作品タイトル不明
215話 傭兵稼業の開始
「ん? 妙に重いな……重量計がぶっ壊れたか?」
「え゛! そんなことないと思いますよ! 量がかなり多いですし!」
グリールモルグのハンターギルド内にある解体場。
そこで細かく砕いた魔石を渡せば、革袋ごと秤に掛ける解体場のおっちゃん。
内心はバレないかドキドキであるが、ここは顔に出さず、華麗にやり過ごすしかない。
結局デカい魔石は半日掛けて、泣きながら自分で砕いた。
魔石に魔石をぶつけて、荒く砕けたら革袋を被せながら、フルスキル使用の全力パンチ。
拳は回復させながらだったけど、時間も拳も痛すぎて、次は開き直って堂々と解体場に出してやると心に誓ったのは言うまでもない。
まぁ――、次はこんな中途半端な『収縮』で止めたりしないけどね。
そんなわけで無事に砕くのが完了し、やや中途半端ながらも本日の戦果を解体場に持っていけば、意外なことにおっちゃんは敏感だった。
中身を見ながら一粒拾い上げ、
「なんか妙に丸い部分があるような……」
「色も普通のとちょっと違くねーか?」
とイチャモンをつけてくる有様で、見た目と違って優秀じゃねーかこのオヤジ! と心の中で罵声と誉め言葉が合わさったような言葉を浴びせる。
そして今度は「なんか重い」と――
おいおい勘弁してくれよ。
夕方で皆さん並んでいるんだから、早く進めてもらわないと困りますよまったく!
「重量が全部で52kgか。もしかして巨大化したやつ処理したのか?」
「……なんでですか?」
「今日目撃情報があったらしいからな。天高くポイズンクラウドが 舞(・) っ(・) た(・) って。早々に風で散ったみたいだが」
「へ、へ~……たまにそういうこともあるんですか?」
「高さ数十メートルまで広がるなんて数年に1回あるかどうかの話だ。かなり風が強い日に別の魔石を吸収して広がっちまうこともあるが、その風のせいで結局はすぐに消えちまう」
「ほほ~」
「ん? そう考えると、今日は風も強くなかったはずだが……ハンターの回収した魔石が喰われたってそこまで巨大化するわけもないし――どういうことだ?」
「み、皆さん並んでますからね! 早く早く!」
なんだか妙な考察まで始めたオヤジを急かして木板回収したら、解体場から一目散に逃走する。
経過時間ではなく、風で散らすことが大きくなったポイズンクラウドの待つ理由と分かったのは有難いが、ちょっと考えが甘かったなぁ。
あれだけ天高く濃密な霧が立ち昇れば、そりゃいくら奥地だろうと誰かに見られていてもおかしくない。
実際は数十メートルなんてレベルの高さじゃなかったはずだし……
これはもう、あのまま待てばたぶん現れる気がする 隠(・) し(・) ボ(・) ス(・) とのガチバトルは、周囲にバレること前提だなと。
コッソリとボス狩りしまくる作戦を立てていただけに、そう上手くはいかないもんだなと肩を落としながら換金を終えた。
そこからは不必要に巨大化させることもなく、換金は午前と午後の2回に分けてコツコツと、討伐数を最優先して数をこなしていく。
巨大化してスキルのレベルアップが加速するなら、きっちり倒せる範囲のところまで成長させちゃうんだけどねぇ。
黒い霧となって収縮している最中でもスキルの変化は見られなかったので、ポイズンクラウドと収縮しきった後に生まれる何か。
この2パターンで魔物の区分けが完全に分かれちゃってるんだろうな。
今後この手の魔物がもし出てきても、中途半端に巨大化させるのは損にしかならない。
これが分かっただけでもまた一歩前進である。
そして一日の狩りが終われば傭兵ギルドに必ず立ち寄り、依頼掲示板に目を通していく。
ちなみに巨大支柱の4面全てではなく、確認するのは『犯罪者の捕縛、討伐依頼』『高額報酬依頼』の2面だけだ。
『護衛依頼』と『国内の大規模依頼や長期依頼』は、狩り場巡りが第一優先なのでスルーである。
(ふむふむ、まだ今日も残ってるのか)
特に気になっているのは山賊や盗賊絡みの情報だ。
『犯罪者の捕縛、討伐依頼』は少し特殊で、公開されている依頼情報を見ても受注するという工程を挟まないものが多い。
領主が依頼元というのもあるのだろうが、ハンターでいう緊急探索依頼と同じようなタイプなので、要は早い者勝ち。
達成したら証明持って報告してくれれば懸賞金あげるよってパターンばかりなので、そのような依頼がどの程度のペースで消えていくのか。
その経過を日毎に追っていた。
すると大体5件くらいは山賊、盗賊絡みの依頼や逃走している罪人が公開されており、そのうちの1件が1日毎に入れ替わっていく。
必ずというわけではないにしても、おおよそこのようなペースで依頼が回転していることを把握できた。
そして今日で9日目。
無事【毒耐性】や【気化】が先日レベル8まで到達し、金銭的にもだいぶ潤ってきたので、そろそろ別の町へ――というタイミングで、残り続けている2件の依頼に注目する。
効率厨の俺にとって一番避けたいのは、動いた結果何も戦果が得られないという無駄骨パターン。
これだけは勘弁願いたいので、様々な可能性を考えながらもとりあえず聞いてみるかと。
依頼の板を持って……ふぐぐ、と、届かないんだが!?
