軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

360話 二択

時刻は夕暮れ前。

腹のタプタプ具合を気にしながらマルタの中心地に向かえば、その人だかりからすぐに臨時本部のような場所を把握することができた。

捕虜を捕る気がないのか、周囲に生きたヴァルツ兵は見当たらず。

上空から見ても戦いは中央より西側で多く起きており、それなりに東部の掃討は進んでいる様子が見て取れる。

重火器は見当たらずとも、魔法や特異なスキルがあるこの世界。

街の規模が違うということもあるのだろうけど、俺の思い描く地球の戦争よりかはだいぶ展開が早いような気がした。

「モーガスさん、あれから2時間近く経ったと思いますけど、どうですか?」

降り立ってそうそう、指揮を任されていたモーガスさんに尋ねれば、険しい表情を崩さずに答えてくれる。

「これを良しと捉えるべきなのか、目立つ狙撃の大規模被害というのはまだ上がっておりません。未だ潜伏しているか、もしくは居ないか。そのどちらかかと」

「そうですか……ん~でも、後者なんてあり得ますかね?」

傭兵連中は皆、俺を倒すことで得られる『特別報奨』とやらに大きな反応を示していた。

それこそハンター達にもみられる、 命(・) を(・) 懸(・) け(・) る(・) に(・) 値(・) す(・) る(・) ほ(・) ど(・) という印象だったが、モーガスさんからすればどうやら違うらしい。

「ファニーファニーが敗れたという事実を把握しているならば、"逃走"という選択もあり得ましょう。いくら報酬に魅力があろうと、勝てる見込みが無ければ意味は無し。兵とは違い、個人の損得で動く傭兵はその判断も早いものです」

このように言われ、たしかにと納得する部分も出てきてしまう。

東の傭兵連中も俺の戦力が未知数だから戦っていたような節があるし、明らかに不利と判断するや、【神聖魔法】を所持していたあの狐獣人は物凄い勢いでトンズラしていたしなぁ。

7位ならばまず来るだろうと思っていたけど、敵対しないとなればしょうがないか。

「では、もう一人は?」

「『槍覚のアトナー』は西の城壁付近で姿を確認されております」

「なるほど、こっちはまだ生きているわけですか」

「恐らくは。なので予定通り、ぜひお願いしたく」

そう、これは予定として決めていたことだ。

この無駄に多過ぎる軍と傭兵連中を引っ張ってきた親玉は別。

主要な上位傭兵が死んだこの状況でもなお退かずに戦っているのだから、俺からすれば今までとは違った意味での『 悪党(バカ) 』に映ってしまう。

司令官と言っても結局は国からの指示を強く受けているんだろうけど、ソイツが退かないから両陣営の死者が膨れ上がっているわけで、だったらそんなヤツにはとっととご退場頂いた方が良い。

