作品タイトル不明
334話 この自由度の高さよ
いつも平和な上台地にて。
10日おきくらいに開催されている、神様達の報告会――。
という名のオルトラン料理品評会が終わった後、俺は珍しくその場に残って作業をしていた。
いい加減そろそろあってもいいだろうと、以前商業ギルドの窓口担当ワドルさんから貰っていた大きめの羊皮紙に、今出来上がっている大陸図。
そして全容は分からないまでも、情報を得ておおよその場所が判明している国や地名、主要なポイントを書き込んでいく。
これからどの方面に向かうべきか、情報を整理しながらじっくり考えるためだ。
(なぜか、ほんとなぜか東の担当は俺になってるし、このままオルトランから動くのが自然だろうけど……)
『南』に進めば煩い獣人クアドの故郷であるスチア連邦で、話を聞く限りはほとんどが密林の秘境エリア。
加えてやや古い情報だが、ハンターギルドすら存在しないとなれば、狩場探しはかなり面倒になりそうなので、そこまでこの国の優先度は高くない。
が、問題はその先で、地図をスライドさせれば見えてくる、小さく点のようにマッピングされた箇所。
かつて訪れたハンスさんの『エリオン共和国』が、もう1つ2つくらい国を跨げば届くんじゃないかというくらいまで近づいてくる。
それにバーシェから譲り受けた"裏ルート"での魔物情報。
その内容には『バイコーン』という名と共に"黒い体躯で2本角を有した馬"という特徴が書かれており、その先には呼吸を忘れそうになるほどの情報まで記載されていた。
(角から"黒い雷光"放つ……これはたぶんヤバい、ヤバいやつだよな……)
まず見つけるのが困難だし、上手く倒せたとしても、自分のモノにできるかはそのスキル次第。
そもそもスキル化されていない可能性もあるので、絶対とは言えないところだが。
それでも過去に、オーバーフレイムロックから『火』を強化させる【白火】を得ているのだから、どうしたって期待も高まってしまう。
そんな激ヤバ希少種の生息域が、大陸南東の『幻想森海』ということなので、もし狙うなら方面的には『南』ということになる。
対して『東』の場合、南方面と違って確実にBランクの新種魔物がいる――これが何よりも分かりやすい魅力になるな。
ヘルデザートと呼ばれる大砂漠には、ホワイトワームの通常版であるサンドワームという魔物がいることは確定だし、他にも砂漠ならではの魔物が多くいたっておかしくない。
(それに、Bランクならボスがいる可能性だってある……)
あくまで可能性だ。
だが、今までのBランク狩場は2ヵ所とも最奥に表ボスが存在していたのだから、割合としては結構高めなんじゃないだろうか?
まぁ、"砂漠の最奥"ってなんだよとは自分でも思ってしまうけれども。
それに、砂漠の国『パルモ砂国』を越えれば、その先の先くらいには海が広がっており、いよいよ東の大国『アルバート王国』が見えてくる。
名前を聞いただけでムカムカしてくるマリーに会いたいなら、砂漠を越えて東へ行けってことになるな。
そして最後の『北東』は、これはどうしたものか。
当初は北東方面に向かい、そのままSランク狩場でも目指そうかくらいに考えていたけど、『ガルフ聖王騎士国』という国が内戦で荒れているとなると、そう単純な話でもなくなってくる。
親アルバート王国派――つまりはマリー派と中立派に分かれているなら、マリー派に何かしらのダメージを与えて、本元のマリーを少しでも弱らせたいという気持ちもあるんだけどなぁ……
しかしそれ以上にオーラン男爵の精神攻撃にやられ、"お貴族様"はもうしばらくお腹いっぱいという気持ちもあったりする。
なんせ『ガルフ聖王騎士国』は、クアド曰く 伝(・) 統(・) あ(・) る(・) 古(・) い(・) 国(・) らしいのだ。
