軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

272話 あっけない到達

「ずいぶん小さい町だな」

「はは、そりゃロズベリアと比べたら比較にもならないよ。でも俺にとっては一番大事な町なんだよね」

「そうか」

ロッジは肝が据わってるんだろうな。

飛んだ先は上空なのに、落ちながら普通にしゃべっているのだから、このドワーフの頭は普通じゃない。

適当な場所に着地後、ロッジはこういう時だからこそ調達しておきたいと、衣類や靴が売られている商店へ。

俺は俺で本当に山ほどあるお肉をどうしようか悩みながら、とりあえずハンターギルドへと向かった。

結局困った時はココなのである。

「アマンダさーん、お肉食べますよね? 凄く美味しいお肉」

「ほんと唐突に現れるわね……こないだ持ってきたユニコーンのお肉? だったら頂きたいわ。あれ食べたら肌の調子が良いのよ~」

そう言って自分の頬をスリスリしているけど、俺にはさっぱりアマンダさんの違いが分からないな……

しかし横の若い受付嬢も頷いているので、どうやら美容に良いお肉は本当なのかもしれない。

(うーん、肉の選別に失敗したか?)

そう思うも、今更持ち帰る気なんてサラサラないので、デカい肉塊をとりあえず見せる。

「今日は別の肉なんですよ。竜系統のやつですし、美味しいのは間違いないんですけどね。大量にあるんで、せめて修練場に置かせてもらえたりとかできません?」

「……は?」

「いや、置かせてもらえれば、食べたい人が勝手に持って帰るかなって……」

アマンダさんの顔が、かつてないほど怖いんだが?

ベザートで修練場を使っている人なんて見たことないのに、そんな腹が痛くて死ぬ一歩手前みたいな顔して睨まなくても。

「その前」

「へ?」

「なんのお肉って言ったの!?」

「うええ!? り、竜系統、ですが……?」

「そ、それって、わ、わ、わ……」

「わ?」

「わ、若返りのお肉じゃない……ッ!!?」

「「(ビクッ!?)」」

いやいや、知らんし。

なんでも竜の肉は身体に活力を取り戻す効果があると信じられているようで、ただ美味いだけではなく『若返りの肉』として男性陣はもちろん、女性陣にもかなり人気があるらしい。

ただ値段が高い上に採れる場所も限られるようで、普通はお金持ち用の食材だと凄い剣幕で力説していた。

横のお姉さんも俺も、ポカーンである。

まぁ『血』の効果を聞いているので、そういう話が出回るのも納得だけど。

「かなりいっぱいあるので、お肉が悪くなるまでは食べ放題ですよ? 置き場所があればですが」

こうしてハンターギルドの修練場は、ヤーゴフさんの一声により一般開放された。

正直ハンターギルドの修練場なんてそこまで広くはないので、本気出すと溢れかえってしまう量だが、それでも徐々に人が増え、みんな大喜びでお肉を持ち帰っていくので、これなら持ってきた甲斐があるってもんである。

ポッタ君のお母さんなんてデカい籠まで借りてたけど、そこまでしたって簡単に減る量でもないしね。

「そういえば、あなたが持ってきた地図。ハンターじゃない町民も覗きにくるくらい好評よ。あの3人なんて飽きもせずによく眺めているわ」

とりあえず魔力の消費が止まるくらいには収納量が減ったので、あとはいやらしい顔して肉の山を眺めていたアマンダさんに現場は任せようと思ったら、急に何かを試すような目でこんなことを言う。

