軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295話 次の国に向けて

フレイビル王国の王都『グラジール』。

この街を俺は、フェリン、リステ、リルの4人で訪れていた。

リステは恒例となってきた王都での市場価格調査を。

フェリンは食材や地域の料理を確認し、リルはフェリンの補佐と言いながら飯をひたすら食っているだけ。

そして俺はこの街にある傭兵ギルドを確認し、これで何かあればすぐ飛んでこられると、周囲を見渡せる屋根の上で大きく息を吐いた。

「もう3ヵ国目ですか」

「この国は結構早かったよね?」

「ロキの飛ぶ速度が速くなってきているからだろう」

「ふふふ、まだリルの羽には程遠いけど、ちょっとずつ形になってきてるからね」

屋台で買った脂身の美味いお肉を皆で摘まみながら、目を閉じ完成された地図を眺める。

前半はパルメラ内部の探索に時間を費やしていたが、フレイビルに限って言えばトータル1ヵ月ちょっとくらいだろうか。

言われた通り移動速度の問題もあるとは思うけど、それ以上に立ち寄る狩場が減ってきた。

それが時短に繋がっている一番の要因だろう。

この調子だと、ラグリースやヴァルツほどの国土なら、もう半月程度で地図を完成させられるような気がする。

まぁどこにも立ち寄らず、マッピングだけに専念すればの話だけどね。

「そろそろラグリースの各方面にも行きたいところだけど、あと寄るのは香辛料を豊富に扱ってそうなお店くらい?」

「あ、魔道具の専門店!」

「うむ。リアが空いた時間に勉強したいから、1種類ずつ欲しいと言っていたな」

「フィーリルの希望はどうするのです?」

「馬でしょ? あれは飛んでるとたまに野生っぽいのを見かけるしなぁ……うん、そのうち魔力に余裕があったら連れて帰るよ。それまではアリシアの猫ちゃんで我慢してもらおう」

「今焦らなくても、次の国で色々と手に入るかもしれんしな」

「あっ、次がロキ君の行きたがってたダンジョンのあるとこだっけ?」

「そそ! もう今からめっちゃ楽しみなんだよね~」

「私もー! 種いっぱい持って帰ってきてね!」

全員がローブを羽織り、ゾロゾロと話しながら目的の場所に向かう。

その姿は落ち着いたもので、もうだいぶ下界の生活や仕組みに慣れてきている様子がありありと感じ取れるな。

きっと広範囲探査で、誰かが既に目的の場所を把握しているのだろう。

先導してくれる皆の姿に自然と笑みを浮かべながら、俺はお財布係として、徐々に頼り甲斐の出てきた女神様達の後ろ姿を眺めながら後を追った。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

一通りの買い物が済んだら、荷物は俺が全て回収して現地解散。

その後にまず向かったのはベザートのハンターギルドだった。

ヤーゴフさんと、いつも通り横に座っているアマンダさんにまず渡したのは、ギニエで複数個回収していた結界用魔道具。

そして昨日作ってもらった『釘』と、ロッジには無理と言われた『ネジ』の図案に、古城さんのバッグ――

その中に入っていた化粧用の筆の図案も、パルメラにいるユニコーンの馬毛をセットにして渡しておく。

バッグの中身は、あくまで再現性の高そうな『筆』のみ。

ギリギリまでどうしようか悩んだものの、結局は表に出さず、俺がそのまま隠し持っておくことにした。

ベザートの人達に余計なリスクを背負わせ、死んでほしくない。

そんな俺のエゴであり我儘が一番の理由だ。

わざわざかつての遺留品を大事に抱えていたくらいなのだから、ヤーゴフさん達からすればリスクなぞ承知の上でさらなる発見を求めるだろう。

それこそ遺留品だけでなく、『転移者が高確率で湧き出るポイント』として、異世界人そのモノを求める可能性すら出てくる。

それでも、情報がベザートだけで留まるならまだいいが……もし他国に情報が伝わろうものなら、そんな美味しいポイントの独占なんて他が許すわけもない。

真っ先にベザートが襲われるだろうことはすぐに想像がつく。

(守りきれる自信がないなら、わざわざ危険に晒すような選択は取れない)

久しぶりに見たプラスドライバーや、電卓の裏側を見せて『ネジ』の用途を説明しつつ、心の中ではまったく別のことを考える。

できればしたくはない隠し事。

それでも――

ソッと心の中で謝罪をしつつ、これがまた何かのきっかけになればと、一通りの説明を終えて俺はベザートを後にした。

その後は王都ファルメンタへ。

商業ギルドに向かい、徐々に担当化してきている七三分けのワドルさんにご挨拶。

状況を確認すれば、この2ヵ月の間でヴァルツ王国側の商業ギルドとは話し合いが済んでいるようで、既にあちらでも自国の地図販売が開始されているとのことだった。

ならば結構と、必要経費ということで羊皮紙を数枚頂き、3つ目となるフレイビル王国の地図をワドルさんに渡しておく。

「今度はフレイビルと交渉ですか」なんて口ではボヤいていたが、声のトーンや表情からはかなり好調であろうことが丸分かりだ。

これなら何も言わなくても、利益のために商業ギルドが全力で頑張ってくれることだろう。

そして最後に目的地。

ベリヤ宮殿内部で、一つのドアに向かって声を張り上げる。

「たのもー!」

「なんだい、煩いねまったく!」

プリプリしながら登場したばあさんだったが、お土産を渡せばシワシワの手がすぐに伸びた。

「これ、フレイビルのお土産ね。変わった柄の布があったから膝掛けに丁度良さそうかなって。あとラグリースには出回ってなさそうな茶葉と、これは名産っぽい蜂蜜」

「ほう……やるじゃないか。ロキ坊も飲むだろう? お礼に私が淹れてやるかね」

「お願いしまーす!」

一応辺りを見渡すも、煩いひ孫のエニーは見当たらない。

相変わらず仕事も兼ねて、本作りを頑張ってんのかな?

