軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

132話 撤退×撤退

「む、無理だぁああああああああああ!!」

「しぃーーーーーッ!!」

「むりだぁ……むりだぁ~……」

目の前で頭を抱えるリガル様。

急にしおらしくなってなんだか可愛い生き物に見えてしまうが、そんな甘えが許される状況ではない。

バレればとんでもない大惨事になる。

「いったい何が無理なんです? 他の女神様達と同じ格好をするだけですよ? リガル様も降臨していることがバレたらマズいのは分かっているでしょう?」

「それは分かるが……でもだな。しかし、鎧を脱ぐというのは――」

「何を気にしているんですか……それはバレることよりも重要なことなんですか?」

「うぐっ……私にとってはどちらも同じくらいに重要なのだ……」

「……リガル様?」

「なんだ……?」

「例えば今のように、街中で急に名前を呼ばれたらどうするんです? 正直リガル様は返事しちゃうでしょう? それを警戒してか、リステは一切町の人としゃべりませんでした。話しかけられてもです。そんなことできます?」

「……無理……な、気が……する……」

「えぇ、俺もそう思います。でもリガル様は目立つし分かりやすいんですよ。なんせ神像がお一人だけ別物ですから。俺が最初に神界に呼ばれた時だって、リガル様だけはすぐに分かったでしょう?」

「たしかに……」

「この町は大きいし、周りに狩場が4つもありますからハンターは山ほどいます。混雑し過ぎて俺が依頼を受けられないほどです。当然その人達の多くはリガル様を信仰しているんでしょうし、この姿を見たら高い確率でリガル様を思い浮かべるはずです」

「……」

「でも鎧じゃなく普通の服ならば、ただの猛烈美人としか思いません。もしかしたら声を掛けてくる輩はいるかもしれませんけど、いきなりリガル様と想定して話しかけてくることは無いと思います」

「……」

「リガル様、顔を赤くしている場合じゃありませんよ?」

「ひゃい……」

「バレればどんな惨事が待ち受けているのか俺には分かりません。ただ他の女神様達にも迷惑が掛かるでしょうし、この町が大混乱になることは間違いないでしょう。そのまま情報が世界に回って大きな異変が起きるかもしれません」

「……」

「それでも、鎧は脱げないんですか?」

「うっ……うぅ……」

「はぁ……あくまで俺個人の意見なので、最終的には女神様同士で話し合うべきですけどね。どうしても鎧を脱げないなら町の中は危険過ぎますから、パルメラ内部とか人のいない場所に変更された方が良いと思いますよ?」

「そ、そんなぁ……」

今までの威厳はどこへやら。

身体が3分の1くらいに縮まったんじゃ? と勘違いしてしまうほど、小さくなってテーブルに突っ伏しているリガル様を少し不憫に思ってしまう。

先ほどから「鎧、脱げない、脱ぎたくない」と小声で呟いている姿が痛々しい。

だがなぁ……これが百歩譲って安物の革鎧ならまだしも、見るからに凄いと分かるような鎧なのだ。

まだこの世界に日の浅い俺でもこれは普通と違うって分かるんだから、この町のBランクハンターなんかはすぐにこの鎧の異質さを見抜くだろう。

ちょっと眩しいくらいに光り輝いてるし。

「まぁもし町中の探索が厳しいとなっても、俺の現状確認とか知り得た追加情報とか、その辺りはちゃんとやりますから。その時は俺が狩場にいる時とかに【分体】降ろしてもらうしかないですけどね。人のいないところで狩ってるので」

「……本当に、本当に本当に、女神だと分かってしまうと思うか?」

「はい。早々に女神様疑惑が掛けられ、呼ばれた名前に反応して自爆する未来しか見えません」

「ううっ……分かった、出直してくる……私のことは気にしないでくれ……」

そう言って項垂れたまま消えていくリガル様を、俺はただ黙って見つめることしかできない。

だが、ふと思う。

(リステもいない中で、いったい誰と相談するのだろうか……?)

翌日。

今日も今日とて淡々と狩りをこなす。

朝は少しだけ待ってみたものの、結局リガル様が降りてくることはなかった。

果たして今日の夜は降りてくるのか――

【神通】以外でこちらからまともに連絡を取る手段が無いので、とりあえずは女神様達がどう判断するのか。

その結果に合わせるしかないだろう。

そんなことを考えながらカエル狩りをしていたら、やっと求めていたアナウンスが流れる。

『【水魔法】Lv4を取得しました』

(おしおしっ!)

