作品タイトル不明
284話 侵食
【洞察】――【身体強化】――【気配察知】――【魔力感知】――【探査】――……
いいねぇ。
確認するまでもなく、大通りの先から、纏まった数の男達が武器を片手に走ってくる。
明らかにゴロツキと分かるその身形に顔つき。
人間だけでなく獣人も混ざっており、中には女もいた。
まぁ、武器を差し向けてくる時点で何も関係ない。
少しずつ、少しずつ。
「おいコニー、コイツか!?」
「そ、そうですこのガキが……! で、でも、あれ?」
「んだよ、武器も持たねぇガキじゃねーか。検問のヤツラ何やってんだ?」
「とっととブチ殺すぞ。暴れたんなら足だけ斬り飛ばす必要もねぇ」
今度は俺が。
「ちょ、ちょっと待って……なんで、 脱(・) 走(・) 野(・) 郎(・) が(・) 、 町(・) の(・) 中(・) に(・) ……?」
――この町を、侵食していく。
「面倒掛けやがってクソガキぐぁ……ッ!?」
振りかぶってきた斧を掴み取り、そのまま奪って首を斬り飛ばす。
あれ?
斧ってそこまで斬れないのかな?
かなり手加減したというのもあるけど、武器が悪いのか首の途中で止まってしまった。
まぁいいか。
武器をくれる悪党は次から次へと現れる。
「う、腕っ、俺の腕がぁ!」
「ちょ、つよ……っ」
「ヤ、ヤベェ! 知らせろ! ただの脱走野郎じゃねぇ! か、鐘鳴らせぇえええ!!」
その叫びに、騒然としていた大通りで動く者が数名。
(なるほど……こういう時に、戦闘員じゃない一味が動くわけか)
【探査】で反応だけは捉えていた。
見ているだけならば、先ほど入り口で唯一動けなかったヤツと同じだが、応援を呼ぼうとしている時点でこれはもう、十分『悪』だろう。
――【挑発】――
まぁ、応援は大歓迎だから、全員を止めたりはしないけど。
憎々し気な視線を俺に向けていた、神経質そうな女を強制的にコチラへ戻す。
ははっ、普段は絶対表に出さなそうな、ひでぇ顔して迫ってくるな。
俺をそのまま食い殺しそうな顔だ。
でもなぁ……
「私の居場所を奪うな!!」
おまえらが、みんなからいろいろなモンを奪ってんだろ。
『【鑑定】Lv3を取得しました』
『【錬金】Lv1を取得しました』
『【錬金】Lv2を取得しました』
ほら。
「ぢ、ぢぐしょう……」
『【建築】Lv4を取得しました』
ほらほら。
「ふ、ふざけ……ぐあっ……」
『【酒造】Lv2を取得しました』
コニー君。
「はっ……はぁ……たすけ――」
『【罠探知】Lv2を取得しました』
また早く助けを呼びにいかないと、君も死んじゃうよ?
カーン、カーン、カーン――……!