あの3人ってことは、きっとジンク君たちのことだろう。

地図を見て何を思うかは人それぞれで、何かをしたいと思った時、望まれれば俺ができる範囲で手助けをする。

それが俺にできるベザートへの恩返しだと思っていたが、そうかあの3人か……

まぁ当人達もいない今、あれこれ考えたってしょうがないことだ。

それは何よりですとだけ伝え、次はパイサーさんのところへ。

そこで一番重宝される余り物の短剣とお肉を押し付けたら、お次は石の壺を抱えてメイちゃん家に突撃した。

『竜の血』をお土産に渡せばどうやら存在は知っていたようで、色々研究してみるとメイちゃんママは大喜び。

ポーション類を作成する【錬金】の方が『竜の血』を使うケースは多いみたいだけど、ベザートには錬金術師がいないしね。

ここなら在庫があれば、疲れが吹っ飛ぶ滋養強壮剤をくれるので、わざわざ知らない人のところにまで持っていく気にはなれません。

渡すモノを渡し、肉を配りながら大通りをフラフラしていたら、呑気に屋台で串肉頬張っていたロッジと合流。

そのまま教会に向かい、おばちゃんシスターメリーズさんに祈祷などの用件を伝えれば、横で佇む小さいおじさんにかなり驚きながらもゆっくり頷く。

夕方とあって少し混んでいたが、ロッジがお祈りの列に並んだのを見届け――ここからが俺の仕事だと、メリーズさんに小声で用件を伝えた。

「メリーズさん。判定の結果を" 誰(・) に(・) も(・) "見せたくない場合はどうすればいいですか? なんせ仲間はドワーフなもんでして」

ドワーフだからというのは無理やりな口実だ。

しかし強引な理由を作ってでも、メリーズさんを含めた教会関係者の立ち合いを回避したかった。

加護分の上乗せも含めて黒曜板に全て反映されてしまうので、上手くいけば【鍛冶】スキルのレベル10がそのまま表示されてしまう。

こんなの田舎町じゃなくったって、あっという間に噂になるレベルの驚異的な数値だろう。

だから教会の人達を信じる信じない以前に、結果を誰にも見られない選択が取れるならそれがベスト。

そう思っての提案に、メリーズさんは難色を示しながら答えてくれる。

「本当は大事な神物に何かあっちゃ大変だから、『ステータス判定』は誰かしら教会関係者が立ち会わなきゃならない規則なんだけどねぇ」

「……」

「ただ能力を隠したいなんて話もよく出るから、お布施次第では部屋の扉を開けたまま、外から私達は見守れってことになってんだよ。教会がそんな裏の規則作ってどうすんだって思うけどね」

「ほっほー……ならば、今回はそれでお願いできますか?」

いくら教会とは言え、人が運営している限り世の中そんなものだろう。

そしてたぶんこの言い方だと、なんちゃら教皇国からの指示があるだけで、現場側には何もメリットのない規則っぽい。

ならば好都合と、多めのお布施とお肉を見せ、「若返りの効果があるって、ハンターギルドのアマンダさんが言ってました」と告げれば、任せとけと言わんばかりにメリーズさんが深く頷いてくれる。

教会なんておじいちゃん神父以外はシスターばかりだからな。

フハハハッ、これで何かあってもベザートの教会は俺の味方になってくれそうだ。

――【神通】――

(誰かロッジの【鍛冶】スキルを、加護抜きでレベル8まで上げてください)

(ん……)

成功したのかしていないのか。

まだ本人すら分からないこともあって、ロッジは首を傾げながらこちらに向かって歩いてくる。

そして案内されるまま黒曜板の取っ手を握り――その姿をメリーズさんと俺は眺めていた。

ロッジは外からじゃ見えない位置にある黒曜板の結果をジッと眺め、あるところでピクッと反応を示す。

そしてゆっくり俺の方へ向き、ニヤリと歯を見せて笑った。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

肉を配った代わりに貰った様々なご飯をテーブルに並べ、男4人自由気ままに飯を食らう。

なんと今日は久々の焼き魚だ。

俺の家は一番後回しで良いと遠慮してるけど、それでもゼオは素材倉庫の棚作りに追われて、小舟製作が中断してしまっているからね。

そのうち囲炉裏でも作れたら良いな~とか、もう気合入れれば海も探せるよね? とか。

そんなことを思いながら舞う火の粉と、その横でガハガハ笑いながら飯を食ってるロッジを眺める。

狙えばあっけなく到達してしまったレベル10。

この事実に素直な喜びもあれば羨望もあって、俺の心中はなんとも複雑だ。

しかし当の本人はいつもと何一つ変わらない。

肉を豪快に齧り、流し込むように酒をかっ食らっていた。

「スキルを得られたことより、そのスキルを使って何を成し得たかが重要だろ?」

教会を出てすぐに「おめでとう」と告げた俺に対し、ロッジは当たり前のようにこう返してきた。

たしかにその通りであり、この世界の住民らしい考えだ。

しかしボーナスステータスや各種能力値の存在を知っている俺だけは、その考えに素直に頷くことができない。

今回使ったスキルポイントは、レベル6からレベル8までの必要分である500。

これで一番キツいレベル9とレベル10を、職業加護であっさりスキップできてしまったのだから、俺には俺の強いメリットがあると理解していても、だ。

それでも羨ましいと思ってしまうのはしょうがないことだろう。

レベル8から9のゾーンなんて、スキルレベル5所持の魔物が都合良くいても1日2~3%くらいしか上がっていかない。

ともすればレベル9から10なんて、一点集中で粘っても年単位になりそうなわけだしね。

ロッジには下地があったとは言え、これだけあっさりレベル10に到達してしまうのに、この世界の住人は効率的に狙おうとしない。

それは死のリスクが伴う魔物討伐に積極的ではなかったり。

そのリスクを分散させるためのパーティ推奨だったり。

強い狩場の数が限定されていて、どこにあるのかも分からなかったり。

様々な要因が重なって今の現状があるのだろう。

(地図のあった昔は、人間でもスキルレベル10到達者なんてザラにいて、さらにいくつもの頂点を目指すような人達もいっぱいいたのかな?)

ゼオが戦っていた時代やさらにもっと前はどうだったのか、俺にはさっぱり分からない。

でもこの拠点でパワーレベリングをすれば、比較的安全に誰でも能力を押し上げられることは分かった。

そしてこんな強引な方法を、まず誰もやっていなさそうであろうこともよく分かった。

(他にブレることのない、生粋の職人タイプか……)

そんなことを考えながら、俺はお礼に貰ったワインをチビリと口に含ませた。