作品タイトル不明
273話 秘密の部屋と新装備
ロズベリアでは雪も降っていたというのに、俺達の活動する拠点はそこそこ暖かい。
それもあって俺はパルメラ産の中で一押しのフカフカなキュウキの毛皮を床に敷き、一番初めに作った石造りの物置で寝ていたわけだが、ここまでくればそろそろ良いだろうとついに計画を始動させた。
理由は今回のパワレベで拠点の安全圏がだいぶ拡張されたためだ。
今までも魔物が俺達の家まで寄ってくることは無かったので、ここまで家と森が離れれば張り付いてまで警戒する必要もない。
深夜にコソコソと移動した先は、水飛沫の凄まじい滝の真正面。
俺達の家がある辺りはまだ滝との距離があるので、それこそ心地いい音色程度で済んでいたわけだけど、さすがに目の前まで来ると恐怖を感じるほどの轟音が鳴り響く。
まぁそれでも憧れには勝てないわけで。
宙に浮きながら光を照らし、ちょうど崖の真ん中辺りに目星を付けたら、【水魔法】で強引に水の動きを遮断。
すぐ様【空間魔法】で人が一人通れるほどの岩を抉り、とりあえずの入り口を確保する。
滝の裏に隠された秘密の入り口とか、これぞまさにファンタジー!
息抜きにはちょうど良いくらいの無駄作業である。
とりあえずは空気の通り道を残す程度に【土魔法】で入り口を塞ぎ、滝の音が心地良いと感じるくらいまで奥へ奥へと削ったところで、空間転移だけで辿り着ける6畳程度のマイルームを形成。
ここを秘密の部屋第一号と命名し、地球産の私物や穴空き鎧などを取り出した。
あとは光源用魔道具と、『魔道具一覧 2巻』に載っていた、乾燥を目的とした魔道具をここに置いておけば、物がカビだらけになる心配もなさそうだ。
電気の代わりに魔石さえあればどこでも動くのだから、ある意味地球より便利である。
ここで寝泊まりすることもありそうだから、寝具なども一応置いておくとして……あとは必要と感じたら、その都度新しい部屋を作っていけば問題ないかな?
作るのは苦手でも削るのは大得意なので、どこまでも続く上台地がある限り、俺の地下空間だって望むままに拡張させ続けることができるだろう。
ふへへ。
色々と想像したら中途半端に興奮してしまい、すぐには寝られそうもない。
だったら少しでも目標到達を早めようと、【夜目】のレベル8を目指して梟の魔物――ストラスをしばきに深夜の狩場へと向かった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
数日後の夜。
食後に丸太を利用したゼオの筋力測定をしていたところ、横で眺めていたロッジがふいに口を開いた。
「そういやだいぶ装備も溶かせたから、もうダマスカスの武器作りもいけるぞ。全員どんなモノが欲しいか言ってくれ」
「おぉ!」
「ボクはもっと斬れる槍斧と短剣ー!」
「我はあっても木の加工くらいでしか使わないからな。借り受けているミスリルの斧で十分過ぎるくらいだが……同じミスリルの細かい工具でもあれば作業は捗りそうだ」
ふーむ、ある程度は決めていたつもりだけど、いざこうして聞かれるとちょっと悩んでしまうなぁ。
カルラは試しで手にしたハルバードが相当気に入ったんだろう。
拾ってきたお古を使いだしてからは黒象も倒していたので、どうやって身長の倍くらいもある武器を振り回しているのか謎だが……
まぁ本人が望むならそれが一番だな。
ゼオも工具を握っている時間がかなり多いので、作業が捗るならどんどん上位素材でも使っちゃってくださいって話である。
倉庫に作られた棚にもインゴット――と呼ぶには少々歪な金属の塊がかなり増えてきているので、拾ってきた量を考えても、ノコギリとかまで作れるなら作ってもらっちゃった方が良いのかもしれない。
そして俺は――……
剣は剣なのだが、ショートでいくべきかロングでいくべきか。
ここでスパーンと答えが出せずに悩んでしまう。
今お試しで使っているお古のロングソードも使い勝手は悪くない。
たまに地面を引き摺るように切り上げてしまうので、その時だけ長さが気になるくらいだ。
(うーん……どちらにすべきか)
そんな答えの出せない俺を見るに見かねて、三人がアドバイスとも取れる言葉を投げ掛けてくれる。
「こないだ戦ってる姿を見させてもらったが、ロキはもっとデカい武器の方が良いだろ。力は相当あんのに武器が軽過ぎて、火力を出し切れてねぇように見えるぜ?」
「そうだな。ロキは空中戦も得意としているのだ。ならば得物が大きいことはそのまま利点にもなりやすい」
「大きい方がかっこいいじゃん!」
「は、はぅ……ッ!?」
カルラのはどう考えてもただの感想だけど!
