軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

296話 本の中身

現在上台地と下台地を分ける絶壁には、いくつかの部屋が存在していた。

主にゼオとアリシアが利用する、下台地から直接入れる食糧庫。

【土魔法】と【空間魔法】で徐々に広げていったその空間は、直射日光が当たらない上に、俺が巨大な氷を適度に生成しているので、中は冷蔵庫に近い環境を備えている。

そして回収した装備を置いていたかつての武器庫は、今はなぜか大量の丸太が散乱しており、ゼオのキノコ栽培所になっていた。

丸太を見ながら何かを選別しているようだが、俺にはさっぱり分からないので100%ゼオ任せである。

ここまでが下層で、ゼオ達の家から数㎞は崖まで距離があるのと、資材倉庫ができたおかげもあってあまり積極的な拡張はされていない。

そして中層と言える滝の裏には、今のところ俺だけが――って言っても女神様達にはバレてそうだけど、一応俺しか出入りできない秘密の部屋がある。

僅かな空気穴を残して入り口の大半を塞いだ、6畳程度の小さな部屋。

そこには石造りのお手製椅子と机、それに先日交換して質がかなり良くなったベッドが置かれ、机の上にはモチャッと自分の肌着が置かれていた。

足元にはフサフサ毛皮を敷き詰めているし、乾燥用の魔道具も置いてあるしで、結構快適なマイルームであることは間違いないのだが。

「うーし、そろそろ本気出してこうか」

異世界に降り立ってもう少しでたぶん1年。

だいぶ慣れてきたわけだし、ちょっとずつ趣味の世界を広げたっていいだろう。

そんな思いで細い通路を作り、その先に新たな部屋を二つ生み出す。

まず一つは装備部屋だ。

すぐ下位互換になってしまった水耐性鎧や穴空き鎧に、初代、2代目ショートソードなど、家具がクソほど余っているので、資材倉庫で手頃なモノを調達しては設置し、棚に並べていく。

一応衣装棚もいくつか回収して並べてみたが……

基本は上空を移動してるか、狩りをするかの二択なのだ。

買ってまで服が欲しいとは思わないし、カルラがサイズの近い服を掘り起こしてるっぽいので、落ち着いたら似たような体型なんだし、ちょっとカルラから貰ってくればいいだろう。

