軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ゼアトの新たな朝が静かに始まる。

だがその静けさとは裏腹に、館内はすでに熱気に満ちていた。

執務室の一角――

分厚い資料の束を手に、イザベルとギルバートが並んで立つ。

二人が持ち込んだのは、回復薬に関する制度草案と流通設計の初期案だった。

「――以上が、我々が現段階でまとめた草案になります。回復薬の効能を活かしつつも、既存の医療体制との衝突を最小限に抑えることを意識しました」

「民間への流通もいずれ視野に入れていますが、まずは王都および主要都市への先行導入が現実的かと考えます」

シルヴィアは一つひとつの文面を丁寧に目で追い、唇に指を添えて思案を巡らせた。

「……概ね良好ですわ。ただ、薬効の検証に関する第三者機関の設置、それに保管や流通過程での温度管理基準、それと――価格の公定制度。いずれも欠かせませんわね」

「はい、その点についても今後の課題として――」

「なんだか面白そうなことやってるじゃな~い。私も混ぜてもらえる~?」

唐突に軽快な声が響き、執務室の扉が開いた。

シャルロットが片手をひらひらと振りながら入ってくる。

「ナイスなタイミングですわ、シャルお姉様。お持ちの知識と知恵は、制度設計にもきっと役立ちます」

「オッケー! 魔力との干渉性とか、研究ネタも絡めていい感じに仕上げちゃうわよ~」

こうして四人は資料を囲み、制度、規格、法案、そして流通設計に至るまで、熱心に議論を重ねていく。

まるで、国の未来を形にする鍛冶場のように――。

一方、レオルドは――

「マルコ、走行テストの結果はどうだ?」

「はい、レオルド様! 昨日の改良でかなり安定しました。もう実走テストに移れます!」

マルコと共に自動車の最終調整を進めながら、レオルドの頭にはお披露目会の構想が浮かんでいた。

「ならば、次は会場の建設だな。決めてある場所は、工場の近くだ」

「……開墾してない荒地ですよね? 本当に今日から作業するんですか?」

「ああ、善は急げ、だ」

自動車工場はゼアト中心部から離れた土地に建っている。

騒音や軍事関連の用途を考慮して選ばれた立地だった。

そして、その近くにある未開墾地が、いずれ試乗会や展示会場となる予定である。

「また魔法使いたちが働くのかぁ……特に風と土の担当が」

「人聞きの悪いことを言うな。これまで死人は出ていないだろう」

「死人こそ出ていませんが、廃人寸前まで働かされた者は何人も……」

「気合いが足りんだけだ」

「レオルド様みたいな魔法剣闘士と比べられても……」

風魔法で樹木を薙ぎ払い、土魔法で地面を整える開墾作業は重労働だ。

だが、ゼアトには魔力共有化のスキルを持つレオルドがいる。

彼は住民たちから微量に魔力を徴収し、それを共用リソースとして再配分することができるのだ。

――ただし、魔力が無限に使えようとも、体力と精神の限界は越えられない。

過去の工事では、廃人寸前まで酷使された魔法使いが続出した。

そのなかで最後まで倒れず、陣頭指揮を執り続けたのは、他でもないレオルドだけだった。

「まあ、俺も無茶はさせたくない。今回は少し配慮してやろう」

「ほんとですか?」

「……善処する」

二人の間に苦笑が漏れ、会場整備という新たな任務に向けて歩みを進めていく。

会場のデザインについてはサーシャに一任することにした。

レオルドは今後、行われるであろう試乗会、展示会、催しなどに使えて、尚且つ貴族や王族が唸るような見た目にしてほしいと伝える。

漠然としたイメージでしかないがサーシャは与えられた仕事を最後まで責任もってやり遂げると決めた。

サーシャに会場のデザインを任せたレオルドは魔法使いたちを引き連れて、開墾作業へ向かう。

魔法使いたちはレオルドから開墾作業を伝えられた時、げんなりとしていた。

以前のこと思い出しているようで魔法使いたちの士気は低い。

しかし、給料が高い上に特別賞与まで出るとなれば話は変わってくる。

やはり、金は人の原動力となりえる。

レオルドはしめしめと怪しい笑みを浮かべ、魔法使いたちを倒れるまで使うことを決めたのであった。

日が高く昇り始めた頃、未開墾地の現場では、魔法使いたちが渋々ながらも作業準備に取りかかっていた。

風魔法使いが前方に立ち、深いため息と共にぼやく。

「……またこの日が来たのね。背筋が寒くなるわ……。いや、風だからじゃなくてね?」

