軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

190話 二つ名

翌日。

ニローさんから許可はもらったようなものなので、そのまま第一と第二を隔てる石壁を飛び越え、宮殿の正面入り口近くにダイブする。

昨日兵士の人にドアを開けられ馬車から下ろされた場所。

俺を見れば分かるかなと近寄れば、入り口を守る兵士のおじさんに声を掛けられた。

「ロキ殿、でしたな。今日も御用で?」

「はい。今度はニーヴァル様に呼ばれたんです」

「なるほど。昨日色々ありまして、まだ中は混乱しておりますが……どうぞ」

(案外スムーズだな……)

そう思いながらも中へ入っていく。

このまま上空から宮殿の正面門を越え、昨日ばあさんと話した庭の辺りに直接降り立ってもたぶん大丈夫だっただろう。

しかし今の兵士の反応を見る限り、俺を異世界人と理解して多少畏まっている素振りはあるも、街の神官を動かして無理やり解決に持ち込んだ張本人――というほどの反応ではなさそうだった。

ならば都合良し。

ばあさんが上手く昨日の出来事を誤魔化し、俺の秘密を抱えたままでいてくれている可能性が高いことは分かった。

昨日通ったこともあって、目がチカチカする廊下を通りながらあの部屋へ。

ドアをノックすれば、昨日と同じように俺と同じ目線のばあさんがすぐに出迎えてくれる。

「来たね。ちゃんと考えてきたかい?」

「えぇ。あ、エニーちゃんもこんにちは」

「こんにちは!……ってちょっと! 同じくらいの歳なんだから『ちゃん』なんて付けないで!」

「えぇ!?」

ひ孫には俺が異世界人であることを伝えてないのか?

思わずばあさんにヘルプの視線を送れば、頬を掻きながら弁明してくれる。

「はぁ。ちゃんとロキ坊のことは伝えてるよ。それでも、誰に対してもこんな感じでねぇ」

「な、なるほど……」

物怖じしないと言えばいいのか、それとも単純に子供扱いされるのが嫌なのか。

いまいちはっきりしないが、ズバ抜けた才能ってやつがこの性格に関係しているんだろうなってことはなんとなく予想できる。

ばあさんもまぁ、ひ孫だから甘々なんだろうな。

「は、はは……それじゃエニーって呼べばいいかな?」

「そうそう! 私もロキって呼ぶからね~! ロキはあの苦いのでいいんでしょ?」

機嫌が良くなったのか、鼻歌混じりに飲み物を作りにいくエニーを視界に収めつつばあさんを見据える。

「とりあえず考えてはきたんですけど―――いでっ! 考えてはきたけどっ! この部屋で話しちゃっても大丈夫?」

そう問うと、やや目を見開きながらもばあさんが答えた。

「なんだい。大概のことは協力するつもりだけど、そんな大層な話なのかい?」

「いやいや、そこまでじゃないと思うんだけど。ほら、部屋で話せば筒抜けって昨日言ってたじゃない?」

「あぁ。今日は大丈夫だよ。監査院の連中も今はそれどころじゃないからね。今頃は各町への早急な報告と、この街の教会各所を総出で張ってるだろうさ」

「ん……? あーなるほど。街の神官を抱き込んだ罠って可能性も一応考えているわけか」

「そういうことさ。まぁ陛下が亜人差別の完全撤廃に舵を切ってるから、裏取りのための調査だけは念のためにしておくって程度だろうけどね」

そう言ってエニーが運んできたコーヒーを口にし、さらに顔の皺が寄るばあさん。

だったら飲まなきゃいいのに……ズズッ――あぁやっぱり美味いわぁ。

「じゃあ遠慮なく言っちゃうからね。俺が望むことは3つ!」

「3つか、よし来な」

「まずはコレ! このコーヒーをどこから仕入れているのか教えてほしい!」

「……なんだって?」

「いやだから。このコーヒーを今後も飲みたいから、どこに行けば買えるのかをね」

「……それなりに構えた私がバカみたいじゃないかまったく。このコーヒーはヴァルツ王国からだよ。ただ街じゃ売っていない――"禁制品"ってやつだけどね」

「え? そんなこと国の重鎮が堂々と言っちゃっていいの?」

「構いやしないよ。下町には出回らないってだけで、王家や貴族連中の一部も好んで飲んでるんだ。嗅覚に優れた獣人が生産に関わっている ら(・) し(・) い(・) 。だから本当は国内持ち込みすら禁止だけど、一部の商品を人のみが栽培したことにして入れているのが実情ってわけだね」

「……」

「阿呆らしいだろう? 国だってここまでの規制に意味がないことは分かっていたのさ。でも公に解除していけば歯止めがきかなくなる。だから特権階級の連中だけは良しとする勝手な解釈を自分達で作る。それがこの世さ」

