軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

318話 新しい売り先

転がっていた大岩の上に胡坐をかき、お気に入りの謎チャーハンを食べながら昼休憩。

そのついでで、現状を整理するために目を瞑ってステータス画面を眺める。

【透過】Lv3 一定時間身体を透明化させる 効果時間1.5秒 魔力消費30

とりあえず安定のレベル3までは上げたものの、問題はここから先、どこまで粘るべきなのか。

狩りを止め、一度冷静に考えておきたかったが……うーん、やっぱり悩むなぁ。

効果だけを見れば、そりゃ誰が見たって優秀な特異スキルだ。

スキルレベル1のフィッシャーカメレオンでさえ、薄っすら透明になるとか、スケルトンで実は骨だけ見えてますとか中途半端なモノではなく、確実に、疑いようもなく視界から完全に姿は消えていた。

だが難点も多く、まず秒数が1レベル上昇ごとに0.5秒しか増加していない。

マジでなんだよ、この小刻みっぷりは……

今でようやく1.5秒、スキルレベル10に到達しても推定効果時間は5秒間。

明らかに短く、しかし起死回生の奥の手としては意味のある秒数にも思えてくる。

まぁ、魔力消費はかなり重いが。

1レベル上昇ごとに魔量消費が10ずつ上昇しており、1.5秒で30消費とか、連発してたら俺でも数分で枯渇するレベルだ。

そしてこのスキル、視界から一時的に消えているだけで、存在はその場からまったく消えていない。

透明になったところでフィッシャーカメレオンが動けば、そのまま地面に足跡は残っていき、【気配察知】や【探査】、【魔力感知】でも反応が拾えてしまう。

なので透明状態のまま斬ることも当然可能で、その時は身体から離れた血だけが先に現れるという、なんとも不可解な現象を引き起こしていた。

そのおかげで、身に着けている装備含めて透明化は有効なんだなってことも分かったけどね。

「んー……咄嗟に範囲攻撃を出されたら何も意味はない。が、【隠蔽】のレベルが上回っていれば、相手の調査系スキルは遮断できるっちゃーできるか」

想定するのは強者との対人戦だ。

このスキルを組み込んだ戦闘をなんとなく想像し、掛ける労力と伸びる効果時間を天秤に掛け――とりあえずはスキルレベル4。

どの道クアドさんの準備待ちなところもあるので、レベル4まで上げたらマッピングもしつつ、待ち時間次第でスキルレベル5も一応目指す。

レベル5までなら討伐数は約1150体――このくらいならまだ十分現実的な数字だろう。

初回限定であれば一撃必殺にもなり得るスキルなわけだし、ほどよく上げる分には損にならないはずだ。

「おっしゃ、いくか!」

そうと決まれば、あとは行動あるのみ。

気合を入れ、視界全ての魔物を狩り尽くす勢いで、俺は乱獲を開始した。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

そして、その日の夜。

「たっだいま~」

「おう、今日は遅かったな」

「もう先に食事は済ませたぞ?」

湖畔で二人、晩酌をしていたのはロッジとゼオの二人。

「あーいいよいいよ。あれ? カルラは?」

「裏で豚に乗って遊んでいる。ロキの土産がよほど気に入ったらしい」

「そっか。んじゃカルラに魔物の解体頼んでおくから、欲しい素材あったら言っておいてね。これ、町の解体場で聞いたお金になる部位の一覧」

そう言って俺が木板を渡せば、二人はすぐにそちらへ目を向ける。

「お、ロックタートルの甲羅は盾の素材として需要が高いやつだな。ハイドスコーピオンの外殻も、防具素材としては比較的優秀な部類だ」

「ふむ……アックスビークとロックタートルは肉が美味かった記憶がある」

「そんじゃ確保しとこうぜ。燻製にでもすれば酒のアテになる」

「そこら辺は任せるよ。とりあえず100体ずつくらいカルラに渡しておくから、足らないやつがあったらあとで教えて」

「……いや、それぞれ3体くらいで十分だと思うが」

ロッジが随分と謙虚なことを言っているけど、最寄町『アンティモア』で早速買取拒否を食らってるからなぁ。

「こんな大量に持ってくるやつなんて見たことがない!」

と、なぜか解体場のおっちゃんに怒られるし、こないだオルグさんところはパンクしたばかり。

放出しなければ貯まる一方で、このままだと明日あたりには俺の収納が限界を迎えて、魔力が減少に転じる可能性もある。

(拠点に好き放題吐き出してるとゼオに怒られるし、ロズベリアでパンクさせるなら、換金効率の良い竜種でパンクさせた方が良いし…………あっ)

そうだそうだ、このくらいのランク素材がお手頃な町あったわ!