いつできるかは不明だけど、アリシアも服を作ってくれるって張り切ってたしね。

そしてもう一つ、最初の居住部屋から繋げたのは書斎だ。

今回購入した分を含めてようやく20冊。

それにこれからもどんどん増やしていく予定なので、本棚として使えそうな棚をいくつか設置しておく。

ただここに置くのは、あまり見返す必要のなさそうな本のみだな。

辞典のような類の本はいざという時にすぐ確認したいので、いつか予備の複製品ができるまでは収納にしまっておこうと、ペラペラ中身を確認しながら分別を進めていく。

『魔道具一覧 3巻』

名前の通り魔道具の図鑑で、現代で言うカタログのようなもの。

1冊に付きナンバリングされた20種の魔道具とその効果が紹介されており、未所持の優れモノを探す意味ではかなり便利な本である。

この手の魔道具関連はリアの大好物なので、たぶん見せれば顔には出さず静かに喜ぶことだろう。

既に2巻は前回購入しており、なぜアルトリコさんは1巻を先にやってくれないのか、疑問が残るばかりである。

『奴隷商館活用法 見るべきポイント』

各国にある奴隷商館の特徴がまとめられているっぽいが、今まで興味を持ったこともないのでかなり反応に困る。

ただばあさんは、ケイラちゃんをどこかから見つけてきて育てているようなので、その探し先というのがこういう場所になるのかもしれないな。

国によっては奴隷を認めていないところもあるようで、しかしそれはかなり限定的。

この本がいつの時代に書かれたモノなのか分からないけど、奴隷商館は大半の国に存在しているっぽいので、一度人生経験として足を運んでみても良いかもしれない。

『戦術論 陣形戦術 4巻』

どう考えてもリル用の本。

学んでも活かせる場面がまったく無さそうだし、見てもいまいち意味が分からないので流し読みで十分。

得意技がソロ活動の男に、団体行動の心理なんて理解できるわけがない。

『美の女王マダム・オーゼス』

何かの物語っぽいけど、ちょっと不思議な感じもする本。

誰しもが認める美しい女性は老いを恐れ、やがてその老いを克服するが、その代償に多くのモノを失い化け物に堕ちるという話だが……。

うちの拠点に老いを克服しているオカマとイケオジがいるので、そう考えると実話という線も出てくる。

『特徴も様々 実用された騎乗生物』

これは知識としても、読み物としても面白い。

長い歴史の中で実用事例のある騎乗生物が数多く載っており、一般的な馬はもちろん、ラクダや象といった地球でもその光景が浮かぶモノから、巨大な鳥や蛇みたいな挿絵の魔物など。

スキル【調教】と【魔物使役】次第で様々な生き物に乗れることが記載されていた。

珍しさや強さという意味での捕獲難度や移動速度、持久力、乗れる人数を含めた目安積載量、空中移動やブレスなどの特殊技能を持っているかなど、大枠の系統で評価がランク付けされているので非常に分かりやすい。

当然騎乗生物の王者は竜種――その中でも超大型の古代種と呼ばれる、ハンスさんのペットである。

『オールスロイ戦争』

ハズレ。

どこかであった戦争を纏めた本だということは分かるけど、いつの時代かも分からないし、中身も戦争すればそうなるよねって話ばかりで特筆すべきことはない。

『ジュロイ王国 各地の名産と民芸品』

たしか、ラグリースと隣接している西側の国だったような?

地名と一緒に色々な品物が載っており、とりあえず【描画】スキルの高い人が書いたんだろなってことはすぐに分かる。

見ていて興味を引かれたのは『お香』くらい。

あとは何か筒のようなモノを咥えて吸っている絵が視界に入ったので、これは目の毒だとソッと本を閉じた。

今更吸いたいとは思わないけど、一応ね。

『転職しよう 職業一覧 改訂版』

一番初めにばあさんと見た職業が色々載っている本。

職には就けないけど、改めて目を通しても圧倒的なボリューム、読み応えのある内容でまさに攻略本と言ってもいい。

今のところは予定もないけど、ゼオやカルラが職に興味を示すことがあれば、この本を見せてあげようと思う。

『大陸中央部 通わせたい貴族院3選』

学校っぽいのあるんだ~って思った程度。

貴族院とか名前はついてるけど結局は金で、所定の金を積めば庶民だろうと入れるし、年齢も随分ガバガバというか、一応15歳までというくらいで他ははっきりと決まっていないっぽい。

考えてみればこの世界は戸籍が見当たらないのだから、年齢なんて所詮は見た目と自己申告頼みなのだろう。

今更学園生活するくらいなら俺は魔物を狩るが……本の所蔵量が大陸有数ということで選ばれている『クルシーズ高等貴族院』というところには一度足を運んでみたい。

ん――……。

並べながらどんどん読んでしまったが、とりあえずこの部屋にまず必要なのは机と椅子だな!

そう思ってちょっと高級そうな机と椅子を設置してみれば――。

おぉう、なんか凄いそれっぽい感じじゃーん!

一人椅子に座って周囲を見渡すと、なんか急に自分ができる男になった気がしてしまう。

「ついでに見ちゃうか」

明日からは新しい国、『オルトラン王国』に入るのだ。

そうなれば移動やら初のダンジョン探索やらで忙しくなるのだから、読むのだったら今のうち。

コーヒーを淹れ、今日発見した暖かい空気を出す魔道具を足元に置き、修行の一環で全身を魔力で覆いながら『ラグリース王国の歴史と展望』を手に取る。

(…………)