……今、目の前にもその手の本が置かれているけど、どうせしょっちゅう髭をクリクリとイジりながら、理解不能な言葉を放つ連中がわんさかいることだろう。
ただそういう古いお国柄というのはデメリットばかりじゃないらしく、かつて本で学んだ蔵書数随一の『クルシーズ高等貴族院』がこの国にあるようなので、なんだかんだと行先候補の一つとしては外せないでいるんだけどね。
「あぁ、もう! この自由度の高さよー!」
「ロキ、煩い」
「ぶほッ!?」
凄まじい速度で何かが飛んできた気がするけど、視線を向ければ全員静かに、ツマミの焼いた木の実を食べながら読書しているのだ。
気のせい、だな……めっちゃデコが痛いけど、たぶん、気のせいなんだろう。
その時パタンと、賢い学者のような雰囲気を漂わせながらフェリンが口を開いた。
「自由度の高さって、聞きなれない言葉だよね?」
「たしかにな」
そして追いかけるようにリルも、パタンと、音を鳴らすように本を閉じる。
「二人とも、あとでちゃんと本の感想聞くからね?」
「「……」」
「それはそうとして、自由度の高さってのはあれよ。どこへでも行くことができる、みたいな?」
「「?」」
「それくらい、普通のことじゃないんですか~?」
フィーリルの疑問は当然のこと。
だけどこの世界を、過去の経験と照らし合わせてしまっているような人間の認識だとちょっと違う。
「普通に考えればそうなんだけどね。でも俺が好きだった"ゲーム"の世界だと、なかなかそうもいかないんだよ」
自由度が高いとされるMMOの世界でも、手軽で親切な新しいゲームほど向かう先は皆一緒というのが基本だ。
笠原さんが放置しながらキャラを育成している姿は、目に毒だと思いながらもよく見ていた。
それがオープンワールドの古いMMOとなれば、それこそ1年後でも勝てなそうなモンスターを序盤のうちから見学しに行くなんてこともできたが、それでもモンスターの強さによってあらかじめ決められた"順路"くらいは存在するもの。
だからこそゲームとして成り立っているとも言えるわけだし、その順路を無視しても楽しめるゲームなんてかなり少なかったはずだ。
しかしこの世界はそんな順路などお構いなし。
降り立って二つ目の町には上位と言っても過言ではない狩場があるし、都合良くこちらの段階に合わせて魔物やボスなんかが登場してくれない。
自分で探し、自分で向かい、時には情けなく逃走しながら、少しずつ己を強くしてできること、やれることの幅を広げていく。
人にしたってそうだ。
いきなり序盤で最強の神様と戦って殺されるし、最初の国なのにハンスさんと出会ってかなりチビッたし……
でもそれが自由で、この手探りで進めていく不親切さがどこか懐かしくて。
どのルートを選んでもしっかりと前に進み、自分が強くなれるであろうこの状況が堪らなく嬉しかったりする。
そんな面倒臭さを喜ぶのは、きっと俺がおっさんだからなんだろうけどさ。
(人が生き返ったり、口から火を噴けたり、ゲームをリアルにしたようなこの世界だからこそだな……)
「ふふ、楽しそうで何よりですね」
「そうなんです! 自由度が高いというのは素晴らしいことなんです!」
「ロキ、煩い。また投げるよ?」
「あ、すみませんでした。えーちなみに、どうっすか? 今回の本で、何か参考になりそうなやつは――」
オークションで落札した『宝石図鑑』。
それとは別で、護送依頼前にばあさんから8冊の本を購入していた。
やっとオルトランでやるべきことが終わり、こうしてじっくり読む時間を作れたのだ。
焚火の火を見つめながらふと、この世界を作ったフェルザ様は、こんな世界が好きな俺を見つけたから連れてきたのかな?
そんなことを思いながら、余っていたうちの1冊。
『木人族の不思議』という本を手に取り、皆で過ごす夜のまったりとした時間は過ぎていった。