「こっちはもう腰が痛ぇよ……! 地面ガッチガチやんけ……。誰だよ、ここ選んだやつ」

「私たちに決定権があるわけないでしょ……。あれ見なさいよ、あの笑ってる領主様」

その視線の先――地図を片手に指揮を取るレオルドが、すこぶる機嫌良く叫んでいた。

「よし、各班に分かれて作業開始だ! まずは森林部の伐採から入れ!」

「はぁい……」と、気の抜けた返事が返ってくるが、動きは速い。

報酬と賞与の力である。

風魔法使いたちが手を掲げると、空気が唸りをあげる。

突風が巻き起こり、木々が次々と根元からなぎ倒されていく。

続けて土魔法使いたちが出てきて、倒木を一箇所に集め、地面を平らに均していく。

魔力の共有化によって、彼らは無尽蔵に近い魔力量を使える。

だが、その分、消耗は激しい。

最初の一時間で、すでに数人が膝に手をついてぜぇぜぇと肩で息をしていた。

「魔力はあるけど、体がついていかねぇ……!」

「なにこれ地獄……でもお金のため……!」

「ごほっ、ごほっ……誰か……水を……」

レオルドはというと、現場のど真ん中で魔力供給の中継役をこなしながら、余裕の表情で木材の運搬にも加わっていた。

「手を抜くな! 今、倒してるのは明日の基礎材になるんだ。慎重に扱え!」

「えっ、レオルド様、自分で運ぶんですか!?」

「当然だろう。指示だけ出す貴族のまねごとは性に合わん。それにいい鍛錬になるからな!」

「もしかして、身体強化してないんですか?」

「流石に身体強化なしでこの樹木を運ぶのは無理だ。だが、必要最低限に出力を絞ってはいるがな」

その言葉に、魔法使いたちは複雑な顔をした。

「(……いや、そういうことじゃなくて、あんたが働くと、こっちも手を抜けねえんだよ……! あと、やっぱり、あんたは化け物だよ!)」

やがて作業は佳境に入り、森林部の伐採が終わる頃には、現場の空気も変わっていた。

「……あと少し……あと一本……!」

「風班、倒したぞー! 次、整地班いけー!」

「オラァアアアアア!!」

「キエェエエエエエエ!」

「うりゃあああああっ!」

「ボーナーーーーースッ!」

多種多様に叫びながら、土魔法使いが渾身の魔法で地面をならしていく。

最後にレオルドが指を鳴らし、全体に魔力を循環させた。

――瞬間。

大地が一斉に震える。

整地が完了した合図だ。

「……っはああああ! 終わった……!」

魔法使いたちはへたりこみ、地面に寝転がる者まで出た。

その中で、レオルドだけが涼しい顔で言い放った。

「ふむ。予定より一時間早く終わったな。優秀だ。では、次の現場へ行くぞ。30分ほど休憩を終えたら、指定の位置まで来い」

「……こいつだけは人間じゃねえ!」

「鬼、悪魔、守銭奴!」

「外道領主、法外領主!」

「王都で働いてた頃が懐かしいな……」

怨嗟とも賞賛ともつかぬ声が、整地された新たな会場跡に響いたのだった。

整地作業を終えたその日の午後、レオルドは再び工場へ戻ってきた。

汗と土にまみれた服を着替え、仮眠すら取らずに机へ向かうと、待ち構えていたサーシャが設計図の束を差し出す。

「……お疲れ様です、レオルド様。お約束の会場設計図、仕上がりました」

その声は淡々としているが、どこか誇らしげだ。

レオルドは手を伸ばし、さっそく設計図に目を通す。

「ふむ……。正面は石造りで荘厳な雰囲気。中庭には噴水と舞台。貴族専用観覧席に……控え室も完備か。しかも動線が計算されている……」

「はい。王族や貴族が視察に来ることも想定し、見栄えだけでなく実用性も両立させました。あと、一般市民向けのエリアも設けてあります」

「……完璧だ、サーシャ。お前に任せて正解だった」

素直な称賛に、サーシャの表情がほんの少しだけ緩んだ。

「まだ仮案ですので、改修は可能です。各部隊との連携も必要かと存じますが……」

「いや、これで行こう。明日から建設に入ってくれ。資材の手配はギルバートに。作業班には俺からも通達しておく」

「かしこまりました。では、図面の写しを数部用意いたします」

サーシャが退出すると、レオルドは再び書類の山に目を向けた。

「(回復薬の制度案、自動車の完成、会場の整備……そして――)」

視線の先、ひとつの封筒が目に入る。

それは――ヴァンシュタイン公爵からの書状だった。

「……ジークフリートの件、か」

重く静かな声が漏れる。

――いよいよ、もうひとつの火種が動き出す。

ゼアトに迫る貴族社会の波。

そして、ジークフリートを巡る女難の派閥を巻き込んだ騒動の幕が、今、上がろうとしていた。