それでも今まではずっと、こんな時に仲間がいればと思いながら一人で決めてきたのだ。
こうしてアドバイスを貰えることに感動し、思わずウルッときてしまう。
そんなこと言われちゃったら、もう迷う必要なんてないじゃない!
「それなら、すんごい大っきいのでいっちゃうわ!」
そしてさらに10日後。
間にクオイツで竜狩りを4日挟み、休暇を待ち望んでいた各方面の解体場職員を地獄へ突き落とした後に、ボス戦に向けて【不動】のスキルレベル上げをしていたら、ついにロッジからお声が掛かった。
「ロキ、準備ができたぞ」
「え?」
「ふっ、片付けはしておくから行ってこい」
おぉ、これはまさかのまさかですか!?
楽しみにしていたこともあり、ドクンと心臓が高鳴る。
ゼオのこの顔は、既に完成したことを知っているからだろう。
夕食後だったのでついでにカルラも呼ばれ、二人でロッジの職場でもある資材倉庫の隅っこへ。
すると作業台の長机には、いくつかの装備が見やすいように並べられていた。
当然二人の視線はその作業台に釘付けだ。
「まずは数の少ないカルラからいくか。コイツがご希望の斧槍だ。周辺魔物の大きさを考慮した上で、刺突性能を活かせるように先端はかなり長くとっている」
「おぉー! これなら黒象の心臓も上手くいけば貫けるかも!」
「んで、コイツが懐に入られた時用の予備武器として作った短剣だな。握りもおまえが倒した牛みてぇな魔物の革を利用しているから、滑りにくいし相当丈夫なはずだ。魔物とやり合うように剣身を長めにしてあるから、解体用が必要なら別に造ってやる」
そう説明されたカルラは短剣を握れば、よほど持ちやすいのか、一言「ありがとう」と告げた後は跳ねるように斬りつける動作を繰り返していた。
うーん、やっぱり素早いなぁ……
「んで、こっちがロキの分だ」
ロッジの呼び声で、俺の視線は改めて4つの装備へ。
「コイツがご要望の隠し玉だ。分類は限りなく特大に近い大型剣、おまえの背丈を考えれば特大剣と言っても間違いじゃない。どれ、まずは一度振ってみろ」
そう言われ、長さ2メートル近くはありそうな大剣を拾い上げて、豪快に横へ薙ぐ。
ヒュッ――
ヒュンヒュン、ヒュッ――
「……」
「やっぱりだな。普通はそんなに速く振れねぇんだよ。軸もブレてねぇんだろ?」
「んだね……想像していたよりは軽いというか、扱いやすい」
「ただおまえの身長じゃあ、どうしたって地面を擦るどころじゃなくなる。だから空中戦と、あとは中央に厚みをもたせることで"受け"にも回せるようにした。普段はお得意の魔法で仕舞っとけば邪魔にもならんだろう?」
「たしかに」
「んで、コイツが普段使い用の"見せ武器"だ。一般的なロングソードよりは幾分短いくらいの取り回し重視。それでもおまえなら大抵の魔物はコイツで事足りるだろう。手の大きさに合わせて握りも短くしてあるから、扱いやすさも上がるはずだ」
これは凄いな。
少し振ってみれば、今までのお試しロングソードよりも少し短いので地面がそこまで気にならず、かつグリップ部分の遊びも少ないのでブレることがない。
切れ味はこの場じゃ分からないけど、単純な扱いやすさは拾い物のロングソードよりも格段に良い。
そして要望していたカルラと同じサイズ感の短剣だ。
収納してしまえば【付与】の効果は得られなくなるので、どうしても表に出しておく武器が2種必要だった。
ならば短剣が手頃だろう。
もう解体作業をする機会も減ってきたので、単純なサブ武器としての運用だけを考えれば問題ない。
「んで、これが水属性強化用の防具か」
「物理防御耐性と水属性にもほどほどに強いクエレブレの革が主で、裏地にも水属性に強く滑らかなミズチの革も使っている。『ガルガイユ』に挑むならこれがベストだろう。レザー防具にしちゃ重く感じるだろうが、おまえならさほど気にならないだろうからな」
分かりやすく青みがかった薄い鱗のある表面。
これはたしかに何度も見ているクエレブレの皮と同じだ。
早速着てみると、中は滑らかというか少しプニプニしていて、肌や衣類に吸い付くような感触がある。
言われた通り重さもそんなに感じないし、身体を様々に動かしても違和感を覚えることはない。