これは、ヤバいな。

さっき見た『オールスロイ戦争』ばりに中身がつまらない。

いずれ役に立つ知識なら学びたいと思うけど、過去の王様がどんな人物だったとか、マジで興味の欠片も湧かないんだが。

もう、いいかなぁ。

そう思いながらペラペラと流し読みしていて、かなり後半のページでピクッと紙を捲る指が止まる。

「唯一鑑定不能な、推定1等級の謎の球体……」

気になって前後のページも目を通すと、ラグリースはベイルズ樹海を含む、爆風によって形成された周囲の土地から長年古代の遺物を収集してきた。

とは言っても想像通り、大半が使用不可能なほどに破損した部品の欠片で、直す技術もないため活用できず。

加えて破損が軽傷でも用途の分からないモノ、起動方法の分からないモノも多く、その大半は国の宝物庫にただただ『古代の遺物』として眠っていたらしい。

が、ある時、その状況は一変する。

しっかりと動く古代の『鑑定魔道具』が出土したからと、そうこの本には書かれていた。

この魔道具を使ったことで、まず眠っていた多くの遺物が機能を果たせる状態なのかどうか。

また果たした場合にどのような効果を生むのか判別することができたようで、結果大半は壊れていたものの、一部は現在でも破格の性能を持つ魔道具として活用されているらしい。

それらは特別危険なモノではなく、『雨を降らす魔道具』や『超広範囲を結界で覆う魔道具』、それに『遠方と通信できる魔道具』など、特徴のある魔道具はその性能までそれぞれ記載されていた。

こんな情報を俺に教えていいのかって思うけど……

俺がどこにも属さないと断言しているからこそ、情報の洩れより信用を取りにきているのかもしれないな。

ただ唯一、古代の鑑定魔道具を使っても性能判別できないものがあり、それが先ほどの『謎の球体』らしい。

ここには大きさ3メートルほどの黒く丸い物体と書かれており、転がすことはできても持ち上げることは叶わず、今は厳重にどこかの地下で封印されていると書かれていた。

「黒い物体で持ち上げられない……でもあれは円盤か」

ふと、パルメラ大森林の中心にある円盤を思い出すも、たぶん違うだろうなと予想をつける。

あれはアリシアですら用途が分からない――つまりあり得るのか分からないが、神様の【鑑定】すら通らなかったということだろう。

だからフェルザ様が創ったという疑惑が持ち上がるのだ。

となれば、いくら優秀な古代人とはいえ結局は『人』なのだから、アレとは別物。

人の範疇で作り上げられる最高峰のナニカを作り上げたと、そういうことなんだと思う。

解決方法は――俺じゃ無理だから、女神様にそのモノを見てもらうことくらいか。

ただばあさんには釘を刺してるし、今が地下で封印されているなら、問題ないようにも思えてくる。

さすがに地下のどこですか? って聞いても教えてくれないだろうしね。

(リアには一応報告――いや、そうか。もうリアはこの本を読んでいるのか)

そういえば、ヴァルツのローエンフォートで本を読んでいた姿を思い出す。

だから不穏分子の調査とか、魔道具の解析みたいなことをやり始めたのかな?

分からないけど、この件で俺にできることはない。

俺が見たってこの鑑定レベルじゃどうせ何も分からないし、まだ何もしてないのに国家機密っぽい内容に首突っ込んだってしょうがないし。

それこそ踏み込み過ぎて、俺がラグリースの一員みたいな感じに扱われると困ってしまう。

ばあさんとかベザートの人達とか、一個人と懇意な関係ではあるけれど、あくまでラグリースという国は『本』を購入させてもらっている取引相手。

だから他の国にも自由に行くし、外の国とだって美味しい話なら取引もする。

(だから頼むよ、ばあさん)

無いとは思っている。

それでもふと、王都ファルメンタを、ばあさんを、エニーやアルトリコさん達のいるあの宮殿を――

"俺が執行する場面"を想像してしまい、咄嗟に首を強く左右へ振った。

「俺は守りたいんだから、勘弁してよ」

なぜ、敢えて言葉にしたのか。

その声は、まるで自分に言い聞かせるように、狭い部屋の中で響いていた。