作品タイトル不明
189話 実在した魔王
向かった先は、第四区画の北東にあると聞かされていたリア専用の教会だった。
やはりというか、午後は混み合うような話もあったはずなのに、罪の女神様を祀る教会はスッカスカ。
長椅子に座ってボーッとブサイクな神像を眺める親父が一人いるだけだったので、一言断りを入れて像の前に跪く。
すると、
「もう大丈夫ですよ」
来ることが分かっていたのかすぐに毎度の言葉を耳が拾った。
なんだかんだと魂の旅行も慣れたものだ。
近所のショッピングモールに行くような感覚で神界に訪れているような気がする。
目を開けば――、あれ?
「えーと、みんなありがとうね」
「こちらこそ、戦争回避のためにありがとうございます」
「私達の不始末みたいなものですからねぇ~」
「……」
そこにはいつもの布陣とは少し違う構成。
なんか一人不貞腐れてるけど、今日は張本人であるリアにアリシア、フィーリルの3人だった。
「なんだか今日は珍しい組み合わせだね。一応お礼と報告に来たけど大丈夫だった?」
「もちろんですよ~」
「どうぞこちらに」
見たことのある白い机に白い椅子。
宙を撫でるだけで出てくるそれらを、マジックのタネを見破るくらいの気持ちでガン見していると、横の" 不貞腐れ子(リア) "から声が掛かる。
「大丈夫そうなの?」
「あんなに神官の報告が来るとは思わなかったけど、あの感じなら大丈夫だと思うよ。リアのお告げで王様なんて死にそうな顔してたし」
「そう」
「あの恐れっぷりなら亜人差別が継続されるなんて流れにはまずならないだろうね。元から好きで差別してたわけじゃなさそうだしさ」
そうなのだ。
解決の見通しが立ったからこそ見えてくる視点。
当初は差別したり、俺をいざという時の的にしようとするこの国にイライラしっぱなしだったが、今代の王が禁足地に足を踏み込むという国の成り立ちを知り、ここが過去に裁きを受けた曰くのある土地だと知れば、せめて再び裁きが落ちないようにと全力で国を守ろうとするのは自然なことだろう。
なんせ恐れているのは『神』なのだ。
具体的にどこまでは問題無く、何をすれば罰を受けるのか、その線引きだって考えれば答えが出るようなもんではなかったと思う。
かと言って今更国や土地を捨てるなんて、ここまでの規模の都市まで形成されていればまったく現実的ではない。
となれば、国の舵取りは現状維持しか選択がなくなる。俺ならたぶんそうなってしまう。
今までのやり方で裁きを受けていないという事実があるのなら、国を、民を、皆の生活を守るためにはそれらを踏襲していくしかなかったんだと、冷静になった今ならそう思う。
だからばあさんはきっと『 呪(・) い(・) 』なんて言葉を使ったのだろう。
「確かに――王の考え方も正反対になっているようですし、これなら大丈夫そうですね」
「あ、そういえばさっきいたところにもみんなの像があったけど、あそこも教会と同じなの?」
「みたいですね~普通は教会以外に神像を置くなんてありませんよ~」
「信仰が厚い」
「あー……リアの【神罰】にビビり過ぎて、自然とそうなっちゃったパターンか」
チラリとリアを見れば、物凄い勢いで顔ごと視線を逸らす。
「ん~これからも文明発展の妨げになる戦争なんて、このやり方で全部抑えられるんじゃないの? って思ったけど……そう上手くはいかないのかな?」
「それは難しいですね。信仰が薄い国ではそこまでの効果が望めないでしょうし、下界への干渉という意味でこのやり方を常習化はできませんから」
「亜人の種族には教会が存在しない集落や部族も多いでしょうしね~」
「今回は過去の【神罰】が原因になっているから特別」
「なるほど」
たしかに今回の方法がどこにでも通じるなら、転生者同士の覇権争いや周りを巻き込んだ戦争なんかも止められるはずだ。
でも信仰が薄ければ脅し程度じゃ止まらない――たぶんそういうことなんだろう。
リアはまだ把握できていないんだろうけど、もし知ったとして、暴れ回っていると噂の転生者に【神罰】を撃つのだろうか……
そう考えると、ばあさんの話に出てきた"魔導王国プリムス"というのが、なぜ 神(リア) の裁きを受けたのかが気になってくる。
