軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133話 壁×壁

「誰ですか!?」

俺の第一声はそれだった。

鍵も閉めている高級宿の自室に知らない人が立っているのだ。

そりゃ驚くし、1秒後には、もしや? とは思うも、流れ的にあんた誰だよと聞くのは当然である。

「遅い……遅いぞロキ。待ちくたびれたではないか」

「あー……やっぱりリガル様?」

「他に誰がいるのだ?」

いや、見た目だけなら全然違いますよ、と。

喉から出かかるのを必死に止める。

何かあるのか、窓の外を眺め続けているリガル様は、あれだけ駄々を捏ねていた鎧を着ていない。

それこそ他の女神様と同じように、白いワンピースのようなものを着て佇んでいた。

膝下程度の丈はフィーリル様と同じくらいで、その清楚で清らかな後ろ姿はどこかのお嬢様のようにも見えてくる。

想像以上に細い足首が妙に色っぽい。

「おぉ……鎧脱げたんですね! これなら町の探索も大丈夫じゃないですか」

「あぁ。覚悟を決めたのだ」

「そうでしたか。ところで外に何かあるんです?」

「何もないが、下界の景色を眺める良い機会だと思ってな」

「そうでしたか。それじゃ俺は帰って早々申し訳ないですけど、すぐ風呂に入ってきちゃいますね」

「分かった」

(朝はちょっと大丈夫か? って思ったけど、無事鎧も脱げたようで良かった良かった。これで明日は予定通りにいきそうだな)

そう思いながら湯を溜め、その間に身体を洗ったり装備を拭き、ザップーンと風呂の湯に浸かって早めに部屋へ戻ると、その光景は部屋に入った時とまったく同じもの。

どうやらリガル様、よほど外の風景にご執心なようである。

あの方面にリガル様の神像が置いてある教会でもあるのだろうか?

この時間に教会なんて開いていないと思うのだが。

「リガル様? そんな外に面白い物でもあります?」

「いや、無い」

「?」

首を捻りながらも、俺のような小僧には理解できない何かがあるんだろうと思って、布団と悩みながらも椅子に座る。

眠気がキツいとはいえ、相手はリガル様だからね。

布団でゴロゴロしながら会話をしたのではきっと怒られてしまう。

「それで、今日は鎧が脱げたっていう報告でしたか?」

「そうだ。なのでこの町で転移者探索をしながら民のご飯を食べる。あと明日も予定通りだ」

「了解です。ただ今日のご飯はこの時間なんで勘弁してくださいね。もうお店が開いてないので」

「それは構わん。気にするなと言ったのは私だからな」

「では明日は――……って、その前に座りません?」

「いや……私はこのままでいい」

「そ、そうですか……ではちょっと今日寝不足で起きられるか微妙なので、明日は朝7時くらいで良いですか? それでご飯一緒に食べましょう。俺が寝ていたら叩き起こしてくれて構いませんので」

「了解した」

「で、場所はさすがにこの辺りだとまずいので、一度町の外へ出た方がいいでしょうね。人目の付かないところで確認したいことを進めていきましょう」

「うむ」

「……それじゃ俺はもう寝ますが、あとはもう大丈夫ですか?」

「……うむ」

(なんだよ、この間は)

絶対何かある。

そしてそれが言いづらいこともなんとなく分かる。

【分体】を消そうとする感もないし……まったく。

ほんとリガル様は子供っぽいなと思いながら、しょうがないのでこちらから誘導を試みる。

「リガル様。何か言いたいこと、ありますよね?」

「……」

「先ほどから眺めている外に何か原因でもあるんですか?」

そう言って立ち上がりながら窓へ向かおうとすると――

「そっちは何も関係無いぞ! だから来るな! 近寄ってはならん!」

背を向けたまま、手のひらだけ必死にこちらへ伸ばして制止を掛けるリガル様。

相変わらず声がデカいんだが?

