軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214話 追加仕様と隠し仕様

初日のイスラ荒野はかなり順調な滑り出しだったと思う。

スキル収集も大きく進み、魔石の換金は午前と午後に分け、1日100万以上の収益を叩き出せている。

しかもポイズンクラウドの魔石を抜きにしてだ。

何かあったら怖いので、念のため解体場のオヤジには確認した。

「ポイズンクラウドの魔石って、持ち帰ったらいきなり毒霧が発生することとかあります?」

すると、

「割ってんならありえねぇぞ。そんなことになったらここは四六時中毒霧だらけだぜ?」

と、笑いながら教えてくれたので、たしかにそれもそうかと納得した。

欠片になっても作動するなら、生活用の魔石としてはまったく活用できず、ただの危ない石になっちゃうもんね。

だから革袋に入れたまま、俺は宿屋に持ち帰ったのだ。

別に魔物の体内に入っていたわけじゃないし、地面に転がっている石を持ち帰ったのと同じ感覚なので、匂いや強い不快感があるわけでもない。

それに宿へ戻ったあとは、すぐに魔石の存在なんて忘れていた。

今日チラチラとステータス画面を見ていたら突如現れた異変。

たしか――ルルブの森で風呂パーティしていた時以来であり、あの時願った仕様変更。

そう、所持金額の表示がとうとう追加されたのだ!

といってもあの時の願いが反映されたのかというと少し微妙だ。

グリールモルグで串カツっぽいのを食べた時、共通通貨だと知って俺は改めて願った。

これならなおさらに、ステータス画面で所持金表示してほしいなって。

だから『New』の後にお願いしたという意味で順番に追加されたとも言えるし、最新の願いが叶ったとも言えるなんとも微妙なところ。

だがまぁ、これでステータス画面を見られるというスキルに、レベルが存在している可能性はかなり高くなったんじゃないかなと思う。

二つ目の仕様が追加されたとなれば、今は推定レベル3。

となれば1~2年後くらいにはレベル4になって別の追加仕様が狙えるかもしれないわけだし、頻繁に上がるものじゃないからこそ、慎重に考えておいた方が良いだろうな。

ちなみに現在表示されている数値はこうなっている。

『6,189,500ビーケ』

持ち金をきっちり数えて照合したわけじゃないけど、別に仕舞っている白金貨3枚分も含まれた、俺の手持ち総額であることはまず間違いなさそうだ。

そしてこのお金表示部分に視線を合わせると、別の数値にも切り替えられる。

『92,908,300ビーケ』

こっちの大きな数字は、たぶんハンターギルドに預けている手持ちじゃないお金も含めた総額だろう。

これから俺は『現金』『ハンターギルドの預金』『商業ギルドの預金』『傭兵ギルドの預金』と所持金総額が分かりづらくなるので、本の代金でバンバンお金が飛んでいく身としてはかなり有難い追加仕様だ。

そしてここの数値が一応まだ現実的なことから、手持ちの物品資産はカウントされていないこともはっきりしたな。

いやーフェルザ様グッジョブですよ。

これからも世のため人のため、魔物退治と悪者退治をどんどん頑張りたいと思います!

