軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

447

試作品が一通り出揃ったところで、レオルドはふと気になったことを思い出した。

「ところで、キャロライン。厨房の料理人に試作機を渡したと先ほど言っていたが……」

「うん。実地試験も兼ねてね? ここから程よい距離があり、手伝ってくれる人材がいたのでね」

「……いや、そうじゃない。それなんだが機密保持の観点からはどうなんだ?」

レオルドの問いに、その場が静まり返った。

キャロラインは自身の髪をくるくる回しながら小首を傾げる。

「……はて、なんのことかな?」

「それで誤魔化せると思わないでください!!」

シルヴィアが鋭く割り込んできた。

「キャロラインさん、魔導通信装置は今、ごく一部しか知らない国家機密なんですのよ!? それを軽々しく厨房の一般人に渡すなど――!」

その勢いにキャロラインも流石にたじろぎ、手を上げて降参のポーズ。

「す、すまない。でも大丈夫だ。ちゃんと名札に試験中ってつけといたから!」

「そういう問題ではありません!!」

「キャロちゃん……」

テスタロッサが友人のやらかしに頭を抱えていると、シャルロットがぽつりと口を開いた。

「……あ~、でもそれは問題ないわよ?」

「……え?」

一同の視線が一斉にシャルロットに向く。

「ちゃんと契約かけておいたから~。その料理人の子も契約済みよ?」

「な、なんだって!?」

キャロラインが素っ頓狂な声を上げる。

「ふふふ、誰かがやらかすと思っててね。事前に契約しといたのよ~。もっとも、キャロラインが一番だとは思ってなかったけどね。レオルドがうっかりやると思ってたのに~」

「おい……!」

レオルドはジト目でシャルロットを睨みつける。

「そ、そうか! 助かった。感謝する」

シャルロットの話を聞いてキャロラインはホッと胸を撫でおろす。

「ふふん。もっと感謝してもいいのよ~?」

シャルロットは得意げに胸を張る。

「契約内容は『装置に関する情報を外部に漏らさない』。違反すればその場で呼吸困難に陥るようになってるの~。それでも無理矢理に情報を漏らそうとしたら心臓が停止することになってるのよ?」