このままだと周りに迷惑なので、いい加減これだろうなと予想している部分に触れる。

「リガル様。もしかしてその格好、俺に見られたくないんですか?」

「(ビクッ!!)」

盛大に肩が跳ね上がった。

こっちでビンゴだな。

「正確には俺だけじゃなく、誰にも見られたくないってところですかね? その服で街中歩くのを嫌がっていたわけですし」

「な、なぜ分かるのだ……」

「さっきから一向にこちらを向こうとしませんし、そりゃなんとなく予想もつきますよ。でも俺にすら見せられないんじゃ、鎧を脱げた努力が無駄になりますよ?」

「くっ……分かっている……分かっているのだ……ロキ、絶対に笑わないか?」

「?……もちろんです。笑う要素無いと思いますし」

鎧を脱いで顔が変わるなら笑ってしまうかもしれないが、そんなことあるわけないしな。

だから" ど(・) ち(・) ら(・) の(・) パ(・) タ(・) ー(・) ン(・) "なのか。

ほぼ2通りだろうと思いながら「安心してほしい」と声を掛け続ける。

早く振り向いてくれないと俺が寝られないんだよ。

今日は朝も早かったから本当に眠いんだよ……

するとその思いが通じたのか。

やっと覚悟が決まった様子を見せるリガル様。

「ふぅ~……はぁ~……では、ゆくぞ。笑ったら承知しないからな……」

そう言って振り返ったリガル様は

「ん? 普通に清楚なお嬢様に見えますけど?」

「ほ、ほんとか!?」

今まで鎧姿しか見ていないので、印象の差はたしかに大きい。

だがそれは良い意味であって、白いワンピースは可憐な印象すら俺に与えてくれる。

そして――

(こっちのパターンか。種族特性かな?)

予想していたことが当たってしまったことに溜め息が出る。

リガル様は必死に両手である一部分を隠していた。

表情から絶対に見せまいという気迫を感じて少し怖い。

それでも早く寝たい一心で核心に触れていく。

「リガル様~その手。そんな常に隠していたら町中に出てもおかしいですよ?」

「な、なぜそこを突っ込むのだぁー!!」

「だからシィーですってば。もう大半の人が寝ている深夜なんですからお静かに」

「済まん……でもこれだけは……これだけは……」

(はぁ……マジで面倒臭い)

もうこの一言だった。

まさかリガル様がここまで手のかかる性格だったとは。

こんなやり取りしていたら何時に寝られるか分かったものじゃないので、俺は立ち上がり強硬手段に出る。

「な、なんだ!? なぜ近づいてくる!?」

「いいから静かにしていてください。もう何で悩んでいるかも分かっていますから」

「ひゃう!」

「ふむ、お腹はペッタンコですね。適度に硬くてウェストはかなり細い……素晴らしいと思います」

「……え?」

「手足も見える範囲はホッソリしていて何より凄く長いですし、痩せ型なら胸は気にしなくていいと思いますよ? そんな人いっぱいいますし、その痩せている体形が魅力だったりもしますから」

「ッ!!? ひ、貧相な胸は恥ずかしいものだとフィーリルは言っていたぞ!?」

「胸の大きさで女性を評価する風潮はありますので、その内容が嘘とまでは言いません。ただ、重要なのはトータルバランスですよ? その点リガル様は全体が細いので違和感もありませんし、逆にこの華奢な――モデル体形が好きという男性も多いと思います」

「ほ、本当に……?」

「本当ですよ。決して恥ずかしいことではありません。だから自信を持って手を下ろしてください。そうしないと町中歩けませんからね」

「……分かった」

長かった。本当に。

深夜だからという理由だけではない疲れがドッと押し寄せる中、恐る恐る自らの手を下げるリガル様を見つめる。

(ふむ。これは 絶(・) 壁(・) という表現がピッタリだな……)

思い返せば、昨日の鎧姿ではまったく気付かなかった。

どうも胸の部分が膨らみのある形状になっていた気がするので、要はあの鎧が矯正胸パッドみたいな役割を果たしていたのだろう。

女神様がそんな庶民的な悩みを気にするのかよと、思わず苦笑いしてしまう。

「うん。まったく問題有りません。凄く綺麗ですし、その服も似合っていますよ。これでバレる可能性はかなり低くなると思います」

「まさか本当に皆の言う通りに……綺麗? このような服が似合っているだと? 私が……?」

「本当ですって。なんならこれから一緒に寝ますか? 俺はリガル様なら大歓迎ですよ?」

「ばっ!! ばか者っ!! なんと破廉恥な……もう私は帰るからな!!」

断られることが分かっているから言えた言葉。

そうじゃなきゃあんなこと俺が言えるわけもない。

焦って霧を纏うリガル様を見つめながら思う。

――リステの次がリガル様で良かった。

あんな共有なんて話が出た後に、リステと深い仲になったんだ。

俺としては次に降臨する女神様、リガル様を凄く意識してしまっていた。

もしや、リステと同じような状況になってしまうのではないか、と。

しかし蓋を開けてみれば、他の女神様達と違って様呼び敬語口調を指摘されることもないから、一定の距離感を保った状態で話せている自分がいる。

食事風景を見ていたら手のかかる先輩のような存在に切り替わり、今のやり取りで女性という意識は完全にどこかへ吹っ飛んでいってしまった。

だから冗談だって言える。

そしてこの精神状態は俺にとって凄く楽だ。

共有なんて言われてもまだ実感が湧かないし、何かあれば大好きなリステに対して裏切りという気持ちが少なからず出てきてしまうからな。

だから今はこれでいい。

その方が狩りにも集中できるし、俺の心が穏やかでいられる。

(はぁ~……明日ちゃんと起きられるかなぁ。ってか二度寝したら、もうリガル様に起こしてもらうしかないよな……)

そんなことを呟きながら、俺はベッドへ倒れ込んで眠りについた。