こうして分厚いラグリースの宣伝本は放っておかれたまま朝になり、鐘の音とともに目を覚ました俺は今日も早朝からイスラ荒野へと来たわけだ。

今日は定点狩り用でいつも持ち歩いている大と中型サイズの革袋の他に、普段の荷物入れ用として宿に置いてある中型革袋も追加で持参。

ポイズンクラウドの魔石片を溜めまくるぜ~? と意気込みながら、誰もいない奥地で定点狩りを開始した。

この時、一番の失敗だったのは、適度に食わせて魔石を統合させていけば良かったのに、一気に試そうとしてしまったことだろうな。

イベントアイテムなど、成長と密に繋がらないアイテムは、なぜか溜めてから一気に使いたいという『溜め癖』が出てしまった。

我慢して一気に現れる変化を楽しみたいという――ゲーム感覚と興味本位で、いつの間にか魔石の欠片を拾い集めることが目的になってしまっていたように思える。

それに実際集めるだけなら効率もかなり良かった。

昼過ぎには、現代のリュックサックよりもう一回り大きいくらいの中型革袋が、昨日の持ち帰り分も合わさってパンパンになるくらいには集まったのだ。

となれば予定通りお替わりするわけで――今度はもう一つの中型革袋と定点狩り用の大型革袋を持って狩りを再開した。

つまり籠の横に、魔石片が大量に詰まった革袋を置いたまま定点狩りを再開したということになる。

……油断、ではなかったはずだ。

《ワロー丘陵》でフォトルシープがいきなり湧く現象。

あれだって発生原因を確定できたわけではなかったし、湧く瞬間を直接この目で見たわけでもない。

"リポップ"と言ってもいいくらいゲームに寄り過ぎた出来事だったので、実感があまり持てていなかった。

それにこの狩場は視界に俺一人という状況。

魔(・) 物(・) が(・) 枯(・) れ(・) る(・) なんて、そんな事態想定もしていなかったというのもある。

だから――――

目を離した隙に、まさか新しく湧いたであろうポイズンクラウドが、俺の集めた魔石片を喰ってるなんて、そんな事態を想定もしていなかった。

振り向いた時にはもう遅かったと思う。

遠目にみるポイズンクラウドは、かなりの距離があるにもかかわらず巨大で、今までみたこともないほど深い紫色をしたソレは上空の雲すら喰わんと思わせるほどだった。

しかし、それでも俺は安堵していた。

それは噴煙のように 濛々(もうもう) と立ち上った霧の体積が、徐々に徐々に小さくなっていたからだ。

定点狩りをすれば、20~30分ほどは魔物を探して走り回る。

だからそのうち『 時(・) 間(・) 経(・) 過(・) 』で、あとは小さくなるだけだと、そう思っていた。

失敗した――せっかく集めた魔石の欠片はどうなっちゃうんだろうって。

だが、そんな楽観的な予想はすぐに外れたと思い知らされる。

たしかに体積は小さくなっていた。

が、合わせてどんどん危険度が上昇することを示すように、霧の色が濃密な紫から黒へと変わっていく。

全力で駆け寄りながらも、これはマズい……直観的にそう思い、【洞察】を使って確信した。

あぁ、これは――たぶん、俺じゃ勝てなくなる。

成長途中だったからか、今までに感じたことのない曖昧で、それでいて気持ち悪い感覚だった。

もうこうなれば必死だ。

この場を逃げるだけならどうとでもなる。

だが、あの極濃の毒霧を放っておけばどうなってしまう?

想像も、できない。

だから咄嗟に取った行動は、とにかく 散(・) ら(・) す(・) こ(・) と(・) だった。

『高速で 突き抜けろ! 雷槍!』

『散らせ! 襲雷!』

『と、届けっ! 天雷! 周囲の霧を 吹き飛ばせ!』

発動速度、飛来速度ともに速い【雷魔法】を様々に撃ち込むも、しかし効果は薄い。

"雷槍"は届くが、あまりにも一点突破過ぎて霧に穴を空けるだけ。

一番効果の期待できそうな広範囲魔法"天雷"は、距離の問題からしっかりと当たっていないように感じた。

だが……収束が止まっている……ようにも見える。

飛び散った霧を再度集めることに力を注いでいるような、流動する霧の動き方がそんな雰囲気を感じさせた。

ならば止めてはならない。

【雷魔法】を連発しながらこれ以上ないほど全力で駆け寄り、そしてやっと届きそうだという距離になって本命を放つ。

『はぁ……はぁ……突風の壁よ! 波の如く 広がる霧を 散らせッ!!』

がむしゃらに、【風魔法】を撃ち続ける。

身体の中が乾き、魔力が目減りしていくことを実感しつつも、霧が散り、徐々に通常の紫色へと戻っていく様を見れば、ここで止めるわけにはいかなかった。

そしてついに訪れる好機。

薄らいだ毒霧の奥で、人の頭ほどはありそうな、不自然に丸い魔石の玉が地面に転がっているのを確認する。

「あ、あれか……! あの魔石を、……全力で、打ち砕け、襲雷ッ!!」

絞りだすように放った一撃。

その結果――着弾後を見て、大きく息を吸いながらも再度駆け出す。

壊(・) せ(・) て(・) い(・) な(・) い(・) 。

魔石を魔法で壊そうと思ったことは今までなかったが……物理的な攻撃手段と違い、どうも魔法で与える衝撃やダメージは上手く伝わっていない気がする。

ならば直接だ。

呼吸を止め、視界が強烈な刺激によって涙で滲むも、それでも分かりやすく鎮座する目標物に近寄り、強く握った剣を振り切る。

ガギン――――ッ

「ふざ、け……【体術】剛力ッ!!」

ガギッ!!

ッ――!

手と魔石、それぞれから発された音が混ざり合い、普段では聞きなれない音色と痛みに思わず顔を歪める。

剣は魔石に刺さっていた。

だが少し食い込むだけで割ることまではできなかったので、咄嗟に刺さったままの剣の上から、俺が勢いよく掌底を打ち込んだのだ。

「い、いっでぇー……ッ! け、剣は……あぁ、良かった、本当に良かったぁ……」

手のひらをフーフーしながら見つめるモノは、真っ二つに割れた巨大な魔石。

剣がもし折れていたら、目標という自分の拘りを捨ててでもパイサーさんに今すぐ泣きつくところだった。

霧が急激に薄らいでいく様子を確認し、安堵で深く息を吐き出す。

(ヤ、ヤバかった! けど、これはもしかして……)

この状況を分析しようとするも、すぐにそんな場合じゃないと――割れた魔石を籠に放り込んだらすぐさま上空へと舞った。

この状況では再度事故が発生する可能性もある。

ならばまずは、生まれる魔石から距離を取らなければ――

そう判断し、残り少ない魔力に冷や汗を掻きながら、まずはこの狩場からの離脱を最優先させた。