ただコーヒーを求めただけなのに、またも嫌な話を聞いてしまった。

言わんとしていることは分からなくもない。

何かを認めれば、次はアレもコレもなんてよくある話だ。

でもだからと言って、上の連中だけがちゃっかりその恩恵を享受してちゃ駄目だろう。

しかも、そこにはばあさんも――

恨めしい目で見つめれば、ばあさんは飄々とした様子で答える。

「私は 端(はな) から差別なんてくだらないと、50年以上も前から唱え続けていた身だ。外には亜人の友人だっているし、亜人が作ったものでも良い物なら喜んで使うし食べる。国がなんと言おうとね」

「それ、立場的に大丈夫だったの?」

「大丈夫じゃないと思ったから、祖国を捨ててでも国を出ると言ったよ。そうしたら慌てて宮殿にこんな部屋を用意してきたのさ」

ヒッヒッヒと笑うばあさんの明け透けっぷりには驚くばかりだ。

さっきは誰かのせいにしてたけど、ばあさんがこの性格だから、エニーもそちらに寄ってきているんじゃないかとさえ思ってしまう。

(まさに強者の特権だな)

当たり前だけど、ばあさんだからできたことだろう。

国がルールに穴を空けてでも、ばあさんという戦力を手放せなかった。

周りが勝手に勘違いしているだけでちょっと意味合いは違うけれど、それでも自分を取り巻く環境と似たようなもの。

となると――次はその秘密だな。

コーヒーの件は脇に置き、二つ目の要望を伝える。

「ねぇばあさん。ばあさんの強さの秘密を、少しでも良いから教えてほしい」

全部教えてくれなんて、そんな怖いことは言えない。

いくら今は友好的な関係とはいえ、ばあさんを怒らせたらきっとどえらい目に遭う。

だから一端、せめて強さのヒントにでもなる手掛かりがあれば。

俺のこの問いに、少し考える素振りを見せるばあさん――の横に座っていたエニーがなぜか口を開いた。

「大ばあちゃんがなんて呼ばれているか知らないの?」

「え? ニーヴァル様じゃなくて?」

「んーん。"火仙の魔女 ニーヴァル"――これが広く知れ渡っている大ばあちゃんの呼び名」

「火仙の、魔女?」

「……本当に何も知らないっぽいね。ちなみにロキ坊はさらに上、今後は天級の何かで呼ばれる可能性があるから覚悟しときな」

「???」

二つ名のようなものっぽいが……

それでもまったく理解が追い付かないので詳しく聞けば、内容はそう難しいものではなく、そしてちょっと心ときめくものだった。

まず前提として、所持スキルとは本来伏せるモノ。

それは手の内を晒さないという意味で一般的にもある程度理解されていることであり、【隠蔽】スキルの取得が推奨されるくらいには自己防衛に有効だとされている。

しかし、特定スキルの上段者――つまり一定のスキルレベルを超えてくると、逆に公表することで他者、他国を威圧、警戒させることに繋がり、延いては国の防衛戦略にまで組み込まれることがあるという。

それが『 華(・) 覚(・) 仙(・) 天(・) 』と呼ばれる階級呼称だ。

特定スキルレベル7を示す『華級』

特定スキルレベル8を示す『覚級』

特定スキルレベル9を示す『仙級』

そして、特定スキルレベルの最大値10を示す『天級』

これらに武術系統スキル、もしくは魔法系統スキルを組み合わせることで、ばあさんのように『火仙』という呼び名が広く認知されるらしい。

要は、"私は【火魔法】レベル9所持者ですよ"と、この二文字で公言しているわけだ。

高レベルだろうが隠したい人や、独自の二つ名を持つ人達も一定数いるため、国が内外に向けて公表しやすい軍部所属の人間は、特にこの呼び名が適用されているとのこと。

公言するだけならタダなので、真偽も含めた戦略と言えそうだが――それでも並みの相手ならビビって喧嘩なんぞまず売らんだろう。

そして俺が『天級』と呼ばれる可能性についても理解する。

転生者は最大レベルのスキルを所持して生まれるわけだから、戦闘に絡むようなスキルがあれば自動的に天級と呼ばれるわけだ。

そして生産職など戦闘に絡まないスキルは、仮にスキルレベル10だとしても、この『華覚仙天』という階級呼称はまず使わないらしい。

(とすると、俺は本来なら【雷魔法】がスキルレベル7だから――『雷華』と呼ばれるわけか)

ふむふむ、なるほどなるほど。

ちょ、ちょっとカッコイイような……?

内心ニマニマしながら脳内で復唱していると、今度はばあさんの『魔女』という部分も気になってくる。

これは見た目? それとも職業だろうか?

そう思って聞いてみれば――

「えぇー"特級職"なのに知らないの!? ロキって全然勉強してこなかったでしょ!」

――と、これまた横のエニーから強烈な突っ込みが入る。

(おっほっほー……子供に青筋立てるとかバカ野郎だぞ。落ち着け~落ち着け~……)

「コレッ、普通はエニーのように恵まれていないんだよ。勉強したくてもできない子達だっていっぱいいるんだ」

「そうだそうだ! 勉強する気持ちだけは物凄くあるんだぞ!」

「ふーん! じゃあ貧乏なんだね!」

「び、貧乏じゃねーしっ!?」

パカン! パカーンッ!

