軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141

大勢の無所属プレイヤーが見守る中、

解放者のログアウト実演が始まった。

「まず証人が必要ですから、そうですね……修太郎君、で、呼び方は合ってますか? 貴方を含めた三人と私がフレンド登録をします。これはオフラインになった確認と、オンラインになった確認のためです」

そう言って修太郎を見る解放者。

修太郎は適当な二人を指名し、

解放者とフレンド登録を済ませる。

「お二人共、ちょっと……」

その二人に耳打ちする修太郎。

聞き終えた二人は怪訝そうな顔で修太郎を見た。

「その淵士というのが、私のプレイヤーネームです。まあ、まだるっこしいので変わらず解放者と呼んでください」

解放者はそれに気付いていないようで、

恥ずかしそうにそう語っている。

淵士 オンライン

「……」

キイチ オフライン

ヨシノ オフライン

「……」

修太郎はフレンド欄をそっと撫でた。

「では、はじめますね」

解放者は修道院の床に描かれた紋様の上で祈りの形を取り、しばらくの静寂が落ちる――側近の女は警戒するように修太郎へ視線を向けるが、修太郎は何をするでもなく解放者を見ていた。

解放者の体が消える。

群衆から悲鳴にも似た声が上がった。

修太郎に選ばれた二人がとっさに目を落とすと、解放者の表示が〝オフライン〟となっていることに気付く――二人は動揺した様子でそれを周りのプレイヤー達に見せて周ると、群衆が更にざわめいた。

「ここからは代理で私から説明する」

側近の女が話しだす。

「今現在、解放者さんはログアウト前の選択画面にいる。ここで〝はい〟を選択する事で現実へと戻ることができ〝いいえ〟を選ぶことでこの場所にまた戻ってくる」

もちろん今回は〝いいえ〟を選ぶ。

そう語り、目線を落とす側近の女。

群衆達も同じように、

固唾を飲んでそれを見守っていた。

その時だった――

「うそつき」

酷く冷たい声が響いた。

声の主は、修太郎だった。

女の表情が変わる。

「なにを言い出すかと……」

「そこ――そこにいるよね、解放者さん」

歩み寄る女には目もくれず、

修太郎は紋様の一部を指差した。

群衆達がざわつき出す。

側近の女が睨みを利かせて歩み出た。

「単なる床じゃない……なによ貴方、忙しい中で実演までした解放者の邪魔して」

脅すようなドスの効いた口調。

しかし修太郎の目は座ったまま。

「!」

側近の女はギョッとした様子で目を見開く。

修太郎の瞳が燃えるように、青く輝いていたから。

今度は群衆の中にいた一人の青年を指差し、言い放つ。

「貴方も二人の仲間だよね。町にいなかったけど、ここに来る道中に紛れてきたのを見てたよ。詳細は分からないけど殺している役割。床の紋様の上で一定時間動かない人を殺す、とか?」

青年は言葉を失った。

修太郎は表情一つ変えず側近の女を指差す。

「表示情報の操作。皆の画面に嘘を見せてる。死んだガルボさんが人を襲ってたあの映像も、その固有スキルがあれば説明できる」

側近の女も同様に言葉を失った。

その様子を見て群衆達のざわめきが大きくなる――それを察した青年が、取り繕うように口を開いた。

「は、はぁ? そんなもん何とでも言えるだろ! それを証明する方法、あんのかよ?」

一瞬見せた動揺もすでに瞳から消えている。

死んだような瞳で修太郎がそれに答えた。

「あるよ」

そう言って、修太郎は魔法を使う。

それは攻撃でも防御でもなく、大きな光源を作り出す《照らす光》の魔法だった。

真っ暗な修道院内が一気に明るくなる。

群衆達が目を覆おうとしたその刹那――

あり得ない光景が飛び込んできたのだった。

「ぐうう!!!」

床から弾き出されるように解放者が飛び出してきたからだ。

修太郎に指名された二人のプレイヤーは、実演開始前に修太郎から耳打ちされた〝お願い〟を思い出し、すぐに視線をフレンド欄に移した。

淵士 オフライン

二人はしばらく画面を見つめた。

すると突然――それは起こる。

淵士 オンライン

「あっ!」

「まじかよ……」

二人が同時に声を上げる。

解放者が飛び出してきても、しばらくはオフラインと表示されていたものが突然オンラインへと変わった――その挙動はどこか、人力のようにも思えた。

〝僕が部屋を照らす魔法を使ったら、どうかフレンド画面の解放者さんを凝視していてください。きっとその時、不自然さに気付くと思います〟

修太郎の耳打ちした言葉が、

二人の頭の中で再生されていた。

つまりこれが、修太郎が言っていた女の固有スキルの証拠となったのだ。

「解放者さんの固有スキルは影に入るとか、そういうのだよね。他の人も影に落とすことができるし、自分も潜める。でも影がないと使えないし気付かれるから、薄暗い場所で殺してた」

修太郎は解放者を見下ろす。

冷め切った目で、見下ろす。

「貴方が影に消え、表示を操作してオフラインのフリをし、影から戻ってオンラインに切り替える――信じた人は模様の上で殺される。アイテムは影で回収する」

全ての手口を言い当ててゆく修太郎。

それは、視覚強化や聴覚強化に加え、シルヴィアの野生の勘によって研ぎ澄まされた感覚が、修太郎に教えてくれたものだった。

「キイチさん、ヨシノさん、春カナタさん――覚えてる? 貴方が 殺した(・・・) 人の名前。他にもたくさん殺したね」

解放者は訳が分からないといった様子で側近二人を睨み付けると、側近二人は意を決したように武器を抜いた。

解放者は理解した。

自分達の無敵の手品が看破されたのだと。

群衆達は理解した。

目の前にいるこの三人組こそ、大量殺人犯であるということに。

絶叫と悲鳴がこだまする。

過去にログアウトした友人達が殺されたことに気付いた群衆達が、パニックを起こしたのだ。

解放者の切り替えは早かった。

側近二人と同様に武器を構えていた。

「なら全員殺すまで」

三人のレベルは最前線でもトップクラス。

万が一正体がバレても殺す自信があった。

解放者は目ざとくパニック状態の群衆に向け範囲魔法を放った――! それは、この場にいる全員を殺して余りある威力を孕んでいた。

「うそつき」

修太郎は呟く。

逆巻く風に吹かれるように髪や服が揺れた。

解放者の魔法は誰に当たるわけでもなく、虚しく霧散した。そして側近二人の攻撃は、修太郎の体に届く前に、 反発する(・・・・) が如く、弾かれた。

反発する超空間(デルタスペース) ――それは効果範囲内での戦闘を禁止する、エルロードの魔法。この青色のドームの中ではあらゆる攻撃が他者に当たらない。外からの侵入を拒む《祈り》とはまた違い、内側の争いを阻止する魔法である。