は元敵国の者ばかりであり、ラグリースから満足に兵すら送れていない現状。

そして極めつきは、マリーの存在である。

俺が転移を大っぴらにしている以上、マリーもすぐにヴァルツの宮殿くらい侵入できることは明白で、王家の借金を踏み倒しているという現実が、いつ襲われるかも分からぬ恐怖と不安を駆り立てているのだと言う。

過去に武力行使の話は聞かないと言っても、それはそれ。

俺だって絶対大丈夫とは言い切れないわけだし、天下の【空間魔法】だからこそ、コレという解決方法が浮かばない難しい問題に直面しているようだった。

「なのでロキ殿の名前を貸してもらえないかと、切実にそう思っておる」

しかし、だからと言ってヘディン王が続けたこの言葉には耳を疑う。

「は?」

「異世界人には異世界人を。しかも同等の能力者であれば、尚さらに抑止の効果は強いと思うのだ」

「いやいや、言わんとしていることは分かりますけど……でもそれって僕がラグリースに属せとか、そういうことでしょう?」

そう告げれば、すぐにシラグ宰相が首を振る。

「滅相もありません。そもそもここまでのことをしてもらっておいて、"下に付け"などという発想を持つ方がおかしな話ですから」

「では、どういうことで?」

「先日、ロキ殿は最南にあるベザートの町民が、避難のためパルメラ大森林の内部に移り住むかもしれないと、そう話しておりましたね? だから目を掛けてほしいと」

「えぇ、そうですね」

「ですが、現実的には難しくもあります。パルメラは我が国の領土ではありませんから」

「あぁなるほど。でもそれなら、広げれ――」

言いかけて、言葉を止めた。

それこそ、今のラグリースには難しい問題だ。

「南部から東南にかけてはレイモンド伯の領地。平時であれば開拓による拡張もやってやれないことはないでしょうが、領土内の多くで壊滅的な被害が出ている以上、その余裕はまったくありません」

「それは、たしかにそうですね」

未開拓の魔物の巣と、元あるベザートの復興とじゃ、そりゃ内容がまったく違うわな。

国も、ゴリラ伯爵も、今はそんな余裕がないというのも当然のこと。

「そしてロキ殿は未だどこの国にも属していない――、というより、私の勘違いでなければ"どこにも属したくない"と、そのようにお考えではないかなと推察します」

「だからな、ロキ殿」

ここでヘディン王が、いつになく真剣な表情で語りかける。

「そのパルメラ内部に作られているという町は、ロキ殿が自身の領地として管理されてはどうだろうか? 新たな国の王として」

「へ?」

「深くは詮索しませんが、かつて南部からこの王都へやってきたロキ殿にとって、ベザートは思い入れのある町なのでしょう。移住先とは言えその町をご自身で守られるとなれば、何よりも住まう町民が一番喜ぶかと」

「いやいや、国って、突拍子もないこと……」

「手付かずの未開拓地を切り開き、人の集う村を作りて国とする――これは我が祖先、初代ラグリース王がやってきたことだぞ?」

「……」

「建国した場合、一番の障害となるのは周囲の隣国がその存在を認めるかどうか。だが、その点は我が一も二もなく承認するのだから文句の言われようもない」

「だから、名を貸せと、そういうことですか?」

「少々勘ぐった捉え方をしているようだな……我らもその移住する者達と同じ。『属国』としてロキ殿の庇護下に入れてほしいと、そう思っておる」

「これならロキ殿の手を煩わせることなく、名は借りられると思いますので」

「属国って……」

二人に視線を向ければ、その目は真剣そのもの。

分かってはいたけど、冗談で言っているような話ではないことなどすぐに分かる。

蛻(もぬけ) の殻となった旧ヴァルツ王宮を潰した時は、知らしめる意味で徹底的に破壊した。

それは報復や余計な悪巧みなど考えられぬよう、萎縮させようという狙いからやったことであり、ヘディン王やシラグ宰相が求めているのも、きっとそれと同じようなこと。

今の弱りきったラグリースでは、他所から何をされるか分からず、また対処する余力がないのも事実なわけで。

だから名を借り、安全を買おうとしているのは分かる。

「同盟国ではなく、属国を望む理由はなんですか?」

だが、仮に俺が国を興したとして、いきなり属国を望むのはさすがにやりすぎではないだろうか?

そう思っての問いだったが。

「この度の戦で、同盟という仕組みに疑念を抱いたというのもある」

「あぁ、援軍どころか、ジュロイからは裏切られましたもんね。それにヴァルツも結局は、同盟国であるフレイビルから大きな援助は得られなかった」

「我は覇王になろうなどとは露ほども思わない。弱腰と言われようと、国と民の安寧を何よりも求めたいのだ。だから――」

「……」

「より関係性の強い『属国』と世に公表し、ロキ殿の名を利用させてもらいたいと、正直に言えばそう思っておる」

この時、姿形は全然違うのに、なぜかヘディン王とばあさんが重なったように見えた。

そういえばそうだったな。

この王様は元から戦争なんて全力で避けたい人で、平和を望むばあさんも争いごとは避けられるなら避ける。

そんな考えの人だった。

……そうか。

きっと始めからこの着地点を考えていたから、わざわざ大勢の家臣を集め、その前で王が 下(くだ) るような姿勢を見せつけたのか。

「こんな場所で作業しながら凄い話してますけど、属国なんて反対する人とかいないんですか?」

あまりにも明け透けな告白に対し、苦笑いしながらそう問えば、ヘディン王もニヤリと笑いながら答える。

「普通なら猛反対で国が割れるほどの話にもなろうが、ロキ殿の助力が無ければ確実に国が潰えていたのは皆が分かっていること。それにロキ殿は未だ対価すら求めぬような男なのだ。属国だからと言っても無茶な要求はせぬと皆が思っているだろう。ただ悪事を働いていた者は戦々恐々としているかもしれぬがな」

「はは、人に迷惑を掛けるようなことはするなというくらいで、他に僕が求めることはありませんけどね。あーでも、ばあさんとやっていた本の取引くらいは継続したいところですけど」

「その程度で済むのなら、抱えている蔵書くらい全て―――」

降って湧いたこの話に、土地は拠点ほどもあれば十分と思っている自分がどうしたいのか。

ベザートの人達の意見だってあるだろうし、はっきりとした考えは定まっていない。

それにゼオ達や女神様達にだって相談する必要がある。

(国を興すか……)

あまりにも現実感が無さ過ぎるせいで、いろいろな考えが浮かんでは消え。

そんな中で作業をしながらいくつかのお土産を手に入れ、俺は拠点の上台地に帰還した。