「「いたーッ!」」

「くだらないことで喧嘩してんじゃないよまったく!……それで、ロキ坊は強さの秘密を知りたいんだろう?」

「そ、そうそう! 別に細かいスキル構成を教えてほしいとかじゃなくて、こう、なんていうか……コツ? みたいな」

「……ちなみにロキ坊は今なんの職業を選択してんだい」

「えぇ!? そ、それは……ひ、ひ……」

「「ひ?」」

「秘密の、職業……」

「あっ、大ばあちゃん! これ絶対下級職だよ! ロキのこの顔、絶対に下級職だから恥ずかしくて言えないんだよ!」

図星どころか永久無職みたいなものなので、プルプルしながらエニーを見ると、まるで勝ち誇ったかのようにドヤ顔を決められる。

(ち、ちっくしょぉ~! でも言えねぇー! 営業マンなんてわけ分かんないこと言えねぇー!)

「はぁ……エニーはアルトリコんとこに行って借りといで」

「えー! また勉強!?」

「勉強できることは恵まれているって言っただろう? とっととお行き!」

知識自慢してたけど勉強が好きなわけじゃないんだな。

ガックリ肩を落として退出していくエニーを眺めていると、見計らったかのようにばあさんが口を開く。

「今の職がロキ坊の 秘(・) 密(・) に繋がるのかもしれないから深くは聞かないよ。でももしエニーの言う通り職選びが適当なら、まずは上級職を目指しな。仮に今選ぶことができなくても、取得スキルや環境によって選べる職は増えてくるもんさ。それがさらなる高みを目指すなら一番の近道だよ」

「それは分かってるんだけどね……」

「これでおあいこだ。私も公にしていない 秘(・) 密(・) を教えとくと、<魔女>は選んだだけで魔法に関連する複数のスキルが2レベル上昇した。ここまでは一部の書物にも公開されていることだけどね。それとは別に、取得する前と後とじゃ1度に放つ魔力消費量も明らかに変わったよ」

「それって【魔力自動回復量増加】のスキルが、職業効果でレベル上がったとかじゃなくて?」

「それも上がっちゃいるけど、間違いなく別だね。ロキ坊もそれなりの魔法を放てば、魔力が身体から抜けていく感覚はあるだろう?」

「あぁ~あるある」

スキルレベル1程度じゃさっぱりだけど、レベル4くらいにもなれば感じるアレか。

体内の水分が身体から抜けていくような、魔力を消費していくほど身体がスカスカに 乾(・) い(・) て(・) い(・) く(・) あの不思議な感覚のことを言っているんだろう。

「そいつが同じスキルレベルの魔法を撃っても、体感で差がはっきり分かるくらいに違うのさ」

「ちなみに消費量は増えるの? 減るの?」

「効果は同じで消費が減る、だね」

「へぇ……」

複数スキルがレベル2上昇補正っていうのも十分凄い。

特級職という高位クラスの恩恵で上がるスキルの対象範囲も広そうだし、それで上方補正の対象がスキルレベル制限無しとなれば、無職と言ってもいい俺からすれば脅威にしか思えない。

+2補正ってことは、実質スキルレベル8まで上げれば合算10の最大値でゴールってことになるわけだからな。

キツくなる後半になればなるほどその恩恵は大きいはずだ。

おまけに 魔(・) 力(・) 消(・) 費(・) 減(・) 少(・) ボ(・) ー(・) ナ(・) ス(・) か。

体感できるくらいということは、3%とか5%なんて小さな話じゃないだろう。

10%くらい……いやいや、明らかなんて表現を使うくらいだから30-50%くらい減少している可能性だってある。

そして強者のパーセンテージで動く変動ボーナスがどれだけ恐ろしいものなのかは、過去のゲーム知識から十分過ぎるほどに理解できている。

(魔女……魔法使い的なポジションだから魔力消費……つまり職によってスキル上昇などとは別の、サブ的なボーナス内容が全く異なる可能性も出てくるのか)

ふぅ――……

肺から大きく空気が漏れる。

ショックと言えばショックな内容だ。

今まで実感させられる場面はまったく無かったが、初めて目の当たりにする強者――その職業性能がかなり魅力的に映ってしまう。

俺とどちらが得なのか、簡単に比較できるものではないだろう。

ただ――同じフィールドを共有し、同じ冒険をしているのに、一人だけ別のゲームをやっているようなこの感覚――

頂点を目指したいのに、前提のルールが違うとなれば戸惑いを隠せない。

(負けたく、ないなぁ……)

「さて、それじゃそろそろ行こうかね」

「え? どこに?」

また庭?

そう思って外に視線を向けようとした時、丁度良いタイミングでエニーが戻ってくる。

「大ばあちゃんお待たせ! 借りてきたよ鍵っ!」

「ロキ坊が私の強さについて知りたがるくらいだ。欲しているモノなんて大体想像がつくよ」

「え……」

「さぁ行くよ。この国の 書(・) 庫(・) 、興味あるだろう?」