軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

359話 7位を求めて

さて、どうしたものか。

南門付近にある城壁に上り、マルタの状況を把握しようと周囲を眺める。

上空からではなく、もっと近場から。

人の表情や動きが分かる距離で見たかった、それが理由だ。

悲鳴や怒声は相変わらずだが――。

「この辺りはヴァルツ側が押されてる? っていうか、これはもう後退してるのか?」

近くで見れば、現在の戦況もなんとなくだが見えてくる。

東は潰した。

それに南も。

兵士の情報を整理すれば、これで手に負えなさそうな連中は、行方知れずの7位を残すくらい。

傭兵も残り50人くらいは市街戦に混じっているようだが、戦力的にはD~Bランクの中位ハンタークラス。

それならマルタに元からいるハンター勢や、オランドさんを含む東の生存者達でも十分対処は可能だろう。

それでも俺がこの市街戦に混ざるべきか。

以前にも同じようなことを考えた気がするな。

悪いのは命令で動く兵ではなく、駒として動かし戦争を実行に移している上の者達。

個人的な考えではあるが、未だこの気持ちは変わらず、だからこそ俺自身が手を下すことに躊躇いを感じてしまう。

好んで戦場に立ち、人に斬りかかる傭兵連中みたいな存在も中にはいるのだろう。

そんなやつらばかりであれば、気を遣わずに済むから楽なものだが……

望まぬままここに立っている連中もいるんだ、きっと。

何かを守るために武器を握る、明らかに子供と分かるマルタの町民を見て見ぬ振りするヴァルツ兵士。

自分達が攻め込んだ敵地だというのに、怯え、逃げ惑う、そんな人達の顔を見ていると、なんとなくそんな気がしてしまった。

はぁ。

この状況、どうしたものか……

「し、失礼、ロキ殿でよろしいでしょうか?」

声は、城壁の上から。

ラグリース側の兵が数人見張りに立っていることは知っていたが、それとは別。

やや豪華な鎧を身に纏った兵士が俺を見つめていた。

この兵士に見覚えはないが……なぜ、俺の名を知っている?

「そうですが、なにか?」

「いえ、その、レイモンド伯爵がお呼びでして。ご同行願えないかと」

「あぁ、さっきすれ違った人ですか」

貴族は好みじゃないけど、あの時お礼をするようなことも言っていたしなぁ。

それにボロボロになりながら、それでも自ら一番強い連中と戦っていたのだから、オーラン男爵のような底が見えないほどのクズ貴族とは違うのだろう。

なら、いいか。

同意すれば、その兵士は城壁と繋がっている塔の中へ案内してくれた。

中には階段があり、一度下に降りるのかと思ったがそうではないらしい。

そのまま見張りの立つ、少しだけ下がった所に存在していた扉を開ければ、簡易的なベッドの上にはゴリラ町長が。

その横には伯爵がなぜか地べたに座り込んでいる。

普通逆じゃないの? とは思うけど、ファニーファニーと戦ってたのは町長だし、どう見ても町長の方が死にかけだったしな……

ん~このお爺ちゃん。

目つきは鋭いけど、分別をわきまえた良い貴族なのかもしれない。

「レイモンド伯爵、連れて参りました」

「あぁ、先ほどは、ろくな挨拶、もできず、済まなかったな、ロキ」

「いや、そんなことはないですけど……町長もお久しぶりですね」

なぜこの兵士はゴリラ町長に向かって話しかけ、ゴリラ町長は当然のように最近言葉を覚えましたくらいの勢いでしゃべり始めているんだ?

あ~ほら、伯爵の目つきが鋭い。

これはもう、絶対怒ってる。

この兵もやらかしたのを理解したのか、愕然とした表情でこっち見てるし。

いやいや、俺のせいにするんじゃねーよ。

「ぬう、すまんな。そういえば、リプサムでは、そんな"設定"を、作って、いたか」

「は?」

「ご自身で撒いた種、こればかりは勘違いされてもしょうがありません」

「以前に名だけは、名乗ったと、思うが……俺が、レイモンドだ。この地の領主を、伯爵を、やっている」

そう言われれば、たしかにあのお食事会の時に『レイモンド』と名乗っていたような気もする。

となると――あぁ、そういうこと。

この目つきの鋭いおじいちゃん、どこかで見覚えがあると思ったら、町長の背後に立っていた執事の人か。

「ってことは、町長――伯爵はジルガ・レイモンドというお名前で?」

「実際は、もう少し長いが、まぁ、そうだ」

なるほどね。

これでスッキリはしたけど、いやしかし、大丈夫か?

