軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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変装を終えた国王アルベリオン、シルヴィア、宰相、そして護衛のリヒトーと共に、レオルドはゼアトの中心街を歩いていた。

辺境とは思えぬ整然とした街並み――石畳の道路は段差なく均され、両側には商店や食堂、職人工房が建ち並ぶ。

その間を行き交う人々は活気に満ち、笑顔も絶えない。

「……改めて見ても、あの辺境だったゼアトとは思えんな」

呆然と呟いたのは、宰相であった。

老眼鏡越しに何度も景色を確認しながら、驚きと困惑の表情を隠しきれない。

「陛下、あちらでは日替わりで帝国商人の市が開かれております。あの屋台群は王国、帝国の共同経営です」

「なんと……まるで小さな王都ではないか……」

リヒトーは辺りを警戒しつつも、通りの整備状況や警備体制を観察し、ぽつりと漏らした。

「国境の出入り口だと言うのに治安も悪くありませんね。王国、帝国の人間が入り混じっているというのに……。これは凄いことだよ」

「ありがとうございます。訓練と、仕組みの改善を繰り返した結果です」

レオルドの言葉に、国王はふっと笑った。

「……まるで、この大陸の縮図を見ているようだ。これをお前一人でやり遂げたのか?」

「いえ、民の協力と、知恵ある仲間がいたからこそです」

「謙遜か、それとも本心か……いや、どちらでもいい。結果が全てを物語っているな」

やがて一行は、ゼアト郊外に設けられた広場へと足を運ぶ。

そこには木製の仮設観覧席が用意され、数名の技術者たちが何やら整備を行っていた。

「お待たせしました、陛下。こちらが、今回ご覧いただきたい“成果”です」

レオルドの言葉とともに、幕が引かれる。

現れたのは、黒鉄の塊――鋼で覆われた、四輪の機械。

「……こ、これは?」

「試作一号機――自動走行馬車、またの名を自動車でございます」

技術者の合図により、エンジンが唸りを上げる。

ごう、と低く響く音。振動と共に、機体がゆっくりと走り出した。

馬無しで、だが確実に前進し、カーブを描いて戻ってくるその姿に、王と宰相は言葉を失う。

「……まさか、馬無しで動くとはっ!」

「これに使われているのが……ミスリルか?」

「はい、装甲の一部と魔導変換機に。軽量で魔力伝導率に優れ、冷却性も高い。他の金属では成しえなかった領域です」

王はしばし黙したのち、口を開いた。

「レオルド、お前は……確かに未来を見ている」

その眼差しには、もはや疑念の色はなかった。

「シルヴィア……お前の言う通りだった。これは、ただの暴走ではない。王国を導くかもしれぬ灯火だ。いや、新たなる未来であろう」

「光栄にございます、父上」

王は静かに息をつき、空を見上げる。

「だが……王都ではこの報せがすでに波紋を広げている。お前がフリューゲルと結び、これを公開したとなれば、保守派は黙っておるまい。その辺りについてはどう考えている?」

「その辺りは一度、屋敷へ戻ってからお話しましょう。腰を据えてゆっくりとね」

「ふふ、そうだな。この自動車には腰を抜かしそうなほど驚かされた。宰相もそうであろう?」

「ええ。寿命が短くなってしまうかと思いましたよ」

「棺桶を用意しましょうか? 宰相殿」

「やかましい! まだまだ現役だ!」

冗談にしても笑えないようなことを言うレオルドに向かって怒鳴り声を上げる宰相。

しかし、その顔はどこか穏やかそうであった。

「それでは、しばらくゼアトを見学した後、屋敷へ戻りましょうか」

「うむ。そうだな。まだ時間はある。もう少し、この町を見て回るのも良かろう。案内を頼むぞ、レオルド」

「お任せください」

レオルド達は再びゼアトの街へ視線を戻した。

ゼアト中心街の視察を一通り終えたのち、レオルドの案内によって一行は再び領主邸へと戻った。

街の整備状況、民の表情、そして未来を象徴するかのような自動車――

すべてが『辺境』という枠組みを逸脱したものであり、王の胸中にもひとつの結論が静かに芽生えつつあった。

館の応接室には、すでに茶と軽食が用意されていた。

重厚な椅子に腰を下ろした国王は、窓越しに見えるゼアトの街並みをしばし無言で眺めていたが、やがて静かに口を開いた。

「……確かに、目を見張るものがあった。だが、同時に危うさも感じている。もとより、お前の功績は凄まじく、多くの貴族から妬まれている。そこにあの自動車という新たなる文明をもたらしてみろ。このゼアトに不穏な考えを抱くのは火を見るよりも明らかだ」

その一言に、レオルドは真っ直ぐ王を見据えた。

「仰るとおりです、陛下。急速な発展は反発も生みます。だからこそ、今こうして直接お話しし、ご理解いただく必要があるのです」

「……ふむ、話してみよ。ゼアトの未来とは何だ? そして――フリューゲル家との友誼、その真の狙いは?」

国王の目に再び、玉座でのような鋭さが宿る。

その問いは「民の父」としてではなく、「国家の王」としてのものだった。

レオルドは息を整えると、真正面から語り出す。

「まず、フリューゲル公爵家と手を結んだ最大の理由は――ご存じの通り、自動車に使われるミスリルの安定供給を得るため。そしてもう一つは、ゼアトの後ろ盾となってくれる味方を確保するためです」