「ねね、話の中で出てきたんだけど、当時魔導王国プリムスって国に【神罰】落としたのは、何が原因だったの?」
「ん……プリムスが長命種の多くを殺した。捕まえて、実験してた?」
「長命な亜人種や古代人種の多くが、あの時代を境に絶えてしまいましたからねぇ~」
「あのまま放っておけば、この世界の人種は人間以外の全てが滅びていたかもしれません」
うぇ……多くの種が全滅って、想像していたよりも酷いかもしれない。
なるほど、これが【神罰】を落とされる目安か。
確かに神様が干渉するのも頷ける内容だわ。
「下界だと色々な伝わり方しているみたいだけど、結局プリムスが相当悪かったってわけね」
こう呟けば、それだけじゃないと3人が続く。
「おおよそ正解?」
「ん?」
「きっかけは一方的に亜人を魔物と 見做(みな) して駆逐したプリムスでしょう。しかし、報復行為で多くの人間を殺めた魔導士の存在も【神罰】を撃たざるを得ない原因だったと言えます」
「亜人も人間も、当時物凄い数を減らしちゃいましたからねぇ~」
「報復の相手が人間っていうと――つまり亜人側の魔導士ってこと?」
「そう。魔人種の長だったはず。ロキが欲しがっている【空間魔法】も使う有名な魔導士だったっぽい」
「記憶を覗けば当時大抵の人間は、『魔王』という存在として認識していたような気がしますね」
「リガルが戦ってみたいと零すくらいには強かったみたいですよ~」
「リルも認めるほど強い魔人の王……」
RPGやMMO好きには堪らないパワーワードだ。
創作物の世界だけかと思っていたけど、実際にそう呼ばれている人がこの世界にはいたことに、不謹慎ながらちょっとした感動を覚えてしまう。
「亜人=魔物という当時の風潮から、人間側が皮肉の意味も込めて呼称していただけのようですけどね~」
「魔人種が当時は亜人の中で最も勢力が大きかったせいもあるでしょう」
「それで人間と亜人が争ったという伝承が残されているわけか」
「私達も争いの末期になって被害状況を察しましたから、そこまで詳しいことは分かりません。ただその魔導士――正確には魔人種とプリムスの争いは、あまりにも周囲を巻き込み過ぎました」
「だからしょうがなく、私がその争いの中心に【神罰】を撃って収めた」
最後に、だから私が悪いわけじゃないと小声で呟くリアに、そうだねと返しながらも考える。
どちらの視点でも残されていた伝承は、そのどちらもが正解だったんだなと。
そして予想していたとおり、女神様達の介入は末期も末期。
それまで事の経緯を長く見守っていたというより、事態の深刻さに気付いて慌てて動き出したという感がヒシヒシと伝わる。
「ねぇもしさ、当時より下界の情報に詳しければ、もっと早くに介入したり、被害を抑えられたりできたと思う?」
この問いに強い自覚症状があるのか、アリシアが特に顔を歪める。
「それは……否定できません。ロキ君がこの世界に来てから、そのように感じることが多くなってきています」
「教会があるのは人間の住む町ばかりなので、亜人種の生息域をはっきりとは把握できていませんでしたけど~……もし分かっていたなら異変に早く気付けたかもしれませんねぇ~」
「危ない魔道具とか怪しそうな実験は先に把握できた方が安心」
「なるほど……」
となれば、やはり重要か。
全てが賄えるとは思っていないし、鮮度の問題だって出てくるだろうけど――
それでも情報源として現状最有力なのは、やはり『本』しかない。
女神様達が本気を出せば片っ端から記憶を確認していけるのかもしれないけど、それだって今の話を聞く限り人間ばかりで偏った情報になり兼ねないからな。
改めて自分にとっても、そして女神様達にとっても必要性があることを知る。
「オッケー分かった。それじゃ俺も明日お偉いさんのばあさんと交渉してくるから――」
「「「……」」」
「フェリンと……あとはたぶんリルにも。これからどんどん『本』を読んで勉強してもらうって伝えておいて」
すると声が直接聞こえたのか、上空から二人の悲痛な叫びが聞こえてくる。
その声に苦笑いしながら、俺は教会へ意識を戻してもらった。