場の焦燥を煽るように、止まることなく鳴り続ける鐘の音。
ふと視線を上げれば、それはやはり教会の鐘で――、遠くで誰かが鳴らしている姿だけは確認できる。
(修道服じゃないか……)
無理やり踏み入って鳴らしているのか、それとも教会まで手が伸びているのか。
別に後者であっても今更驚きはしない。
聖職者だって所詮は人。
悪に染まらないなんてこともないし、だから俺が執行しないなんてこともない。
周囲の掃除が終わり、コニーと呼ばれた男が再度町の奥へと走っていく姿を眺めながら、ゆっくりその後を追っていく。
相手も、俺がどこに向かっているかは分かっているのだろう。
つまりはただの脱走目的でなく、俺に別の意図があることも――その意図がおおよそ何なのかも分かってきている。
それは相手が差し向けてくる編成と本気度からも見えてくるが、それでもまだ、例の兄弟は姿を現さない。
シュッ――。
飛来する矢を掴むと同時に、別の屋根から【風魔法】が飛んでくるので、魔法を無視したまま【投擲術】を使い、矢をその術者に向けて投げる。
町の中央付近まで向かえば、武器を握ったゴロツキ共は姿を見せなくなり、その代わりに登場したのが遠距離部隊だった。
俺がひたすら相手の武器を奪って応戦していたのを、監視していた非戦闘員のヤツラは見ていたからな。
いずれこうなることは分かっていたし、相手も魔法による町の損壊を気にして居られないくらいに焦ってきたとも言える。
が、やはり魔法職は数が少ないな……
それを残念に思っている俺も大概だが、圧倒的に近接職の比率が高いのは、野盗上がりの集まりだからとも言えそうだ。
おかげでスキル経験値は入るも、スキルレベルが上がることの方が珍しくなってきている。
(最後の弓師が地上に降りたってことは……矢の在庫が――)
パンッ!
こめかみに、俺の見慣れたモノが直撃した。
「あ、当ててやったわよ! 誰かトドメを刺して!!」
その声に合わせ、先ほど屋根から地上へ降りていた弓師が、短剣を握りこちらへ急速に詰め寄ってくる。
他にも動き始める、二人の男。
この連携は、元Dランクあたりのハンターパーティか。
しかし、困ったな。
やはり【雷魔法】は、速すぎてまだまだ避けられそうもない。
「あびっ……」
痺れて動けないとでも思ったのか?
喜色を浮かべた顔を掴み、手に持つナイフを奪って屋根の上にいた女に投げれば、崩れるように地面へ落ちていく。
『【舞踊】Lv2を取得しました』
「とと、止まれぇええええ!」
「……」
「こ、これ以上動いたら、このガキを殺すぞ!?」
男が手に持つのは長剣で、その剣先は腰を抜かして地面に座り込む子供に向けられていた。
やっていることに、思わず溜め息が漏れる。
この事態に何事かと、多くの町民が野次馬のように大通りで広がる光景を見守っていた。
だが大半は家屋の中か路地裏からソッと眺める程度。
閉塞感に包まれたこの町らしい静けさだったが、一部の子供達は正反対の反応を示していた。
それこそ、正義の 英雄(ヒーロー) を見るような眼差しで。
「へへ……よーし、動くんじゃねーぞ。ゴルクッ!」
「あ、あぁ。殺しやしねぇよ。しねぇが、その手癖の悪い腕だけは両方とも落とさせてもらうぜ? 動けばガキは死ぬ。わ、分かったな?」
剣身を指で撫で、恐る恐るといった感じで歩み寄ってくる男。
自分ならこんな提案、絶対に納得しないと分かっているからこその表情だな。
当然、それは俺も同じで――
『"地雷矢"』
パンッ!!
不意に男の背後で鳴る、破裂音に近い音。
その音に反応して男が背後へ振り向いたので、手に持つ剣を毟るように奪って男の両腕を斬り飛ばす。
「うがぁああああ!! う、腕ッ! 俺の腕がぁあああ!!」
「あなたがこれからやろうとしていたことでしょう? これ以上騒げば喉も潰しますよ」
「ッ……ぐっ……」
【雷魔法】を受けて痙攣している男にトドメを刺しつつ子供に目を向ければ――、あぁ良かった。
未だ腰を抜かしたままだが、見開いた目は俺を追っているのだからちゃんと生きている。
救える可能性のある方法がこれくらいしか思い浮かばなかった。
レベル1の魔法で、かつ威力を限りなく抑えたのだ。
一瞬、僅かに溢れただけ。
しかも足から放ったし、この程度なら誰も気付けなかったと思うが……
「ぁ……ひっ……ま、魔物……ッ!?」
後ずさりながら叫ばれたその言葉に、何かが締め付けられて冷えていくような、そんな感覚を覚えながら、俺はソッと目を閉じた。