「なるほど。確かにゼアトの味方は今まで我が王家とお前の実家であるハーヴェスト公爵家しかいなかったな」

「ええ……。帝国戦争の際、ゼアトを食いものにしようとした貴族たちを一斉に排除した結果――どうにも他の貴族方からは、敬遠される立場になってしまいまして」

帝国との戦争の際、レオルドが内通者を炙り出したこと自体は功績だった。

だが保守派の貴族たちはその手腕に怯え、次第に距離を取り始めた。

明確な敵対はしていないものの、味方とも言えない――

いざという時には徒党を組んで、レオルドを排除しようと動く可能性すらある。

ゼアトの戦力をもってすれば烏合の衆など相手にすらならないが、万が一ということもある。

いくら、国王が釘を刺し、他の貴族を牽制したとしても欲にかられて愚かな行為に走るのが人間と言うものだ。

特に自尊心の高い貴族はそういう傾向が多いだろう。

「お前の言いたいことは分かった。そう言うことであれば、問題ないだろう。だが、自動車はどうする? アレは画期的な発明だ。帝国の魔道列車を上回ると私は予想している。王国だけでなく大陸中の人間が欲しがるだろう」

国王はひと呼吸置いてから言葉を続ける。

「莫大な利益が生まれ、その中心にお前がいることになる。先程の繰り返しになってしまうが、多くの者たちがお前を妬み、やがては見当違いな恨みすらするだろう。そうなればどうなるかは分かっているな?」

「その点についてはご安心を。私は自動車を独占するつもりは一切ございません」

「なにっ!? アレだけの発明品を独占しないと!?」

驚愕と共に声をあげたのは宰相だった。

長年、数多の利権と争いを目の当たりにしてきた老練な政治家ほど、この一言の重みを理解していた。

「それは、すなわち……利益も影響力も、他者と分かち合うということ。お前、それがどれだけ危うい選択か分かっているのか?」

その問いに対し、レオルドははっきりと頷く。

「はい。理解しております。ですが、私はあの発明をゼアトだけのものにしたくはないのです。とはいっても、ゼアトが発祥の地であり、一番であることは譲りませんがね」

王と宰相が静かにレオルドの言葉を待つ。

「確かに、自動車は利益を生み出します。けれど、それ以上に――価値観の転換を促すものです。移動手段が変われば、経済も、文化も、思想さえも変わります。ならば、それは一人の利権ではなく、時代そのものとして扱うべきではないでしょうか」

「……ふむ」

国王が椅子に背を預け、目を閉じて思案に耽る。

静寂の中、リヒトーが珍しく口を挟んだ。

「レオルド。無礼を承知で言わせてもらうけど、分かち合う相手を見誤れば、全てを奪われることにもなるかもしれないんだよ?」

「そのとおりです。ですから、ここから先は陛下を巻き込みます!」

「むっ? 国を巻き込むのか? なにを企んでいる?」

「企むとは人聞きが悪いことを言いますね。私は陛下に忠実な 僕(しもべ) なのですが?」

「そうだな。そのことについては認めているつもりだ。お前は臣下として忠実であり、優秀であり、そして問題児でもある」

「シルヴィア! 義父上(パパ) が虐める! 俺は正直に言ってるのに!」

ワザとらしく隣に座っているシルヴィアに泣きつくレオルド。

可哀想な夫を守るかのようにシルヴィアはレオルドを慰めつつ、国王に向かって啖呵を切る。

「お父様! レオルド様がこれまで成してきた功績をお忘れですか! 国に忠誠を誓い、戦争では最前線に立ち、祖国の未来を必死に考えている臣下に向かってなんたる発言ですの! 恥を知りなさい!」

「シルヴィア。私も傷つくんだぞ~? あと、パパはやめろ、レオルド」

「申し訳ありません、陛下。悪ノリが過ぎました。それから、シルヴィア。付き合ってくれてありがとうな」

「いえ、これくらいいつでも付き合いしますわ。楽しかったですし」

「宰相よ、どう思う? この二人」

「陛下の娘と王国史上最大の問題児としか……いや、革命児と呼んでもいいのですが……」

宰相の嘆息交じりの言葉に、国王は小さく頷いた。

護衛として後ろに控えているリヒトーは必死に笑いを堪えていた。

そして国王もまた、ふっと笑みを浮かべる。

「……全く。それでお前の魂胆はなんなんだ?」

「陛下に主導して頂き、技術の公開を行うつもりです。ただ、粗悪品など出されても困るので色々と基準を設けさせてもらいますし、制度や規格、法律なども同時に施行してもらいます」

「なるほどな。欲深い連中が自ら手を挙げ、支え合い、競い合うように仕向けるか……お前という男は、底が知れん」

国王は立ち上がり、窓の外――ゼアトの整った街並みを眺めた。

「これならば、確かに王国は変わるかもしれん。……いや、お前が変えてしまうのだな。もはやお前は辺境の英雄ではない。王国という巨大な船を、次なる港へ導く者だ」

しばらく沈黙が流れた後、国王は静かに背を向けて呟いた。

「だが……そうであるからこそ、次に敵となる者は、より強大になる。――覚悟はあるか?」

その問いに、レオルドは毅然と答えた。

「ええ。俺が歩んできた道は、茨の道でした。今さら、恐れることなど何もありません」

その声に、確かな決意が宿っていた。