軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

375話 戦況報告

ロキがヴァルツ王国の主戦力を壊滅させてから2日後。

ラグリース王国の王都ファルメンタ――その中心部にある宮殿内では、各方面からの被害状況が続々と寄せられていた。

「北は一部に城壁の被害が出た程度で、西と南はまったくの無傷。それに東も浸水の被害は出ているが、建物の損壊はまるで無しか……」

現ラグリース王――ヘディン王が、信じられないといった様子で卓上の木板に目を通していけば、それらの報告を一手に引き受けていたシラグ宰相が言葉を返す。

「東は街道を塞ぐように競り上がった巨大な崖が存在しているようですが、時間を要するというだけで解決できないほどの問題ではございません」

「民の戻りは?」

「まだ1割ほどかと。兵が被害状況の確認も含めて各地を回っておりますので、増えてくるのはこれからでしょう。しかし、一部はもう……」

「分かっておる。ジュロイに渡った者達も当然いるだろうし、その者達の行動を責めることなどできん」

そうは言うも、ヘディン王の表情は憎々し気なものへと変わっていく。

それは民にではなく、思わず口にしてしまった隣国に対してだ。

結局同盟国である西のジュロイ王国、そしてトルメリア王国からは、ただの一度として援軍に関する返答は得られていない。

不戦の通告すら寄こさないというあまりの不義理に、その事実を知らぬ民は別として、国の上層部は一様にして西側同盟国への悪感情を大きくしていた。

だが、今はそんなことなど二の次だ。

何よりも優先して、甚大な被害を受けた国の立て直しが迫られている。

「南部から、追加の報告は?」

「先ほどレイモンド卿から一度だけ。吉報と凶報がそれぞれございました」

「……吉報から聞こう」

「一つはマルタの東部で、被害の出ていない村や町をいくつか発見したと。他領ではあるようですが、安全を確保するために派兵したとのことです」

「よし、ラディットの読み通りだな。敗走したヴァルツ兵の殲滅と並行しつつ、北部から東部にかけては、町や村の損壊度合いを確認。移住者をすぐに送れる状況なのか、各領主の安否確認も含めて調査を進めろ」

「はっ。そして凶報ですが、マルタの西部――オーバル侯の領土から、マルタに避難してきている者が一定数いると」

「オーバル領……ジュロイとの国境付近ということか?」

「そういうことになります」

「……」

この言葉に、シラグ宰相は当然として、ヘディン王も何が起きているのか。

おおよその事情は察するも。

「……足らないな、何もかもが」

目頭を押さえ、唸るように本音を吐き出す。

被害の状況からすると、国土の約半分近くを踏み荒らされ、その地に住まう多くの民も失ったのだ。

急ぎ兵を送る程度のことはできるが、いざジュロイ王国との戦争にでもなろうものなら、間違いなくラグリースに耐えられるほどの体力は残されていなかった。

それに要の戦力であり、国の柱とも言える人物はもうこの世にいない。

ヘディン王はゆっくりと、祭壇前に安置された"石壺"に視線を向ける。

「未だあの異世界人――ロキ殿は顔を見せぬのか?」

「そのようですし、ハンターギルドのジェネラルマスターオルグ殿も、どこにいるのかまでは分からないとのことです」

「そうか……」

人骨の入った石壺を受け取ったのは、異世界人ロキと面識があるという宮殿の門兵だった。

まだ戦時の只中となる2日前。

早朝の宮殿に現れた異世界人は、中身の人骨がニーヴァルのモノだと告げ、どうしても介錯でしか救える方法がなかったこと。

そして王都の主要戦力は全て潰し、残った兵が広範囲に敗走していることを告げて去ったと言う。

「平時の様子を知っている兵が、"どこか様子がおかしかった"と報告しているのですから、心身共に相当な疲れが溜まっていたのでしょう」

「当然だろう……南部の司令官や傭兵連中を一掃してマルタを救い、そのまま王都に攻め込んでいた全ての兵や傭兵を相手取ったのだ。しばらく身体を休める必要もあるだろうが、宰相、分かっているな?」

「もちろんです。もし立ち寄られるようなことがあれば、最上級の国賓として迎え入れるよう伝えております」

「我らが英雄に救いの手を差し伸べ、遺骨まで届けてくれたのだ。それだけでも感謝に堪えん」

ニーヴァルに託した呪具とも言える装備の末路を把握していたからこそ、ヘディン王は介錯による救いにどれほどの意味と価値があったのかも理解していた。

重臣の一人は、最初から救いにきてくれればニーヴァルは助かったなどと宣い、かつてないほど激高した王にその場で首を斬られていたが……

そんなことをしていては南部が壊滅し、兵が早期に北上していたかもしれないのだ。

ニーヴァルが東の地で何を成したのか、その答えは異世界人にしか分からない。

だが間違いなく、身を賭して時間を稼いだからこそ、無傷に近い形で終わった今の王都がある。

そのことを胸に刻み、未だ予断の許さぬ状況をどう切り抜け、ヴァルツに落とし前を付けさせるか。

忠臣の命を無駄にしないためにも、宰相との協議は夜遅くまで続いた。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「だいぶ、マシにはなってきたかな……」

ヴァルツの主要戦力を潰してから4日か、5日か、それとももう少し経ったのか。

ゼオ達がかつて眠っていた亀裂内の洞窟にひたすら引き籠っていたので、時間経過はなんとも曖昧だが、『毒』がだいぶ抜けてきたような感覚から一度マルタの上空に移動。

そこでヴァルツ軍がいなくなっていること。

そして復興作業を進めているマルタの住民を見ても、良からぬ感情が込み上げてこないことにホッと胸を撫で下ろす。

ヴァルツ軍の多くを潰したあの時は本当に何かがおかしかった。

直観的に強者のオルグさんと会うのはかなりマズいと感じ、渡す予定だったばあさんの遺骨を宮殿にいる門兵に預けたけど、それでも"生きている人"を見るだけで応えるものがあったのだ。