これでノルマの145体討伐が完了だ。

レベル1所持のスキルを一通り最低限のレベル4までは上昇させた。

腕時計を見れば時刻はもう少しで午後5時といったところ。

視界に入る太い枝に飛んで腰掛け、休憩がてら足をプラプラさせつつステータス画面を眺める。

(【物理防御上昇】は――……レべル4の7%か。となるとここでレベル5に持っていくにはあとマッドクラブを450体くらい。これはさすがにキツいし時間が勿体無い気もする。そのうちここよりもっと高レベルのスキルを所持した魔物だって出てきてもおかしくないしなぁ。となるとこれでボイス湖畔は終了だけど……いったい金色のアンバーフラッグはどこにいるんだろうか?)

この3日間、ちょろちょろと狩場を移動をしながらも一応探してはいた。

素材価値50万ビーケ以上というお金の部分にはそこまで興味もないが、どんなスキルを所持しているのか。

できればこの点を知りたかったからだ。

しかし倒すどころか、一度もお目にかかってすらいない。

初日以外は人のいないところで狩っていたから当たり前だが、誰かが倒す光景すら見ることもなかった。

(周期と出現ポイントが分からないと粘る意味もないよなぁ……)

いくらスキルレベルを上げたところで、【気配察知】では特定の魔物まで判別ができない。

となれば【探査】となるわけだが、果たして金色のアンバーフラッグが『アンバーフラッグ』として【探査】に引っかかるのか。

ここまで思考したところで、一つの違和感を覚えた。

(そもそもとして、この魔物名称は誰が付けたんだ? もし人が勝手に名付けたなら、スキルという存在の後にできた後付けの呼び名だ。ということは――……)

試しに【探査】で、『カエル』と心の中で指定する。

すると視界の先にいるアンバーフラッグが、【探査】に引っかかったことをスキルの能力によって理解してしまう。

(……『死んだカエル』を【探査】)

「ふむ……多過ぎて訳わからん」

(やっぱりだな。今までこの世界の誰かが決めた魔物名称で【探査】をかけていたけど、実際はスキル使用者がその言葉から想定している存在をスキルで探しているわけか)

どのような原理でこのようなことができるのかなんてさっぱり分からない。

ただただ、この世界のスキルは奥が深いなと、そう改めて思ってしまう。

だがこれでやるべきことも見えてきた。

当然試すならこのワードだろう。

(『黄金のカエル』を【探査】)

反応は、無い。

ということは今のスキルレベルで賄える半径30メートル以内には『黄金のカエル』がいないということ。

ならば。

石柱の上に乗せている籠はそのままに、飛行を開始して飛びながら【探査】を発動し続ける。

この付近には人がいないなら、こんな魔物の探し方だって問題無いはずだ。

俺は黄金のカエルが、普通のアンバーフラッグよりもスキルレベルが高いだけのただの上位互換なのか、それともまったく別のレアスキルを所持していたりするのか。

早くその確認がしたくて、心躍りながら周囲を探索した。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

時刻は23時。

俺は大馬鹿野郎だと思いながら宿に向かって歩く。

一つの発見をした興奮から、後先考えずに【飛行】を使って黄金のカエルを探し続けた。

そう、少し試すではなく、飛び続けてしまったのだ。

その結果、当然出てくるのは魔力不足。

帰りの【飛行】ができないと気付いた時にはもう遅く、魔石だらけのクソ重い籠を背負って徒歩帰宅を余儀なくされた。

おまけに俺がいたのは湖の反対側だ。

獣道さえ存在しない森の中を彷徨い、道中で完全に日が落ちて真っ暗闇になった時には、久しぶりにパルメラの森を彷徨ったあの恐怖が蘇ってしまった。

それでも【夜目】を使いながら腕時計で方位だけは確認し、魔力が多少回復すれば飛んで街道を探して……

苦労に苦労を重ねてマルタになんとか到着したというのに、今度はハンターギルドが閉まっていて換金すらできない始末。

街灯すらないこの世界の文明で、こんな遅くまでやっているのは飲み屋くらいなもんなのでしょうがないとは分かっている。

その飲み屋だって俺が宿に戻る頃には、開けているお店は数えるほどだったからな。

(はぁ……黄金のカエルなんて欲を出したばっかりにこんな事態になるなんて……結局見つからなかったし、しばらく黄金のカエルは忘れよう)

もう既に10回は繰り返している反省の言葉を己に呟きながらも、俺はようやく宿に到着した。

籠には換金できなかった大量の素材。

こんなものを背負ったまま入るのは申し訳ないなと感じながらも自室へ向かうと、どうしても通らざるを得ない1階カウンターにはいてほしくない人物がいた。

そう、例のほぼ支配人なおじいちゃんである。

「これはロキ様、このような時間まで動かれていたのですか」

「え、えぇ……ちょっとトラブルがありまして。ギルドが閉まってて換金できなかったので、素材を抱えたままですみません。魔石だけなのであまり臭くはないと思うんですけど……」