後処理の結果がどうなったかもちょっと気になるし、顔を出すなら今くらいが丁度良いタイミングだろう。

早速家の裏で豚と遊んでいたカルラに素材の一部を託し、俺は翌日の狩りをほどほどで切り上げたら目的の町。

『ギニエ』へと移動した。

「こんにちは~ラッド君いますかー?」

真っ先に向かったのは、ラッド君のお屋敷。

玄関のドアをノックすれば、2階の窓から鬼のような形相をしたじいさんが顔を出す。

「どこから入り込んだ、この無礼者が! そこでジッとしておれ!」

「へ?」

家の中をドタバタと騒がしく走る音が聞こえ、貴族の家なのにこんなんで良いのか? と思いながら素直に待っていると、枯れ果てる寸前の頭髪と身体をしたじいさんが木の棒を持ってご登場。

マッチ棒みたいだが、新しい執事の人だろうか。

服装を見ればそのようにも見えるが。

「この侵入者め! 領兵もおったはずなのに、どうやって南門を抜けてきた!」

「えーと、飛んできただけですけど……あの、ラッド君は留守ですか? その後の様子を確認しにきまして」

「ちょっと! おじいちゃん煩いって! ここはお貴族様の家なんだから……って、ロキさんじゃないですか!」

「あ、アンリさん」

横から鍋の蓋を持って現れたのは、以前ラッド君を真っ先に庇った同い歳くらいの女の子。

知っている人が出てきてくれて一安心だけど、おじいちゃん?

「なんじゃアンリの友達か! だがそうであってもいかん! いかんぞ! 飛んできたとか頭の悪いこと言いよるし、ノグマイア子爵を"ラッド君"なぞ不敬にもほどがあるわ! こやつは尻叩きの刑じゃ!」

「あ、頭の悪いこと……」

「この人は特別だから大丈夫なの! ロキさんはラッド様の命の恩人だし、この町を助けてくれた人だよ? おじいちゃんだって助けられてんだからね!?」

「………………なんじゃと?」

「……」

「ふ、ふほほっ! そ、それならそうと早く言わんか! いやいや、ギニエの救世主はさすが、小さいのに貫禄があるな。よし、あとでワシが特製の甘いパンを持たせてやろう」

「おじいちゃん! そんなことより早くラッド様のとこにご案内しないと!」

うーん、一応ここって領主の家だよね?

ビックリするくらい庶民感が強過ぎて、小学生の頃遊びに行った友達の家を思い出してしまう。

しかし、相変わらず人は少なそうだなぁ……

「ラッド様ー! ロキさん来られましたよー!」

「おぉ! 入ってくれ!」

ドアを開ければ、2階にある執務室には大量の木板に囲まれたラッド君の姿が。

声は元気そうだが目の下には青黒いクマを作っており、相当な激務に追われていることは間違いなさそうだ。

「こんにちは。これはまた、随分と忙しそうですね」

「よく来てくれた! あの一件以来やることは山積みでな」

話を聞けば、ラッド君は捕まえた残党と一緒に王都グラジールに直接足を運んだそうで、そこで自ら事の顛末を国に伝えたらしい。

その結果、王家からも正式にノグマイア家の当主として認められたようで、今は国から応援の文官が来るまで、なんとか身近な信用できる人達で回しているそうだ。

幼馴染らしいアンリさんのじいさんや、茶を持ってきたままなぜか横に座ったばあさんなんかも、普段はご飯を作ったり掃除したりと屋敷の手伝いをしてくれているらしいのだから、ここの人手不足は深刻である。

だが、足らないのは人だけじゃないはずだ。

「他に、現状足りていないモノは?」

「すべてと言っても過言ではない……王都に行って分かったが、ギニエは相当危険な町として認識されていたようだからな。旅人も、商人も、ハンターも、皆がこの町を避けていたせいで、孤立したまま町の動きが止まってしまっている」