「しかし旅先がフレイビルかい。オルグのじじいが大量の竜素材を売り込みに来たのも、ロキ坊が一枚噛んでそうだね」

「え゛」

「ヒヒッ、ヴァルツにせき止められて滅多に手に入らなかった素材だ。国も大喜びなんだから、そんな声出すんじゃないよ」

「あ、あはは……なら良い仕事したのかな?」

ラグリースに加担している感があまりにも強いから、ばあさんとは交渉しないでギルド売却を選択したというのに。

結局オルグさんが国に売ってるとか、俺の行動が無駄過ぎて苦笑いしか出てこない。

まぁ俺が直接肩入れしたことになっていないなら、これで良かったのかもしれないが。

紅茶を頂き、一息ついたらばあさんと一緒に書庫の向かいの部屋へ。

俺があまりにも唐突に現れるものだから、宮殿に必ずと言っていいほどいるアルトリコさんに本の管理は任せているという話を聞いて、ふと前回お邪魔した時のことを思い出す。

「そういえばさ、こないだ来た時に本作りしていた『ケイラ』って子は、何か訳あり?」

「あぁ、ロキ坊はもう見たのかい」

どちらの意味で言われたかは分からない。

でも容姿も特異な所持スキルも、どちらも見ているのではっきり頷けば、一度溜め息を吐いた後にばあさんは答えてくれた。

「先祖返りってやつだよ。人間だって長い歴史を辿れば大概は亜人との混血だからね。血の濃さにもよるけど、稀にあぁして混ざった亜人の特徴が強く表に出るのさ」

「だから保護を?」

「保護なんて甘いことはしないよ。ちゃんと仕事をさせて、勉強もさせて、どう生きたいかを本人に考えさせる。その上でやりたいことが見つかったんなら、そこからは自分で責任背負って好きに挑戦すればいい」

「恵まれてるね。ケイラちゃんも、それにアルトリコさんも」

「そうでもないさ。獣人やエルフの特徴が多少表に出る程度ならどうとでも生きられるけど、あの二人の特徴はそんな優しいモノじゃない。人の目は、想像以上に残酷だよ」

「……」

虐められ、迫害を受け、孤立し、自身が見世物となって食い繋ぐ。

喉が潰れた転生者――ルビエイラさんをふと思い出し、そんな有り得そうな路線から外れられたこと。

そして学ぶ機会まで得られるとなれば、並みの子供よりも幸せのように思えるが……

そうだな、そうだった。

人なんてほんの少しのきっかけで、いくらでも残酷になれる生き物だったことを思い出す。

「アルトリコ、お客さんだよ。完成品を持ってきとくれ」

「でたーロキだー!」

「久しぶり~」

「あ、こんにちは……」

「……」

「リ、リコさん! 大ばあちゃん来たよ! リコさんってば!」

「ふぇ? ふぉえええええええ!?」

よほど集中していたのか、脇を小突かれ飛び跳ねるアルトリコさんの姿を眺めながら、一先ずは試す。

――【心眼】――

(今回は通った……が、なるほど)

詳しくは聞かないし、とても聞けるようなものでもない。

それに聞かずとも、アルトリコさんは『巨人』絡みの先祖返りでまず間違いないだろう。

しかし見慣れぬスキルが【痛覚遮断】であったことに、本来の巨人種がどんな存在なのか、思わず想像を巡らせてしまう。

「ロキさん?」

「あ、ごめんなさい」

「今回は頑張ったからね! ロキ、払えるの~?」

目の前にはいつの間にか並べられていた、厚みの違う9冊の本。

現状の3人体制でやれる限界まで頑張ったらしく、自信満々に挑発してくるエニーに向かって、言われた約2億ビーケほどのお金を山のように吐き出していく。

「え?」

「んなっ!? お、お金、すごっ!」

「ど、どこから出てきてるんでしょう……?」

「……間違いなく最初は持ってなかっただろう? あれから取得したってのかい」

「そうなるね。竜素材の犯人が俺に繋がった時点で、想像はできてたでしょ?」

「まぁね。ヴァルツもまだ警戒しているのか、装備品や装備に転用できる素材はまだ制限が掛かってるって話だったのに、急にAランク素材が大量に入ってきたんだ。量や経路を考えても『あのスキル』以外に方法はないと思っていた」

「そういうことだから、上にさ。変な気を起こさないように言っといてね」

目の前には子供達もいるんだ。

あまり過激なことは言えないが、それでも自然と、ばあさんには伝わるだろうなと思った。

「まったく。我関せずじゃもう駄目だね、こりゃ」

「あーあとついでに、北で掘り起こしている魔道具には気を付けて。扱いを間違えたら、それこそ長年危惧していたことが現実になるかもしれないから」

「……そうかい。ちなみに」

「ん?」

「以前渡した趣味の悪いうちの史書。あれはもう見たかい?」

「あぁ、ごめん。まだ見てなかった……」

「ヒッヒッヒッ! 国が無理やり押し付けたようなもんだから、まったく見る必要もないけどね。ただまぁ、一応伝えておくよ。あの本の中身は 全(・) て(・) 真(・) 実(・) 。それだけは間違いないよ」

中身を見ていないから反応に困るが、まぁばあさんが真実っていうんだから、良くも悪くも本当のことが書いてあるんだろう。

(ならいい加減、目を通しておくかなぁ……)

そんなことを思いながら、一通りやるべきことを済ませ拠点へ帰還した。