あのお食事会で、貴族に対してだいぶ失礼なことを言いまくった気もするが……うーん。

まぁかちこちに畏まった喋り方までしなくても良さそうだし、こちらに非がないなら気にしなくていいか。

「ロキ、いくつか、確認して、おきたいこと、がある」

「はい?」

「戦闘は、見させて、もらったが、あの二人は、死んだ、のか? 本来あるべき、死体がここから、では、見当たらない、ものでな」

言われ、視線の先に目をやれば、明らかに見張り用。

もしくは複数あるので、矢や魔法を放つ用と思われる小さな小窓が。

なるほど、あそこから見ていたわけね。

「それでしたら、確実に二人は死んでますよ」

「そうか……本当に、良くやって、くれた。命を救われた、身として、個人的にも、そして、領主としても、礼を言わせて、もらう」

寝ていてつらいだろうに、そう言いながら、わざわざ身体を起こして頭を下げるゴリラ伯爵。

同時に震えながら立ち上がり、剣を支えに頭を下げてくる執事の爺さんを見ると、この人達は真っ当だろうなという印象を強く持たせてくれる。

ならばいいか。

戦闘を見られていたのなら、魔力の色などバレバレもいいところ。

それにさっきからゴリラ伯爵の声が聞き取り難いしな。

『全身の、傷を、癒せ、オールヒール』

二人にそれぞれレベル6の単体【回復魔法】を使えば、伯爵は出血が完全に止まり、露出していた内部の肉を隠すように表面の皮膚が形成されていく。

医者じゃないから分からないけど、ちょっと傷が浅くなってるし、これで多少は痛みもマシになるんじゃないのかな。

「す、凄い……これはもしや【神聖魔法】ですか?」

「いやいや、【回復魔法】ですね。今は魔力の消費を抑えたいので、とりあえずはここまでで。この戦争が終われば、その傷も治せるか試しますから」

「「「……」」」

一人だけローブを身に纏い、ベッドの横で伯爵を見守るように座っているんだからヒーラー職の人か。

足元にポーション系でよく見る空の小瓶がいくつも転がっているので、伯爵の治療ともなれば死ぬ気で頑張っていたんだろう。

たぶんスキルレベル――というよりは、知力のステータス値に差があって、効果が全然違ったんだろうけど……

「すまない。これほどの回復も行えるとは、驚きで言葉を失っていた。重ね重ね感謝する」

「いえいえ、声が聞き取りやすくなりましたし、このくらいなら問題ありません」

「ちなみに、街の東側もロキが制圧したのか?」

「ですね。あの場にいた傭兵連中は全員死んでます」

「やはりか。こちらの、マルタ側の生き残りは?」

「ん~約20名ほどですかね。残念ながら遺体もそれなりにあったので、その場にいたギルマスのオランドさんと、リーダーっぽい盾職の人に預けておきました」

そう伝えると、一瞬ゴリラ伯爵は表情を曇らせるも、すぐ気を取り直したように首を振った。

「そうか……いや、上出来だな。何割かは街の防衛にも参加しているのだろう?」

「だと思いますよ。後衛職の人達は魔力切れが近そうでしたけど、それでも皆さん街の防衛に回るって言ってましたから」

「ならば敵兵の掃討は時間の問題。あとはどこまで被害を抑えられるか、だな」

「ただ7位の行方がまだ分かっていませんけど」

この言葉に伯爵の白い眉毛がピクリと上がる。

やっぱりか。

盾持ちのおじさんが言っていたように、伯爵もこの情報を掴んでいない。

「どういうことだ?」

「ヴァルツ兵から証言を得ているんです。南部侵攻の部隊に配属された傭兵は約100名ほど、その中で一桁ランカーは3人いると」

「……モーガス、何者か、その特徴は分かるか?」