「人の噂なんて、そう簡単には払拭できないでしょうしね」

「そうなのだ。良くも悪くも噂を広めるなら商人だと、今は私が直接高値で買い取りし、商人達の出入りを増やすべく動いているが……それでもまだまだ時間はかかりそうだ」

ネットのない世界じゃ動きが緩やかなのはしょうがない。

それでも利に聡い商人から先に動かそうと考えて行動し、町の活性のためにお金を使っているのだから、やっぱりラッド君は賢く、そしてまともな少年だ。

ならば俺は俺で、できることを。

決して慈善事業をするつもりはないが、適正な内容で取引といこうじゃないか。

「事後の状況はだいたい想像していた通りですね。なので今日は食料や日用品の素材になり得る魔物を大量に持ってきたんですけど、興味あります?」

「なんと……それは《ランシール山》の魔物ではなく、か?」

「もちろん。場所で言えば南にあるオルトラン王国のC~Dランク魔物ですね」

そう言いながら、先日ロッジとゼオに渡したような木板をラッド君にも見せる。

「これは魔物の名と使える素材、あと横の数字は値段か?」

「オルトランにある最寄町のハンターギルドが実際に買取している価格です。あ、魔物はバラしていないので、書かれているのは1体丸ごとの場合ですけどね」

「丸ごととは、さすが……ロキ殿らしいな」

「隣接した国からなので、今までにも素材がこの町に運ばれていたかもしれませんけど、価格は中間コストや輸送コストも上乗せされていたはずです。でも今回は仕入れも運んでいるのが僕なので、必要ならこのままの買取価格でお譲りしますよ。もちろんハンターギルドを一度通してでも構いませんけどね」

「どれどれ、それなら私も拝見」

ここで横に座って一緒に茶を飲んでいたばあさんが、木板をヒョイッと手に取り一瞥。

「ベイブリザードやフィッシャーカメレオンの皮なら、町に加工できる慣れた連中は大勢いるよ。装備素材もCランクくらいならティニロとその息子が弄れるから、ここのハンター連中が防具として活用するなら十分だろうね。全部ここ1年近くまともに入ってこなかった手頃で扱いやすい素材。しかも、値段がビックリするくらい安いねぇ……」

「なるほど。魔物が丸ごとならば町の中に大きな雇用も生まれるか。足を切断された者達にも仕事は振れそうだろうか?」

「大丈夫だね。食材になる魔物が5種類もいるんだから、肉の加工でも十分仕事になるよ」

すげぇ……

ラッド君は疑う様子がないし、このばあさんってば、相談役のポジションとして仕事をかなり全うしている。

ただのアマンダさんではなかったのか。

「よし、ならば買わない理由は何もないな。だがロキ殿、値段がかなり安いようだが……無理をしていないだろうか?」

「大丈夫ですよ? その代わり大量にあるので、僕としては纏めて買ってくれたら嬉しいですね」

「ふふ、ロキ殿の大量は本当に大量だから恐ろしいな。であればアンリを付けさせるから、まずはあの倉庫にお願いしたい。他にも空き場所は探させておこう」

こうして始まった素材の放出祭りは、2時間近く続いた。

途中からアンリさんだけでなく、相変わらず身体中に草やら藁をくっ付けていたサイラル君も加わり、数を数えながら倉庫に魔物を吐き出していく。

どこかで適当に売るよりはこの方が意味もある。

そう思ってのことだったが、想像以上に喜ばれているのであれば持ってきた甲斐もあるというもの。

これで町の人達が食事に困ることも当面はなくなるだろう。

「Cランクくらいまでの魔物素材なら、今後もぜひ買取させてもらいたい」

ラッド君のこの言葉に、一つ大きな売り先が確保できたという気持ちと、あまり俺の仕入れに依存させ過ぎても良くはないなという気持ちと。

どちらも湧き上がるが、よくよく考えればCランク以下の魔物を長く狩ることなどそうあるわけでもないのだ。

ならばたまの売り先にギニエを選ぶくらい、さして問題はないだろうと結論付け、あれからの町の様子や奴隷化している領兵の件を確認してから俺はギニエを後にした。