そう言うと支配人の眉がピクリと動く。

「お疲れのところ申し訳ありませんが、籠の中身を拝見しても宜しいでしょうか?」

「うっ、もちろんです」

ヤバい、怒られる。

そう思った。

ここはマルタでも一番の高級宿だ。

そんなところに大量の魔物素材なんて持ち込んだら普通はマナー違反だろう。

臭いから中に入れるなと言われるか、いくら魔石だけといっても今から洗浄を命じられる可能性もある。

籠を下ろし中身を恐る恐る見せれば、だがしかし、俺の予想に反しておじいちゃんは好奇な反応を示しながら呟いた。

「これはボイス湖畔の品でしょうか? おっしゃる通り、見事なまでに魔石だらけですね……」

「えぇ。その通りですが、よくボイス湖畔と分かりましたね?」

「水色の魔石が多く混ざっておりますので。この辺りで水色の魔石が採れるのはボイス湖畔だけですから」

「なるほど」

この時点でなんとなく分かった。

これはもしや、商談か? と。

おじいちゃんが今までとは違う、商人のような 獲(・) 物(・) を(・) 狙(・) う(・) 目に変わっていた。

「ちなみにこの品、当館にお売りいただくことはできないでしょうか?」

「お値段によっては」

だから俺は考えるまでもなく即答した。

今は書状を使わずに換金している。

つまりそれはハンターとしての功績が上乗せされないということ。

それにもし書状を使っていたとしても、Dランクハンターの俺がEランクの魔石を大量に納品したところで大した功績にはならないだろう。

ならばおじいちゃんに売却した方が俺にとってはプラスだ。

仮にギルドの買取と同額であったとしても、俺は明日の朝一に換金しに行く手間が省けるし、この宿だからこそとも言える風呂の魔石消費量。

この点を考えれば普段からこの宿が魔石を大量に仕入れていることは明白なので、お互い相場感を分かって取引できるに違いない。

こちらが現状宿泊客という立場から、優位に話が進む可能性だってある。

「ではお手数ですがこちらに」

そしてカウンターの奥にある、従業員専用と思しき通路を通り、その奥にある一室。

『支配人室』と書かれた豪華な部屋へ俺は案内された。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「眠い……ねむねむねむ……ねっむーい……」

フラついた足取りで、現在泊っている2階の自室に向かう。

時刻は既に0時を回っているだろう。

だが無事商談も纏まり、俺の籠は見事に空っぽだ。

代わりに硬貨数枚を手にしている。

(これが1枚100万ビーケ相当の白金貨か……やっぱり綺麗だな)

初めて手にするそれは、一見屋台とかでよく使う銀貨に近い色合いだが、名前の通りやや白みがかっていた。

そして何より傷が無く硬貨自体が非常に綺麗だ。

一部の場所、人の間でしか流通していないんだろうし、さすがにこの価値の硬貨をぶん投げて払うような人はまずいないのだろう。

なんとなく他の硬貨が入った革袋に仕舞うのは勿体ないと感じ、思わずポケットに白金貨だけ仕舞い込んでしまう。

(しかし、どうしたもんか……)

支配人おじいちゃん、商談だったのでウィルズさんと自己紹介されたが、そのウィルズさんの支払いは気前が良かった。

ハンターギルドの買取価格も把握しているらしく、店頭の価格も説明を受けた上でおおよそ1つ1000ビーケほどギルドよりも高い金額で買い取ってくれた。

それでも仕入れに行く手間と魔石総数を考えればウィルズさんもしっかり得なようで、可能であればもっと持ってきてほしいとお願いされたくらいである。

まぁ、ボイス湖畔は今日で終了予定なわけですが。

もちろんその旨を伝えた時は肩を落として落胆していたが、それでも「いつでも買い取りますので」と言われてしまえば、こちらも【光合成】や【物理防御上昇】などのレベル2所持スキルを、レベル5まで引き上げるべきかと悩んでしまう。

(う~ん。リガル様がちゃんと予定通り明日降りてきてくれれば、客観的に俺がBランク狩場で通用するか分かるかもしれないんだけどなぁ)

そんなことを考えながら自室のドアを開ければ――

「え?」

そこには綺麗な金髪をした 謎(・) の(・) 女(・) 性(・) が、部屋の窓から外を眺めていた。