「順位だけでは変動もしますので、なんとも。ロキ殿、何か特徴はご存じですか?」

「えーと、弓を得意とし、大型の鳥を従えていると聞いていますね」

「なるほど……ならばユークリッドで間違いないでしょう。超長距離射撃を得意とする弓の名手で、様々な属性の"魔矢"も使いこなすはずです」

「上空からの射撃を、矢の補給も無しに行うということか」

「既知の情報から推察すれば、そのような戦闘形態になるかと」

「「「……」」」

まぁ、そうだろうな。

この部屋は伯爵と執事だけじゃない。

ヒーラーの人もそうだし、護衛や見張り役として兵士も10名近くはいる。

その者達からの視線は一点に俺へ。

な(・) ん(・) と(・) か(・) し(・) て(・) く(・) れ(・) と、そんな無言の圧を強く感じてしまう。

空からの一方的な狙撃なんて、こちらも飛べなきゃ建物の中に避難するくらいしか対処のしようがないだろうしなぁ……

だがそんなことをしていたら、ヴァルツ兵がどんどん街を破壊し、こちらの戦力は削られていく。

「ロキ」

そんな中で、伯爵から呼ばれたのだ。

「俺のように責務があるわけでもなしに、これまで加勢してもらったことは十分感謝している。が、無理を承知でお願いしたい」

言わんとすることは分かる。

「この7位を討ってもらえないか? この状況だ。すぐとはいかぬやもしれんが、相応の礼はさせてもらう」

しかし、それは敵の所在が分かっていればの話。

「もちろん、僕もその7位は討ちたいと思っています。ただ、あまり時間は掛けられないんですよ。ここだけではないので」

「そうか……王都だな?」

「えぇ。ばーさん――ニーヴァル様とは個人的に付き合いや取引もありますし、中央の侵攻部隊はさらに規模が大きいと聞いていますから。分断させるために、街を攻める日取りまで合わせてきてるんですよね?」

「ヴァルツ兵の進行に問題が生じていなければ、王都も今頃は防衛戦の只中だろう。規模はここの4倍、まさに総力戦と聞いている」

「なら僕は行きますよ。魔力が心許ないので、回復させながら7位がいないか、もう少しこの街で様子をみようとは思いますけどね」

「それだけでも有難い。ユークリッドも動くなら、ヴァルツ側の戦況が大きく傾く前にと思うだろうからな」

「先ほど回復していただいたお陰で私もまだ戦うことはできましょう。仮にロキ殿が発った後に現れたとしても、ノディアス殿と共に耐えることは可能かと存じます」

「よし、ならば陣頭指揮はモーガスとノディアスに任せる。不可解な狙撃があった場合は、すぐに情報を上げるよう――」

ワタワタと動き出す場。

さすがに手足が欠損だらけの伯爵はまだ動けないらしく、備蓄として少し残っていた魔力ポーションを貰い、そいつを飲みながら俺は1~2時間ほど休憩も兼ねた護衛待機ということになった。

とは言っても7位に俺を見つけてもらうため、そしてこちらも見つければすぐに動く気なので、待機場所は屋根のない城壁の上。

部屋は十分感知系の範囲に入っているのだから何も問題はない。

「これが一番良かったのかもな」

街や空を眺めつつ、誰に聞かせるわけでもなくボソりと呟く。

ここがもし"ベザート"や"拠点"であったならば、それらは全て俺の大事なモノを奪おうとする『悪党』に映るが、マルタであればそれは過剰な加勢だ。

俺に敵意や殺意を向けるでもない、ただの兵士まで好んで殺したいとは思わない。

それにこの町は、個人で何かを成そうとするには広過ぎる。

(最後に軽く掃除をすれば、それで十分だろ)

そう思えている自分自身に少しの安心感を覚えながら、7位の所在を求め、少しずつ夕暮れに近づいてゆく街を暫し眺め続けた。