それは伯爵も同じ考えのようで、ヴァルツ兵を西に押し返していく中で撤退の気配がないなら頼むと、ある種依頼のような形で請け負っていた。

「分かりました。南部の親玉を潰したら、僕はそのまま王都に向かいますので――」

言いながら、周囲にいる人たちに目を向ける。

片目に布を巻き、槍を握ったオランドさんに、盾を持った渋いおじさん。

東で戦っていた人達もまだ多く残っているし、後ろの方には他のハンター達に混じって汗だくで座り込んでいるイーノさんとラランさん。

それに救護所のような場所ではアマリエさんが今も必死に何かの作業をしていた。

「――皆さん、頑張って」

そう言い残し、俺は西へ飛ぶ。

無責任と感じ取る人がいようとも、このくらいの言葉しか掛けられない。

親玉をやったら軍は退くのか。

それはやってみなければ分からない――そうゴリラ伯爵も言っていた。

それほどまでに、ヴァルツはこの戦に何か大きなモノを賭けているのだろうとも。

退くか退かないか、そして親玉を潰したとしても、その後を引き継ぐ者が現れるのか。

本当は確認した方が良いのだろうけど、さすがにこれ以上の時間は掛けられない。

ここまで展開が早いのなら、なおさらに。

「こんにちは」

でもせめて、末端の兵士では知り得ぬ、戦争に至った経緯くらいは聞いておきたい。

そんな理由から目の前に降り立てば、他とは違う。

黒みがかったプレートアーマーを身に纏った男は、混乱する様子もなく俺を見返していた。

槍を地面に突き刺し、腕を組みながら、まるで分かっていたと。

覚悟を決めているような、そんな顔。

それはアトナーを挟むように立つ、二人の上位階級であろう兵士も同じで。

「人は見かけに寄らぬというが、本当に子供の姿なのだな」

「……」

「東で足止めしていたはずの上位ハンター達も街の防衛に回ったと聞く。ファニーファニーだけでなく、東部も貴様の仕業か?」

「ですね。生き残っていた上位の傭兵連中は僕が全員殺しています」

「そうか……まさかここまで、懸念していたことが現実になるとはな」

そう言いながらアトナーは何かを考えるように瞳を閉じ――、それまで以上に鋭い視線で俺を見据えた。

「異世界人、私を殺す前に答えろ」

「なんでしょう」

「なぜ、この国を守る?」

「え?」

「貴様はラグリースを離れてから東へ移動し続け、フレイビルでも広く活動していたはず」

「……よくご存じですね」

「当たり前だ。ヴァルツからすれば、ベザートという町より以前の足取りが一切掴めぬ貴様は、この戦争における最大の懸念材料だった」

「……」

「どう調べても、この地が生まれという話は出てこない。幼少の姿を知る者もおらず、だが異世界人であるが故に、出生に関する情報を秘し隠した可能性もある。だから念のため、最南端に位置するいくつかの田舎町は捨置いたというのに……なぜだ。なぜ、貴様はラグリースに肩入れする? 愛郷ゆえか?」

「それは……」

そう問われても、すぐには言葉が出てこない。

そこまで調べていたのかという、その事実に驚きを隠せないでいた。

ベザートが今回無傷だったのは、偶然ではなくヴァルツ側の思惑があったから。

ヴァルツは俺の足取りを追いながら、少しずつ遡っていたのか。

「愛郷、ではないと思います」

「だろうな。この国に居を構えている様子はなく、目撃され始めてから1年にも満たない期間で国を出ているのだ。それに間違いなく、ラグリースという国にも従属はしていない」

「なぜ、そのように?」

「飛行能力と世に出回った順序を考えても、『地図』の作成者は貴様以外に考えられぬ。『ラグリース』『ヴァルツ』『フレイビル』と3国の地図を表に出したのだから、ヴァルツはもとより他の2国にも属していないことなど明白。属していれば、王がそれらの地図を自国のためだけに利用しようとするだろうからな」

「……」

「ラグリースとヴァルツに大きな差は無かったはずだ。にも拘わらず貴様は、ロズワイド侯爵の要請に一切応じようともしなかった」

そういうことか。

当初は重要な何かの輸送依頼かと思っていたが、一月ほど前にロズワイド侯爵が何を求めて俺と連絡を取ろうとしたのか。

これでようやく理解できた。

「理想はヴァルツ側の味方についてほしい。次善策としては戦争の不干渉、狙いはこのあたりでしたか」

「その通りだ。貴様が……貴様さえ横やりを入れなければ、南部は間違いなく我らの手に落ちていたのだ! なぜ邪魔をする! なぜヴァルツではなく、ラグリースを選んだッ!!」

俺を糾弾するように、目を血走らせながら捲くし立てるアトナー。

ここで殺されることを理解しているからこそ、最後に納得のゆく理由を求めた――そんなところだろう。

だが。

「その答えを告げるには、こちらも確認しなければならないことがあります」

「なんだ?」

「なぜ、ラグリースに戦争をしかけたんですか? 揉め事の原因となっていた亜人差別は解消され、交易ルートも無事開かれたでしょう?」

「ふん、戦争の理由なぞ一つなわけがない。表も裏も、複数の要因が絡み合うから大きな決断にまで至らせる」

「それはそうでしょうね。でもそんな逃げの回答じゃ、あなたスッキリ死ねませんよ?」

「ッ………私とて全てを把握しているわけではない。が、ヴァルツは、逃げ道のない二択を迫られていた。それは間違いない」

「あ、アトナー様!?」

ここで横にいた参謀風の男が慌てるも、それを自ら手で制すアトナー。

「『戦争に勝利する』か『国が潰える』か、この二択だ」

「勝つか負けるかという、単純な話ではなさそうですね」

ラグリースのように、攻められた側であれば最悪はそうなるだろうが、ヴァルツはあくまで攻め込んでいる側だ。

この戦争で勝てなかったとしても、直ちに国が潰えると確定するわけではない。

ラグリースとヴァルツの2か国だけが当事者であれば。

「別の国が絡んでます?」

同盟国であるはずのフレイビルは今回不戦を選択した。

だから仲たがいでもしたのか。

そう思っていたが。

「くくっ、正解だ。この国はラグリースを盗れなければ、アルバート王国に名が変わる。くははっ……属国ですらない、ヴァルツという国の消滅だ」