ただの『欲』とも少し違う気がする、『反動』のような――、奥底から湧き上がる黒い感情はなんだったのか。

本当はすぐに帰りたかったけど、ゼオ達はもちろん、女神様達にも情けない姿を曝すだけだったので、拠点に戻らなかったのは正解だったと。

そんなことを思いながら、ラグリースの主要箇所に転移。

一通りの状況を確認した後、俺はベザートの人達がいるパルメラの一時避難場所に向かった。

「あ、探しましたよー」

「ロキか。ふむ……鎧の破損は目立つが、見る限り大きな怪我はなさそうだな」

場所は広場の中心地からやや外れた箇所。

目的のヤーゴフさんは木板を片手に、指を差しながら何かの指示出しをしていた。

「驚きましたよ。なんかちょっと町っぽくっていうか、綺麗に区画を整理して家を建てようとしてるんですね」

「戦争の結果如何によっては、このままこの地に住み続ける可能性だってあるし、流れついた避難民はベザートに住む家もないからな。戦えない者達ほどこの資源をどう有効活用させてもらうか、知恵を出し合っているわけだ」

そう言ってポンポンと叩いたのは丸太で、女神様達が空地を作り出した時に生まれた木材や石材は、まだまだ鬼のような量が山積みされていた。

何かに使えるかもと思って女神様達に頼んだのは俺だが、精々雨避け用の資材くらいに考えていたので、ここまで本気で取り組んでいるとはビックリである。

「それよりも戦況はどうなのだ? こうしてロキが現れたということは、ただの様子見ということもないだろう?」

「その通りでして、とりあえずヴァルツの負けはほぼほぼ確定ですかね。主要戦力を失い、多くの兵は敗走しています」

「ほんとかよ? それじゃもう町に戻っても大丈夫ってことか?」

丸太を肩に担ぎながらそう問うたのは、たまたま近くにいた、50年は顔を忘れないと誓った気がする靴屋のオヤジ。

なんだなんだ、靴屋なのに随分とパワフルだな。

「ん~そこが微妙なところなんですよね。各所を見て回りましたけど、敗走した兵がまだチラホラと動いてるんですよ。『ルーベリアム境界』が壊されていたので、大半は野垂れ死んで動物や魔物の餌になってましたけど」

「ケッ! 自業自得だぜ、まったくよ」

「逃げ道すらなくなるとは哀れなものだな……町は――、ベザートの様子はどうなっていたか分かるか?」

「残念ながら、家屋の倒壊や荒らされた痕跡は多数見受けられました。あとは周囲に広がる畑の損害もですかね」

「敗走して飢えに苦しんでいるとなれば、当然そうなるか」

「あとはこのまま終戦という判断をしていいのか、そこもかなり微妙です」

逃げている連中はラグリースの兵が追っているのだから、そう時間も掛からずケリはつくはず。

なので厄介な問題はこっちの方だな。

「……『ジュロイ』か?」

「はい。南西部の土地が一部、ジュロイの領土に切り替わっていました」

「……」

ちょっと独特の表現をしてしまったなと思うが、これ以外に伝えようがなかった。

たぶん俺だけが分かること。

【地図作成】スキルを通して見れば、以前作った地図との比較でどう変わったのか、すぐに判別することができる。

同盟国であるにもかかわらず、漁夫の利を得ようと動いた。

そして今、予定と違う状況になってきており、どうするか迷っている――たぶんそんなところだろう。

「情報では盗賊に扮している、もしくは盗賊を雇って事に及んでいるという話ですし、上空から眺めても目立つ兵の動きは見当たりません」

「ラグリースの敗戦が濃厚と見て掠め取ったつもりが、ロキのおかげでまさかの結果になってしまった。となると、ここから知らぬ存ぜぬで元に戻すか、それとも好機と見てより多くを奪いに来るか……可能性としては前者の方が高そうだが、こればかりは分からんな」

「ラグリースの東側半分はボロボロですけど、王都はほぼ無傷で済んでますし、情報の取り方次第かなーと。なのでまだベザートに戻るのは危険じゃないかなって個人的には思います」

「町も畑も荒らされているのなら、急いで戻る理由も見当たらないしな。ちなみにロキ、ジュロイの動きを国は知っているのか?」

「ゴリラ――、じゃないレイモンド伯爵は感づいているっぽかったですけど、国はどうなんですかね。他にも伝えることがあるので、しょうがなく。本当~にしょうがなく、これから行ってこようとは思ってますけど」

「くくっ、そうか、ならば行ってこい。こちらは用意してくれた手厚い下地のおかげで滞りなくやれている。ここなら目の前に川があるおかげで、子供たちも食糧調達に協力してくれているしな」

そう言われて視線を川に向ければ、数人のじいさんばあさんが見守る中、多くの小さな子供達が釣りを楽しんでいた。

他にも畑を作ろうとしている人達や、森をさらに切り開こうとしている人達。

奥の方ではホーンラビットを解体している人達なんかもおり、皆が皆、やれること、できることでこの避難生活を支え合っているのなら、俺が取り急ぎ何かをする必要はなさそうだ。

(ただまぁ川も近いし、落ち着いたら男女別の浴場くらいは作ってあげよっかな?)

そんなことを考えながら、俺はジュロイだけでなく、ヴァルツの後々を相談しに宮殿へ向かった。