「ただしこれだけは忘れるなよ。【水属性耐性】は水流や水圧なんかにゃ強いが、溺死を防ぐような効果はまったくない。息を吸えなきゃ普通に死ぬんだから、そこはおまえ自身でなんとかしろ」
「もちろん。大抵は溺れ死んじゃうんでしょ?」
「らしいな。仮に討伐成功しても帰ってこられないハンター達が多いって話はよく聞いた」
溺死絡みならいつでも離脱可能な俺には関係ない。
気がかりなのは、ボスの仕様がゲーム寄りとリアル寄りのどちらなのかということ。
この世界を創ったフェルザ様の趣向というか、なんとなくの好みはある程度理解してきているつもりだけど、ここをどちらに寄せてくるか次第で今後のボスの攻略難易度は大きく変わるはずだ。
「ありがとう。絶対に死なないことは前提で、その中でやれる限りのことをやってみるよ。ボス素材を持って帰れるようにね」
「おうおう。期待して待っとくぜ!」
この次はゼオの工具を作りながら全員分の水耐性レザー防具も作るらしく、素材に囲まれ随分幸せそうなロッジに改めてお礼を言ったら俺は資材倉庫の外へ。
そこで丸太に腰掛け、一人湖を眺めているゼオの横に座る。
「ロッジがゼオの分の鎧も作るって張り切ってたよ。しかもいずれは属性別で全部作るんだって」
「ふっ、我がそれを着たところで何も活かせぬぞ? 下手をすればその辺りの野生動物にすら負けるかもしれぬのだ」
「でも、最初は1本の丸太だって持ち上げるのがキツかったのに、今は1本くらいなら結構楽になってきたでしょ? 魔法だって、魔力が少ないというだけで色々使えるわけだし」
「それは、たしかにな」
「ちょっとずつでも回復してきているのは良いことだし、防具だって何かと戦うためじゃなく、何かあってゼオが死なないように身を守るのが目的だよ」
そう伝えるも、やはり表情はどこか浮かないままだな。
たぶん、元が神様に目を付けられるほどの強者だったから。
だからこその悩みなんだろう。
現状の不甲斐なさ、やるせなさ。
俺がもし逆の立場なら、過去の強さを経験しているが故にこんな感情を抱いてしまう。
「済まないな。今は大した役にも立てぬが、いつか恩を返せるように――」
「ゼオ」
「……なんだ?」
「装飾品の分別をしてくれたの、ゼオでしょ? ロッジは前に【鑑定】は得意じゃないって言ってたし」
「まぁ、そうだが」
木箱の中に放り込んでいた拾い物の装飾品達。
これもボスへ挑む前に整理しようと思っていたら、いつのまにか棚の設置と合わせていくつかの分類に分けられていた。
単純な指輪やネックレスといった分け方だけじゃなかったので、あんなの相応にスキルレベルが高い【鑑定】持ちじゃないと無理な作業だろう。
「ゼオがいるからこの拠点ってなんとかなってんだからね? 俺一人なら崖に穴掘ってそこから出てこないし、ロッジも鍛冶しながらいつの間にか死んでそうだし、カルラは……まぁずっと血ばっかり飲んでそうだけど、そもそもゼオがいなきゃあんな穏やかに過ごしていなさそうな気がするし」
「……」
「前にも言ったけど、この世界に疎い俺にはゼオの知識が凄く必要で、皆が皆、できること、得意なことをこなして、それぞれ補いながらなんとか形にしていくのが仲間かなーって、そう思うんだよね」
「そうだな……昔、共に戦った仲間達もそのような間柄だった」
「へぇ~ゼオの全盛期も仲間がいたんだね」
「あぁ。救いたくても救えなかった仲間達だ」
「そっか……じゃあさ」
「?」
「ゼオの力で、俺が死なないように協力してよ。あの装飾品、上位素材になると何がいいかさっぱり分からないんだよね!」
「ふっ、良かろう。だが我の【鑑定】レベルは間違いなく『7』だ。一つだけ混じっていたアダマンチウム製の指輪だけは判別が――」
二人で資材倉庫に向かいながら、かつて王都ファルメンタでも同じようなことがあったことを思い出す。
あの時はフェリンがいて、同じように助けてくれようとして、でも俺はそれにチートのような感覚を覚えて。
でも不思議と、ゼオにお願いするこの状況はまったくそんな感情が芽生えない。
(これが神様と人の違いなのかな……)
そんなことを漠然と考えながら、俺はゼオの【鑑定】結果を確認しつつ、新装備としてアクセサリー2点を採用した。