「流石と言えばいいのだろうが、恐ろしい契約だな……!」

「保険にしては過剰ではありますが、それだけの価値が魔導通信装置にはありますからね……」

シルヴィアも呆れと感嘆の入り混じった表情で、レオルドの方に顔を向ける。

「レオルド様、これ以上開発班に自由を与えると、想定外の事件が増えますわ」

「わかってる……。けど、だからこそ、あいつらが必要なんだよな……」

前髪がまだチリチリのままのレオルドが、深いため息をついた。

レオルド含め、ゼアトの開発班は問題児だらけだが、それでも優秀な人材の集まりなのだ。

世界最強の魔法使いシャルロット・グリンデ。

爆弾魔と恐れられる異端児ルドルフ。バーナード。

天才錬金術師キャロライン。

才能あふれるフローラ・フィリップス

そして、異世界の知識を持ち、 運命48(ゲーム) の攻略知識を持つレオルド。

この五人が合わされば、ゼアトの発展はさらに飛躍することだろう。

自動車、回復薬、そして魔導通信装置。

すでに自動車と回復薬は完成し、あとは普及させるだけとなっている。

そして、今回の魔導通信装置が加われば、世界はさらに変わることだろう。

もっとも、今のゼアトは余裕がなく、魔導通信装置にまで手が回らない。

よって、必要な場所と必要な者たちを厳選する必要があった。

レオルドは立ち上がると、全員を見渡した。

「……とりあえず、魔導通信装置の配備先を絞る。まずは王家、ゼアトの幹部に騎士団と警備隊、そして研究班。それ以外は落ち着いてからだ」

「異論ありません」

「慎重に進めましょう」

ルドルフが軽く手を挙げ、フローラが真面目に頷いた。

「え~、ちょっとくらい遊ばせてくれても……」

レオルドの決定に不満そうなシャルロットが口を尖らせる。

「却下だ。爆発の記録、今日だけで三件だからな」

「それは自業自得でしょ~!」

「確かに俺の反応が遅かったのが悪いが原因はお前の失敗作だからな!」

「私、悪くないも~ん!」

「開き直るんじゃない! まったく……」

レオルドは前髪を手で撫でつけながら、改めて告げた。

「この通信装置が完成すれば、戦場でも街でも、どこでも連絡が取れる。命を救うこともできる。だからこそ、確実に、慎重にやるんだ」

それは、現代知識を持つレオルドだからこそ知る、携帯通信の本当の価値だった。

この装置は、ただの便利な道具ではない――繋がり、そのものを変えるものだ。

だがその時――

試作品のひとつが、カチリと音を立てた。

「ん? 今の音はなんだ?」

「キャロラインが作ったやつから聞こえたわね~」

「む? 装置が切れていなかったか?」

レオルド、シャルロット、キャロラインの三人が机の上に置かれている装置を上から覗き込むように見つめる。

「キャロライン。これには何か他の機能があるのか?」

「……自爆装置だな」

言い辛そうに答えるキャロライン。

「なんとっ!?」

自爆と聞いて驚きつつも、喜びを隠しきれないルドルフ。

「なんでそんな物騒な機能つけたのよぉ~!」

「いや、情報の塊だからな? 万が一、敵の手に渡ったら困るだろ。だから自動で焼却する魔法陣を……」

「それ焼却じゃなくて爆破でしょ!! なんてものを取り付けたの、キャロちゃん!」

テスタロッサが泣きそうな顔でキャロラインを怒るも、時すでに遅し。

レオルドは咄嗟にシルヴィアを庇って床へ伏せ、テスタロッサはレポートを抱えて背後へ飛びのき、ルドルフは喜々として爆心地の真横でノートを広げていた。

「総員、衝撃に備えろっ!!!」

――そして。

ボンッッ!!

爆発は、小さくはなかった。

机が一部吹き飛び、床に焦げ跡が残り、天井からはすすけた書類がひらひらと舞い降りてくる。

「――みんな、無事か?」

「わ、私は平気です……」

レオルドに抱えられるように守られているシルヴィアは傷一つない。

強いて言えば、突然レオルドに抱きかかえられて心臓がドキドキしているくらいだ。

シャルロットは笑い転げ、ルドルフはすすけた顔で倒れており、キャロラインは自身の作った作品について満足げに首を傾げる。

何とか避難に成功していたテスタロッサが言った。

「……キャロちゃん。最初に言って? そういうのつけたら最初に、ね?」

「いや、爆発するはずはなかったんだ。恐らく、誤作動を起こしたんだろう」

「昔のキャロちゃんより酷くなってる……! きっと、環境の所為だわ」

呆れ果てているテスタロッサの傍でフローラが渇いた笑みを浮かべていた。

自身も心当たりがあるので他人事とは思えなかったのだ。

「アハハ……」

ひとまず、吹き飛んでしまった机や紙類などを片付け、レオルドたちは再び魔導通信装置の開発を続ける。

途中、シルヴィアは他にも仕事があるのでテスタロッサと一緒に研究棟から出て行く。

レオルドも付いて行くべきだったのだが、興が乗っているレオルドは研究棟に書類を運ばせ、事務作業の傍ら、魔導通信装置の開発に携わった。

その後も軽い夕食を取りつつ、レオルドたちは休まず、開発を進めていく。

ゼアト研究棟、深夜。

窓の外には、まだ星が瞬いている。

夜明けまでにはもう少しかかるだろう。

しかし、研究室の中には眠気を忘れた者たちの熱気が満ちていた。

「……よし。全符紋の安定を確認」

「魔力同調率、誤差ゼロよ~。これなら揺らがないわね!」

「暗号強度も最大、通信可能距離は短いが……これは今後の課題としておこう」

キャロラインがうなずき、シャルロットが目を細め、ルドルフは煙を吐くように肩で息をついた。

そして、フローラが緊張した手つきで最後の封印結晶を装置に取り付ける。

カチリ――。

小さな音が、静寂の中に鳴り響いた。

それはすべての作業が終わったことを告げる、確かな完成の合図。

「……出来た、か?」

レオルドが真っ赤に充血した目で四人に問いかける。

誰もが一瞬、言葉を失う。

そして――

「完成です! 魔導通信装置、正式版! ついに完成しましたっ!」

ルドルフが両手を挙げて叫び、椅子ごと倒れ込んだ。

キャロラインが機械を撫でながら「ふっ」と鼻で笑い、フローラが胸を押さえて小さくガッツポーズ。

「ふふ……! 徹夜明けのテンションって最高よね~!」

シャルロットが笑い、レオルドが目を伏せる。

感無量、という言葉がぴったりだった。

「朝日が目に沁みそうだな……」

「シルヴィアには怒られること間違いなしね~」

「……その前に少しだけ仮眠をとるか」

ともかく、これで――

魔導通信装置(マジックフォン) は正式に完成した。