作品タイトル不明
188
姉であるクリスティーナから嬉しい知らせを聞いたシルヴィアは早速レオルドに報告する為、ゼアトへと向かう。
一方、レオルドの方は闘技大会に出場出来るかどうかはわからないが、鍛錬をより励むようになった。ギルバートとの組み手ではいつも以上に熱が入り、周囲で見守っていた者達も二人の熱の入りように驚いていた。
「おいおい、大将は戦争にでも行く気なのか?」
「そのようなことはないが、これほどまでに真剣なレオルド様は久しいな」
「すっご……私も頑張らなきゃ」
「いやいや、カレン。あの二人は異常だぞ」
三人の視界の先ではレオルドとギルバートが拳を交えていた。
地面が弾け飛ぶほどの踏み込みでレオルドはギルバートへと迫る。大地を砕かんばかりに踏み込んで、レオルドは拳を放つ。
直撃すれば常人なら死は免れないであろう速度と破壊力を秘めた拳をギルバートは受け流し、反撃の一撃をレオルドへと叩き込む。的確に急所を突いてくるギルバートの拳をレオルドは、身体を捻って避ける。その反動を利用してギルバートに裏拳を放つ。
しかし、レオルドの放った裏拳はギルバートに受け止められる。そのまま、ギルバートはレオルドの腕を絡め取り、関節技に持ち込もうとする。このままでは腕を折られてしまうとレオルドは、強引に身体を回転させてギルバートの拘束から抜け出す。
バッとレオルドとギルバートは離れる。額に汗を滲ませるレオルドに対して、まだまだ余裕の表情を見せるギルバート。そんなギルバートを見たレオルドは、つくづく恐ろしい相手だと笑う。そして、同時に幸せだと感じている。
これほどまでに素晴らしい強者と巡り会えたということに。
ギルバートの強さは 運命48(ゲーム) でも現実でも変わらない。極限にまで鍛え上げられた武術、そして数々の経験により研ぎ澄まされた戦闘能力。還暦を迎えているというのに衰えを見せる様子もない逞しい身体。
さすがは伝説の暗殺者である。レオルドは心の底から尊敬をしている。ただ一つ残念な部分があるとすれば、孫娘が絡むとポンコツになることだろう。まあ、今は戦闘中なのでそのようなことは決してないが本当に孫娘が絡むとポンコツになるのが残念である。
そんなことはさておき、レオルドとギルバートの組み手である。両者は距離を取り、お互いの出方を窺っている。微動だにしない二人であったが、先にレオルドが仕掛ける。
目にも留まらぬ速さでギルバートの背後へと回る。まだ、背後に振り向かないギルバートへレオルドは蹴りを放つ。これが決まるとは思っていない。恐らく防がれるだろうとレオルドは推測する。
レオルドの推測は正しく、ギルバートに放った蹴りは防がれる。そして、ゆっくりとギルバートが首を動かす。
「いい動きです。しかし、狙いが甘いですね。どこを狙ってるか見え見えですよ」
「……ふ。そう、かっ!!!」
身体全体を使ってレオルドは回転して二度目の蹴りをギルバートに叩き込む。もとより、防がれることは想定していた。ならば、次に繋げればいいのだ。レオルドは回転を加えた蹴りをギルバートに叩きつけて、大きく吹き飛ばす。
「ぬぅっ!」
「おおおおおおっ!!!」
吹き飛んだギルバートが崩れた体勢を整えているとレオルドが襲いかかる。不十分な体勢でギルバートはレオルドの攻撃を捌く。
攻め切れないレオルドはギルバートの技量に舌を巻く。やはり、この程度ではギルバートには勝てない。せめて、一撃を決めるまではとレオルドは果敢に攻める。
「るぅぁぁあああああああ!!!」
まるで暴風のようにレオルドは乱打を繰り出す。息をつく暇も与えることなくレオルドはギルバートを追い詰める。
その光景を見ていた三人はこれは本当に組み手なのかと不安を抱き始める。あまりにもレオルドの熱が入っている姿に三人は疑問を感じずにはいられなかった。これは、止めたほうがいいのではとジェックスとバルバロトが顔を見合わせる。
二人はお互いの意見は一致したと思い、一度頷くとその場から駆け出そうとするが、一方的に攻められていたギルバートがレオルドの手を掴んだ。
「むっ!?」
「捕らえましたぞ……!」
「この程度で俺が止められるとでも!!!」
「いいえ。一度、動きを止めれば十分!」
そう言うとギルバートは掴んでいたレオルドの手を離して、上半身を捻り貫手を放つ。溜めも踏み込みもない貫手を目にしたレオルドは驚愕の表情を浮かべるが、ギシリと歯を食いしばり思考を加速させる。
(腕? 足? 身体をひねる? いいや、いいや!)
瞬時に出した答えは前方へ縦に回転してかかと落としを決めることだった。貫手を回避すると同時にレオルドが前方宙返りしてギルバートへとかかと落としを放つ。
かかと落としは完全に決まるかのように思われたが、ギルバートはかかと落としが当たった瞬間にレオルドと同じように縦方向に回転をしてかかと落としの衝撃を受け流しつつ、レオルドにかかと落としを叩き込んだ。
「ぐぶふぅっ!?」
「いやはや、危ないところでした」
結果、レオルドは大地に沈み、立っていたのはギルバートであった。止めようかとした二人は大きな問題もなかったので一安心する。少々、ハラハラしたが三人は戦い終わった二人の元へと向かった。
そこへイザベルが現れて、シルヴィアが来訪したと五人に伝える。シルヴィアが来たという報せを聞いたレオルドは汚れた身体を洗い流す為に浴場へと向かう。
イザベルにそのことを伝えてシルヴィアを待たせないようにレオルドはさっと身体を流してから応接室へと向かった。
「お待たせして、申し訳ありません。殿下」
「いえ、構いません。こちらが事前に連絡もしなかったのがいけないのですから」
レオルドは謝罪をしてからソファへと腰掛ける。シルヴィアが来たということは、恐らくこの前話したジークフリートの事だろうとレオルドは確信していた。
「今日、レオルド様の元へ来たのは先日の報告についてです」
「ジークフリートはなんと?」
「決闘で決めた約束を取り消すそうです。よかったですね、レオルド様。これで、闘技大会に参加できますよ!」
まるで自分のことのように喜ぶシルヴィアを見てレオルドは身体の力が抜ける。なにせ、取り消されるなんて思っていなかったからだ。
二人が決闘に至ったのはレオルドが 元婚約者(クラリス) を仲間と一緒に襲ったことが原因なのだ。だから、許されるとは思っていなかった。ジークフリートの性格上、クラリスに今回の件を委ねたはずだとレオルドは思っている。
(ジークはきっとクラリスに聞いたはずだ。決闘の約束を取り消していいかと……
クラリスは 運命48(ゲーム) ではレオルドのことがトラウマになっているはず。だから、決闘で決まった約束を取り消すようなことはしないと思っていたのに……
そうか……彼女の心境が変化したのか。なら、近い内に再会することになるな)
喜ばしい反面、レオルドは己の罪と再び向き合う日が来るのだと覚悟するのであった。