わざわざジャンプして2枚の木板をもぎ取ったら、鼻息荒くミルフィさんところに直行する。
「すみません教えてください!」
「な、なによ急に?」
「この捕縛、討伐依頼が出ている2件なんですけど、もう9日以上は残っているみたいで。何か理由があるか知ってますか?」
「見せて頂戴。……あぁなるほど、理由はいくつか考えられるわね」
「今どうしようか悩んでまして、参考程度に教えてもらえませんか?」
「そうねぇ……まぁいいわ。依頼がいつまでも残るとココの評価も下がるし。まず一つはエリア、この可能性が一番高いわね」
「エリアっていうと――この町から遠いってことですかね?」
「それも間違ってはいないけど、対象を探しにくいって意味よ。このマトンバルサ山道って凄く広い上に道は険しいし、その山道も複数のルートが存在するわ」
「あーなるほど。縄張りというか、拠点を絞りづらいわけですか」
「そういうこと。頭がバカな賊だとやりやすい場所にこだわってすぐ潰されるけど、ちゃんと移動したりして足が付きにくいようにしているんじゃない? もしかしたらこの地から去ってどこかに潜伏している可能性もあるし」
「ふむふむ……」
「あとは単純に対象が強いってパターンね。あまり多くはないけど――特にコッチ。これはもう半月以上依頼が残っている上に、被害は継続して出ているって話も聞くからその可能性が高いわね」
「この殲滅報酬950万ビーケ、捕縛時は内容によってプラスの可能性有りってやつですか」
「そっ。で、その繋がりとして、その報酬自体が安過ぎて傭兵から敬遠されている可能性もあるわ」
「あ~強い傭兵は報酬高くないと動かなそうですしね」
「正解。依頼は一つも受けていないのに、傭兵の仕組みだけは分かってきたじゃない」
「うぐっ……」
なんかバカにされたような気もするけどここは我慢だ。
初回説明の時に、これでもかというくらいに質問しまくったしっぺ返しを今受けているような気がする。
その後も結局質問責めし、過去俺がやったような、傭兵じゃない存在にもう殲滅させられているパターン。
長めに残っているから依頼主側の報酬引き上げを待っているという、時間が経ったからこその駆け引きが始まっているパターン。
あとはレアケースだが貴族の子飼いで、依頼が出る前に情報を流され、既に雲隠れしてしまっているパターンなど。
マジかよという事例までなんだかんだで教えてくれた。
うん、実はミルフィさん良い人なのかもしれないな。
「んー北にある町が『ミュスコ』で、その途中にマトンバルサ山道というのがあって、規模は推定10~15人くらいと。なら殲滅報酬は安いけど狙うのはこっちかなぁ」
強い可能性がある方は正反対の南側だ。
とりあえずの目標として北東方面にあるBランク狩場を目指したいので、今はルート上にいそうな対象を効率的に狙っていきたい。
「そうしときなさい。一応Bランクみたいだけど、僕ちゃんじゃいきなり死んじゃう可能性もあるわ」
「ぼ、僕ちゃ……そ、そこまで弱くはないですからね!?」
「はぁ……おおよそ5件の依頼を達成するまで」
「え?」
「それまでに傭兵の2割以上は死ぬわ。肝に銘じておきなさい」
ミルフィさんの目を見て分かった。
あ、これマジだな、と。
たぶん護衛依頼はそこまで死のリスクが高くないだろう。
報酬額を見てもやはり相応だし、どちらかというと長期で安定して稼ぐというタイプだしな。
だからコッチ。
俺が狙っている犯罪者絡みと、短期型の高額報酬絡み。
この二つで死亡率をかなり稼いでしまっているということになる。
あとはどういう内容か教えてもらえない非公開依頼もあるみたいだけど、傭兵なり立てが受けられるような類の依頼じゃないしなぁ。
「ご忠告ありがとうございます」
先ほどの忠告に、心からのお礼を伝えてギルドを出る。
浮つくな。
油断するな。
大丈夫と思ったそばから、この世界ではいきなり死の危険が降り注ぐ。
ゲーム知識というアドバンテージから、先々の可能性をいくつか予想できたとしてもこれ。
ということはまだ思慮が浅い。警戒心が薄い。目先の利に走り過ぎている。
様々な俺自身のダメ要素でリスクを招いてしまっているんだ。
逆に知識があることで、わざわざリスクの高い床を踏み抜きに行ってる部分もあると思うけど……
死なないためにも、一層気を引き締めなくては。
改めて気合を入れ直し、その翌日。
仮面がいけるなら串カツもいけるだろうと、教会に立ち寄りリルや他の皆にお見舞い肉を渡したら、約10日ほど滞在したグリールモルグを後にし、北方面へのマッピングを開始した。